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第五章 秘伝と天使と悪魔
207 挨拶は大切です
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高耶を先頭にしてその後ろに蒼翔、次に瀬良姉弟が続き、俊哉、統二、由姫の双子だ。
他の参加者達は、霊穴に向かって山を浄化していくので麓から分かれて別行動となっている。
山を登り始めてしばらくして、蒼翔は高耶が何かを探している様子に気付いたらしい。
「何か警戒中?」
「あ、いえ。この前から視線が気になっていまして」
「視線……?」
蒼翔は感じていなかったらしいと知り、高耶は少し考えてから口にした。
「悪い感じではないです。先日は警戒されていたんですが……今はこちらの様子を窺うような感じで……なので、どうしようか迷っていまして」
「どうって? 妖なの?」
本当に気配も感じていないらしい蒼翔に、高耶は苦笑した。
「多分、山神です」
「えっ、その報告受けてないよ!? ここ居るの!?」
「この感じは若いんだと思います。生まれて五十年くらいですね」
高耶も先日、お狐様の御神体を確認しに来た時には、お狐様からの視線だと思っていたのだ。
この山には神は居ないはずだった。報告でも、山の麓の町一帯を守護する土地神がここの山も影響下に置いていると思われていたのだ。
「麓の土地神に挨拶をしたのですが、その時にこの山が守護範囲に入っていないのが確認できました。恐らく、霊穴がその頃からこの山にあったんでしょう。それを抑えるために生まれた神です」
「……麓の……土地神の力が弱まっているとか?」
本来、二重に土地神は現れない。それがあるとすれば、交代のためだ。しかし、今回の場合は、端だったこともあり、切り離すことで住み分けをしたような状況になったのだろう。
「そうですね……霊穴を抑えられるほどの余裕はないのだと思います。祀られている社も朽ちかけていましたからね。こちらも御神体を確認すべきだと思います」
「御衛部隊に確認させるよ」
「お願いします」
御衛部隊とは、土地神を見守る部隊だ。基本的に手を出すことはない。ただ、その土地神の社を管理する者と繋がりを持ち、必要ならばその管理を変わる。
とはいえ、部隊の人数に対して土地神の数は数十倍。完璧に管理できているわけではない。土地神の交代などで、管理できずに消えてしまった土地も隣接する土地神が影響力を伸ばしたりと、本当に困ることにはならないのだ。
普段の主な彼らの活動内容は、土地神の守護範囲を記録することだったりする。時には土地神の交代がしやすいように地を整えたりもするが、能力者とはいえ人の力でどうにかできることは少ないのだ。
それでも必要とされているのは、能力者達が問題の起きた場所で能力を十全に使うためには土地神の許可が必要だったりするからだ。その時に神と渡をつけるのが彼らの仕事でもある。
今回も、前日に能力者達がお邪魔しますと挨拶をしてもらっている。
もちろん、毎回どこでも挨拶が必要というわけではない。それが必要になる範囲や条件というものがある。突発的に式の力が必要になったり、日常で式の力を借りるだけならば許可は要らない。
式に土地に影響を与えるほどの力を使わせる時は当然必要となり、御神体を中心とする土地の中核に入る時も出来れば必要だ。この場合は、近くに居るのだから挨拶して当然だろうという礼儀の範囲だ。
そんな中、今回の場合は土地神違いだったと言わずにはいられない。本来挨拶しなくてはならないのはここの山神にだったのだから。
「挨拶しておきましょうか」
「……そんなちょっとお隣にって感じに……うん。お願いできる?」
「はい。こっちです」
「え、一緒に行くの?」
蒼翔的には、高耶一人にちょっと行って来てもらうつもりだったらしい。彼や他の能力者達も、基本は御衛部隊に挨拶は任せてしまう。なので、自分たちで挨拶という考えがなかったようだ。だが、高耶は全て個人で受ける依頼が多く、御衛部隊に任せたことはなかった。だから、寧ろなぜ一緒に行かないのかが分からない。
