元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第七章 ギルドと集団暴走

266 覚悟だけはしておいてください

避難所はどの町でも最低五つ。中央と四方に作られる広場か兵舎がそれに指定されている。

集団暴走スタンピードとなった場合、外壁の近くは危険があるため、住民達は一旦中央に集められることになっていた。

『大蛇の迷宮』は北東方面にある。北門へは、地形の関係で、向かってくる魔獣達が比較的少ない。よって、ギルドの本陣は東門に用意された。

今回、万が一門が突破された場合、西の方の避難所へ移動していくことになるだろう。

避難所である広場に到着したコウヤは先ず、兵の方に挨拶をと階級の高い人を探しながら指示を出す。やるべき事の手順や説明は移動中にしたため、彼女たちに任せても大丈夫だろう。

「こことあちらの木の所にテーブルを。箱をその真ん中後ろに赤、黄、青一つずつ並べて置いてください。テーブルには認識印の魔導具を一つずつ」
「はい!」

ここまで、荷物を運ぶこともいとわず、彼女たちは汗を流しながら早足でついてきた。すれ違う兵達が二度、三度見していたのは、きっとそんな彼女たちの姿を見たことがなかったからだろう。

三度見は、パックンの悪夢のせいで涙や鼻水を拭いた時、化粧が落ちたためでもある。コウヤが連れてきた中には男性はいない。新人達も汗をかいたことで、薄い化粧も落ちていた。よって、彼女たちは全員、すっぴんをさらしている。

「オーリさんはついて来てください。不満かもしれませんが、俺の補佐も兼任してもらいます」
「え、不満なんてないです! でも私、補佐なんて……」

彼女は一番勤務歴が長い。年齢は二十五。ギルドで働いて六年になるようだ。

「大したことではないです。こういう時の流れを確認すると思ってくれれば十分です」
「わ、分かりました」

コウヤは明らかに年下だが、迷いなく指示を出す姿や、理解できるようにと心を砕いて説明してくれる様を見て、彼女も思うところがあったようだ。文句も言わずに了承するところを見れば、随分コウヤに心を開いている。

「他の皆さんは、準備でき次第はじめてください」
「はい!!」

息がまだ整わない中、すっぴんであることも気にすることなく、彼女たちはテキパキと協力して用意していく。それを確認して、兵の方に目を向けた。そこに、見知った顔を見つける。

オーリがついてきているのを感じながら、そちらへ駆け寄った。

「ゼフィルさん」
「っ、コウヤ様! まさか、ユースールからの応援でいらしたのですか? 応援要請が通ったのですねっ」

ゼフィルが話ていたのは、隊長達らしい。体格のいい三人の壮年の男性達。その中にあっても、ゼフィルは堂々としていた。どうやら、体も鍛えているようだと感心する。

隊長達はコウヤを不思議そうに見ていた。ギルド職員の制服を着た子どもに、領主補佐が頭を下げるのだから当然だろう。何か言いたそうだが、あえて気付かないふりで通す。

「はい。ユースール支部所属の冒険者、総勢百六十三名を投入しました。同時に聖魔教会から神官を三十名派遣してもらっています」

バイクで飛んできた白夜部隊は、ルディエを入れて十名ほどだった。だが、先に来ていたジザルスとリエラが教会に殴り込みをかけ、聖堂を制圧したことで、ルディエが聖域を作り、転移が可能になったのだ。これにより、二十名が更に追加された。

「っ、ありがとうございます! こちらには?」

何をしに来られたのかと尋ねられる。

「食糧の調達です」
「あ、集団暴走スタンピードのギルドの対応にありましたね。住民達からの寄付」

領主補佐をしているゼフィルにとっては、緊急時のそれぞれの組織の対応など、知っていて然るべきこと。

このベルセンの冒険者ギルドの職員達よりも詳しいのはどうかと思うが、受付嬢達にしても、ここの職員達は知らなさすぎるのだ。その事実を認識し、コウヤは内心苦笑しながら答えた。

「はい。先ずはこの近辺、店や宿をされている方々から。一度目が落ち着いたら、その間に各家庭から食糧の寄付をお願いすることになります」
「分かりました。移動時の護衛はどうされますか?」

ここへは、避難しているのだ。その上、今はまだ交戦中。万が一、その間に門を突破されれば危ない。なので、寄付してもらう者を守るためにも、食糧を運ぶためにも護衛は必要だ。

