秘伝賜ります

紫南

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第八章 秘伝と隠されたもの

467 会場準備中

ここの土地神は少しお茶目なお姫様。そして、そこからここまで来るまでの間に居座っているのが妖精族。女王と忍者な王に絡まれ、高耶が戻って来られたのは夕食会の予定の三十分前だった。

「あら。高耶さん。まあ、まあ、お疲れですわねえ?」
「女将さん……すみません。お任せしてしまって」
「いえいえ、全て業務内ですよ。武雄が先ほど来ましたから、使ってやってください」
「今日、特別講義があると聞きましたけど」
「扉を繋げてくださっているのですもの。話を聞いていただけのようですし、寧ろ退屈過ぎたようで、元気に手伝うと宣言しましたから大丈夫ですよ」
「そうですか……ありがとうございます」
「ふふふ。あ、ピアノもご自由に。是非」
「はい」

女将は、毎日温泉に入っているからなのか、同窓会の会場としてここで出会った時よりも格段に若返っているように見える。

痛んでいた節々もなんともないのだと喜んでいたのは聞いているが、生き生きとしているようだ。もう旅館を閉めて引退しようとしていた頃の面影はない。まだまだ現役でやるぞと気力に満ちていた。

「そうだわ。高耶さん。武雄にモテる秘訣を教えてやってくださいな。娘には今更若女将なんてと断られてしまったので、武雄の奥さんをと思っているのです。アドバイスしてやってくださらない?」
「……アドバイス……それは、恋愛的なやつで……」
「ええ」
「っ……」

期待に満ちた目で詰め寄られ、高耶は目を泳がせる。

「あ~……連盟に、そうした相談が得意なのがいるので……そちらを紹介しておきます……」
「まあっ。有難いわ。是非ともよろしくお願いします。今日来られているお嬢さん達でも武雄を気に入ればいいのですけれど……」
「そうですね……」

武雄の手伝いを積極的に受け入れているのは、出会いの場をと思ってのことかもしれない。確かに、この旅館の存続のためには大事なこと。連盟のことを受け入れてくれた貴重な家だ。繋いでいってほしい。土地神様も、同じ血筋がここにずっとあるというのは嬉しいはずだ。長くこの土地で見守ってきた一族なのだから。

女将と別れ、高耶は会場に向かった。そこは同窓会の会場としても使ったあの会場だった。少し広いが、今回呼んだ家族達だけでなく、神隠し対策部署の五十名も来るので、それほど広過ぎるということはないはずだ。

「おっ! 高耶!」
「お疲れ~」

俊哉と武雄が手を振って呼んだ。そして、神隠し対策部署の代表三名が丁寧に頭を下げた。

「お疲れ様です。秘伝の御当主様」
「「お疲れ様です」」
「遅くなりました」
「いえ。土地神様へのご挨拶は大切ですから……任せてしまい申し訳ありません……」
「「ありがとうございます……」」

誰かがやるべきことで、今回は高耶が一番相応しかったからやっているのだが、どうやらこの部署の者達は少し神に対して思うところがあるようだ。

「なに? 部長さんたち、神様嫌いなん?」
「っ、嫌いとまでは行きませんが、苦手ですね……トラウマになっている者や、必要以上に恐れる者もおります。かなり慣れてきてはいますが……」
「そういうもんなんだ?」
「はい……その上にその……先日教えていただいた助け出された後のことが……」
「あっ! あれか。部長さんたち、住まない方がいい場所とか知らなかったんだよな?」
「はい……」

槇には話したが、神隠しにあった者が、しばらく近付かない方が良い場所というものがある。しかし、それを彼らは知らなかった。

「それ、蓮次郎のおっさんとかも知らんかったらしいぜ? なんで高耶は知ってたんだ?」
「ああ……思い出していたんだが……情報源はキルティスさんだった」
「マジか」
「き、キルティス……まさか、魔女様!?」

