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第1章 はじめての異世界
8話 異文化との接触
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大トカゲの撃退の後、気を失った俺を介抱してくれたグレン村の少女フェルテルとその養祖父である村長に礼をするため、俺はその村長が仕事をしている畑に行くことになった。
フェルテルに案内されて村を歩いていく。彼女と村長の暮らす家は住宅地的なエリアに位置していたらしく、村の外れにあるフェルテルたちの畑に行くまでに様々な興味深い家やら物やらが目に入った。
中でも特に目を引いたのは、森で出会ったものほど凶悪な外見をしていないが、しかしその身を頑丈そうな鱗で包む馬くらいの大きさのトカゲっぽい生物だった。ペウルスとやらに比べ足が長く、全体的にスマートなため、やつよりも知的な印象を与えている。
「ねえフェルテルちゃん、この動物?ってなんて名前?」
気になった俺がフェルテルに尋ねると、ちゃん付けが変だったのか、フェルテルは表情に笑みを含ませながら答えた。
「ふふ、フェルテルでいいですよ。……この動物はキャルーっていって、人や荷物を運んでくれる力持ちな動物なんですよ。ソーマさんの故郷にはいないんですか?」
なるほど見かけによらず可愛らしい名前の動物だ。しかし果たして地球にこんなトカゲいただろうか。
「少なくとも俺は見たことないかな」
「そうなんですね。旅人さんとか王都の騎士様はよくこの子達に乗っているんです」
つまりはこのキャルーなる生き物はもとの世界でいうところの馬なのだろう。もとの世界の生き物と相同器官的な生き物がこの世界には生息しているということか。
明確な世界に違いをこの目で再確認した俺は、えも言われぬ違和感で背筋がすっと冷えるのがわかった。
村のものについて色々フェルテルに聞きながら歩いていくうちに、俺たちは目的の畑までたどり着いた。
手前の畑には赤い実をつけた植物が列を成して植えられており、更にその奥には収穫の後なのであろう、刈り取られた穀物の畑も見える。老人はその刈り取られた穀物を束ねて運んでいた。恐らく彼が俺を助けてくれた村長だろう。
その老人に向かってフェルテルは元気よく手を振る。
「おじいちゃーん! お手伝いに来たよー!」
その声を聞いてこちらに気づいた様子の男は手を振り返す。
「あれが私のおじいちゃん、ノルトおじいちゃんです」
彼がフェルテルを男手一つで育てた人物か。外見は高齢に思えるが、その外見とは裏腹に、彼は老人とは思えないたくましさでテキパキと仕事をこなしている。
ノルト村長の姿が、昔俺をかわいがってくれていた祖父の姿と重なり、なぜだかどうしようもなく切ない気持ちが溢れてきた。俺が泣くまいと必死にこらえているのを、フェルテルが不安そうに見守る。
「……ごめんごめん、ちょっと俺のじいちゃんを思い出しちゃって……よし、それじゃあノルトおじいさんを手伝いに行こうか」
無理やり笑顔を作ってフェルテルに言う。すると俺が考えていたことを汲み取ったのか、フェルテルは俺の右手を小さな両手でぎゅっと包んだ。
「大丈夫ですよ、ソーマさん。きっとソーマさんのおじいさまはいつでもソーマさんのことを見守っていらっしゃいますよ」
優しく、凍ってしまった心を溶かすような温かい声色のフェルテルの言葉に、俺の感傷はゆっくりと波のように遠ざかっていった。
「……ありがとう」
この捨て子だった少女がどのような道を歩んできて、何を見てきたのか俺にはわからない。だから、そんな稚拙な言葉しか今の俺には紡ぎ出すことができなかった。
ようやく俺たちは、野菜畑の先にある麦畑のような畑にたどり着いた。
周囲にも他の農家が営んでいるのであろう畑があり、穂を垂らす広大な金色の絨毯に俺はしばし目を奪われた。
壮大な景色に立ち尽くす俺をよそに、フェルテルは祖父に駆け寄って行った。
「おじいちゃん、お手伝いに来たよ! あとね、旅人さんも手伝ってくれるんだって」
