世界の東の端っこのフットボール・チルドレン

遊佐東吾

文字の大きさ
40 / 85
本編

ハーフタイム・ショー〈2〉

しおりを挟む
 姫ヶ瀬FCジュニアユースのハーフタイムはいつも簡潔だ。
 自分たちの前半の出来からすれば、今日ばかりはいろいろ言われるだろうと久我も覚悟していたのだが、相良監督はやり方を崩さなかった。

「マークの受け渡しの際には声を出していけ。もし4番榛名のポジションチェンジによって誰に付けばいいかわからなくなったら、まず榛名を優先しろ」

 それだけを選手たちに向かって口にすると、またベンチにどっかりと腰かけてしまう。あとは自分たちで解決策を話しあえ、というのがこの人のスタンスだった。
 そう、あくまで体を休めつつ後半の戦い方におけるメンバーの意識をすり合わせるための時間なのだ。決してただの自由時間なわけではない。
 なのに大和ジュリオときたら。

「ジュリオ、やっぱり榛名くんには相手してもらえなかったみたいだね」

 水分を補給していた兵藤が声をかけてきた。

「久我ちゃん、スマイルスマイル。顔つきがこわいよ」

 ジュリオと五味が疲れもみせず一対一に興じている姿に、好意とはほど遠い視線を送っていた久我が、兵藤からやんわりとたしなめられる。
 それでも久我は無愛想さを崩さなかった。

「元々こんなんですよ、おれは。それよりタカさんこそ締まりがないんじゃないすか?」

「うん。だって楽しいから」

 久我の皮肉も兵藤にはまるで通じない。
 彼の感性はどうにも苦手だった。会話の噛みあわなさに「これが天才肌ってやつか」と久我がうんざりしたのも一度や二度ではなかった。
 それでも兵藤の実力に対しては久我も敬意を抱いている。久我の知るかぎり、これまで出会った中で彼に匹敵するパスセンスを持っていたのは片倉凜奈ただ一人だけだ。

 ピッチ上においてのみ、彼らの息はぴたりと合っていた。だが久我がどうしても得点したいと熱望しているこのゲームにかぎって、なかなか決定的な場面を演出するパスが回ってこない。現在の得点者はジュリオと兵藤である。久我が焦りを感じるのも当然だ。
 このうえ、もしジュリオが暁平と余興じみた一対一をやっていたらどんな気持ちになったか、考えたくもなかった。
 外野のふざけた連中が無遠慮にはやしたてているなか、ジュリオと五味はピッチの真ん中で互いにボールを指さし「おれが攻める側!」とでも言いあっているみたいだ。

「後半は久我ちゃんでいくから」

 唐突に兵藤が言った。
 驚いた久我は黙ったままで兵藤を見る。

「ぼくの勘だと榛名くん、たぶんどこかでセンターバックに戻ると思うんだよね。まあ展開次第ではあるんだけど」

「そこで決めろと?」

 兵藤は「できるでしょ」とこともなげに言い切った。

「ゲームの土壇場ではぼくはきみを信じるよ。たしかにジュリオのほうがテクニックでは上だけど、ゴールへの嗅覚と熱ではきみだ。日本人らしくもなく、ね」

「おれをそんなに買い被っても知りませんよ。それにおれはチームのために頑張るだけですから」

 白々しい、と久我は自分でも思う。
 そんな彼に対し、兵藤は適当に流したりはしなかった。まだ幼さの残る顔を紅潮させて久我に詰め寄ってくる。

「そういうのはよくない。願うならちゃんと口に出すんだ。ぼくにはいつだって応えてあげられる用意がある。いいか、ぼくはきみを信じる。だからきみもぼくを信じろ」

 非常に顔が近い。その表情は久我もこれまで見たことがないほど真剣だ。
 吉野や他のチームメイトたちも何ごとかとこちらを注視しているようだったが、そんなことは久我にとってはどうでもいい。
 願いを口に出せば叶うのか。ならばいくらでも言ってやる。

「おれは、キョウを超えたい。どうしてもこの試合でゴールがほしい」

 いいね、と一転して笑顔になった兵藤が親指を上げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

タダで済むと思うな

美凪ましろ
ライト文芸
 フルタイムで働きながらワンオペで子育てをし、夫のケアもしていた井口虹子は、結婚十六年目のある夜、限界を迎える。  ――よし、決めた。  我慢するのは止めだ止め。  家族のために粉骨砕身頑張っていた自分。これからは自分のために生きる!  そう決めた虹子が企てた夫への復讐とは。 ■十八歳以下の男女の性行為があります。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

処理中です...