趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

紫南

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ミッション12 舞台と遠征

515 普通に泥棒では……?

たった一日で証言と言えるものは集まった。それならば、次の段階に移らなければならない。

店を閉め、夕食を終えた営業車の中でスピークが立ち上がって宣言する。

「次は証拠だ! 物証な!」
「家探しですね!」

セルジュが目を輝かせる。それにカリュエルとリサーナが追従する。

「忍び込むんですか?」
「いいんですのっ!? 是非、是非! やりたいです!」
「いやいや。待て……っ、マジで待てっ、なんだその服!?」

やりたいですとのリサーナの言葉とほぼ同時に、セルジュ、カリュエル、リサーナ、リュブラン、マグナが装備変換する。

セルジュとカリュエルは得意げに、リサーナは気合十分だと拳を握って見せながら、リュブランとマグナは流れるように真面目な顔で服装を変えていた。

これに、リュブランの傍に座っていたユゼリアが目を丸くする。

それは濃紺のツナギだった。お腹の所に大きなポケットがあり、そのツナギは厚めの綿のようなしっかりとした布ではなく、伸縮性があるもので作られている。

「なんだその帽子!? 耳!?」

なかでもお気に入りは、帽子。キャスケット帽だ。学生組は、クイっと左右に動かして見せる。丸くて小さなツバがあり、その帽子には、可愛らしいネコの耳のようなものが付いている。

これに反応したのはフィルズだ。

「ふっふっふっ。あの帽子は魔導具なんだぜ? 半径五メートル内の音が石を踏む音でも聞こえる。集中すれば、寝息も拾える優れ物だ!」
「っ、恐ろしいもん使ってんじゃねえよっ!」
「え? なんで? だって、スピじいは分かるだろ」
「え、俺……分かるかも……」

とんでもないなという顔から、まさかという顔に変わり、スッと落ち着いた。スピークは表情豊かだ。

裏の仕事をしている者は、表情が消えがちと思われているが、実際は普段怪しまれないようにかなり表情には気を遣って過ごすらしい。慣れた者ほど笑顔も得意だ。ちょっと胡散臭くなる程度では、まだまだらしい。

「な? プロの技を魔導具で補ってるだけだぜ?」
「なるほど…………いやいやいやっ! 魔導具に出来るんかい!」
「任せろ。余裕だぜ?」
「よ、余裕……マジか……俺らの努力って一体……」

それこそ、何年も会得に時間がかかるものだ。そして、出来ない者は、どれだけ努力しても出来ないということもある。それを、被るだけで良い。脱力するのも仕方がないだろう。

「おい……それ、他に教えんなよ? 絶望するやついるから。僻むのもいるから」
「了解。だってさ」
「「「「「は~い」」」」」

良いお返事だ。

因みに、この時フラメラやシビル達大人組は、後続車の方で今日の聞き込みというか、聞き取りした情報をまとめている。

そのまとめ方をエルセリアが教えてもらっているようだ。

「で? 鞄は? ポケットは沢山ありそうだが、マジックバッグねえときついぜ? 仕舞い込むのに時間かけていられねえし」
「引っ掛かったら困るだろ? だから腹のとこの大きなポケットを四次元ポケット……じゃない……マジックポッケにしたんだよ」
「マジックポッケ……なんか可愛いな」
「俺としては、水色で腹の所は白ってのが理想だったんだけど……理想と現実はさ、あえて離す時ってあると思うんだよ」
「あ~……で? 実際どうだったん?」
「俺には似合わなかったんだ……」
「……そうか……」

だから、帽子に猫耳を付けたのは、腹いせのようなものだ。別に帽子自体を魔導具化してあるので、耳は必要ない。だが、あえてフィルズはそれを口にしなかった。この世界の人たちには分からない。それが寂しいとも思うが、分からなくて良かったとも思う。

そこで、ポケットをリュブランに見せてもらっていたユゼリアが尋ねる。

「このポッケ? どれくらい入る?」
「ん? 大体、俺の執務室三つ分くらい?」
「……そんなに……証拠を?」
「金庫丸ごとでも平気だぜ!」
「普通に泥棒では……?」

もっともな意見だ。ユゼリアは落ち着いているらしい。

「で? 今から行くの?」
「待て待て。手をワキワキすんな。おい。フィル。こいつらこんなんで王族と公爵家の子ども? 貰われっ子だろ!」
「え? 俺も一応、血筋からしたら仲間だけど?」
「……橋の下の子か? よく育つらしいぞ」
「否定しなくても良い気がして来るから面白いよな~」

そんな軽口を言い合いながら、スピークは覚悟を決めていく。

「はあ……先にちょい訓練な? 使用人達が住んでた家が空いてるんだろ? そこで侵入の仕方とか歩き方とかやってみるぞ……」
「「「「「はいっ!」」」」」
「ユゼリアもな? 服用意するから」
「え……あ、うんっ」

リュブランの服を触り続けていたユゼリアだ。実は着たかったらしい。

「あ~、先に言っておくが、俺が合格だとした奴しか領主邸には行けないからな? 危ねえから」

スピークが楽しみにしている子どもたちに言い聞かせるように告げる。これにはちゃんと頷いた。

「分かってます。でもいつか、合格してみせますからねっ!」
「冒険者としても学ぶべきことがありそうな技術ですしね」
「上を目指しますわっ!」

やる気は削がれていなかった。スピークは困惑した。

「……どこ目指してんの? 王族だろ? 公爵家の後継ぎだろ?」
「「「それがなにか?」」」
「素で首傾げてんのが怖いんだわ……大丈夫? この国。次代が不安……ってか不穏っ」
「あははっ」

フィルズが笑えば、スピークはギロリとフィルズを睨んだ。

「っ、笑ってっけどっ、お前が筆頭だからなっ!?」
「え?」

フィルズに自覚はなかった。しかし、間違いなくこの国の次代はしっかりフィルズに引っ張られている。







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読んでくださりありがとうございます◎

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