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第一章
012 っ、お通りください!
その見た目からも、年齢からも、出るはずがない他を這うような声。それに門番達は気のせいだと思い、ユウリとビルスはギョッとしながらキリアルートを見下ろした。
「っ……坊ちゃま……?」
「っ……でんっ……い、いえ、私が確認します! お待ちください」
ビルスはフードの下からギロリと門番達に向けられているキリアルートの目を見て、更には、後ろからあり得ないくらいの殺気を放つセルティに怯えながら前に出た。自分がしっかりしなくてはと思ったようだ。
「その……なぜ、外出が出来ない? 特に申し送りもないはずだが」
ビルスにとっては同僚だ。そして、特別にキリアルートを外出させるなという申し送りは来ていないことを知っていた。
「ビルス……当然だろ? 領主様の愛妾の子を、町の人たちに見せてどうするんだっ」
「そうそう。隠すべきだろ? ほら、愛妾の子はその辺にあるような灰色の髪なのに、高貴な青い瞳の子だと言われている」
「あ、まあ……そうだが……」
「いくらフードを今は被っていても、子どもだぞ。フードを絶対に取るなと言って、聞くか?」
「……いや、だが……」
「今は噂だけだが、見られて本当にその色だって分かれば……」
「……」
ビルスは説得できる言葉が見つけられずにいた。
そこで、キリアルートが前に出る。
「なるほど。この色がまずいのですね?」
「「……は?」」
門番達が、振り向いた。そこで、フードを取り、キリアルートは右手の小指に嵌められている禍物に意識を集中する。すると、光が集まっていく。
《殿下? なにを?》
「ん? ああ。この呪われモノ……いや、この世界では禍物だったね。これは完全に浄化されていないから、本来持つ機能が正しく使えるようになっていないんだ。だから、完全に使えるようにしようと思ってね」
「坊ちゃま? それは、禍物なのですか?」
「うん。そうみたい。待って、もうすぐできる」
キュインと言う音が指輪から発せられ、光が弾けた。シルバーの輝きが、先ほどとは全く違うように見えた。
「できた。さてと。灰色の髪と青い瞳がダメなら……無難な黒にしてしまいましょうか」
「「「え?」」」
ユウリだけでなく、門番達もなんのことかと声を上げるが、そのままにしてキリアルートは指輪の本来の力を引き出す。指輪から魔法陣が現れ、それがキリアルートの頭上に移動する。
しかし、その力を発揮するには、元の色に一瞬戻る必要があったようだ。下にも魔法陣が現れたかと思えば、それが上にスルッと抜けていき、頭上の魔法陣と合わさると本来の色に戻っていた。
「え……」
「なっ……」
門番達は見てしまった。王家の血筋にしか出ない薄い紫がかった桃色の髪と、貴族家に多く見られる青い瞳よりも濃い藍の瞳の色。だが、それは瞬き一つで変わり、見間違いであったのではないかと思うくらいの一瞬。すぐに魔法陣が降りてきて、色を黒に変えたのだ。
「どうです? ユウリ。黒になりましたか?」
「え、ええ。とても綺麗な黒ですわ」
ユウリも本来の色を知ってしまったが、賢く口を噤んだ。
「えへへ。これでユウリとまた一緒だね!」
「あらっ。まあ、そうですわね」
灰色の髪はこの辺りには多く、次に多いのが黒髪。瞳の色はほとんどが黒だ。ビルスの髪は灰色だが、ユウリは黒と言ってもいいほどの色だった。使用人達にも、黒髪の者は多かったので、選択は間違っていない。
「さてと。これであなた方が仰っていた問題は解決です。開けてください」
「っ、あ、で、ですが……っ」
「あれ? あなた方はこのような幼児を虐待する者が居る所に、外に出たいと思う子どもを閉じ込めるような非道な人間なのですか?」
「「っ、お通りください!」」
「ありがとう。あなた方が酷い方でなくて良かった」
「「は、はい!」」
門番達は慌てて門を開け、直立で見送ってくれた。自分たちは大きな思い違いをしているのではないかと思ったのだ。そして、王家が関わることを口にするべきではないと、二人は判断した。
「ほら、ユウリ行きましょう。コレを浄化するのに力を使ったので、少し小腹が空きました。お金を作ったらオヤツをしましょう」
「オヤツですか? まだ昼前ですよ?」
「知らないんですか? オヤツの時間は一日に二回あっていいんですよ」
「まあっ」
キリアルートはユウリの手を引きながら駆け足になっていく。
