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ミッション10 子ども達の成長
384 あんないじわるしない!
しおりを挟む休憩中は、再現をした映像を観たことで、成人前の若い子ども達が『あんな人にはならない!』とか『商業ギルドって怖い』なんて声を聞かせていた。そこに、神殿長やレナが声をかけていたようだ。
「そうですねえ。自分が言われたりやられたら嫌なことは、まずしてはいけません。よく考えて言葉は口にしなくてはいけませんね」
「でも……わたし、おこってると、ひどいこと言っちゃう……」
「ぼくも……」
「あら。なら、あとできちんと謝ればいいのよ。いつもいつも、考えて口にできるなんて無理だもの。でもね。謝るってとっても勇気がいる時があるわ。譲れない時だってある。自分は悪くないって思いたい時だってあるのは、分かるかしら?」
子ども達の前でかがみ込み、視線を合わせる。今のレナは、とても大聖女らしく見えた。これが対外的に大聖女として見せている顔だ。神殿長も、隣で感心と感動で内心泣きそうになっているのだが、表には出していない。付き合いは長いレナだ。それを察しながらもその顔は崩さない。
「うん。わかるよっ」
「あやまるのは向こうだって、思う時ある」
「ええ。でもそんな時は、一度心を落ち着けて、考えましょう。後から考えてもいいの。してはいけないのは、悪かったと思う言動をなかったことにすることよ。言われた方、やられた方は、忘れたくても忘れられないから」
「っ、それも分かる! イヤなことだからわすれたいのに……よるとかに思い出す……」
「そうね。それが心が傷付いているってこと。転んだり、怪我をした時に、治るまで痛いのと同じ。痛いのは忘れられないでしょう?」
「うん……地味にずっといたい時ある……そっか、心も一緒なんだ……」
孤児院の子ども達は、こうした話を神官達にしてもらって育つ。しかし、下町の子ども達はそうではない。もちろん、実地で覚えていくことも多いが、なんとなくダメだと思っているだけで、説明された訳ではないので、気付くことが遅れる。
何より、親がいる場合は、親がフォローしてしまうことがあり、理解も察することも出来ずに大人になる者は一定数いる。
神官達は孤児院の子ども達のものという認識もあり、そうした話を自分たちから聞くことも稀だった。だから、この機会は逃せない。
「人は優位に……自分の方が上だって感じると、気が大きくなって、相手のことを考えるということが出来なくなるわ。それを忘れないで。気を付けましょうね」
「そうですよ。相手のことを考えず、自分のことばかりを優先すると、悪い事をしたという罪悪感も感じづらくなって、騎士さん達に捕まりますからね」
「「「うんっ!」」」
「「「きをつける!」」」
良いお返事をして、子ども達は親達に報告している。
「ぼく、ちゃんとかんがえる子になるよ!」
「あんないじわるしない!」
「あやまる時もがんばるんだっ」
それを微笑ましく、そして、自分たちも気を付けなくてはと、周りの大人達も思ったようだ。
神殿長とレナは、満足げに頷き合った。
後半が始まると、リーリルが再び宣言する。
『これよりは、より罪の重い者達となります。今一度、誓いますが、我々はこの場で真実のみお話いたします。よって、関わった者が貴族であっても、そのままお伝えいたします』
「「「「「っ……」」」」」
ここからは、囚人に商家の者達が混ざりだす。もちろん、王都の商業ギルド長であったタルブも入っている。
彼らがまたアクリル板のようなものに囲まれた所に迫り上がってきて並ぶと、人々の様子が変わった。
若干精神的にも追い詰められていたため、体格の良い者もギチギチにならずに済んでいる。とはいえ、詰まっている感じのする者は数人いた。それがとても滑稽に見えるのは致し方ないだろう。
そんな笑えそうな姿であっても、被害者達にとっては大したことではなかったらしい。
「よくも、うちの店をめちゃくちゃにしてくれたなっ!」
「親父の店を返せぇぇ!」
「俺は絶対にゆるさねえぞ! 死んで詫びろ!!」
「私の夫を返してよっ!!」
恨みは深いらしく、そうした言葉が沢山飛んできた。
気に入らないからと店を潰された者は多く、それに伴い、店主や家族が弱って亡くなったり、自死した者もいたようだ。
物が飛んでこないだけ、まだ人々は冷静だった。
『一人ずつ、順に罪を明らかにしていきましょう。彼の場合は、私怨によるものもありましたが、その後ろで指示をしていた貴族がいました』
「貴族が……」
「それなら、罪には……」
「くそっ! 貴族なら何をしても良いのかよっ」
貴族が絡んでいる場合、庶民は泣き寝入りするしかない。罪にも問えない場合が大半なのだ。怒っていた者達が、悔しげに俯くのが舞台からは見えていた。
しかし、今回は違う。リーリルの自信満々な声が彼らの顔を上げさせた。
『諦める必要はありません。その貴族の関与を示す証拠を探すため、現在、国の騎士がそちらに派遣されております』
「え……」
「なら、罪に問えるのか……?」
そんな声が上がった。そこで、クラルスがスクリーンに手を向ける。
『その現場に、中継が繋がっています。現場のクロコさん。どうなっていますか?』
