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紫南

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第二章

060 なんとも呆気ないですね

広い未開の地と山々を背に、三つの隣国と国境を接する国、ラクターナ。鉱山がいくつかあり、それらを内陸にある隣国は常に狙っている。

国内では、国境の守りや鉱山資源を理由に、強気に出る大貴族達が幅を利かせており、王家も頭を抱えている。

どうしても一つになり切れない原因の一つが、一妃と呼ばれる実質の第一王妃とその実家。王妃は侯爵令嬢であった頃より、人間性にも大いに問題のある女だった。その人を育てた家も欲深い大貴族。

そんな女によって、実は第二王子である子どもを第一王子と勝手に公表して育てられた王子がまともに育つわけがなかった。

「いやだ! ぼくがほしいといったんだから、よういするのがあたりまえだろ!!」
「いや……ですが……ドラゴンの卵など……」
「たまごじゃない!! ぼくはドラゴンがほしいんだ! ぼくはもっともこうきなそんざいなんだぞ! うまになんてのらない! ドラゴンにのるんだ!」
「「「……」」」

ドラゴンに乗って、魔王を倒しに行く勇者のお話がお気に入りな王子は、こうしてかれこれ二ヶ月ほど同じことを言っている。

癇癪は日に日に酷くなり、部屋には花瓶や重い調度品が無くなっている。今ひっくり返された机と椅子も、この後撤去が決まった。

ようやくひと月前に、母親とは面会謝絶となり、少し楽になったが、周りの者達は日々やつれていっている。

この中で、唯一意見を言えるのは、年配の護衛騎士だった。

「殿下……ドラゴンは気性が荒いのはもちろん、自らが主と決めたものにしか従わないと聞きます。何より、ドラゴンが実際に確認されたのは、もう何百年も前のことです」

この護衛騎士は、元王国騎士団長。その実力はこの国一と言われたほどの傑物だ。先代の王が退位する時に、共に現役を退いたのだが、その先代が亡くなる時に『息子を支えてやってほしい』と願われたことで、王宮に戻り、自ら進んで厄介者の世話を買って出たのだ。

王子とは孫と祖父ほどに年齢が離れており、護衛騎士としてはかなり異色だ。しかし、この王子に必要なのは、正しく護衛騎士ではなく、教育係だろう。だから、その役割を担うつもりでここにいた。

「うそだ! このまえみたぞ!! ドラゴンにのってきたやつ!」
「あれは飛竜です。神の遣いであり、戦いには向かない温厚な性格で、教会が認めた飛竜乗りか、聖人や聖女にのみ許されたものです」
「ならぼくをみとめさせろ!! アレをもらってやる!」

偉そうにするいわゆる肥満児。胸を張れば、腹が見えそうだ。いつだって、お菓子や好物だけをねだり、食べるまで暴れるのだから、周りももう食べさせれば良いと思っている。体に悪いなんて言っても聞かない。一応は一言告げるのだが、確認作業だ。『我々は言いましたから』と後で言えるようにしているだけだった。これにより立派なまん丸ちゃんが出来上がった。

しかし、周りが非難するのはその見た目ではなく、中身だ。

「……殿下……教会が認めるのは、人格、品性に優れた者であり、神が飛竜の主人として相応しいと認めた人物です。間違っても神の遣いである飛竜を『もらってやる』などと言う者は認められません」
「っ!! そんなはずない! ぼくはおうじだぞ! もっともとおといそんざいなんだ!」

嫌だと思ったことは、全部否定してやらない。そんな訳で、勉強などほぼしていない。これにより、まだまだ言葉が拙く、世間を知らないバカ王子の出来上がりだ。

王達も、意図してそれを良しとしたという所もある。あの女の子どもが賢くては面倒だ。中途半端に知識を付けても利用されるだけ。ならば、バカなままで良い。

「この国で、最も尊いのは王です。そのように仰ったのは、お母上殿でしょうか?」
「そうだ! ははうえがいうことはただしいんだ!」

こうして、問題の王妃の隙を作ってくれるのは有り難いが、どうにも王子として認めたくないものだ。

「そうですか……お前達、王子はこれより謹慎なさる。絶対に外に出すな。そして、母親はここに来た時点で牢に入れる。これは王の決定である!」
「「「「「はっ!」」」」」
「ろう……? おい!」
「殿下。あと三日で十歳となられますね」
「そうだ! だから、たんじょうびプレゼントにっ」
「きっと良いプレゼントを王からいただけることでしょう。いえ、お母上からでしょうか……では、三日後にお目にかかります」
「まて! なんでっ! きけ!!」

