趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

紫南

文字の大きさ
上 下
146 / 215
ミッション10 子ども達の成長

384 あんないじわるしない!

しおりを挟む
休憩中は、再現をした映像を観たことで、成人前の若い子ども達が『あんな人にはならない!』とか『商業ギルドって怖い』なんて声を聞かせていた。そこに、神殿長やレナが声をかけていたようだ。

「そうですねえ。自分が言われたりやられたら嫌なことは、まずしてはいけません。よく考えて言葉は口にしなくてはいけませんね」
「でも……わたし、おこってると、ひどいこと言っちゃう……」
「ぼくも……」
「あら。なら、あとできちんと謝ればいいのよ。いつもいつも、考えて口にできるなんて無理だもの。でもね。謝るってとっても勇気がいる時があるわ。譲れない時だってある。自分は悪くないって思いたい時だってあるのは、分かるかしら?」

子ども達の前でかがみ込み、視線を合わせる。今のレナは、とても大聖女らしく見えた。これが対外的に大聖女として見せている顔だ。神殿長も、隣で感心と感動で内心泣きそうになっているのだが、表には出していない。付き合いは長いレナだ。それを察しながらもその顔は崩さない。

「うん。わかるよっ」
「あやまるのは向こうだって、思う時ある」
「ええ。でもそんな時は、一度心を落ち着けて、考えましょう。後から考えてもいいの。してはいけないのは、悪かったと思う言動をなかったことにすることよ。言われた方、やられた方は、忘れたくても忘れられないから」
「っ、それも分かる! イヤなことだからわすれたいのに……よるとかに思い出す……」
「そうね。それが心が傷付いているってこと。転んだり、怪我をした時に、治るまで痛いのと同じ。痛いのは忘れられないでしょう?」
「うん……地味にずっといたい時ある……そっか、心も一緒なんだ……」

孤児院の子ども達は、こうした話を神官達にしてもらって育つ。しかし、下町の子ども達はそうではない。もちろん、実地で覚えていくことも多いが、なんとなくダメだと思っているだけで、説明された訳ではないので、気付くことが遅れる。

何より、親がいる場合は、親がフォローしてしまうことがあり、理解も察することも出来ずに大人になる者は一定数いる。

神官達は孤児院の子ども達のものという認識もあり、そうした話を自分たちから聞くことも稀だった。だから、この機会は逃せない。

「人は優位に……自分の方が上だって感じると、気が大きくなって、相手のことを考えるということが出来なくなるわ。それを忘れないで。気を付けましょうね」
「そうですよ。相手のことを考えず、自分のことばかりを優先すると、悪い事をしたという罪悪感も感じづらくなって、騎士さん達に捕まりますからね」
「「「うんっ!」」」
「「「きをつける!」」」

良いお返事をして、子ども達は親達に報告している。

「ぼく、ちゃんとかんがえる子になるよ!」
「あんないじわるしない!」
「あやまる時もがんばるんだっ」

それを微笑ましく、そして、自分たちも気を付けなくてはと、周りの大人達も思ったようだ。

神殿長とレナは、満足げに頷き合った。

後半が始まると、リーリルが再び宣言する。

『これよりは、より罪の重い者達となります。今一度、誓いますが、我々はこの場で真実のみお話いたします。よって、関わった者が貴族であっても、そのままお伝えいたします』
「「「「「っ……」」」」」

ここからは、囚人に商家の者達が混ざりだす。もちろん、王都の商業ギルド長であったタルブも入っている。

彼らがまたアクリル板のようなものに囲まれた所に迫り上がってきて並ぶと、人々の様子が変わった。

若干精神的にも追い詰められていたため、体格の良い者もギチギチにならずに済んでいる。とはいえ、詰まっている感じのする者は数人いた。それがとても滑稽に見えるのは致し方ないだろう。

そんな笑えそうな姿であっても、被害者達にとっては大したことではなかったらしい。

「よくも、うちの店をめちゃくちゃにしてくれたなっ!」
「親父の店を返せぇぇ!」
「俺は絶対にゆるさねえぞ! 死んで詫びろ!!」
「私の夫を返してよっ!!」

恨みは深いらしく、そうした言葉が沢山飛んできた。

気に入らないからと店を潰された者は多く、それに伴い、店主や家族が弱って亡くなったり、自死した者もいたようだ。

物が飛んでこないだけ、まだ人々は冷静だった。

『一人ずつ、順に罪を明らかにしていきましょう。彼の場合は、私怨によるものもありましたが、その後ろで指示をしていた貴族がいました』
「貴族が……」
「それなら、罪には……」
「くそっ! 貴族なら何をしても良いのかよっ」

貴族が絡んでいる場合、庶民は泣き寝入りするしかない。罪にも問えない場合が大半なのだ。怒っていた者達が、悔しげに俯くのが舞台からは見えていた。

しかし、今回は違う。リーリルの自信満々な声が彼らの顔を上げさせた。

『諦める必要はありません。その貴族の関与を示す証拠を探すため、現在、国の騎士がそちらに派遣されております』
「え……」
「なら、罪に問えるのか……?」

そんな声が上がった。そこで、クラルスがスクリーンに手を向ける。

『その現場に、中継が繋がっています。現場のクロコさん。どうなっていますか?』

そうして、映ったのは、間違いなくフィルズ作。黒子の衣装を着た測量・諜報部隊の一人だった。









**********
読んでくださりありがとうございます◎
しおりを挟む
感想 2,395

あなたにおすすめの小説

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに対して、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

【完結】私の妹を皆溺愛するけど、え? そんなに可愛いかしら?

かのん
恋愛
 わぁい!ホットランキング50位だぁ(●´∀`●)ありがとうごさいます!  私の妹は皆に溺愛される。そして私の物を全て奪っていく小悪魔だ。けれど私はいつもそんな妹を見つめながら思うのだ。  妹。そんなに可愛い?えぇ?本当に?  ゆるふわ設定です。それでもいいよ♪という優しい方は頭空っぽにしてお読みください。  全13話完結で、3月18日より毎日更新していきます。少しでも楽しんでもらえたら幸いです。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです

珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。 その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。 それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

【 完結 】「平民上がりの庶子」と言っただなんて誰が言ったんですか?悪い冗談はやめて下さい!

しずもり
恋愛
 ここはチェン王国の貴族子息子女が通う王立学園の食堂だ。確かにこの時期は夜会や学園行事など無い。でもだからってこの国の第二王子が側近候補たちと男爵令嬢を右腕にぶら下げていきなり婚約破棄を宣言しちゃいますか。そうですか。 お昼休憩って案外と短いのですけど、私、まだお昼食べていませんのよ?  突然、婚約破棄を宣言されたのはチェン王国第二王子ヴィンセントの婚約者マリア・べルージュ公爵令嬢だ。彼女はいつも一緒に行動をしているカミラ・ワトソン伯爵令嬢、グレイシー・テネート子爵令嬢、エリザベス・トルーヤ伯爵令嬢たちと昼食を取る為食堂の席に座った所だった。 そこへ現れたのが側近候補と男爵令嬢を連れた第二王子ヴィンセントでマリアを見つけるなり書類のような物をテーブルに叩きつけたのだった。 よくある婚約破棄モノになりますが「ざまぁ」は微ざまぁ程度です。 *なんちゃって異世界モノの緩い設定です。 *登場人物の言葉遣い等(特に心の中での言葉)は現代風になっている事が多いです。 *ざまぁ、は微ざまぁ、になるかなぁ?ぐらいの要素しかありません。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。