190 / 243
ミッション12 舞台と遠征
508 指示をもらえるだろうか
少し落ち着いた頃。職員達が書類片手に戻ってきた。
「あ、あの……まだまとめられていないものも……あるのですが……」
「全部で良い。それと、そろそろ下に俺の兄達が来る。こっちに呼んでくれ」
「は、はい!」
イヤフィスで連絡して、セルジュとカリュエル、それと、ユゼリアを応援として呼んでいたのだ。
「お連れいたしました!」
ルイナがやってきた三人を案内してきた。
「お待たせ、フィルっ。何すれば良いの?」
「すごい事になっているねえ」
「これは……」
執務室は、職員達が常に書類を持って集まってくる。その集まった書類はドカドカと机に積み上げられていた。
「兄さんとカリュは、帳簿の確認を頼む。この二人に、計算を任せてくれ」
職員達にそう頼む。そして、大事な確認をする。
「兄さんもカリュもそろばん持ってるよな?」
「「持ってる」」
腰に付けているフィルズと同様の小さなカバンは、マジックバッグだ。その中に当然のようにそろばんが入っていた。
「帳簿の付け方、覚えてるか?」
「「もちろん!」」
「その要領で良い。頼む」
「「分かった」」
二人には、卒業後に親から学ぶ領地経営に関する実務を、フィルズが少しずつ教えていた。帳簿の付け方は、商会でもそう変わらない。簿記を教え込む気でいる。基礎はすでに教えたため、即戦力にできるだろう。
後で部外者がどうのと言われるかもしれないが、商業ギルドは実績がものを言う。地球産の帳簿の付け方を見れば、文句は出ないだろうとの計算の上だ。
「ユゼリアは、書類の仕分けを手伝ってくれ。この前、兄さん達と王宮で手伝っただろう? それと同じだ」
「わ、分かった」
貴族の粛清は粗方済んだとはいえ、不正の証拠書類や領主がいなくなった各領地の帳簿など整理する必要があった。領地の状態を確認しながらも、実務の方も目を通す必要がある。
馬車でそれらの書類を運び出すため、移動に時間もかかる。そうして遅れて各地から大量に城に運び込まれてくる書類を整理する者が必要になり、ファスター王とリゼンフィアから相談された。そこで、提案したのが、ついでに子ども達に実戦経験を積ませること。
これにより、ユゼリア達が手伝うことになったのだ。次代を担う者達だ。無関係ではないし、これも経験だと言う事になった。
学園の生徒で、できそうな者を選び、ブラーナやリサーナ、学年一位の成績優秀者達など、性別問わずに経験させた。大人達に指導されながら、ユゼリアもそれを手伝っていたのだ。だから、何をやるべきかは分かる。寧ろ、ユゼリアは勉強はそれほど得意ではないが、こうしたことは難なくやれていたため、自信もついていた。
「どこにどう集めるか指示をもらえるだろうか」
その指示が欲しいとフィルズを見るユゼリア。それを受けて、フィルズはハウトラに呼びかける。
「ギルド長! 良い加減正気に戻って、また教会に行くのか、ここで書類をまとめるのか決めろ!」
燃え尽きたような様子で呆然と座っていたハウトラは、ビクリと体を震わせた。
「っ、す、すぐに書類をまとめます! あ、ああ、そっちには帳簿類を集めて、こっちには取引の書類を。ここには、手紙類を!」
すぐにそれぞれやるべき事を確定し、作業に入る。フィルズは、手紙を確認していく。取引と関係あるものは、どの取引とのものかを特定して番号とメモを付ける。
セルジュとカリュエルの方も、最初は職員達が不安そうに張り付いて見ていたが、十分もすれば完全に任せようと判断が付いたらしく、二人の補佐に数人が付いているだけになった。
「ここ、やっぱり合わない」
「こっちも差額が結構出ている。どこに行った?」
「あっ、その数字! お待ちください。確か先ほど……っ」
「こちらの金額だと……予想されるのはコレとコレです。日付……っ、はない……ない? なら品物は……」
そうして関連の取り引きも見つかり、それにナンバーを振ってメモしていく。
フィルズも手紙関係をチェックしながら、問題がありそうなものは種類ごとで分けておく。その合間に、商品の売り込みも兼ねて職員達のサポートもしていた。
「気になるのは、この付箋を付けて置いておくといい」
「っ、これはっ、なるほど! 便利です!」
「あらかたまとまったら、このファイルに閉じてくれ」
