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第八章 秘伝と隠されたもの
478 家決めました
翌日には探し始めた物件。白木家が見つけたのは、高耶の家から歩いて三分という距離にある一軒家だった。新築ではないが、築年数十年ほどの家だ。
「いやあ、良い場所があってよかったですなあ」
「ありがとうございます」
「助かりました」
「いえいえ。お望みに合う物件があって良かった」
その物件を紹介したのは、稲船陽だった。高耶の紹介で、問い合わせたところ、探し出してくれたというわけだ。
「まだそんなに古くない……」
内覧中、槇はそう呟いた。
「大丈夫! とくに霊障などで問題があって売りに出されたものではないですよ。四十代になるご両親とお子さんが一人の三人暮らしで、両親共に仕事が忙しくてお子さんがグレてしまって、補導を何度かされたのをきっかけに、田舎の実家に戻ったらしいです」
「……」
「……」
「……」
両親が槇を申し訳なさそうに見つめ、槇は下を向いた。
「あははっ。心配ありませんよ。娘さん、優希ちゃん達と仲良くなったそうで。あの三人の娘さん達と遊んでいれば、グレるなんてこともないですから」
「優希さん達ともお知り合いで?」
「ええ。優希ちゃんのお友達の可奈ちゃんと美由ちゃんが、うちの社員の娘なんですよ」
「まあっ」
「あのしっかりした娘さん達ですね……」
もう決まったし、ついでだからと、契約書を書きながら、そんな話をする。
「時々、『社長さんに』と手作りのお菓子をもらいます。美由ちゃんの方が、お菓子作りにハマっているらしくて、この前いただいたアップルパイは絶品でしたよ」
「ステキですわね」
「本当に。夕食のおかずは、週に何度か子ども達が作ったものが出てくるそうで、いやあ、羨ましい! ついつい自分の娘の子どもの頃と比べてしまいますよ。口にはしませんがね」
「大事なことでしょうね」
「女の子は難しいですから」
「ふふふっ」
かなり心に余裕もできた槇のご両親は、よく笑うようになった。
「さて。では、こちらの鍵をお渡しいたします」
「ありがとうございます」
「いやあ、姫様の所にも出入りされるとか。また顔を合わせることもあると思います。困ったことがあれば、ご相談ください」
「助かりますわ」
「高耶くんのところのご両親も気さくな方です。近所付き合いではないですが、この辺りのこととか、お話されるといいですよ」
「はい。これから行ってみようかと」
「是非是非」
陽は美咲や樹とも仲がよく、高耶自慢をお互いする仲だ。飽きないらしい。
帰る用意をしながら、白木夫妻は話しやすい陽相手だからと、思い出したと問いかける。
「そういえば、稲船さんは、コンサートに行かれるのですか?」
「なんでも、すごい倍率だったそうですねえ」
「よくぞ聞いてくださいました! 社員総出で抽選に応募しましたよ。いやあ、後でパワハラとかなんか言われそうだとヒヤヒヤしましたがねえ。はっはっはっ」
「職員で……」
「社長ですもんね……」
「まあ、知り合いの社長達も軒並み同じ手を使ってましたよ。社員も何人か当たって、食事付きで一緒に行くんだとか。他の社員達には、もちろん高級な菓子を差し入れしてね!」
年代的に霧矢を知らない者も多く、高耶はプロではないので、口コミで知っている者達や社長の縁者から知られているくらい。
それでもチケットの争奪戦になったのは、優希のところでの学芸会や、統二の文化祭での演奏がネットで流れ、ファンになった者達が多かったからだ。
「優希ちゃん達の通う小学校の学芸会で演奏した時のものがかなり衝撃だったらしくて。あの辺の校区内の人たちは、遠い親戚までも巻き込んで応募したとか聞きましたねえ」
「そうなんですか……」
「じゃあ、私たち……」
「ああ、チケットもらったんですか?」
「え、ええ……申し訳ないわ……」
「いやいや。これも縁ですしね。何より、私たちの様なガチのファンは、争奪戦に参加してこそですから!」
「そういうものですか……」
「そういうものです!」
知り合いだからなんて甘い態度で擦り寄ったりはしない。チケットの争奪戦に参加することで、応援している人がこんなに居るんだと知らせたい。待っていたんだという想いを伝えたいのだ。
「転売とか大丈夫なんですか……」
ここで、槇が問いかける。こうした人気のあるチケット争奪では、よくあることだろう。
「連盟に関係するデジタル部門や警察、それに私たちもそれを見つけたら即通報してますよ。速攻で身バレして、式も送り込まれるので、逃げられませんわ」
「……こわ……」
「はっはっはっ。転売ヤー撲滅! この際、その怖さを叩き込んでやると意気込んでいましたよ!」
「……二度とやれなくなるんだ……」
「すごいな……」
「けど、いけないことですもんね」
「そうですとも!」