使用人達も全員、部屋から出る。完全に閉じ込めることは決定した。

「食事は昼食の一度だけ。暴れようとしたなら押さえつけて良い。それ以外手を貸さないように」
「「「「「承知いたしました」」」」」
「陛下は、血縁判定の後、結果がどうであっても、一度幽閉塔に入れるとのことだ。そこで更生を促す。一年で結果がでなければ処分もあり得る。それとなく食事を持って行く時に伝えろ」
「「「「「はい!」」」」」
「よく今まで我慢してくれた。陛下のためにも、もう少しだけ頼む」
「「「「「はい!!」」」」」

わがまま王子に付き合うのももう数日。このように厳しく謹慎処分を下すことも初めてだった。

そして、王子が十歳になる誕生日。

教会に連れて行かれた王子の前には、はっきりとした王妃の罪が表示されていた。

「あ……え……? ちちうえのなまえじゃ……ない?」

『父親の名がはっきりとすれば、誰もあなたを王子であることに文句は付けられませんよ』と言われ、母親である王妃が邪魔する前にそれは発動された。

当然のように、父親の名は現王の名ではなく、甲高い悲鳴が教会内に響いた。どうやら、すぐにこれを行うとは思わなかったらしい。

「いやぁぁぁぁっ!! こんなの間違いよ!!」
「いいえ。これは神から与えられた証明書です。間違いはありません。書き換えることも不可能。こちらのお子様の父親は、陛下ではありません」

はっきりと王都教会の司教に言われ、王妃は顔を歪ませた。そして、王子は呆然とそれを読み上げる。

「え……じゃあ……ぼくはだれの……カズバーン……アトルブ……おとうさま?」
「アトルブ公爵を捕まえろ!!」

我先にと教会の外に駆け出した公爵を、騎士達が捕縛する。

そして、後ろで手を騎士に拘束された一妃であるアルマリア・クイストの前に、王が立った。

「へ、陛下……わ、わたし……っ」
「……元クイスト侯爵令嬢……お前を王族詐称罪で捕縛する。余罪は多くあろう……愚かなことをしたと悔いるのだな」
「っ、いやっ、いやよ! なんでっ! 誰がっ! 誰がこんなこと教えたのよ!! 許さない!! こんなの認めないわ!!」

騎士達に取り押さえられ、運び出されていく王妃。その折、大勢の貴族達の中にいる辺境伯夫妻を見つけた。

「あんたが! あんたが悪いのよ!! クソっ! 田舎貴族が!! よくもこんなことを広めたわねっ!!」

今や迷宮攻略によって有名になった辺境伯。この、血縁判定は、行方不明になった両親や兄弟達の安否を確認できるものだとして広めた。辺境だからこそ、それは有用な情報だと言って、自然に広まったことだ。それが、子の親を証明するものになると貴族達は正しく気付いた。

王がこれの利用価値に気づかないはずがない。どうにかして王妃であるアルマリアを排除したかった王は、国に広く十歳になったことを証明するためにという最もらしい理由をつけて、国民すべての慣習とすることにした。

これのおかげで、行方不明になっていた子ども達が正しく親の元に戻ってくることができたりと、この国だけでなく大陸全土に教会から広まっていった。

「何か問題があっただろうか?」
「お、お前っ!」

間にするりと入り込んだのは、三妃である辺境伯の妹のベルトリードだ。王妃としてのドレスでなく、こうした式典の時でも騎士のような格好をしている。

「真実が明らかになるのは、悪いことではないはずだ。大体、まずいことをしていたから、その証拠を消そうとここ数日、暗殺者を送り込んでいたのだろう? 自分の子を殺そうとするとは、母親とは呼べまい」
「「「「「なっ!」」」」」
「え……」