俺との会話のときよりもいささか甘えたトーンでフェルテルが話しかけると、ノルト村長は農具を置いて彼女に笑いかけた。
「おお、フェルテルや、いつもありがとう。旅人様も、お怪我されているでしょうに、すみませんのう」
命の恩人であるはずのノルト村長に感謝されてしまい、俺は慌てていえいえ、と手を振る。
「こちらこそ、倒れてたところを助けていただいて本当にありがとうございます。お返しとしてぜひお手伝いさせてください!」
「いやいや、困っている人を助けるというのが、死に別れた女房との約束でしてな。わしはその約束を守っておるだけ、そう重く捉えにならなくても良いのですぞ」
……なんて良い人なんだ。さすが、フェルテルをこんなにも優しい子に育て上げただけはある。この二人を見ているとこっちまで心が洗われていくようだ。この村に滞在している間は全力で恩返しをしようと俺は密かに心に決めた。
自己紹介が済んだところで、俺たちはノルト村長の畑仕事を手伝い始めた。
二人の家が所有している果実畑と穀物畑はそれぞれ一軒家ほどの広さであり、現在育てられているのは赤い果実のイアグと、朝食の乳粥に入っていたリーフェという穀物なのだという。どうやら今はリーフェの刈り入れ時期らしく、それでノルト村長はリーフェ畑で収穫をしていたのだ。リーフェによく似た植物である麦の収穫時期は確か六月頃だったはずなので、今この世界は初夏なのかもしれない。
怪我人にあまり動いてほしくないのか、俺に任された仕事は落穂拾いだった。俺としてはかなり体の調子も良くなっていたので手伝いたかったが、両人ともに無理をするなとゴリ押しされてしまい、俺は少々申し訳ない気分になりながら小一時間作業に勤しんだ。
「しかしまあ、あの乱暴者のペウルスを仕留めなさるとは、ソーマさんは祖国の方では兵士でもやられたんですかの?」
家に戻ってブランチ的な食べ物を食べ終えたところで、ノルト村長はふと思い出したように俺に聞いてくる。
「いやいや、まさかそんな……。しがない学生でしたよ。ペウルスを仕留められたのも本当に偶然です」
今思い返せば、あのときの俺は自分でも信じられないほど機敏に動けていたし、どんなに緊迫した状況でも冷静さを欠かなかったように思う。尋常ではない回復速度といい、一連の出来事には何か繋がりがあるのだろうか。
そんな俺の否定を謙遜と受け取ったのか、村長はふぉっふぉと笑って俺に言う。
「そんなに謙遜しなくてもよいのですぞ。ああ、それと、ペウルスの死体の大半は消えてしまいましたが、ソーマさんが落とした首は若者たちに運ばせて村まで運んでありますぞ」
村長の節くれ立った指が差した窓の向こうには、ペウルスの頭らしき塊を村人たちが解体しているのが見えた。体表の分厚い鱗と立派な角が村人たちによって丁寧に解体されていく。
かのトカゲを屠った感覚を思い出し苦い顔を作る俺に、片付けを済ませたフェルテルが戻ってきて言った。
「この村では、ああやって狩ってきた魔物や動物をみんなで分けて、そして感謝してその子達の肉や革をもらうんです。そうすれば、その子たちも私たちの心の中に生きてくれるんですよ」
フェルテルの話す内容は、昔学校で習った土着信仰の思想によく似ていた。自然から頂いたものに感謝し、そして様々な形で自分の一部とすることで、そのものを自分の心の中に生き続けさせる──。確かに自然が豊かなこの村なら、そのような考え方も発生しやすいのかもしれない。
「俺も森を抜けることができたのはあのトカゲのおかげだし、しっかり感謝しないとな……」
森脱出の際に食料としたのは確かにあのトカゲのしっぽだ。あれがなければとっくの昔に俺は飢餓、あるいは有毒の何かを食べたことで死んでいたかもしれない。まあ、あのトカゲに追いかけ回され何度も死にかけたのも事実ではあるが。
そういえば、さっきノルト村長はペウルスの死体の大半は消えてしまった、と言っていたがどういうことなのだろうか。少なくとも、もとの世界では死体が忽然と姿を消すなんてことはありえなかった。あったとしたら殺人事件が完全犯罪になってしまいかねない。それともハイエナ的な動物が死体を食べたとか……?
