そんなに儚く見えますか?

紫南

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本編

023 それ私も思ってた!

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アルティナの姿が見えて声をかけようとしたオリエルだが、アルティナの肩に担いで膝の辺りまでの大きさの、見るからに重そうな袋を認識して、最初に言おうとしていた言葉は変更された。

「……それはなんだ……」
《おお。またなんぞ盗んで来よったか》
「盗んっ、また!?」

聞き捨てならない言葉が聞こえたと、オリエルはギョッとする。しかし、アルティナは慣れたものだ。

「人聞きが悪いよ。手付の回収みたいなものでしょ」
《あまり変わらんと思うがなあ》
「手付……?」
「そう。ほら、ウチは成金でしょ? 金はあるの。だから、ちょっと投資みたいな? それで回りやすくして罪を犯させやすくするって言うの? お金があると調子に乗りやすいからね」
「……わざと……」
「うん」
「……」

悪事を働くには金が必要になる。ならば、その金を供給してやれば、罪を犯しやすくなるという寸法だ。

「っ、それで罪をなすりつけられたり! 罪のない者達が苦しむことになるとは考えないのか!」

オリエルは、このアルティナの考え方には賛同できなかった。だが、これでもアルティナの態度は変わらない。

「それを私が分からないとでも?」
「っ、しかしっ!」
「証拠がないなら作ればいいの。だから、何人も何年もかけてウチの工作員を入れて、犯罪の証拠だけ確保して、犯罪は未然に防ぐか最小限の被害に収める」
「……そんなことが……」
「するんだよ。ウチはスパルタだから。敵って認識したら何が何でも追い詰める」
「っ……」

アルティナの表情は、冗談を言っているわけでも、悪ふざけで言っているのでもないというものだった。その表情から、とても重い覚悟が見えたオリエルは、小さく謝罪する。

「……申し訳ない……何も知らないのに、失礼な事を言った……」
「別に気してない』

そこでようやくアルティナは担いでいた袋を地面に置いたのだが、沢山の物が入っているというよりも、大きな物が入っているらしいことが、置いても形状があまり変わらない所を見てわかる。

何が入っているのかとオリエルが尋ねようかと迷っていれば、銀狼が先に口を開いた。

《ん? なんだ。人か?》
「……人?」
「うん。人。二人」
「人……二人……え?」

袋の口を開けると、そこには、更に体を布で包まれ、顔だけ出ている子どもがいた。それも二人。緩く背中合わせるで帯のような物で縛られている。

「っ!? は、犯罪者なのか?」
「え? ううん。この子達は、処分されそうになってたから拾って来たの」
「はあ!? ちょっ、なっ、袋に入れるか!?」

衝撃を受けているオリエルに対して、アルティナは冷静だ。

「これでも考えたんだよ? そのまま入れると、顔が当たって事故るっしょ? 二人とも男の子みたいだし、可哀想かなって」
《うむ。人は初の接吻を大事にすると聞いたことがある。仮に事故で相手が兄妹でも、人によっては血を見るとか。ほれ、お主もそうではないか?》

銀狼は、何気にアルティナとオリエルの間を取り持とうとしてくれているようで、話を振る。しかし、オリエルとしてはこの話は振ってくれなくて良かったというのが本音だ。

「っ、そ、そうですね……兄としたら、何かを失った気持ちになりそうです……」
「まあ、私も兄さんとしちゃったら、女の子達に顔向けできなくなりそうだけど」
《ん? こやつのように気まずく思うのではなく?》
「兄さんなら言いふらしそうだもん。気まずいと言うか、これも利用して令嬢達と上手く距離を取るんじゃないかな?」
《……ほんに、アレは悪魔だ……》
「え? 天使の皮はかぶってるはずだけど?」
《自分で剥いだやつな》
「それ私も思ってた!」
「……」

オリエルが、セイグラル家が本気でやばい家族だと理解した瞬間だった。

「……人を袋詰めしてきたことは、大したことではないのか……?」
「大丈夫。生き物は、拾ったら責任を持つのが当たり前でしょ」
「人だ……」
「人も生き物だし」
「……そうだな……」

やはりやばい一家なんだと確認できただけだった。

そんな中、袋詰めされて連れて来た子ども達が目を覚ました。






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読んでくださりありがとうございます◎

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