「ふぁっ!? これは、束が崩れませんねっ。製本した本のように見れる! 助かります!」
さすがは商業ギルドの職員。用途を説明すれば、すぐに納得して使いこなす。まだまだ地方にはセイスフィア商会の商品は届かないようだ。
そんな忙しない執務室に、職員が申し訳なさそうにやって来て声をかける。
「あのっ。ギルド長! 問題のあった者達ですけど、衛兵に任せるのはよくないのですよね……?」
「そうだな……領主と繋がりが……」
ハウトラはすぐに手元の書類に目を落とす。繋がりが明らかなのだ。それも代理をしていた者は、親戚筋の者。すぐに解放されかねない。
「ですよね……今、衛兵は外にというか、追い出してるんですけど……どうすれば……ぎ、ギルド長を出せとか言ってますし……」
キラ達が、追い払ってくれているはずだが、不安にはなるだろう。少し意識を集中すれば建物の外から聞こえる怒鳴り声が分かる。
『証拠もなく拘束するなど、許されんぞっ!』
とても偉そうだ。
「ううっ。あの衛兵……副ギルド長と仲が良いから……っ」
「めちゃくちゃ繋がってんじゃん」
ここで、カリュエルが口を挟む。
「フィル。なんなら、私が対応しようか? というか、父上から一筆もらっていたりしないのかい?」
「何か問題があれば、一任するってやつ? 一応もらってるけど……ここでやるのは違くね?」
「「確かに」」
セルジュもカリュエルと共に納得の声を上げる。そこで、ユゼリアが遠慮がちに確認する。
「どのみち、牢屋にいれるんだよね? けど、ここにはないんだっけ? なら、教会に頼んではどうかな?」
「教会か……聖騎士に頼めれば……」
「そういえば、聖騎士には、領兵も私兵も手が出せないんだって、リュブランから聞いたことが……」
セルジュが思い出しながらそう告げる。
「ああ。犯罪者とはいえ、あそこは保護の形を取るしな。地下牢は一応あるらしいが……そうだな……教会に……」
頼もうと口にしようとした時。部屋にファリマスがやって来た。
「フィル。それ、私に任せな」
「へ?」
どこから聞いていたのか、ファリマスはニヤリと笑った。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「あ、あの……まだまとめられていないものも……あるのですが……」
「全部で良い。それと、そろそろ下に俺の兄達が来る。こっちに呼んでくれ」
「は、はい!」
イヤフィスで連絡して、セルジュとカリュエル、それと、ユゼリアを応援として呼んでいたのだ。
「お連れいたしました!」
ルイナがやってきた三人を案内してきた。
「お待たせ、フィルっ。何すれば良いの?」
「すごい事になっているねえ」
「これは……」
執務室は、職員達が常に書類を持って集まってくる。その集まった書類はドカドカと机に積み上げられていた。
「兄さんとカリュは、帳簿の確認を頼む。この二人に、計算を任せてくれ」
職員達にそう頼む。そして、大事な確認をする。
「兄さんもカリュもそろばん持ってるよな?」
「「持ってる」」
腰に付けているフィルズと同様の小さなカバンは、マジックバッグだ。その中に当然のようにそろばんが入っていた。
「帳簿の付け方、覚えてるか?」
「「もちろん!」」
「その要領で良い。頼む」
「「分かった」」
二人には、卒業後に親から学ぶ領地経営に関する実務を、フィルズが少しずつ教えていた。帳簿の付け方は、商会でもそう変わらない。簿記を教え込む気でいる。基礎はすでに教えたため、即戦力にできるだろう。
後で部外者がどうのと言われるかもしれないが、商業ギルドは実績がものを言う。地球産の帳簿の付け方を見れば、文句は出ないだろうとの計算の上だ。
「ユゼリアは、書類の仕分けを手伝ってくれ。この前、兄さん達と王宮で手伝っただろう? それと同じだ」
「わ、分かった」
貴族の粛清は粗方済んだとはいえ、不正の証拠書類や領主がいなくなった各領地の帳簿など整理する必要があった。領地の状態を確認しながらも、実務の方も目を通す必要がある。
馬車でそれらの書類を運び出すため、移動に時間もかかる。そうして遅れて各地から大量に城に運び込まれてくる書類を整理する者が必要になり、ファスター王とリゼンフィアから相談された。そこで、提案したのが、ついでに子ども達に実戦経験を積ませること。
これにより、ユゼリア達が手伝うことになったのだ。次代を担う者達だ。無関係ではないし、これも経験だと言う事になった。