気になった俺は、窓の外の風景を眺めるノルト村長に質問を投げかける。
「ペウルスの死体が消えたのって何か他の動物が食べたとかですか?」
すると、オレの質問を聞いた村長は目を丸くする。……またもや俺はこの世界での非常識人らしい。
「ソーマさんの祖国は魔物が少なかったんですかのう。魔物というのは、わしら人間を含む普通の動物と違って、体に魔石という、マナの結晶を持っておるのです。まあ、動物で言うところの心臓ですな。で、魔物はその魔石から力をもらうと同時に、力を渡し続けているんです。例えるなら……そう、暖炉ですな。魔物たちは薪として食べ物を食い、暖炉である結晶から熱、もとい力をもらっておるのです。ですが魔物の結晶は暖炉と違って、薪を自分で入れようとするのです。死んだ魔物は食べ物を食べることができませんから、代わりに、その体を薪として燃やされてしまうのです。だから、魔物の体は魔石を取り除かなければ燃え尽きて消えてしまうんです」
説明を終えた村長はゆっくりとため息をこぼす。ノルト村長の語り口はゆっくりと、そして染み込んでいくように俺の耳に入っていった。
「なるほど……教えていただいてありがとうございます」
魔物という存在がそんなにも、なんというか生き急いだ生き物だったとは。そう思うとあのペウルスの結晶を取り除かずに放置してしまったことが少し申し訳なく感じる。なんかごめん、ペウルス。
「その辺のことが気になるなら、村の西の外れに住んどるまじない師の婆さんを訪ねてみると良いですぞ。ありゃあわしなんかよりずっと詳しいんでの」
ノルト村長の言葉を聞いたフェルテルも同意の言葉を続ける。
「確かに! おばあちゃん、若い頃に王都で魔法使いとして働いてたって言ってたし色々教えてくれるかもしれないです。……あ!もしおばあちゃんのところに行くなら、おつかいを頼んでもいいですか?今朝採ったイアグの実をおばあちゃんに届けてほしくて。イアグの実は夏風邪を防いでくれるんですよ。生だとすごく酸っぱいですけどね」
朝、畑でついでに、と言ってフェルテルが採っていたイアグの実はそのおばあさんに届けるためのものだったのか。それくらいのおつかいならば朝飯前だ。魔法とか魔物とかいう概念についても詳しく知っておきたいのもあるし。
「もちろん。それじゃあ、ちょっと行ってくるよ」
フェルテルからイアグの鮮やかな赤い実がたくさん入った編みかごを受け取ると、俺は教えてもらったおばあさんの家を目指して、からっとした夏らしい午後の陽光が照らす村道をあるき出した。
フェルテルに案内されて村を歩いていく。彼女と村長の暮らす家は住宅地的なエリアに位置していたらしく、村の外れにあるフェルテルたちの畑に行くまでに様々な興味深い家やら物やらが目に入った。
中でも特に目を引いたのは、森で出会ったものほど凶悪な外見をしていないが、しかしその身を頑丈そうな鱗で包む馬くらいの大きさのトカゲっぽい生物だった。ペウルスとやらに比べ足が長く、全体的にスマートなため、やつよりも知的な印象を与えている。
「ねえフェルテルちゃん、この動物?ってなんて名前?」
気になった俺がフェルテルに尋ねると、ちゃん付けが変だったのか、フェルテルは表情に笑みを含ませながら答えた。
「ふふ、フェルテルでいいですよ。……この動物はキャルーっていって、人や荷物を運んでくれる力持ちな動物なんですよ。ソーマさんの故郷にはいないんですか?」
なるほど見かけによらず可愛らしい名前の動物だ。しかし果たして地球にこんなトカゲいただろうか。
「少なくとも俺は見たことないかな」
「そうなんですね。旅人さんとか王都の騎士様はよくこの子達に乗っているんです」
つまりはこのキャルーなる生き物はもとの世界でいうところの馬なのだろう。もとの世界の生き物と相同器官的な生き物がこの世界には生息しているということか。
明確な世界に違いをこの目で再確認した俺は、えも言われぬ違和感で背筋がすっと冷えるのがわかった。
村のものについて色々フェルテルに聞きながら歩いていくうちに、俺たちは目的の畑までたどり着いた。
手前の畑には赤い実をつけた植物が列を成して植えられており、更にその奥には収穫の後なのであろう、刈り取られた穀物の畑も見える。老人はその刈り取られた穀物を束ねて運んでいた。恐らく彼が俺を助けてくれた村長だろう。