そんな話をしながら、親交は深まっていった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「いやあ、良い場所があってよかったですなあ」
「ありがとうございます」
「助かりました」
「いえいえ。お望みに合う物件があって良かった」
その物件を紹介したのは、稲船陽だった。高耶の紹介で、問い合わせたところ、探し出してくれたというわけだ。
「まだそんなに古くない……」
内覧中、槇はそう呟いた。
「大丈夫! とくに霊障などで問題があって売りに出されたものではないですよ。四十代になるご両親とお子さんが一人の三人暮らしで、両親共に仕事が忙しくてお子さんがグレてしまって、補導を何度かされたのをきっかけに、田舎の実家に戻ったらしいです」
「……」
「……」
「……」
両親が槇を申し訳なさそうに見つめ、槇は下を向いた。
「あははっ。心配ありませんよ。娘さん、優希ちゃん達と仲良くなったそうで。あの三人の娘さん達と遊んでいれば、グレるなんてこともないですから」
「優希さん達ともお知り合いで?」
「ええ。優希ちゃんのお友達の可奈ちゃんと美由ちゃんが、うちの社員の娘なんですよ」
「まあっ」
「あのしっかりした娘さん達ですね……」
もう決まったし、ついでだからと、契約書を書きながら、そんな話をする。
「時々、『社長さんに』と手作りのお菓子をもらいます。美由ちゃんの方が、お菓子作りにハマっているらしくて、この前いただいたアップルパイは絶品でしたよ」
「ステキですわね」
「本当に。夕食のおかずは、週に何度か子ども達が作ったものが出てくるそうで、いやあ、羨ましい! ついつい自分の娘の子どもの頃と比べてしまいますよ。口にはしませんがね」
「大事なことでしょうね」
「女の子は難しいですから」
「ふふふっ」
かなり心に余裕もできた槇のご両親は、よく笑うようになった。
「さて。では、こちらの鍵をお渡しいたします」
「ありがとうございます」
「いやあ、姫様の所にも出入りされるとか。また顔を合わせることもあると思います。困ったことがあれば、ご相談ください」
「助かりますわ」
「高耶くんのところのご両親も気さくな方です。近所付き合いではないですが、この辺りのこととか、お話されるといいですよ」
「はい。これから行ってみようかと」
「是非是非」
陽は美咲や樹とも仲がよく、高耶自慢をお互いする仲だ。飽きないらしい。
帰る用意をしながら、白木夫妻は話しやすい陽相手だからと、思い出したと問いかける。
「そういえば、稲船さんは、コンサートに行かれるのですか?」
「なんでも、すごい倍率だったそうですねえ」
「よくぞ聞いてくださいました! 社員総出で抽選に応募しましたよ。いやあ、後でパワハラとかなんか言われそうだとヒヤヒヤしましたがねえ。はっはっはっ」
「職員で……」
「社長ですもんね……」
「まあ、知り合いの社長達も軒並み同じ手を使ってましたよ。社員も何人か当たって、食事付きで一緒に行くんだとか。他の社員達には、もちろん高級な菓子を差し入れしてね!」
年代的に霧矢を知らない者も多く、高耶はプロではないので、口コミで知っている者達や社長の縁者から知られているくらい。
それでもチケットの争奪戦になったのは、優希のところでの学芸会や、統二の文化祭での演奏がネットで流れ、ファンになった者達が多かったからだ。
「優希ちゃん達の通う小学校の学芸会で演奏した時のものがかなり衝撃だったらしくて。あの辺の校区内の人たちは、遠い親戚までも巻き込んで応募したとか聞きましたねえ」
「そうなんですか……」
「じゃあ、私たち……」
「ああ、チケットもらったんですか?」
「え、ええ……申し訳ないわ……」
「いやいや。これも縁ですしね。何より、私たちの様なガチのファンは、争奪戦に参加してこそですから!」
「そういうものですか……」
「そういうものです!」
知り合いだからなんて甘い態度で擦り寄ったりはしない。チケットの争奪戦に参加することで、応援している人がこんなに居るんだと知らせたい。待っていたんだという想いを伝えたいのだ。
「転売とか大丈夫なんですか……」
ここで、槇が問いかける。こうした人気のあるチケット争奪では、よくあることだろう。
「連盟に関係するデジタル部門や警察、それに私たちもそれを見つけたら即通報してますよ。速攻で身バレして、式も送り込まれるので、逃げられませんわ」
「……こわ……」
「はっはっはっ。転売ヤー撲滅! この際、その怖さを叩き込んでやると意気込んでいましたよ!」
「……二度とやれなくなるんだ……」
「すごいな……」
「けど、いけないことですもんね」
「そうですとも!」
そんな話をしながら、親交は深まっていった。
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読んでくださりありがとうございます◎
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