「ふふっ。十時のオヤツは朝の一仕事を終えたら取るものですからね。さあ、早く! オヤツです!」
「坊ちゃまっ、走ってはいけませんよ」
キリアルートは振り向いて指摘する。
「ユウリ、ここからはキリアか、キリって呼び捨てにしないと。母親なんですから」
「はっ。わ、わかりました。キリっ……さま……」
「ダメですって! ほら、母さんもう一回」
「うっ、キリ……?」
「はい! さあ、行きますよ! 母さん」
「ああ、待ってくださいっ」
領主の城は、民家からは離れた場所にある。辺境というだけあり、辺鄙な場所だ。土地は有り余っている。しかし、その土地がある分、農地として使えるかといえば、そうでもないらしい。
町までの一本道を歩きながら、農地として使われて居るところを見る。
気になって屈み込んで土を触ってみた。
「う~ん。これは……土がよくありませんね……それと……ユウリ、近くに遺跡……いえ、迷宮がありますか?」
「え? 迷宮ですか? いいえ。聞いたことがありません。ここから一番近い迷宮は、お隣の伯爵領に一つあったかと」
「隣……でも、この感じは近いと思うんですけど……範囲としては……あの壁の外くらいの……」
「坊ちゃま?」
魔獣や魔物を町に入れないための高い壁。その向こうには、開墾されていない森や草原が広がっているはず。
「この正面だと、位置的には昨日いた森の奥?」
これに答えたのはビルスだ。
「はい。昨日の場所は、森の入り口の辺りです。場所はあの西門から出た所ですので」
領主城があるのが北側。南と北、縦に長く長方形にこの領都は囲まれている。大体、北側三分の一が農地と空き地、そして領主城がある。その西側に沿うようにして未開の土地の境界線があり、森が広がっていた。
「あまり普段から人は入らない?」
「傭兵達が日銭を稼ぐために森に入りますが、どこまで入っているかは……わかりかねます」
「ふうん。なら、その確認もしたいな。冒険者はいないのですか?」
「ぼうけんしゃ……冒険家ならば聞いたことはありますが……」
「あ~、なるほど。日銭を稼ぐと言いましたし、きっとその傭兵がそうかもしれませんね。なら、その傭兵が居る所にも案内してください」
「……わかりました」
そして、まずやって来たのは、商業ギルドだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「っ……坊ちゃま……?」
「っ……でんっ……い、いえ、私が確認します! お待ちください」
ビルスはフードの下からギロリと門番達に向けられているキリアルートの目を見て、更には、後ろからあり得ないくらいの殺気を放つセルティに怯えながら前に出た。自分がしっかりしなくてはと思ったようだ。
「その……なぜ、外出が出来ない? 特に申し送りもないはずだが」
ビルスにとっては同僚だ。そして、特別にキリアルートを外出させるなという申し送りは来ていないことを知っていた。
「ビルス……当然だろ? 領主様の愛妾の子を、町の人たちに見せてどうするんだっ」
「そうそう。隠すべきだろ? ほら、愛妾の子はその辺にあるような灰色の髪なのに、高貴な青い瞳の子だと言われている」
「あ、まあ……そうだが……」
「いくらフードを今は被っていても、子どもだぞ。フードを絶対に取るなと言って、聞くか?」
「……いや、だが……」
「今は噂だけだが、見られて本当にその色だって分かれば……」
「……」
ビルスは説得できる言葉が見つけられずにいた。
そこで、キリアルートが前に出る。
「なるほど。この色がまずいのですね?」
「「……は?」」
門番達が、振り向いた。そこで、フードを取り、キリアルートは右手の小指に嵌められている禍物に意識を集中する。すると、光が集まっていく。
《殿下? なにを?》
「ん? ああ。この呪われモノ……いや、この世界では禍物だったね。これは完全に浄化されていないから、本来持つ機能が正しく使えるようになっていないんだ。だから、完全に使えるようにしようと思ってね」
「坊ちゃま? それは、禍物なのですか?」
「うん。そうみたい。待って、もうすぐできる」
キュインと言う音が指輪から発せられ、光が弾けた。シルバーの輝きが、先ほどとは全く違うように見えた。
「できた。さてと。灰色の髪と青い瞳がダメなら……無難な黒にしてしまいましょうか」
「「「え?」」」
