秘伝賜ります

紫南

文字の大きさ
207 / 463
第五章 秘伝と天使と悪魔

207 挨拶は大切です

しおりを挟む
高耶を先頭にしてその後ろに蒼翔、次に瀬良姉弟が続き、俊哉、統二、由姫の双子だ。

他の参加者達は、霊穴に向かって山を浄化していくので麓から分かれて別行動となっている。

山を登り始めてしばらくして、蒼翔は高耶が何かを探している様子に気付いたらしい。

「何か警戒中?」
「あ、いえ。この前から視線が気になっていまして」
「視線……?」

蒼翔は感じていなかったらしいと知り、高耶は少し考えてから口にした。

「悪い感じではないです。先日は警戒されていたんですが……今はこちらの様子を窺うような感じで……なので、どうしようか迷っていまして」
「どうって? 妖なの?」

本当に気配も感じていないらしい蒼翔に、高耶は苦笑した。

「多分、山神です」
「えっ、その報告受けてないよ!? ここ居るの!?」
「この感じは若いんだと思います。生まれて五十年くらいですね」

高耶も先日、お狐様の御神体を確認しに来た時には、お狐様からの視線だと思っていたのだ。

この山には神は居ないはずだった。報告でも、山の麓の町一帯を守護する土地神がここの山も影響下に置いていると思われていたのだ。

「麓の土地神に挨拶をしたのですが、その時にこの山が守護範囲に入っていないのが確認できました。恐らく、霊穴がその頃からこの山にあったんでしょう。それを抑えるために生まれた神です」
「……麓の……土地神の力が弱まっているとか?」

本来、二重に土地神は現れない。それがあるとすれば、交代のためだ。しかし、今回の場合は、端だったこともあり、切り離すことで住み分けをしたような状況になったのだろう。

「そうですね……霊穴を抑えられるほどの余裕はないのだと思います。祀られている社も朽ちかけていましたからね。こちらも御神体を確認すべきだと思います」
御衛ごえい部隊に確認させるよ」
「お願いします」

御衛ごえい部隊とは、土地神を見守る部隊だ。基本的に手を出すことはない。ただ、その土地神の社を管理する者と繋がりを持ち、必要ならばその管理を変わる。

とはいえ、部隊の人数に対して土地神の数は数十倍。完璧に管理できているわけではない。土地神の交代などで、管理できずに消えてしまった土地も隣接する土地神が影響力を伸ばしたりと、本当に困ることにはならないのだ。

普段の主な彼らの活動内容は、土地神の守護範囲を記録することだったりする。時には土地神の交代がしやすいように地を整えたりもするが、能力者とはいえ人の力でどうにかできることは少ないのだ。

それでも必要とされているのは、能力者達が問題の起きた場所で能力を十全に使うためには土地神の許可が必要だったりするからだ。その時に神と渡をつけるのが彼らの仕事でもある。

今回も、前日に能力者達がお邪魔しますと挨拶をしてもらっている。

もちろん、毎回どこでも挨拶が必要というわけではない。それが必要になる範囲や条件というものがある。突発的に式の力が必要になったり、日常で式の力を借りるだけならば許可は要らない。

式に土地に影響を与えるほどの力を使わせる時は当然必要となり、御神体を中心とする土地の中核に入る時も出来れば必要だ。この場合は、近くに居るのだから挨拶して当然だろうという礼儀の範囲だ。

そんな中、今回の場合は土地神違いだったと言わずにはいられない。本来挨拶しなくてはならないのはここの山神にだったのだから。

「挨拶しておきましょうか」
「……そんなちょっとお隣にって感じに……うん。お願いできる?」
「はい。こっちです」
「え、一緒に行くの?」

蒼翔的には、高耶一人にちょっと行って来てもらうつもりだったらしい。彼や他の能力者達も、基本は御衛部隊に挨拶は任せてしまう。なので、自分たちで挨拶という考えがなかったようだ。だが、高耶は全て個人で受ける依頼が多く、御衛部隊に任せたことはなかった。だから、寧ろなぜ一緒に行かないのかが分からない。

「もちろんです。行きますよ」

有無を言わせず、気配のある方へと足を向けた。

その途中、ばったりと勇一を含む一団に出会でくわしたのだ。

「あ」

勇一の周りにいる青年達が口を開けて固まっていた。そんな彼らに、高耶は構わず声をかける。

「視界に入った。あなた方もついて来てください」
「へ?」

はじめ、山神の目に留まったのは高耶だけ。だが、側に居ることで蒼翔達も視界に入っていた。ならば、認識されたこととして挨拶すべきだ。

そうして連れてきたところに、勇一達まで入ったというわけだ。まだ彼らも式を出していないならば、事後承諾にはならない。

「山神に挨拶に行きます。式はこのまま出さないように。もう、すぐそこですから」
「え? え?」
「はいは~い。高耶くんに従ってね~。っていうか、私も神さまへの挨拶の仕方とか不安なんだけど」
「お願いするだけですよ。『この地に式を入れることをお許しください』とお願いするだけです」

