エセ関西人(笑)ってなんやねん!? 〜転生した辺境伯令嬢は親友のドラゴンと面白おかしく暮らします〜

紫南

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16th ステージ

176 毒やないで?

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突如として体育館に放り出された生徒達は、戸惑っていた。

「え……ここ、講堂……体育館?」
「どうなったんだ……?」
「なんでここに……私たち、なんか竜巻みたいなのに巻き込まれて……」

あまりの衝撃に、彼らはリンディエールのことを咄嗟とっさに思い出せなかった。貴族の令息や令嬢達なのだ。乱暴に放り投げられるなどという経験もないし、まさか暴風に巻き上げられるなどということも考えたことさえなかった。記憶が曖昧あいまいになっても仕方がない。

「……一年が全員……」
「隣のクラスの……」

無造作に放り投げられたので、クラスでまとまっているということもなく、隣のクラスの子が傍に居るということもあった。

未だに状況が把握出来ない中、舞台の上から声が響いた。

「そろそろ話をしてもいいかしら?」
「「「「「っ!?」」」」」

全員が、座り込んだりしながら、舞台の手前の所に腰掛けて、足を揺らす美少女へと目を向けた。

「改めて」

美少女、リンディエールは、一度舞台から降りると周りを見回して、舞台への階段を上る。きちんと自分に視線が集まっていることを確認しながら、ゆっくりと移動し、舞台の上、集会の時には、演説台が置かれる中央へと立った。今は舞台の上には何もない。

「みなさん、はじめまして」

微笑みを浮かべ、リンディエールはスカートを摘む。

「デリエスタ辺境伯第二子。リンディエール・デリエスタと申します。以後お見知り置きを」
「「「「「……っ」」」」」

美しくカーテシーを決めたリンディエールは、微笑みを見せて、生徒達を見下ろす。

「本日は、わたくしが特別授業を行います。今から言う通りに動いてください。では、一組の出席番号一番から三番の方。舞台の前に……ああ、分かりやすくしますね」

そう言って、リンディエールは、魔力で空中に『一組』、『二組』、『三組』と舞台の前に、横に並べる。

「それぞれの組の1から3番の方。数字の下に並んでください」
「「「「「っ???」」」」」
「どうしました? 聞こえませんか?」
「「「「「っ……」」」」」

意味が分からない様子で、浮かんでいる光る数字と文字を見上げる。

「間抜けに開けた口に、苦い飴玉放り込んでやろか?」
「「「「「……っ!?」」」」」

どこからそんな言葉が聞こえたのかと低いその声の主を探すように、全生徒がキョロキョロと周りを見回す。まさか、舞台上の美少女がそんな声を、そんな事を言うとは思えないらしい。

「うちは、言ったことはやるで? それ、やるぞ~」
「「「「「……は? え……っ!?」」」」」

リンディエールの正確な魔力操作によって、小さめの飴が生徒達の口の中に放り込まれる。

「うっ!!」
「ぐっ!!」
「あうっ!!」
「んんっ!!」

あまりの苦さに体をよじる者も多かった。

「仮にも貴族の令息、令嬢やなあ。こんな場所で口から吐き出そうとは思えんよなあ」
「「「「「っ!!」」」」」

口に含んだ物を、人が沢山居る場所で吐き出すというのは、彼らにとってハードルが高い。

「ああ。毒やないで? 滋養のある良い薬や。ほんで、もう溶けたやろ? これで、ちょっとの怪我や疲れも癒えて魔力満タンになったはずや」
「っ……アザが消えてる……」
「あ……」
「眠気が……」
「頭痛が……」

所々で、そんな声が聞こえてきた。

「なんや……可哀想な子がおったんやね。まあ、それも今から選別や。ほな、さっさとやろか? ほれ、出席番号1から3番! また苦いの食わせんで?」
「「「っ!!」」」

もうこの時には、舞台の上の美少女が、リンディエールが喋っていると理解しだしていた。先ほどの苦いものは、毒ではないと聞いていても、二度と口にしたくないものだった。美味しいものしか知らない彼らには、かなりの衝撃だったのだろう。