そうして、映ったのは、間違いなくフィルズ作。黒子の衣装を着た測量・諜報部隊の一人だった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「そうですねえ。自分が言われたりやられたら嫌なことは、まずしてはいけません。よく考えて言葉は口にしなくてはいけませんね」
「でも……わたし、おこってると、ひどいこと言っちゃう……」
「ぼくも……」
「あら。なら、あとできちんと謝ればいいのよ。いつもいつも、考えて口にできるなんて無理だもの。でもね。謝るってとっても勇気がいる時があるわ。譲れない時だってある。自分は悪くないって思いたい時だってあるのは、分かるかしら?」
子ども達の前でかがみ込み、視線を合わせる。今のレナは、とても大聖女らしく見えた。これが対外的に大聖女として見せている顔だ。神殿長も、隣で感心と感動で内心泣きそうになっているのだが、表には出していない。付き合いは長いレナだ。それを察しながらもその顔は崩さない。
「うん。わかるよっ」
「あやまるのは向こうだって、思う時ある」
「ええ。でもそんな時は、一度心を落ち着けて、考えましょう。後から考えてもいいの。してはいけないのは、悪かったと思う言動をなかったことにすることよ。言われた方、やられた方は、忘れたくても忘れられないから」
「っ、それも分かる! イヤなことだからわすれたいのに……よるとかに思い出す……」
「そうね。それが心が傷付いているってこと。転んだり、怪我をした時に、治るまで痛いのと同じ。痛いのは忘れられないでしょう?」
「うん……地味にずっといたい時ある……そっか、心も一緒なんだ……」
孤児院の子ども達は、こうした話を神官達にしてもらって育つ。しかし、下町の子ども達はそうではない。もちろん、実地で覚えていくことも多いが、なんとなくダメだと思っているだけで、説明された訳ではないので、気付くことが遅れる。
何より、親がいる場合は、親がフォローしてしまうことがあり、理解も察することも出来ずに大人になる者は一定数いる。
神官達は孤児院の子ども達のものという認識もあり、そうした話を自分たちから聞くことも稀だった。だから、この機会は逃せない。
「人は優位に……自分の方が上だって感じると、気が大きくなって、相手のことを考えるということが出来なくなるわ。それを忘れないで。気を付けましょうね」
「そうですよ。相手のことを考えず、自分のことばかりを優先すると、悪い事をしたという罪悪感も感じづらくなって、騎士さん達に捕まりますからね」
「「「うんっ!」」」
「「「きをつける!」」」
良いお返事をして、子ども達は親達に報告している。
「ぼく、ちゃんとかんがえる子になるよ!」
「あんないじわるしない!」
「あやまる時もがんばるんだっ」
それを微笑ましく、そして、自分たちも気を付けなくてはと、周りの大人達も思ったようだ。
神殿長とレナは、満足げに頷き合った。
後半が始まると、リーリルが再び宣言する。
『これよりは、より罪の重い者達となります。今一度、誓いますが、我々はこの場で真実のみお話いたします。よって、関わった者が貴族であっても、そのままお伝えいたします』
「「「「「っ……」」」」」
ここからは、囚人に商家の者達が混ざりだす。もちろん、王都の商業ギルド長であったタルブも入っている。
彼らがまたアクリル板のようなものに囲まれた所に迫り上がってきて並ぶと、人々の様子が変わった。
若干精神的にも追い詰められていたため、体格の良い者もギチギチにならずに済んでいる。とはいえ、詰まっている感じのする者は数人いた。それがとても滑稽に見えるのは致し方ないだろう。
そんな笑えそうな姿であっても、被害者達にとっては大したことではなかったらしい。
「よくも、うちの店をめちゃくちゃにしてくれたなっ!」
「親父の店を返せぇぇ!」
「俺は絶対にゆるさねえぞ! 死んで詫びろ!!」
「私の夫を返してよっ!!」
恨みは深いらしく、そうした言葉が沢山飛んできた。
気に入らないからと店を潰された者は多く、それに伴い、店主や家族が弱って亡くなったり、自死した者もいたようだ。
物が飛んでこないだけ、まだ人々は冷静だった。
『一人ずつ、順に罪を明らかにしていきましょう。彼の場合は、私怨によるものもありましたが、その後ろで指示をしていた貴族がいました』
「貴族が……」
「それなら、罪には……」
「くそっ! 貴族なら何をしても良いのかよっ」
貴族が絡んでいる場合、庶民は泣き寝入りするしかない。罪にも問えない場合が大半なのだ。怒っていた者達が、悔しげに俯くのが舞台からは見えていた。
しかし、今回は違う。リーリルの自信満々な声が彼らの顔を上げさせた。
『諦める必要はありません。その貴族の関与を示す証拠を探すため、現在、国の騎士がそちらに派遣されております』
「え……」
「なら、罪に問えるのか……?」
そんな声が上がった。そこで、クラルスがスクリーンに手を向ける。
『その現場に、中継が繋がっています。現場のクロコさん。どうなっていますか?』
そうして、映ったのは、間違いなくフィルズ作。黒子の衣装を着た測量・諜報部隊の一人だった。
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