「もちろんです。行きますよ」
有無を言わせず、気配のある方へと足を向けた。
その途中、ばったりと勇一を含む一団に出会したのだ。
「あ」
勇一の周りにいる青年達が口を開けて固まっていた。そんな彼らに、高耶は構わず声をかける。
「視界に入った。あなた方もついて来てください」
「へ?」
はじめ、山神の目に留まったのは高耶だけ。だが、側に居ることで蒼翔達も視界に入っていた。ならば、認識されたこととして挨拶すべきだ。
そうして連れてきたところに、勇一達まで入ったというわけだ。まだ彼らも式を出していないならば、事後承諾にはならない。
「山神に挨拶に行きます。式はこのまま出さないように。もう、すぐそこですから」
「え? え?」
「はいは~い。高耶くんに従ってね~。っていうか、私も神さまへの挨拶の仕方とか不安なんだけど」
「お願いするだけですよ。『この地に式を入れることをお許しください』とお願いするだけです」
難しいことはない。真摯に語りかければ、神は応えてくれる。だが、これは高耶の中の常識であり、語りかけて必ず応えてくれるなんてことは、普通ではない。だからこそ、専門の御衛部隊があるのだから。
そして、これも高耶の中での常識。
「ダメだと言われたら使わない。それで問題ありません」
「大問題だよね!?」
式が使えないとなれば、何も出来ない術者は多い。大問題だ。だから、御衛部隊は時には丸一日かけてお願いしまくる。それで術者達の仕事は成り立ってきたのだ。感謝しなくてはならない。
「礼は尽くしてこそです。許可が得られないなら式はダメです」
「な、なるほど……御衛部隊の待遇がもう少し良くなるように父上に言っておくよ……」
「それが良いですね」
御衛部隊も、清掃部隊ほどではないが、時に存在意義が分からないとまで言われる不遇部隊だ。術者達は彼らのお陰で仕事が出来ていると思わなくてはならない。
「ここで止まってください」
「え、ここ? うそ……間違いない……御神木だ……」
それは本当に唐突に、突然視界に入ってきた。大きく立派な楠木だった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
他の参加者達は、霊穴に向かって山を浄化していくので麓から分かれて別行動となっている。
山を登り始めてしばらくして、蒼翔は高耶が何かを探している様子に気付いたらしい。
「何か警戒中?」
「あ、いえ。この前から視線が気になっていまして」
「視線……?」
蒼翔は感じていなかったらしいと知り、高耶は少し考えてから口にした。
「悪い感じではないです。先日は警戒されていたんですが……今はこちらの様子を窺うような感じで……なので、どうしようか迷っていまして」
「どうって? 妖なの?」
本当に気配も感じていないらしい蒼翔に、高耶は苦笑した。
「多分、山神です」
「えっ、その報告受けてないよ!? ここ居るの!?」
「この感じは若いんだと思います。生まれて五十年くらいですね」
高耶も先日、お狐様の御神体を確認しに来た時には、お狐様からの視線だと思っていたのだ。
この山には神は居ないはずだった。報告でも、山の麓の町一帯を守護する土地神がここの山も影響下に置いていると思われていたのだ。
「麓の土地神に挨拶をしたのですが、その時にこの山が守護範囲に入っていないのが確認できました。恐らく、霊穴がその頃からこの山にあったんでしょう。それを抑えるために生まれた神です」
「……麓の……土地神の力が弱まっているとか?」
本来、二重に土地神は現れない。それがあるとすれば、交代のためだ。しかし、今回の場合は、端だったこともあり、切り離すことで住み分けをしたような状況になったのだろう。
「そうですね……霊穴を抑えられるほどの余裕はないのだと思います。祀られている社も朽ちかけていましたからね。こちらも御神体を確認すべきだと思います」
「御衛部隊に確認させるよ」
「お願いします」
御衛部隊とは、土地神を見守る部隊だ。基本的に手を出すことはない。ただ、その土地神の社を管理する者と繋がりを持ち、必要ならばその管理を変わる。