難しいことはない。真摯に語りかければ、神は応えてくれる。だが、これは高耶の中の常識であり、語りかけて必ず応えてくれるなんてことは、普通ではない。だからこそ、専門の御衛部隊があるのだから。

そして、これも高耶の中での常識。

「ダメだと言われたら使わない。それで問題ありません」
「大問題だよね!?」

式が使えないとなれば、何も出来ない術者は多い。大問題だ。だから、御衛部隊は時には丸一日かけてお願いしまくる。それで術者達の仕事は成り立ってきたのだ。感謝しなくてはならない。

「礼は尽くしてこそです。許可が得られないなら式はダメです」
「な、なるほど……御衛部隊の待遇がもう少し良くなるように父上に言っておくよ……」
「それが良いですね」

御衛部隊も、清掃部隊ほどではないが、時に存在意義が分からないとまで言われる不遇部隊だ。術者達は彼らのお陰で仕事が出来ていると思わなくてはならない。

「ここで止まってください」
「え、ここ? うそ……間違いない……御神木だ……」

それは本当に唐突に、突然視界に入ってきた。大きく立派な楠木くすのきだった。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
しおりを挟む
感想 675

あなたにおすすめの小説

レベル1のフリはやめた。貸した力を全回収

ソラ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ち、ソラ。 彼はレベル1の無能として蔑まれ、魔王討伐を目前に「お前のようなゴミはいらない」と追放を言い渡される。 だが、傲慢な勇者たちは知らなかった。 自分たちが人間最高峰の力を維持できていたのは、すべてソラの規格外のステータスを『借りていた』からだということを。 「……わかった。貸していた力、すべて返してもらうよ」 契約解除。返還されたレベルは9999。 一瞬にして力を失い、ただの凡人へと転落しパニックに陥る勇者たち。 対するソラは、星を砕くほどの万能感を取り戻しながらも、淡々と宿を去る。 静かな隠居を望むソラだったが、路地裏で「才能なし」と虐げられていた少女ミィナを助けたことで、運命が変わり始める。 「借金の利息として、君を最強にしてあげよう」 これは、世界そのものにステータスを貸し付けていた最強の『貸与者』が、不条理な世界を再定義していく物語。 (本作品はAIを活用して構成・執筆しています)

【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

との
恋愛
第17回恋愛大賞、12位ありがとうございました。そして、奨励賞まで⋯⋯応援してくださった方々皆様に心からの感謝を🤗 「貴様とは婚約破棄だ!」⋯⋯な〜んて、聞き飽きたぁぁ! あちこちでよく見かける『使い古された感のある婚約破棄』騒動が、目の前ではじまったけど、勘違いも甚だしい王子に笑いが止まらない。 断罪劇? いや、珍喜劇だね。 魔力持ちが産まれなくて危機感を募らせた王国から、多くの魔法士が産まれ続ける聖王国にお願いレターが届いて⋯⋯。 留学生として王国にやって来た『婚約者候補』チームのリーダーをしているのは、私ロクサーナ・バーラム。 私はただの引率者で、本当の任務は別だからね。婚約者でも候補でもないのに、珍喜劇の中心人物になってるのは何で? 治癒魔法の使える女性を婚約者にしたい? 隣にいるレベッカはささくれを治せればラッキーな治癒魔法しか使えないけど良いのかな? 聖女に聖女見習い、魔法士に魔法士見習い。私達は国内だけでなく、魔法で外貨も稼いでいる⋯⋯国でも稼ぎ頭の集団です。 我が国で言う聖女って職種だからね、清廉潔白、献身⋯⋯いやいや、ないわ〜。だって魔物の討伐とか行くし? 殺るし? 面倒事はお断りして、さっさと帰るぞぉぉ。 訳あって、『期間限定銭ゲバ聖女⋯⋯ちょくちょく戦闘狂』やってます。いつもそばにいる子達をモフモフ出来るまで頑張りま〜す。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結まで予約投稿済み R15は念の為・・

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

わたしにしか懐かない龍神の子供(?)を拾いました~可愛いんで育てたいと思います

あきた
ファンタジー
明治大正風味のファンタジー恋愛もの。 化物みたいな能力を持ったせいでいじめられていたキイロは、強引に知らない家へ嫁入りすることに。 所が嫁入り先は火事だし、なんか子供を拾ってしまうしで、友人宅へ一旦避難。 親もいなさそうだし子供は私が育てようかな、どうせすぐに離縁されるだろうし。 そう呑気に考えていたキイロ、ところが嫁ぎ先の夫はキイロが行方不明で発狂寸前。 実は夫になる『薄氷の君』と呼ばれる銀髪の軍人、やんごとなき御家柄のしかも軍でも出世頭。 おまけに超美形。その彼はキイロに夢中。どうやら過去になにかあったようなのだが。 そしてその彼は、怒ったらとんでもない存在になってしまって。 ※タイトルはそのうち変更するかもしれません※ ※お気に入り登録お願いします!※

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...