ユウリだけでなく、門番達もなんのことかと声を上げるが、そのままにしてキリアルートは指輪の本来の力を引き出す。指輪から魔法陣が現れ、それがキリアルートの頭上に移動する。
しかし、その力を発揮するには、元の色に一瞬戻る必要があったようだ。下にも魔法陣が現れたかと思えば、それが上にスルッと抜けていき、頭上の魔法陣と合わさると本来の色に戻っていた。
「え……」
「なっ……」
門番達は見てしまった。王家の血筋にしか出ない薄い紫がかった桃色の髪と、貴族家に多く見られる青い瞳よりも濃い藍の瞳の色。だが、それは瞬き一つで変わり、見間違いであったのではないかと思うくらいの一瞬。すぐに魔法陣が降りてきて、色を黒に変えたのだ。
「どうです? ユウリ。黒になりましたか?」
「え、ええ。とても綺麗な黒ですわ」
ユウリも本来の色を知ってしまったが、賢く口を噤んだ。
「えへへ。これでユウリとまた一緒だね!」
「あらっ。まあ、そうですわね」
灰色の髪はこの辺りには多く、次に多いのが黒髪。瞳の色はほとんどが黒だ。ビルスの髪は灰色だが、ユウリは黒と言ってもいいほどの色だった。使用人達にも、黒髪の者は多かったので、選択は間違っていない。
「さてと。これであなた方が仰っていた問題は解決です。開けてください」
「っ、あ、で、ですが……っ」
「あれ? あなた方はこのような幼児を虐待する者が居る所に、外に出たいと思う子どもを閉じ込めるような非道な人間なのですか?」
「「っ、お通りください!」」
「ありがとう。あなた方が酷い方でなくて良かった」
「「は、はい!」」
門番達は慌てて門を開け、直立で見送ってくれた。自分たちは大きな思い違いをしているのではないかと思ったのだ。そして、王家が関わることを口にするべきではないと、二人は判断した。
「ほら、ユウリ行きましょう。コレを浄化するのに力を使ったので、少し小腹が空きました。お金を作ったらオヤツをしましょう」
「オヤツですか? まだ昼前ですよ?」
「知らないんですか? オヤツの時間は一日に二回あっていいんですよ」
「まあっ」
キリアルートはユウリの手を引きながら駆け足になっていく。
「ふふっ。十時のオヤツは朝の一仕事を終えたら取るものですからね。さあ、早く! オヤツです!」
「坊ちゃまっ、走ってはいけませんよ」
キリアルートは振り向いて指摘する。
「ユウリ、ここからはキリアか、キリって呼び捨てにしないと。母親なんですから」
「はっ。わ、わかりました。キリっ……さま……」
「ダメですって! ほら、母さんもう一回」
「うっ、キリ……?」
「はい! さあ、行きますよ! 母さん」
「ああ、待ってくださいっ」
領主の城は、民家からは離れた場所にある。辺境というだけあり、辺鄙な場所だ。土地は有り余っている。しかし、その土地がある分、農地として使えるかといえば、そうでもないらしい。
町までの一本道を歩きながら、農地として使われて居るところを見る。
気になって屈み込んで土を触ってみた。
「う~ん。これは……土がよくありませんね……それと……ユウリ、近くに遺跡……いえ、迷宮がありますか?」
「え? 迷宮ですか? いいえ。聞いたことがありません。ここから一番近い迷宮は、お隣の伯爵領に一つあったかと」
「隣……でも、この感じは近いと思うんですけど……範囲としては……あの壁の外くらいの……」
「坊ちゃま?」
魔獣や魔物を町に入れないための高い壁。その向こうには、開墾されていない森や草原が広がっているはず。
「この正面だと、位置的には昨日いた森の奥?」
これに答えたのはビルスだ。
「はい。昨日の場所は、森の入り口の辺りです。場所はあの西門から出た所ですので」
領主城があるのが北側。南と北、縦に長く長方形にこの領都は囲まれている。大体、北側三分の一が農地と空き地、そして領主城がある。その西側に沿うようにして未開の土地の境界線があり、森が広がっていた。
「あまり普段から人は入らない?」
「傭兵達が日銭を稼ぐために森に入りますが、どこまで入っているかは……わかりかねます」
「ふうん。なら、その確認もしたいな。冒険者はいないのですか?」
「ぼうけんしゃ……冒険家ならば聞いたことはありますが……」
「あ~、なるほど。日銭を稼ぐと言いましたし、きっとその傭兵がそうかもしれませんね。なら、その傭兵が居る所にも案内してください」
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