とはいえ、部隊の人数に対して土地神の数は数十倍。完璧に管理できているわけではない。土地神の交代などで、管理できずに消えてしまった土地も隣接する土地神が影響力を伸ばしたりと、本当に困ることにはならないのだ。
普段の主な彼らの活動内容は、土地神の守護範囲を記録することだったりする。時には土地神の交代がしやすいように地を整えたりもするが、能力者とはいえ人の力でどうにかできることは少ないのだ。
それでも必要とされているのは、能力者達が問題の起きた場所で能力を十全に使うためには土地神の許可が必要だったりするからだ。その時に神と渡をつけるのが彼らの仕事でもある。
今回も、前日に能力者達がお邪魔しますと挨拶をしてもらっている。
もちろん、毎回どこでも挨拶が必要というわけではない。それが必要になる範囲や条件というものがある。突発的に式の力が必要になったり、日常で式の力を借りるだけならば許可は要らない。
式に土地に影響を与えるほどの力を使わせる時は当然必要となり、御神体を中心とする土地の中核に入る時も出来れば必要だ。この場合は、近くに居るのだから挨拶して当然だろうという礼儀の範囲だ。
そんな中、今回の場合は土地神違いだったと言わずにはいられない。本来挨拶しなくてはならないのはここの山神にだったのだから。
「挨拶しておきましょうか」
「……そんなちょっとお隣にって感じに……うん。お願いできる?」
「はい。こっちです」
「え、一緒に行くの?」
蒼翔的には、高耶一人にちょっと行って来てもらうつもりだったらしい。彼や他の能力者達も、基本は御衛部隊に挨拶は任せてしまう。なので、自分たちで挨拶という考えがなかったようだ。だが、高耶は全て個人で受ける依頼が多く、御衛部隊に任せたことはなかった。だから、寧ろなぜ一緒に行かないのかが分からない。
「もちろんです。行きますよ」
有無を言わせず、気配のある方へと足を向けた。
その途中、ばったりと勇一を含む一団に出会したのだ。
「あ」
勇一の周りにいる青年達が口を開けて固まっていた。そんな彼らに、高耶は構わず声をかける。
「視界に入った。あなた方もついて来てください」
「へ?」
はじめ、山神の目に留まったのは高耶だけ。だが、側に居ることで蒼翔達も視界に入っていた。ならば、認識されたこととして挨拶すべきだ。
そうして連れてきたところに、勇一達まで入ったというわけだ。まだ彼らも式を出していないならば、事後承諾にはならない。
「山神に挨拶に行きます。式はこのまま出さないように。もう、すぐそこですから」
「え? え?」
「はいは~い。高耶くんに従ってね~。っていうか、私も神さまへの挨拶の仕方とか不安なんだけど」
「お願いするだけですよ。『この地に式を入れることをお許しください』とお願いするだけです」
難しいことはない。真摯に語りかければ、神は応えてくれる。だが、これは高耶の中の常識であり、語りかけて必ず応えてくれるなんてことは、普通ではない。だからこそ、専門の御衛部隊があるのだから。
そして、これも高耶の中での常識。
「ダメだと言われたら使わない。それで問題ありません」
「大問題だよね!?」
式が使えないとなれば、何も出来ない術者は多い。大問題だ。だから、御衛部隊は時には丸一日かけてお願いしまくる。それで術者達の仕事は成り立ってきたのだ。感謝しなくてはならない。
「礼は尽くしてこそです。許可が得られないなら式はダメです」
「な、なるほど……御衛部隊の待遇がもう少し良くなるように父上に言っておくよ……」
「それが良いですね」
御衛部隊も、清掃部隊ほどではないが、時に存在意義が分からないとまで言われる不遇部隊だ。術者達は彼らのお陰で仕事が出来ていると思わなくてはならない。
「ここで止まってください」
「え、ここ? うそ……間違いない……御神木だ……」
それは本当に唐突に、突然視界に入ってきた。大きく立派な楠木だった。
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