まだ半信半疑だったようで、情報をくれたのが魔女のキルティスと聞き、驚いていた。これでは信じられないとは思っていられない。

「何かの世間話の中で聞いたんだ。それで、先日改めて確認した。それがこちらの資料です」
「っ、拝見します!」
「それと、過去に神隠しに遭って戻って来た者のその後の情報をまとめたものもこちらに」
「あっ、資料室に来られていたのは……」
「ええ。これの裏付けが取られればと思って」
「い、言ってくださればやりましたよ!?」
「今回の準備にかかりきりでしたし、資料整理の得意な方に手伝ってもらっていたので、それほど時間もかかっていませんから」
「ですが……」

高耶に余計な仕事をさせてしまったというのが、彼らには心苦しかったようだ。いくら若くても、一つの一族の長で連盟の首領の一人というのは、尊重されている。

「高耶~。その手伝いって、教授?」
「ああ。夫婦でまた手伝ってくださったんだ」
「それで昨日とかなんか元気だったんだ?」
「まあ、生き生きとはされていたな」
「教授的には、デートなんだろ? 部長さん、気にすんな。好きな仕事できて喜んだみたいだから」
「はあ……」

それならばと、部長は申し訳なさそうにしながらも、資料に目を向けた。

「なになに? デートって? 教授って?」

武雄が興味津々で近づいてきた。

「大学の教授だ。民俗学が専門で、本とか調べ物が好きなんだよ。夫婦揃って」
「そうそう。で、その教授、奥さんとはもっぱら図書館デート。出会いも思い出もそれ」
「奥さんもってこと? 趣味が合う夫婦か……いいな~」
「っ……」

そこで、高耶は女将の言葉を思い出した。

「武雄……趣味はなんだ?」
「え? 趣味……は、その……」
「ん? 言えないことなのか?」
「ううん。その……お菓子作り……」
「お菓子……」
「そう。料理は好きなんだけど、おじいちゃんみたいにって本格的に修行したりはしたくないんだ……それと、クッキーとかケーキとか、甘過ぎるのが好きじゃなくて。自分で作ったら調整できるじゃん? それで、やり始めたんだけど……」

恥ずかしそうにする武雄に、高耶と俊哉は首を傾げる。

「なんで恥ずかしがってんの? いいじゃん。珀豪のアニキに教えてもらったら?」
「そうだな……珀豪も、始めたきっかけは市販のケーキが甘過ぎて、優希の体に悪いとかいうのだったし……いいんじゃないか? 俺も、あまり甘いのが好きじゃないから、最近は市販のを食べてないな」
「全部アニキの手作り?」
「だな。蓮次郎さん達との外食の時ぐらいしか外でデザートを食べないな。有名なケーキ屋は、珀豪が行って試食だって食べてくるみたいだが」
「え? アニキ一人で!?」
「いや。母さんか父さんが財布代わりについていく」
「今度から俺も付き合う!!」
「好きにしてくれ……」

巻き込まれなければ高耶は良いと思っている。そもそも、式神が一人で自主的に買い物や買い食いをするというのが、あまり考えられないことなのだが、それがおかしいという自覚が高耶にはない。当然、俊哉も分かるはずがなかった。

「いいんだ……って、珀豪さんって、あのロックな主夫さんか! え! こ、今度話させてもらっていい?」
「後で呼んでやるよ」
「やった!! ありがとう、高耶!」
「おう」

武雄の恋愛相談の件について、ついでに珀豪に探ってもらおうと決め、高耶はそろそろだなと時計を見た。

「あ、時間か! おーい。部長さん達、そろそろ始まるぜ?」
「あ、はい!!」
「呼んできます」

家族達は女将が声がけしてくれることになっている。職員達が集まり、待ち構えている所に呼ぶのは嫌だろうということで、家族達がやってくるのと同じくらいにバラバラ入ってもらう。

そうこうしていれば、槇の家族がやってきた。






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読んでくださりありがとうございます◎


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