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第二章 繰り返す過ち

028 熱い想いがあります

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父が昔読んでいた本。その文字は充花には分からない物で、父の書いた文字も何故かわからない物が大半だった。

充花には、字はキレイに書きなさいとか言うくせにと、そう母に話しても、母はそうねと笑うだけ。知らない外国の言葉と、父の読みにくい独特な文字。その時はそんな認識だった。

だが、中学生くらいになると、こんな事も疑問に思わなくなっていた。それだけ父への関心が薄れていたのだ。

今目の前にある本。そこには、昔見た父の癖のある文字。下の方に走り書きされている知らない国の言葉。それに確かに見覚えがあると気付く。

「お父さん……っ」

数十年振りに口にしたその言葉は、涙と共に静かに零れ落ちたのだった。

◆  ◆  ◆

トゥルーベルで一夜が明けた。理修は清々しい気持ちで朝を迎えていた。

「さぁてと。朝食でも作ろうかな」

そう言って外に一歩出ると、おもむろに森へ向けて魔術を放った。その手には光の糸が握られ、その先は森の奥へと続いている。

「よっと」

軽い掛け声と共に、釣りの要領で光の糸を引っ張ると、串刺しにされたウサギが釣れた。その場でまた新たに魔術を発動させると、刺し口から血が吸い出され、結晶化する。これで血抜きが完成だ。

「何にしようかなぁ」

魔術師として、最大限に魔術を活かす事のできる理修は、やはり天才だった。そして、その力を使ってなお、いつもと変わらない様子で朝食を作り始める。

出来上がると自分の分を残し、隣に建っている司のログハウスへ向かった。

「司。起きてる?」

奥深い森の中。それも討伐クエストの最中だと言うのに、この場所だけがまるで平穏な日常を切り取ったようだ。理修も、仲の良いお隣に、作り過ぎたおかずを届ける人にしか見えなかった。それはどうやら司も同じらしい。

「あぁ、わざわざ悪いな」
「気にしないで。食べ終わったお皿は後で取りにくるね」
「わかった」

さすがは勇者。この奇妙な状況にも動じない。テントではなく、れっきとした生活しやすい家である事も大きいだろう。

こうして各々、朝食と準備を済ませ、朝の光が森に射し込む頃、再び王都へ向けて出発したのだ。

◆  ◆  ◆

「渡して来たか?」
「はい。東様がいらしたのは、本当に幸運でしたわ。皆さん、驚いてはいらっしゃいましたけれど、あれにも素直に興味を示されて」

氷坂が社に帰ると、オルバルトが執務室の前で待ち構えていた。それだけ心配だったのだ。今まで何人もの異能者達が家族達と分かり合えずに別れている。

もしもの場合でも、理修ならば仕方がないとすぐに割り切り、トゥルーベルへと移住するだろう。だが、傷付かない訳ではないのだ。

「これで、リズちゃんが帰ってきた時にどうなっているかですね」
「あぁ、もし駄目だった場合は……結婚式での父親役は私だな」
「いいえ、ザサス様です。だいたい、現在ランキング五位の総帥では、候補にも上がりませんわ」
「待てっ。ならば、ザサス殿以外の候補は一体誰だっ!?」
「やっぱり気になるのですね……」

生まれた時から理修を知っているオルバルトは、その時から変わらず理修を本当の娘のように思っている。

「子どもどころか、恋人も作ったことのない堅物が……本気で愛してますものね……」

その時、思わぬ所から声が響いた。

「ふふふ。教えてやろうか?」
「っ……っナキ様!?」
「……ナキ、何してる……」
「ナニとは失礼な。お主がソワソワとしておるのが気になって、ちょっと覗きに来ただけじゃぞ?」

そう言って突然現れたナキは、床から上半身を生やし、片肘をついてニヤニヤと笑っていた。

「階段を使えと言っているだろう」
「老人を労わらんか」
「そう年齢は変わらんだろうが。相変わらずそんな幼子の姿で無駄に老人ぶりおって……階段が嫌なら、エレベーターがあるだろうが」
「ふんっ、アレの音が嫌いじゃ。何よりあんな物を使わんでも、こうして上り下り可能じゃし」

その見た目通り子どものようにはしゃぎながら、ナキは床から抜けてフワリと上へ行き、天井を抜けてまた頭から下へと飛び回る。

「やめんかっ。それよりも早く言え」
「うむ……お主は相変わらず面白味がないのぉ。そんなだから、ウザいとか思われるのじゃ。まぁよいわ。ではゆくぞっ。『今週の父親ランキングっ』」
「っな、なんだ!?」
「館内放送ですね。さすがですわ」

ナキは、完全にこのタイミングを狙っていた。この『父親ランキング』がついに総帥公認になる。知らなかったのは最早オルバルトだけだったのだ。すでに当事者である理修も知って黙認している。その証拠に、館内の至る所から歓声が上がっていた。

「『第一位。ギルドマスター、ザサス・シールスっ』」

もう不動の存在だ。皆納得している為、静かなものだ。

「『次に第二位。魔術師長、カルファ・ザナートっ』」

マジかよっなんて声が聞こえてくる。二位は毎週全く違う顔ぶれになるので難しい。

「『そして第三位。異界担当課長、御影真っ』」

シンだと!?とオルバルトが叫ぶ。それはしかたがない事で、真は今年三十五と若いのだ。だが、理修が所属する部署の頭。信頼度は高い。

「『第四位っ。竜王、マジェスタぁぁぁっ』」

これには社全体が震える程、多くの者が驚きの声を上げた。

「な、な……っ」

オルバルトも、絶賛動揺中だった。

「まさかのダークホースっ」

氷坂も言葉が出ない程驚き、予想が大外れした事に悔しがる。

「『第五位っ。総帥、オルバルト・ミラン・アシュフォードっ……』」

その後も十位までの発表がされ、それではなと言ってナキが床に消えていくまで、オルバルトは口をぽかんと開けて固まっていた。

「総帥?」
「っわ、私は……ドラゴンに負けたのか……?」
「そうなりますわね」
「……ドラゴンだぞ?」
「はい。そうおっしゃる総帥は龍神でしょう……あまり変わりませんわ」
「ッドラゴンだぞ!?あんなものただの大きな羽の生えたトカゲではないかっ!」

そう言うあなたは『大きなヘビでは?』と言いそうになるのを、氷坂は何とか堪える。

「負けんぞっ。リズと腕を組むのは私だっ!!」

そう叫ぶと、オルバルトは執務室へと籠ってしまった。

「だから、ザサス様ですって……」

氷坂は、呆れながら資料庫へ向かうべく執務室から離れる。もう少しすれば、オルバルトの頭も冷えるだろう。

「リズちゃんは、今頃何をしているかしらね……」

同時に、理修がもし先程のオルバルトの姿を見たらどんな反応をするだろうなんて思うのだ。

「リズちゃん。安心して帰っていらっしゃい」

こっちにも沢山の、理修を想う者達がいるのだから。

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読んでくださりありがとうございます◎
2019. 8. 3
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