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ミッション13
565 賢者でいいんじゃない?
その報告は当然、フィルズの下にも届いていた。
「……俺、賢者なんて名乗ったことないけど。言われた事もねえし」
「変に煽っている者がいそうですねえ」
談話室で、その集会の映像を見ながらの感想だ。フィルズの前には神殿長のシエルが澄ました顔でお茶を飲んでいる。
「怪しい組織なんて、そんなものよ。煽って、煽られて、誰が悪い、悪くないってゴタゴタするの」
これが大聖女レナの言葉。それも菓子を摘みながらだ。
「『自分たちが正義ぃっ』なんて思って気持ちよくなっているのでしょう? 身内だけで勝手に盛り上がっていてほしいわ」
「そうそう。他人を巻き込むなっての。うっざー」
「神より上だと思ってそうよねえ。神が間違っていたと主張しようなんて……何様のつもりかしら」
「あら。ふふふっ。躾のし甲斐のありそうな子が沢山来てくれるってことね? ステキじゃない」
「それ! そんなふうに思うのってラナ姉だけだからっ。ってか、また娘が増えてたんじゃない?」
「息子も増えてたわ……」
「ふふふっ」
「「「姉さんが良いならいいかあ」」」
「……」
これは大丈夫なのかと神殿長を思わずと言うように見るフィルズ。それに全てを悟ったような表情で、うんとゆっくり頷かれた。きっと口出ししない方がいいのだろう。
「ラナラマサマ、絶好ちょーじゃないですか~」
「躾けられちまうのかあ。カワイソウニ……」
そう言うのは、机に顎を付けてだれている若い聖者達だ。その隣りでは、お気に入りになったらしいみたらし団子を、丁寧に一粒ずつ取り外して食べている年配の聖者と大聖者がいる。
「ここまで思い込んじまっている奴らは面倒だなあ」
「それな。仮に正しいことを言って説明しても、聞きやしねえんだぜ?」
「あ~、無駄な時間~。あっちも話聞かないなら、聞けるようになるまでこういうの流すってのは?」
「「「「「それだ!」」」」」
「っ……」
一斉にフィルズに視線を向ける聖者や聖女達。これを見兼ねたように、神殿長が口を開く。
「勘違いしてはいけませんよ。フィル君に全部やらせるつもりですか? 聖者、聖女が揃っていて、何もできないなんて言いませんよね?」
「「「「「っ……」」」」」
少し威圧するような、鋭い目を彼らに向ける。
「やだぁ、シエルじいったら。怖い顔しないでよ。分かってるわ。あいつらは、私たちにも喧嘩を売ってきたのよ? 許せるはずないじゃない」
「そうよ。フィルに手を出そうなんてのも許せないもの」
「バカなことしたって、思い知らせてやるってえの」
「ガキの間違いを正してやんのが、大人の役目だぜ」
やる気はあるらしい。本人達でも動くつもりのようだ。
「ってかさあ、フィルくん? 賢者でいいんじゃないの? その子、加護どうなってんの? 大聖者って名乗ってるのがはずかしくなるんだけど」
「「「「確かに……」」」」
「……」
また視線がフィルズに集まっていた。
「自覚は?」
「……俺は好きな事してるだけなんで……」
「あれだけのものを作って? あの劇場もほぼ全てがはじめて見るものだった。あ、設計図見せて」
建築に興味があるというのは本当らしい。あまり表情が変わらない三十になる見た目の男性だ。
「資料室にあるんで、どうぞ……」
「ありがとう。あと、滞在をひと月延ばしていい?」
「……他に予定がないのなら……」
「うん。それはあるけど大丈夫」
「「大丈夫なわけないでしょう!!」」
ツッコんだのは神殿長と大聖女だ。
「あなたは本当に……っ、遠慮というものを知らないんですか!?」
「その眠そうな顔! それで無害そうな雰囲気出してくるけど、あんたが一番の曲者だからね!? フィル! 騙されないで! もう寄生しようとしてるから!」
「え~……酷い言われよう……」
傷付いたという言い方だが、表情にも声音にも変化はない。
「けど、実際、彼は賢者で良いと思うんだよね。リザフト様達の信頼が全然違うし」
「それは俺も思った。坊主への接し方も気安い気がしたしな」
「「「「「……賢者でいいんじゃない?」」」」」
「……」
