異世界『魔術師』の孫〜婚約者のためなら国一つ消しても良いと思ってます(本音)〜

紫南

文字の大きさ
79 / 80
第七章 思い描いた未来

079 やがて伝説となる物語

しおりを挟む
拓海と明良が帰り、落ち着いたウィルバートは、今日中に終わらせなくてはならない執務を処理すると、真っ直ぐに再び図書室へと向かった。

「リズ。根の詰め過ぎは良くない」

日も落ち、明かりが灯された図書室の中。未だ理修は多くの本を机に広げ、研究に没頭していた。

「あ、もう夜?」
「そうだな。気付かなかったのか?」
「ええ。そういえば、お腹が空いたかも……」
「……理修……昼食は摂ったか?」
「う~ん……今はもう夜なのよね?」
「……食べていないんだな……」
「夜になってしまったのなら、そうなるわね」
「……」

理修自身、集中していたので全く気にならなかったのだ。そういえば、喉も渇いたなと今になって自覚している。

ウィルバートの呆れ顔を見て、さすがに理修も気まずく思い、素直に謝る。

「……ごめんなさい……気を付けるわ……」
「あぁ、私も気付かなかったのが悪い。こうなると予想は出来たはずだからな」
「……」

理修が研究に没頭する傾向があるのは、ウィルバートも理解していたのだ。

「これから守護の魔女となるのだろう?無理は禁物だ」
「そうね……でも、あちらにばかり気を向けるつもりはないわ」

理修はこの国の王妃であり、夫であるウィルバートを支えるのが本当の役目だと自負している。

ウィルバートにもそれは充分すぎるほど分かっていた。

「勿論だ。私の隣に居てくれなくては困る」
「ふふっ、もう少しわがままになってくれると嬉しいんだけど?」

ウィルバートはあまり自分の為の願いや言葉を口にしない。それが、理修には少し心配だった。だから、少し冗談のように笑みを見せたのだ。

「そ、そうだな……っ」

動揺し、目を逸らす。頬を恥ずかしそうに赤らめた珍しい表情を見せるウィルバート。

出会った頃は表情が乏しく、声音さえ常に変わらなかった。だが、理修と出会い、しだいに優しさや苛立ちを見せるようになり、笑顔を見せるようになった。

それでも、まだまだ今浮かべている理修が嬉しくなるような表情は、他の人の前では見せない。

「ウィル」
「っ……」

早く言ってくれと、そう急かして名前を呼んだ。

「っ……わ、私の事もちゃんと想ってくれ……っ」

ウィルバートは気恥ずかしそうにそう言って、それでも最後は理修の顔を真っ直ぐに見た。

その瞳から、これが本心なのだと伝わる。

理修は嬉しくなって、ウィルバートの胸に飛び込んだ。

「勿論。ずっと、いつだって想ってるわ」
「リズ……っ、私もだ……」

この先、どんな事があっても、この想いは変わらないだろう。そして、何十年、何百年だって傍に居続ける。

これは確信だ。

世界を見て来た理修には、絶対などないと分かっている。

けれどこれだけは言えるのだ。それは決して盲目的なものではなく、確約された世界の決定事項。

未知数な可能性を秘めた未来ではない。

「傍にいるわ」
「あぁ。隣にいてくれ」

それは誓い。

これから長く、永く続くこの国の王と王妃の永遠に忘れる事のない誓約。

この先、国がどんな危機的状況に立たされたとしても、理修はウィルバートを支え、守り抜く事になる。

『伝説の魔術師の孫』

そう囁かれていたものはやがてこう変化していく。

『最強の魔女王』

最も強く、美しく、魔王を愛し、愛された最強の魔女。

その伝説は、いつしか祖父であったリュートリールと並び、多くの者達が知る物語となる。

それは永遠に語り継がれていく事になるのだ。


◆◇おわり◇◆

**********
読んでくださりありがとうございます◎
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない

金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ! 小説家になろうにも書いてます。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

処理中です...