学園の生徒で、できそうな者を選び、ブラーナやリサーナ、学年一位の成績優秀者達など、性別問わずに経験させた。大人達に指導されながら、ユゼリアもそれを手伝っていたのだ。だから、何をやるべきかは分かる。寧ろ、ユゼリアは勉強はそれほど得意ではないが、こうしたことは難なくやれていたため、自信もついていた。
「どこにどう集めるか指示をもらえるだろうか」
その指示が欲しいとフィルズを見るユゼリア。それを受けて、フィルズはハウトラに呼びかける。
「ギルド長! 良い加減正気に戻って、また教会に行くのか、ここで書類をまとめるのか決めろ!」
燃え尽きたような様子で呆然と座っていたハウトラは、ビクリと体を震わせた。
「っ、す、すぐに書類をまとめます! あ、ああ、そっちには帳簿類を集めて、こっちには取引の書類を。ここには、手紙類を!」
すぐにそれぞれやるべき事を確定し、作業に入る。フィルズは、手紙を確認していく。取引と関係あるものは、どの取引とのものかを特定して番号とメモを付ける。
セルジュとカリュエルの方も、最初は職員達が不安そうに張り付いて見ていたが、十分もすれば完全に任せようと判断が付いたらしく、二人の補佐に数人が付いているだけになった。
「ここ、やっぱり合わない」
「こっちも差額が結構出ている。どこに行った?」
「あっ、その数字! お待ちください。確か先ほど……っ」
「こちらの金額だと……予想されるのはコレとコレです。日付……っ、はない……ない? なら品物は……」
そうして関連の取り引きも見つかり、それにナンバーを振ってメモしていく。
フィルズも手紙関係をチェックしながら、問題がありそうなものは種類ごとで分けておく。その合間に、商品の売り込みも兼ねて職員達のサポートもしていた。
「気になるのは、この付箋を付けて置いておくといい」
「っ、これはっ、なるほど! 便利です!」
「あらかたまとまったら、このファイルに閉じてくれ」
「ふぁっ!? これは、束が崩れませんねっ。製本した本のように見れる! 助かります!」
さすがは商業ギルドの職員。用途を説明すれば、すぐに納得して使いこなす。まだまだ地方にはセイスフィア商会の商品は届かないようだ。
そんな忙しない執務室に、職員が申し訳なさそうにやって来て声をかける。
「あのっ。ギルド長! 問題のあった者達ですけど、衛兵に任せるのはよくないのですよね……?」
「そうだな……領主と繋がりが……」
ハウトラはすぐに手元の書類に目を落とす。繋がりが明らかなのだ。それも代理をしていた者は、親戚筋の者。すぐに解放されかねない。
「ですよね……今、衛兵は外にというか、追い出してるんですけど……どうすれば……ぎ、ギルド長を出せとか言ってますし……」
キラ達が、追い払ってくれているはずだが、不安にはなるだろう。少し意識を集中すれば建物の外から聞こえる怒鳴り声が分かる。
『証拠もなく拘束するなど、許されんぞっ!』
とても偉そうだ。
「ううっ。あの衛兵……副ギルド長と仲が良いから……っ」
「めちゃくちゃ繋がってんじゃん」
ここで、カリュエルが口を挟む。
「フィル。なんなら、私が対応しようか? というか、父上から一筆もらっていたりしないのかい?」
「何か問題があれば、一任するってやつ? 一応もらってるけど……ここでやるのは違くね?」
「「確かに」」
セルジュもカリュエルと共に納得の声を上げる。そこで、ユゼリアが遠慮がちに確認する。
「どのみち、牢屋にいれるんだよね? けど、ここにはないんだっけ? なら、教会に頼んではどうかな?」
「教会か……聖騎士に頼めれば……」
「そういえば、聖騎士には、領兵も私兵も手が出せないんだって、リュブランから聞いたことが……」
セルジュが思い出しながらそう告げる。
「ああ。犯罪者とはいえ、あそこは保護の形を取るしな。地下牢は一応あるらしいが……そうだな……教会に……」
頼もうと口にしようとした時。部屋にファリマスがやって来た。
「フィル。それ、私に任せな」
「へ?」
どこから聞いていたのか、ファリマスはニヤリと笑った。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
あなたにおすすめの小説
『彼を解放して!』とおっしゃいましたが、何から解放されたいのですか?
