253 / 495
第九章
358 コウヤには向いてない
しおりを挟む
最後にご報告あります!
**********
アビリス王は、笑みを徐々に消していく。そして、一度目を閉じてから、真剣な顔で再び口を開いた。
「本来ならばきっと、神の手を煩わせるものではないのだろうな……不甲斐ないものだ……」
「いいえ。他の世界では、人々に神が不干渉を通す所もあります。滅びようが、発展しようが、全て人々に任せる……ですが、この世界では……俺たちは干渉することを選びました」
手を差し伸べ、決して滅びないように、重要な転換期には、立ち会って、より良い方向へと向かうように。誰もが人としての尊厳を持って生きられる世界を、共に目指したかった。
「どちらが正しいなんて言えません。干渉し過ぎるのも良くないし、不干渉に過ぎるのも良くはないでしょう。だから、俺たちもまた、考えている途中です。どちらかではなく、どちらも選択できるようにしたい。幸い、今の俺は半々です。これって、良いとこ取りができそうじゃないですか?」
新しい世界の形があってもいい。その形を今、手探りで探している。これにコウヤはとても良い位置に居ると思うのだ。
「心配なのは、俺が道を外すことです。神として間違ったら、リクト兄達が叱ってくれます。なので、この国の王子として間違ったら、お祖父様やジル父さんに、叱ってもらわないといけません」
「コウヤを叱る……か」
「間違うことなんて……」
ちょっと想像できないと、二人は顔を見合わせる。コウヤは宙に視線を投げて、考え、例を上げる。
「ほら、王子っていうことで、無理にアレが欲しいとか、コレが欲しいとか、こうしろとか高慢になったり」
「コウヤが? ないと思うが?」
「ないよ」
即答された。ならばと再び考える。
「冒険者ギルドを優先しろとか、教会にもっと支援をなんて言ったり」
「寧ろ遠慮しているだろう? この前の予算、値切ったのは誰だったか」
「コウヤのためにって、頑張って調整して、多く出すって言ってるのに、値切られた大臣が泣きそうだったよ?」
どうやらこれも、あり得ないと認識されているらしい。
「あとは……そうだ! 突然、どこかの王女と結婚したいとか言い出したり……っ」
「「コウヤにはまだ早い! 他国の王女になどもったいない!!」」
「……えっと……うん。俺も、これはさすがに冗談だけど……」
わがまま王子になるのも大変そうだ。
「う~ん。今度、シン様に聞いてみます。『王子としてのわがまま』には、どんなものがあるか」
「……それ以前に、コウヤがわがままを言うのを聞いたことがないんだが……」
ジルファスは不満そうに顔をしかめた。一方、アビリス王は少し思案した後、困ったような顔をコウヤに向けた。
「コウヤはあれだ。『他人に迷惑をかけない』ように普段から考えているだろう。そんな子はわがままには振る舞えないさ。周りに配慮しないのが、わがままだ。コウヤには無理だな」
「えー。お祖父様、俺だってやればできますよ。見ててください。きっといつか、傍若無人な、一級品のわがままをご覧に入れますからね!」
「コウヤ……わがままは努力して体現するものではないよ……」
コウヤは、出来ないということが嫌いだ。なんでも努力し、昨日まで出来なかったことを今日は出来るようにしようと考える。
どのみち、こんな真っ直ぐなコウヤには、性格的にわがままを言うなど無理だろう。純粋に気性の問題だ。言ったとしても、周りも叶えてあげたいと、叱るどころか協力しそうだ。
神として理想を押し付けたとしても、誰もコウヤのわがままだとは認識しないだろう。それを、アビリス王やジルファスはもう分かっている。
「残念だが、コウヤにも出来ないことはある」
「そう。認めようね。コウヤ、向いてないよ」
「そんなっ。いつかはきっとできるはずです! 俺は努力します!」
「だからね? わがままは努力とは寧ろ正反対の位置だから、コウヤには向いてないんだよ」
ムリムリと首を横に振られては、コウヤも面白くない。しかし、そこでそういえばと思い至る。
「う~ん……あっ! ほら、俺が冒険者ギルドの仕事を続けたいって事とか、これってわがままじゃないですか?」
言葉にはしないが、ジルファスやアビリス王だけでなく、この城で働く者たちは、全員がコウヤにはずっとここに居てほしいと願っている。
それを知っていながら、コウヤはここへは週に一度来られるかどうか。ギルド職員としての生活を優先していた。これは、立派なわがままではないか。そう思ったのだ。
「どうです? 俺、わがまましてましたよ!」
いっそ、胸を張って自慢げにするコウヤ。それを見て、ジルファスとアビリス王は顔を見合わせた後、吹き出した。
「っ、ふははっ。そうだなっ。それはわがままになるかもしれんっ」
「っ、ふふっ。うんうん。私たちはコウヤをここに留めたいと思っているからねっ。確かにわがままと言えなくもないよっ」
「ふふふっ」
コウヤも思わず笑った。アビリス王は笑いを治め、歩み寄ると、優しく微笑んでコウヤの頭を撫でる。その顔を確認すると、先程よりも困った子だなと言っているような表情に見えた。
それは気のせいではないようだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
◆お知らせします◆
第1巻発売から約二ヶ月。
第2巻が今月(8月)中旬に
発売決定しました◎
分量の調整で大幅に加筆!
ボリュームアップ!