その老人に向かってフェルテルは元気よく手を振る。
「おじいちゃーん! お手伝いに来たよー!」
その声を聞いてこちらに気づいた様子の男は手を振り返す。
「あれが私のおじいちゃん、ノルトおじいちゃんです」
彼がフェルテルを男手一つで育てた人物か。外見は高齢に思えるが、その外見とは裏腹に、彼は老人とは思えないたくましさでテキパキと仕事をこなしている。
ノルト村長の姿が、昔俺をかわいがってくれていた祖父の姿と重なり、なぜだかどうしようもなく切ない気持ちが溢れてきた。俺が泣くまいと必死にこらえているのを、フェルテルが不安そうに見守る。
「……ごめんごめん、ちょっと俺のじいちゃんを思い出しちゃって……よし、それじゃあノルトおじいさんを手伝いに行こうか」
無理やり笑顔を作ってフェルテルに言う。すると俺が考えていたことを汲み取ったのか、フェルテルは俺の右手を小さな両手でぎゅっと包んだ。
「大丈夫ですよ、ソーマさん。きっとソーマさんのおじいさまはいつでもソーマさんのことを見守っていらっしゃいますよ」
優しく、凍ってしまった心を溶かすような温かい声色のフェルテルの言葉に、俺の感傷はゆっくりと波のように遠ざかっていった。
「……ありがとう」
この捨て子だった少女がどのような道を歩んできて、何を見てきたのか俺にはわからない。だから、そんな稚拙な言葉しか今の俺には紡ぎ出すことができなかった。
ようやく俺たちは、野菜畑の先にある麦畑のような畑にたどり着いた。
周囲にも他の農家が営んでいるのであろう畑があり、穂を垂らす広大な金色の絨毯に俺はしばし目を奪われた。
壮大な景色に立ち尽くす俺をよそに、フェルテルは祖父に駆け寄って行った。
「おじいちゃん、お手伝いに来たよ! あとね、旅人さんも手伝ってくれるんだって」
俺との会話のときよりもいささか甘えたトーンでフェルテルが話しかけると、ノルト村長は農具を置いて彼女に笑いかけた。
「おお、フェルテルや、いつもありがとう。旅人様も、お怪我されているでしょうに、すみませんのう」
命の恩人であるはずのノルト村長に感謝されてしまい、俺は慌てていえいえ、と手を振る。
「こちらこそ、倒れてたところを助けていただいて本当にありがとうございます。お返しとしてぜひお手伝いさせてください!」
「いやいや、困っている人を助けるというのが、死に別れた女房との約束でしてな。わしはその約束を守っておるだけ、そう重く捉えにならなくても良いのですぞ」
……なんて良い人なんだ。さすが、フェルテルをこんなにも優しい子に育て上げただけはある。この二人を見ているとこっちまで心が洗われていくようだ。この村に滞在している間は全力で恩返しをしようと俺は密かに心に決めた。
自己紹介が済んだところで、俺たちはノルト村長の畑仕事を手伝い始めた。
二人の家が所有している果実畑と穀物畑はそれぞれ一軒家ほどの広さであり、現在育てられているのは赤い果実のイアグと、朝食の乳粥に入っていたリーフェという穀物なのだという。どうやら今はリーフェの刈り入れ時期らしく、それでノルト村長はリーフェ畑で収穫をしていたのだ。リーフェによく似た植物である麦の収穫時期は確か六月頃だったはずなので、今この世界は初夏なのかもしれない。
怪我人にあまり動いてほしくないのか、俺に任された仕事は落穂拾いだった。俺としてはかなり体の調子も良くなっていたので手伝いたかったが、両人ともに無理をするなとゴリ押しされてしまい、俺は少々申し訳ない気分になりながら小一時間作業に勤しんだ。
「しかしまあ、あの乱暴者のペウルスを仕留めなさるとは、ソーマさんは祖国の方では兵士でもやられたんですかの?」
家に戻ってブランチ的な食べ物を食べ終えたところで、ノルト村長はふと思い出したように俺に聞いてくる。
「いやいや、まさかそんな……。しがない学生でしたよ。ペウルスを仕留められたのも本当に偶然です」
今思い返せば、あのときの俺は自分でも信じられないほど機敏に動けていたし、どんなに緊迫した状況でも冷静さを欠かなかったように思う。尋常ではない回復速度といい、一連の出来事には何か繋がりがあるのだろうか。
そんな俺の否定を謙遜と受け取ったのか、村長はふぉっふぉと笑って俺に言う。