「今からこの場に居る冒険者か、元冒険者の方にお願いします」
「人手が必要ならば、兵の方にも……」

このゼフィルの言葉に反応したのは隊長の一人。

「補佐官殿。我々はこの場の守護を任されているのです。動くことはできません」
「こういう時なのですから、協力すべきではありませんか?」
「……」

渋い顔をする隊長達。後ろにいるオーリもイラついたのが分かった。だが、ここで揉めては時間の無駄だ。

「ゼフィルさん。いいですよ。こちらはこちらで何とかします。領兵の方には決められた緊急時の対応というものがあるでしょうから」
「ですが、ユースールなら……」

ユースールならば、きっとこの時、冒険者ギルドに協力する手筈を整えられるはずだ。それを、ゼフィルも知っていた。ニール率いる文官たちの情報網は侮れない。

「ユースールでは、それらの対応も折り込み済みなんです」
「そう……でしたか。分かりました」

この時、既に手伝いをしてくれる低ランクの冒険者達や、引退した冒険者達へ残った受付嬢達が勧誘を始めていた。

『これより、食糧の寄付をお願いします。その折の護衛兼、荷物運びとしてDランク以下の冒険者、引退した冒険者の方の募集を行います』『戦闘ではなく、後方支援部隊としても、同時に募集しております』
『町での荷運びは重要な仕事です。どうか、お願いします!』

拡声の魔導具はここにはなく、彼女たちは自前で魔法により声を届けている。ただ、得意ではないのだろう。普段使ったりしないのだからこれは仕方がない。彼女達は声を張り上げていた。

進んで働く彼女達を見て、多くの者が唖然としているのが見えた。普段どれだけ不真面目なのだろうか。寧ろコウヤはそっちが気になった。

とはいえ、コウヤはとりあえず彼女たちに任せようと再びゼフィルと兵隊長たちに向き直る。

「現在の状況をお知らせします。報告によると、今回の集団暴走スタンピードは小休止を挟んで五回になります」
「っ、五回っ、ですと……っ」
「はい。夜を徹することになると思います」

一晩で終わると言えば、軽く思えるかもしれない。だが、外の様子が分からない状況が一晩続くのだ。精神的には辛いものがある。

「正確な時間の測定結果は出ていませんが、一度の時間は一時間を少し越えるくらいでしょう。小休止の時間がその1.5倍となるので、多少は落ち着けるはずです。ただ、最後は危険度Aランクのものとなります」
「っ、そ、それは……っ」

Aランクの集団暴走スタンピードは、氾濫を起こした迷宮から半径三キロ圏内に町がある場合、滅ぶ確率が八割だ。それを、漠然とだが兵隊長ともなれば知っている。

「氾濫を起こした『大蛇の迷宮』はここから約三キロの距離です。いくら実力者を集めた所で、前線の位置などの計算を誤れば、門を突破されます。その覚悟だけはしておいてください」
「なっ、それがギルド職員のセリフか!」

怒るのも分からないではない。だが、冒険者の居る現場に立つこともない者が、文句を言っていいことでもない。

ゼフィルが隊長に詰め寄る。

「黙りなさい! 文句を言いたいのなら、今すぐに門の外へ出ることです。領主補佐官の私が許します。戦ってきなさい」
「っ、わ、私は住民を守るのが仕事で……」
「ならば黙ってそれを全うしなさい」
「っ……」

睨み付けたままのゼフィル。隊長達は少し気圧されているようだ。レベル差がこういう時に出る。

コウヤはその視線を遮るように、ゼフィルの顔の前で手を振り、笑みを見せる。

「落ち着いてください。ゼフィルさん」
「っ……失礼しました……」

ゼフィルが肩の力を抜くのを確認して、コウヤは隊長達に向き合った。後ろに控えているオーリも何か言いたそうにしているのが分かったが、その前にとコウヤが口を開く。

「事実をお伝えしなくては、あなた方の動きまで鈍ってしまうでしょう。そうなれば、犠牲になるのは住民達ではありませんか?」
「そ、そうだ」

何事も想定していなくては、避難誘導などできない。隊長達はその通りだと冷静になってくれた。コウヤも落ち着いた声になるように努める。

「もちろん我々ギルド職員は、冒険者達の勝利を信じています。ですが、平時のようにただ無事を願い、帰りを待つだけではいられません」

その時、不意に住民達の方から大きな怒声が聞こえてきた。

「ふざけんな! 俺らなんて戦闘では役に立たないといつもけなしたのはお前らだろ!!」
「そ、それは……」

どうやら、この避難所に居た若い冒険者達が、受付嬢達と揉めているようだった。

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読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
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