素直に九人が並んだ。

「ほな。一組の一番から自己紹介してや。きちんと貴族としての礼もやるように」
「は、はいっ……クーリエ子爵の第一子、ハルク・クーリエです。お見知り置きください……」
「よろしい。後ろの青の椅子に座って待っていなさい」
「え、椅子……っ、はい!」

リンディエールは、子ども達がこちらに目を向けている間に、舞台とは反対側の後ろの方に青と赤の布の張られた長椅子を用意していた。

舞台から見て左側に青の長椅子が並んでおり、右側に赤の長椅子が並んでいた。

一人目が移動すると、一組の1が4に変わった。それを見て、4番の子どもが察して移動してくる。そこからは流れ作業だった。

赤と青に分かれた子ども達。今や大人しく、静かに座っていた。

「そのまま動かないように」

そう言って、リンディエールは、彼らの椅子を少し浮かせてそのまま舞台のすぐ前まで移動させた。

「「「「「っ!?」」」」」

驚く子ども達など気にせず、リンディエールは話を始めた。

「さてと……青と赤で分かれてもらいましたが、お互い顔を確認して、なぜそう分かれたのか考えてみてください」

リンディエールは、丁寧に落ち着いた声で話した。

「分かった方は、手を上げて」
「「「「「……」」」」」

リンディエールの方をチラチラと見ながらも、誰も分からないようだった。

「あなた方は、挨拶、礼をしただけです。それだけで分かるものがあります。きちんと立つことで、魔力の流れが安定します。次に、礼をすること。姿勢を正しく取ること。立ち方で筋肉のつき方を見ました。特に女性のカーテシーを美しく見せるには、体幹をしっかりとさせる必要があります」
「「「「「……っ」」」」」
「青の方に座っているのは、平均的な、最低限の筋力や魔力循環が上手くいっている者です。そして、赤の方は、その最低限の基準にも達していない者になります」
「「「「「っ……」」」」」

恥ずかしそうに俯く者が多かった。

「青に座っているからと安心しないでくださいね。あなた方も最低限の基準に達しただけです。まったく足りません。そして、見て分かるように、赤に振り分けられた方が大半です」
「「「「「っ……」」」」」

青に座っているのが五分の一程度の人数だったのだ。

「分かりますか? 教室で、自分勝手に暴れている暇など、あなた方にはありません。その辺にいる平民の子どもに半日教えただけでも、最低限の基準に達しますよ? それだけ低い最低限基準です。それで自分は貴族だと言うのなら、地面に埋めますよ?」
「っ、そ、それは横暴だ!」
「お、お前に何がわかる!」
「そうよ! 辺境の! 田舎貴族の子が、偉そうに! うちは伯爵家よ!」
「そうだ! 田舎ものが! 偉そうにするな!」

そこで、賛同する者が大半。それも、赤に座っている者達だ。青に座っていた者達はほぼ全員が真っ青になっている。

「田舎者ですか……なるほど。確かに、王都よりは建物も少ないです」
「ふんっ。王都と比べるなんて、バカじゃないの? これだから田舎者は」
「程度も分からないなんてなっ」

そこで、リンディエールはニコリと笑った。

「ふふっ。よく分かりました。テンプレをありがとう」
「は?」
「何言ってんの?」
「ええ。ですから、辺境とは田舎である。だから辺境伯も田舎者であるという考え。世間知らずの子どもにはありがちです」
「っ、世間知らずですって!?」
「違うと? あなた方には、爵位の話からしなくてはならないということですね? それさえも教えてもらっていない……いえ、頭に入っていないということでしょう? そのスカスカの頭に、きっちり刻み込んであげましょう」
「っ、ひっ」
「な、なに……っ」
「「きゃぁぁっ」」
「「「うわっ」」」

青い椅子に座る子ども達は、椅子ごと舞台に上げられ、赤い椅子は突如として消えていた。そして、そのまま床がベルトコンベアのように後ろへと動き出す。その向かう先には、泥の池が用意されていた。











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読んでくださりありがとうございます◎
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