「そんなに謙遜しなくてもよいのですぞ。ああ、それと、ペウルスの死体の大半は消えてしまいましたが、ソーマさんが落とした首は若者たちに運ばせて村まで運んでありますぞ」
村長の節くれ立った指が差した窓の向こうには、ペウルスの頭らしき塊を村人たちが解体しているのが見えた。体表の分厚い鱗と立派な角が村人たちによって丁寧に解体されていく。
かのトカゲを屠った感覚を思い出し苦い顔を作る俺に、片付けを済ませたフェルテルが戻ってきて言った。
「この村では、ああやって狩ってきた魔物や動物をみんなで分けて、そして感謝してその子達の肉や革をもらうんです。そうすれば、その子たちも私たちの心の中に生きてくれるんですよ」
フェルテルの話す内容は、昔学校で習った土着信仰の思想によく似ていた。自然から頂いたものに感謝し、そして様々な形で自分の一部とすることで、そのものを自分の心の中に生き続けさせる──。確かに自然が豊かなこの村なら、そのような考え方も発生しやすいのかもしれない。
「俺も森を抜けることができたのはあのトカゲのおかげだし、しっかり感謝しないとな……」
森脱出の際に食料としたのは確かにあのトカゲのしっぽだ。あれがなければとっくの昔に俺は飢餓、あるいは有毒の何かを食べたことで死んでいたかもしれない。まあ、あのトカゲに追いかけ回され何度も死にかけたのも事実ではあるが。
そういえば、さっきノルト村長はペウルスの死体の大半は消えてしまった、と言っていたがどういうことなのだろうか。少なくとも、もとの世界では死体が忽然と姿を消すなんてことはありえなかった。あったとしたら殺人事件が完全犯罪になってしまいかねない。それともハイエナ的な動物が死体を食べたとか……?
気になった俺は、窓の外の風景を眺めるノルト村長に質問を投げかける。
「ペウルスの死体が消えたのって何か他の動物が食べたとかですか?」
すると、オレの質問を聞いた村長は目を丸くする。……またもや俺はこの世界での非常識人らしい。
「ソーマさんの祖国は魔物が少なかったんですかのう。魔物というのは、わしら人間を含む普通の動物と違って、体に魔石という、マナの結晶を持っておるのです。まあ、動物で言うところの心臓ですな。で、魔物はその魔石から力をもらうと同時に、力を渡し続けているんです。例えるなら……そう、暖炉ですな。魔物たちは薪として食べ物を食い、暖炉である結晶から熱、もとい力をもらっておるのです。ですが魔物の結晶は暖炉と違って、薪を自分で入れようとするのです。死んだ魔物は食べ物を食べることができませんから、代わりに、その体を薪として燃やされてしまうのです。だから、魔物の体は魔石を取り除かなければ燃え尽きて消えてしまうんです」
説明を終えた村長はゆっくりとため息をこぼす。ノルト村長の語り口はゆっくりと、そして染み込んでいくように俺の耳に入っていった。
「なるほど……教えていただいてありがとうございます」
魔物という存在がそんなにも、なんというか生き急いだ生き物だったとは。そう思うとあのペウルスの結晶を取り除かずに放置してしまったことが少し申し訳なく感じる。なんかごめん、ペウルス。
「その辺のことが気になるなら、村の西の外れに住んどるまじない師の婆さんを訪ねてみると良いですぞ。ありゃあわしなんかよりずっと詳しいんでの」
ノルト村長の言葉を聞いたフェルテルも同意の言葉を続ける。
「確かに! おばあちゃん、若い頃に王都で魔法使いとして働いてたって言ってたし色々教えてくれるかもしれないです。……あ!もしおばあちゃんのところに行くなら、おつかいを頼んでもいいですか?今朝採ったイアグの実をおばあちゃんに届けてほしくて。イアグの実は夏風邪を防いでくれるんですよ。生だとすごく酸っぱいですけどね」
朝、畑でついでに、と言ってフェルテルが採っていたイアグの実はそのおばあさんに届けるためのものだったのか。それくらいのおつかいならば朝飯前だ。魔法とか魔物とかいう概念についても詳しく知っておきたいのもあるし。
「もちろん。それじゃあ、ちょっと行ってくるよ」
フェルテルからイアグの鮮やかな赤い実がたくさん入った編みかごを受け取ると、俺は教えてもらったおばあさんの家を目指して、からっとした夏らしい午後の陽光が照らす村道をあるき出した。
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