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第一章 秘伝のお仕事
025 馴染んでいるようで
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2018. 1. 24
**********
神社を出てから町を見て回った高耶は、昼頃に食事のために旅館へ戻った。
「……珀豪……いつもは嫌がるのに、なぜ仔犬姿に……」
《むっ、あ、主……こ、これは優希と美咲に言われて……》
母の事まで名前で呼ぶようになった事に少々驚いたが、それよりも今の姿だ。
珀豪は、自分の力強く大きな姿に誇りを持っている。だから、小回りが利くように小さな仔犬姿になれと命じても、いつもは渋々といった様子で必要がなくなった時にはすぐに元の姿へ戻りたがるのだ。
しかし、現在珀豪は仔犬姿になって気持ち良さそうに優希にお腹を撫でられていた。
「本当にお前は子どもに弱いな……」
《……申し訳なく……》
優希が嬉しそうなので目を瞑るとしよう。
「あら、高耶。良かったわ。お昼ご飯どうするのかと思った。丁度用意された所よ」
「いいタイミングだったな。優希、ご飯だ」
「うんっ。ハクちゃんもいこ」
《うむ》
もう完全にペットになってしまったようだ。実力も確かな式神が餌付けされていた。
食事の席にはもう父がついて待っていた。
「お帰り、高耶くん。お仕事の方は終わったのかい?」
「一応ですね。色々邪魔をされてやりきれなかった部分もあるので、人のいなくなる夜に一度出かけます」
「夜に? 大変なんだね……」
「いえ。後は充雪……今出て行っている先祖の霊が戻ってくるのを待つだけなので」
食事をしながら、そんな会話をする。つくづく秘密ではなくなった事は良かったと思う。
「先祖の霊? そんな人がいるの?」
母もそうは見えないようにしているようだが興味深々だ。
「あのねっ。セツじぃちゃんはね、おはなしじょうずで、おもしろいのっ」
優希がここがチャンスとアピールする。
「セツじぃ……そういえば、優希が昨日も言っていたね。その人、戻ってこないとか言っていなかったかい?」
父が昨日の情報を元に尋ねてくる。
「ええ。ですが、腐っても神の端くれなので、何とかして戻ってくると思います。山神も落ち着いているようですから。そろそろでしょう」
「神様? そのご先祖様って、神様なの?」
さすがに驚いたのだろう。母が箸を止めて目を丸くする。当然だろう。先祖が神だなんて言われれば、驚くに決まっている。
「正確には、神になった人だよ。死んだ後、その功績や力が認められて神になったんだ。『業神』と言う。社は本家にあるけど、力を継いだ者と一緒に行動するから、社にじっとしていないけどな」
本家には、充雪を祀る社がある。一応は神なのだから当然だ。しかし、充雪がいつもそこにいるかといえばそうではない。
祈りの力は充雪の力となるが、それはあくまでこの地に充雪を繋ぎ止める役割りのある場所というだけの意味しかない。
「う~ん。昨日の話からすると、高耶君が当主って事なのかな?」
「そうですね。充雪が見え、その実力を認められる事。それと、全ての技を修得する事が当主の資格です。とはいえ……分家筋である俺を本家は当主と認めていません。秘伝家の当主と名乗っているのは、本家の人間です」
本家直系が今までは順当にその力を認められてきた。とはいえ、何代かは充雪の姿が見えない者もいたらしい。本来の当主不在のまま、仮の当主として直系の者が当主を名乗り、引き継いできた。
秘伝家は当主から次代の当主へという技の受け継ぎは必要ない。なぜなら、充雪という元本が当主となる者には憑くのだ。その必要がなかった。
だが、当主にしか充雪は見えないのだ。見えると偽った所で真実が知られる事はない。
「それって……嘘ってこと? いいの?」
「真偽が確認できるのは、陰陽師でも実力者達だけです。彼らに看破されない限り、周りにとやかく言われることはありません。仮にも本家直系。陰陽師としての実力もその辺の者達よりはある。武術の方も同じです。それが嘘だと分かる人には分かりますし、それで十分でしょう」
だからこそ、高耶は首領達に当主と認められている。本家の者達が自分たちこそ正当な者だと言った所で、秘伝家の当主として認められる者が誰なのかは彼らになら分かるのだ。
「でも……だから高耶は……あの人は……」
母の呟きが聞こえた。何が言いたいのかは分かる。
「大丈夫だ。母さん達を守れるくらいの力は今の俺にはあるから。本家のいざこざに巻き込んだりしないよ」
「……無理するんじゃないわよ」
「わかってる」
とは言っても、そのせいで父が命を落とした事は本当だ。もう二度とそんな事があってはならない。
そうして、食事を終える頃。高耶は感じた気配に弾かれたように顔を上げる。
《待たせたなっ》