多くの貴族達が、アルマリアをはっきりと非難するような目で見る。壇上に残されていた王子は震えていた。

「は、ははうえ……うそですよね? ぼ、ぼくを……ころそうとした……?」

立っていられなくなった王子は、這って少しでも母親に近づこうと進み出す。しかし、そんな王子にアルマリアは忌々しそうな顔を向けた。

「当たり前でしょう!? お前みたいな出来損ないのせいで、私の幸せが壊されるなんて! 許せる訳ないじゃない!!」
「ひっ」

王子には、誰も駆け寄る者もない。ただ一人、壇上の上で座り込む。絶対の理解者だと思っていた母親にさえ見捨てられたのだ。ここでようやく、自分の置かれた状況に気付いた。いつもの護衛騎士達の名さえ、彼は知らなかったのだ。誰かを呼ぶこともできないもどかしさと寂しさに更に震えていく。

そんな王子を気の毒そうに見つめる司教。だが、彼の評判は、彼の耳にも届いていた。どのような立場にいるのか、理解するにはもう少しと思って、駆け寄りたいのを耐える。

そこに、呑気な声が響いた。

「おや。たったこれしきの事で捕らえられるような小物でしたか。なんとも呆気ないですね。本当にただの癇癪持ちでわがままなご令嬢でしかなかったとは」
「っ、なんですって!?」

そう言って出入り口に立つ小さな人物に向かって、その苛立ちをぶつけようと顔を上げたアルマリアは、すぐに頭を床に付けることになった。

「そのような醜い顔を、我が主に向けるなど万死に値しますよ」
「ぐうっ」

どこから現れたのか、一瞬で現れたその騎士によって、アルマリアは頭を押さえられていた。

「セルティ。ダメだよ? 一応は女性だからね。それに、今さっきまで王妃だった人だ。流血沙汰はいけないよ」
「失礼しました。ですが、生意気な目をしておりましたので」
「まあ、そうだね。上からしかものを見たことのない人の目だ。確かに不快だったかな」
「くっ……っ」

セルティは押さえつけたままだ。そんな彼らの横を、キリアルートはゆったりとした足取りで通り過ぎる。

その後ろに付き従うのは、上品な装いと仕草の侍女二人と、揃いの服を着た騎士数名。

「っ……君は……」

王がキリアルートを真っ直ぐに見る。しかし、それも通り越し、チラリと目を丸くして口元を両手で覆う実の母親を見てから壇上に上がっていく。

「もういいよ? 司教様。そろそろ手を差し伸べてやってください。耐えさせて申し訳なかった」
「っ、いいえ! そのような……すまなかったね。だが、君は今までの行いによって、味方となってくれる人たちが離れてしまったこと……理解できただろうか……」
「っ……ぼ、ぼく……わ、わるいこと……っ、き、きらわれてっ……っ」

自分の行いが悪かったということは、さすがに十歳にもなれば理解できていた。

「嫌われるような行いがあったと、自覚はあるんだね? そして今、君は絶対的な強者である王子としての立場を失った。全ての行いが許されていた理由がなくなったんだ。どうなるか分かるね?」
「あっ……ぼ、ぼくっ……っ」
「司教様。しばらく彼を預かってください。教え、導く必要がある子ですから」
「はい。もちろんでございます。しかし……」

そう言って目を向ける先にいるのは王だ。戸惑う様子を見せる王に、キリアルートはニヤリと笑った。

「心配いりません。彼には、貸しがあります。それも特大のね。どのみち幽閉するなら、場所がここでも良いはずですし、頷かせますよ」
「それは……承知しました。確かにお預かりいたします」
「うん。頼みます」

司教は一礼し、王子の手を引いて奥に消えていった。壇上に残ったのは、キリアルートだけだ。

「さて。少しだけお話ししましょうか」
「「「「「っ……」」」」」

誰もが、キリアルートの雰囲気に呑まれていた。






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読んでくださりありがとうございます◎




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