シエル
恋愛
「彼を解放してください!」
友人たちと教室に戻ろうとしていると、突如、知らない令嬢に呼び止められました。
「どなたかしら?」
なぜ、先ほどから私が問いかける度に驚いているのでしょう?
まるで「え!?私のこと知らないの!?」と言わんばかりですけれど、知りませんよ?
どうやら、『彼』とは私の婚約者のことのようです。
「解放して」とおっしゃっいましたが、私の目には何かに囚われているようには見えないのですが?
※ 中世ヨーロッパモデルの架空の世界
※ ご都合主義です。
※ 誤字、脱字、文章がおかしい箇所は気付いた際に修正しております。
結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です
柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。
そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。
真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。
けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。
「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」
彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。
アンリは実は、亡き国王の婚外子。
皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。
『お前の針仕事など誰でもできる』——なら社交界のドレスの裏地を、めくってごらんなさい
歩人
ファンタジー
「地味な針仕事しかできない令嬢は要らない」——公爵家の嫡男にそう言い渡された伯爵令嬢ティナは、
裁縫道具だけを持って屋敷を出た。その翌週、社交界が凍りつく。王妃の夜会服も、公爵令嬢の舞踏会
ドレスも、第一王女の外交用ローブも——仕立てた職人が消えたのだ。しかもティナが十年かけて縫った
全てのドレスの裏地には、二重縫いで隠された署名が残されていて——。
辺境の小さな仕立て屋で穏やかに暮らすティナの元に、王都から使者がやってくる。
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。
「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」
私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
傍観している方が面白いのになぁ。
志位斗 茂家波
ファンタジー
「エデワール・ミッシャ令嬢!貴方にはさまざな罪があり、この場での婚約破棄と国外追放を言い渡す!」
とある夜会の中で引き起こされた婚約破棄。
その彼らの様子はまるで……
「茶番というか、喜劇ですね兄さま」
「うん、周囲が皆呆れたような目で見ているからな」
思わず漏らしたその感想は、周囲も一致しているようであった。
これは、そんな馬鹿馬鹿しい婚約破棄現場での、傍観者的な立場で見ていた者たちの語りである。
「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹でもあります。
「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった
歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。
だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」
追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。
一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。
誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。
「その言葉は、もう翻訳できません」