「ジィさんっ」
ようやく充雪が帰ってきたのだ。
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神社を出てから町を見て回った高耶は、昼頃に食事のために旅館へ戻った。
「……珀豪……いつもは嫌がるのに、なぜ仔犬姿に……」
《むっ、あ、主……こ、これは優希と美咲に言われて……》
母の事まで名前で呼ぶようになった事に少々驚いたが、それよりも今の姿だ。
珀豪は、自分の力強く大きな姿に誇りを持っている。だから、小回りが利くように小さな仔犬姿になれと命じても、いつもは渋々といった様子で必要がなくなった時にはすぐに元の姿へ戻りたがるのだ。
しかし、現在珀豪は仔犬姿になって気持ち良さそうに優希にお腹を撫でられていた。
「本当にお前は子どもに弱いな……」
《……申し訳なく……》
優希が嬉しそうなので目を瞑るとしよう。
「あら、高耶。良かったわ。お昼ご飯どうするのかと思った。丁度用意された所よ」
「いいタイミングだったな。優希、ご飯だ」
「うんっ。ハクちゃんもいこ」
《うむ》
もう完全にペットになってしまったようだ。実力も確かな式神が餌付けされていた。
食事の席にはもう父がついて待っていた。
「お帰り、高耶くん。お仕事の方は終わったのかい?」
「一応ですね。色々邪魔をされてやりきれなかった部分もあるので、人のいなくなる夜に一度出かけます」
「夜に? 大変なんだね……」
「いえ。後は充雪……今出て行っている先祖の霊が戻ってくるのを待つだけなので」
食事をしながら、そんな会話をする。つくづく秘密ではなくなった事は良かったと思う。
「先祖の霊? そんな人がいるの?」
母もそうは見えないようにしているようだが興味深々だ。
「あのねっ。セツじぃちゃんはね、おはなしじょうずで、おもしろいのっ」
優希がここがチャンスとアピールする。
「セツじぃ……そういえば、優希が昨日も言っていたね。その人、戻ってこないとか言っていなかったかい?」
父が昨日の情報を元に尋ねてくる。
「ええ。ですが、腐っても神の端くれなので、何とかして戻ってくると思います。山神も落ち着いているようですから。そろそろでしょう」
「神様? そのご先祖様って、神様なの?」
さすがに驚いたのだろう。母が箸を止めて目を丸くする。当然だろう。先祖が神だなんて言われれば、驚くに決まっている。
「正確には、神になった人だよ。死んだ後、その功績や力が認められて神になったんだ。『業神』と言う。社は本家にあるけど、力を継いだ者と一緒に行動するから、社にじっとしていないけどな」
本家には、充雪を祀る社がある。一応は神なのだから当然だ。しかし、充雪がいつもそこにいるかといえばそうではない。
祈りの力は充雪の力となるが、それはあくまでこの地に充雪を繋ぎ止める役割りのある場所というだけの意味しかない。
「う~ん。昨日の話からすると、高耶君が当主って事なのかな?」
「そうですね。充雪が見え、その実力を認められる事。それと、全ての技を修得する事が当主の資格です。とはいえ……分家筋である俺を本家は当主と認めていません。秘伝家の当主と名乗っているのは、本家の人間です」
本家直系が今までは順当にその力を認められてきた。とはいえ、何代かは充雪の姿が見えない者もいたらしい。本来の当主不在のまま、仮の当主として直系の者が当主を名乗り、引き継いできた。
秘伝家は当主から次代の当主へという技の受け継ぎは必要ない。なぜなら、充雪という元本が当主となる者には憑くのだ。その必要がなかった。
だが、当主にしか充雪は見えないのだ。見えると偽った所で真実が知られる事はない。
「それって……嘘ってこと? いいの?」
「真偽が確認できるのは、陰陽師でも実力者達だけです。彼らに看破されない限り、周りにとやかく言われることはありません。仮にも本家直系。陰陽師としての実力もその辺の者達よりはある。武術の方も同じです。それが嘘だと分かる人には分かりますし、それで十分でしょう」
だからこそ、高耶は首領達に当主と認められている。本家の者達が自分たちこそ正当な者だと言った所で、秘伝家の当主として認められる者が誰なのかは彼らになら分かるのだ。
「でも……だから高耶は……あの人は……」
母の呟きが聞こえた。何が言いたいのかは分かる。
「大丈夫だ。母さん達を守れるくらいの力は今の俺にはあるから。本家のいざこざに巻き込んだりしないよ」
「……無理するんじゃないわよ」
「わかってる」
とは言っても、そのせいで父が命を落とした事は本当だ。もう二度とそんな事があってはならない。
そうして、食事を終える頃。高耶は感じた気配に弾かれたように顔を上げる。
《待たせたなっ》
「ジィさんっ」
ようやく充雪が帰ってきたのだ。
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