ここで神から否定する言葉が届けられないということは、それが正解だと聖女達も納得した。困惑しているのはフィルズだけだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「……俺、賢者なんて名乗ったことないけど。言われた事もねえし」
「変に煽っている者がいそうですねえ」
談話室で、その集会の映像を見ながらの感想だ。フィルズの前には神殿長のシエルが澄ました顔でお茶を飲んでいる。
「怪しい組織なんて、そんなものよ。煽って、煽られて、誰が悪い、悪くないってゴタゴタするの」
これが大聖女レナの言葉。それも菓子を摘みながらだ。
「『自分たちが正義ぃっ』なんて思って気持ちよくなっているのでしょう? 身内だけで勝手に盛り上がっていてほしいわ」
「そうそう。他人を巻き込むなっての。うっざー」
「神より上だと思ってそうよねえ。神が間違っていたと主張しようなんて……何様のつもりかしら」
「あら。ふふふっ。躾のし甲斐のありそうな子が沢山来てくれるってことね? ステキじゃない」
「それ! そんなふうに思うのってラナ姉だけだからっ。ってか、また娘が増えてたんじゃない?」
「息子も増えてたわ……」
「ふふふっ」
「「「姉さんが良いならいいかあ」」」
「……」
これは大丈夫なのかと神殿長を思わずと言うように見るフィルズ。それに全てを悟ったような表情で、うんとゆっくり頷かれた。きっと口出ししない方がいいのだろう。
「ラナラマサマ、絶好ちょーじゃないですか~」
「躾けられちまうのかあ。カワイソウニ……」
そう言うのは、机に顎を付けてだれている若い聖者達だ。その隣りでは、お気に入りになったらしいみたらし団子を、丁寧に一粒ずつ取り外して食べている年配の聖者と大聖者がいる。
「ここまで思い込んじまっている奴らは面倒だなあ」
「それな。仮に正しいことを言って説明しても、聞きやしねえんだぜ?」
「あ~、無駄な時間~。あっちも話聞かないなら、聞けるようになるまでこういうの流すってのは?」
「「「「「それだ!」」」」」
「っ……」
一斉にフィルズに視線を向ける聖者や聖女達。これを見兼ねたように、神殿長が口を開く。
「勘違いしてはいけませんよ。フィル君に全部やらせるつもりですか? 聖者、聖女が揃っていて、何もできないなんて言いませんよね?」
「「「「「っ……」」」」」
少し威圧するような、鋭い目を彼らに向ける。
「やだぁ、シエルじいったら。怖い顔しないでよ。分かってるわ。あいつらは、私たちにも喧嘩を売ってきたのよ? 許せるはずないじゃない」
「そうよ。フィルに手を出そうなんてのも許せないもの」
「バカなことしたって、思い知らせてやるってえの」
「ガキの間違いを正してやんのが、大人の役目だぜ」
やる気はあるらしい。本人達でも動くつもりのようだ。
「ってかさあ、フィルくん? 賢者でいいんじゃないの? その子、加護どうなってんの? 大聖者って名乗ってるのがはずかしくなるんだけど」
「「「「確かに……」」」」
「……」
また視線がフィルズに集まっていた。
「自覚は?」
「……俺は好きな事してるだけなんで……」
「あれだけのものを作って? あの劇場もほぼ全てがはじめて見るものだった。あ、設計図見せて」
建築に興味があるというのは本当らしい。あまり表情が変わらない三十になる見た目の男性だ。
「資料室にあるんで、どうぞ……」
「ありがとう。あと、滞在をひと月延ばしていい?」
「……他に予定がないのなら……」
「うん。それはあるけど大丈夫」
「「大丈夫なわけないでしょう!!」」
ツッコんだのは神殿長と大聖女だ。
「あなたは本当に……っ、遠慮というものを知らないんですか!?」
「その眠そうな顔! それで無害そうな雰囲気出してくるけど、あんたが一番の曲者だからね!? フィル! 騙されないで! もう寄生しようとしてるから!」
「え~……酷い言われよう……」
傷付いたという言い方だが、表情にも声音にも変化はない。
「けど、実際、彼は賢者で良いと思うんだよね。リザフト様達の信頼が全然違うし」
「それは俺も思った。坊主への接し方も気安い気がしたしな」
「「「「「……賢者でいいんじゃない?」」」」」
「……」
ここで神から否定する言葉が届けられないということは、それが正解だと聖女達も納得した。困惑しているのはフィルズだけだった。
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