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第七章 思い描いた未来
079 やがて伝説となる物語
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拓海と明良が帰り、落ち着いたウィルバートは、今日中に終わらせなくてはならない執務を処理すると、真っ直ぐに再び図書室へと向かった。
「リズ。根の詰め過ぎは良くない」
日も落ち、明かりが灯された図書室の中。未だ理修は多くの本を机に広げ、研究に没頭していた。
「あ、もう夜?」
「そうだな。気付かなかったのか?」
「ええ。そういえば、お腹が空いたかも……」
「……理修……昼食は摂ったか?」
「う~ん……今はもう夜なのよね?」
「……食べていないんだな……」
「夜になってしまったのなら、そうなるわね」
「……」
理修自身、集中していたので全く気にならなかったのだ。そういえば、喉も渇いたなと今になって自覚している。
ウィルバートの呆れ顔を見て、さすがに理修も気まずく思い、素直に謝る。
「……ごめんなさい……気を付けるわ……」
「あぁ、私も気付かなかったのが悪い。こうなると予想は出来たはずだからな」
「……」
理修が研究に没頭する傾向があるのは、ウィルバートも理解していたのだ。
「これから守護の魔女となるのだろう?無理は禁物だ」
「そうね……でも、あちらにばかり気を向けるつもりはないわ」
理修はこの国の王妃であり、夫であるウィルバートを支えるのが本当の役目だと自負している。
ウィルバートにもそれは充分すぎるほど分かっていた。
「勿論だ。私の隣に居てくれなくては困る」
「ふふっ、もう少しわがままになってくれると嬉しいんだけど?」
ウィルバートはあまり自分の為の願いや言葉を口にしない。それが、理修には少し心配だった。だから、少し冗談のように笑みを見せたのだ。
「そ、そうだな……っ」
動揺し、目を逸らす。頬を恥ずかしそうに赤らめた珍しい表情を見せるウィルバート。
出会った頃は表情が乏しく、声音さえ常に変わらなかった。だが、理修と出会い、しだいに優しさや苛立ちを見せるようになり、笑顔を見せるようになった。
それでも、まだまだ今浮かべている理修が嬉しくなるような表情は、他の人の前では見せない。
「ウィル」
「っ……」
早く言ってくれと、そう急かして名前を呼んだ。
「っ……わ、私の事もちゃんと想ってくれ……っ」
ウィルバートは気恥ずかしそうにそう言って、それでも最後は理修の顔を真っ直ぐに見た。
その瞳から、これが本心なのだと伝わる。
理修は嬉しくなって、ウィルバートの胸に飛び込んだ。
「勿論。ずっと、いつだって想ってるわ」
「リズ……っ、私もだ……」
この先、どんな事があっても、この想いは変わらないだろう。そして、何十年、何百年だって傍に居続ける。
これは確信だ。
世界を見て来た理修には、絶対などないと分かっている。
けれどこれだけは言えるのだ。それは決して盲目的なものではなく、確約された世界の決定事項。
未知数な可能性を秘めた未来ではない。
「傍にいるわ」
「あぁ。隣にいてくれ」
それは誓い。
これから長く、永く続くこの国の王と王妃の永遠に忘れる事のない誓約。
この先、国がどんな危機的状況に立たされたとしても、理修はウィルバートを支え、守り抜く事になる。
『伝説の魔術師の孫』
そう囁かれていたものはやがてこう変化していく。
『最強の魔女王』
最も強く、美しく、魔王を愛し、愛された最強の魔女。
その伝説は、いつしか祖父であったリュートリールと並び、多くの者達が知る物語となる。
それは永遠に語り継がれていく事になるのだ。
◆◇おわり◇◆
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「リズ。根の詰め過ぎは良くない」
日も落ち、明かりが灯された図書室の中。未だ理修は多くの本を机に広げ、研究に没頭していた。
「あ、もう夜?」
「そうだな。気付かなかったのか?」
「ええ。そういえば、お腹が空いたかも……」
「……理修……昼食は摂ったか?」
「う~ん……今はもう夜なのよね?」
「……食べていないんだな……」
「夜になってしまったのなら、そうなるわね」
「……」
理修自身、集中していたので全く気にならなかったのだ。そういえば、喉も渇いたなと今になって自覚している。
ウィルバートの呆れ顔を見て、さすがに理修も気まずく思い、素直に謝る。
「……ごめんなさい……気を付けるわ……」
「あぁ、私も気付かなかったのが悪い。こうなると予想は出来たはずだからな」
「……」
理修が研究に没頭する傾向があるのは、ウィルバートも理解していたのだ。
「これから守護の魔女となるのだろう?無理は禁物だ」
「そうね……でも、あちらにばかり気を向けるつもりはないわ」
理修はこの国の王妃であり、夫であるウィルバートを支えるのが本当の役目だと自負している。
ウィルバートにもそれは充分すぎるほど分かっていた。
「勿論だ。私の隣に居てくれなくては困る」
「ふふっ、もう少しわがままになってくれると嬉しいんだけど?」
ウィルバートはあまり自分の為の願いや言葉を口にしない。それが、理修には少し心配だった。だから、少し冗談のように笑みを見せたのだ。
「そ、そうだな……っ」
動揺し、目を逸らす。頬を恥ずかしそうに赤らめた珍しい表情を見せるウィルバート。
出会った頃は表情が乏しく、声音さえ常に変わらなかった。だが、理修と出会い、しだいに優しさや苛立ちを見せるようになり、笑顔を見せるようになった。
それでも、まだまだ今浮かべている理修が嬉しくなるような表情は、他の人の前では見せない。
「ウィル」
「っ……」
早く言ってくれと、そう急かして名前を呼んだ。
「っ……わ、私の事もちゃんと想ってくれ……っ」
ウィルバートは気恥ずかしそうにそう言って、それでも最後は理修の顔を真っ直ぐに見た。
その瞳から、これが本心なのだと伝わる。
理修は嬉しくなって、ウィルバートの胸に飛び込んだ。
「勿論。ずっと、いつだって想ってるわ」
「リズ……っ、私もだ……」
この先、どんな事があっても、この想いは変わらないだろう。そして、何十年、何百年だって傍に居続ける。
これは確信だ。
世界を見て来た理修には、絶対などないと分かっている。
けれどこれだけは言えるのだ。それは決して盲目的なものではなく、確約された世界の決定事項。
未知数な可能性を秘めた未来ではない。
「傍にいるわ」
「あぁ。隣にいてくれ」
それは誓い。
これから長く、永く続くこの国の王と王妃の永遠に忘れる事のない誓約。
この先、国がどんな危機的状況に立たされたとしても、理修はウィルバートを支え、守り抜く事になる。
『伝説の魔術師の孫』
そう囁かれていたものはやがてこう変化していく。
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最も強く、美しく、魔王を愛し、愛された最強の魔女。
その伝説は、いつしか祖父であったリュートリールと並び、多くの者達が知る物語となる。
それは永遠に語り継がれていく事になるのだ。
◆◇おわり◇◆
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