一冊分の限界を突破してます(笑)
詳しくはこの後12:05頃
活動報告にて♪
次回、二日空きます。
よろしくお願いします◎
**********
アビリス王は、笑みを徐々に消していく。そして、一度目を閉じてから、真剣な顔で再び口を開いた。
「本来ならばきっと、神の手を煩わせるものではないのだろうな……不甲斐ないものだ……」
「いいえ。他の世界では、人々に神が不干渉を通す所もあります。滅びようが、発展しようが、全て人々に任せる……ですが、この世界では……俺たちは干渉することを選びました」
手を差し伸べ、決して滅びないように、重要な転換期には、立ち会って、より良い方向へと向かうように。誰もが人としての尊厳を持って生きられる世界を、共に目指したかった。
「どちらが正しいなんて言えません。干渉し過ぎるのも良くないし、不干渉に過ぎるのも良くはないでしょう。だから、俺たちもまた、考えている途中です。どちらかではなく、どちらも選択できるようにしたい。幸い、今の俺は半々です。これって、良いとこ取りができそうじゃないですか?」
新しい世界の形があってもいい。その形を今、手探りで探している。これにコウヤはとても良い位置に居ると思うのだ。
「心配なのは、俺が道を外すことです。神として間違ったら、リクト兄達が叱ってくれます。なので、この国の王子として間違ったら、お祖父様やジル父さんに、叱ってもらわないといけません」
「コウヤを叱る……か」
「間違うことなんて……」
ちょっと想像できないと、二人は顔を見合わせる。コウヤは宙に視線を投げて、考え、例を上げる。
「ほら、王子っていうことで、無理にアレが欲しいとか、コレが欲しいとか、こうしろとか高慢になったり」
「コウヤが? ないと思うが?」
「ないよ」
即答された。ならばと再び考える。
「冒険者ギルドを優先しろとか、教会にもっと支援をなんて言ったり」
「寧ろ遠慮しているだろう? この前の予算、値切ったのは誰だったか」
「コウヤのためにって、頑張って調整して、多く出すって言ってるのに、値切られた大臣が泣きそうだったよ?」
どうやらこれも、あり得ないと認識されているらしい。
「あとは……そうだ! 突然、どこかの王女と結婚したいとか言い出したり……っ」
「「コウヤにはまだ早い! 他国の王女になどもったいない!!」」
「……えっと……うん。俺も、これはさすがに冗談だけど……」
わがまま王子になるのも大変そうだ。
「う~ん。今度、シン様に聞いてみます。『王子としてのわがまま』には、どんなものがあるか」
「……それ以前に、コウヤがわがままを言うのを聞いたことがないんだが……」
ジルファスは不満そうに顔をしかめた。一方、アビリス王は少し思案した後、困ったような顔をコウヤに向けた。
「コウヤはあれだ。『他人に迷惑をかけない』ように普段から考えているだろう。そんな子はわがままには振る舞えないさ。周りに配慮しないのが、わがままだ。コウヤには無理だな」
「えー。お祖父様、俺だってやればできますよ。見ててください。きっといつか、傍若無人な、一級品のわがままをご覧に入れますからね!」
「コウヤ……わがままは努力して体現するものではないよ……」
コウヤは、出来ないということが嫌いだ。なんでも努力し、昨日まで出来なかったことを今日は出来るようにしようと考える。
どのみち、こんな真っ直ぐなコウヤには、性格的にわがままを言うなど無理だろう。純粋に気性の問題だ。言ったとしても、周りも叶えてあげたいと、叱るどころか協力しそうだ。
神として理想を押し付けたとしても、誰もコウヤのわがままだとは認識しないだろう。それを、アビリス王やジルファスはもう分かっている。
「残念だが、コウヤにも出来ないことはある」
「そう。認めようね。コウヤ、向いてないよ」
「そんなっ。いつかはきっとできるはずです! 俺は努力します!」
「だからね? わがままは努力とは寧ろ正反対の位置だから、コウヤには向いてないんだよ」
ムリムリと首を横に振られては、コウヤも面白くない。しかし、そこでそういえばと思い至る。
「う~ん……あっ! ほら、俺が冒険者ギルドの仕事を続けたいって事とか、これってわがままじゃないですか?」
言葉にはしないが、ジルファスやアビリス王だけでなく、この城で働く者たちは、全員がコウヤにはずっとここに居てほしいと願っている。
それを知っていながら、コウヤはここへは週に一度来られるかどうか。ギルド職員としての生活を優先していた。これは、立派なわがままではないか。そう思ったのだ。
「どうです? 俺、わがまましてましたよ!」
いっそ、胸を張って自慢げにするコウヤ。それを見て、ジルファスとアビリス王は顔を見合わせた後、吹き出した。
「っ、ふははっ。そうだなっ。それはわがままになるかもしれんっ」
「っ、ふふっ。うんうん。私たちはコウヤをここに留めたいと思っているからねっ。確かにわがままと言えなくもないよっ」
「ふふふっ」
コウヤも思わず笑った。アビリス王は笑いを治め、歩み寄ると、優しく微笑んでコウヤの頭を撫でる。その顔を確認すると、先程よりも困った子だなと言っているような表情に見えた。
それは気のせいではないようだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
◆お知らせします◆
第1巻発売から約二ヶ月。
第2巻が今月(8月)中旬に
発売決定しました◎
分量の調整で大幅に加筆!
ボリュームアップ!
一冊分の限界を突破してます(笑)
詳しくはこの後12:05頃
活動報告にて♪
次回、二日空きます。
よろしくお願いします◎
358
あなたにおすすめの小説
お前を愛することはないと言われたので、姑をハニトラに引っ掛けて婚家を内側から崩壊させます
碧井 汐桜香
ファンタジー
「お前を愛することはない」
そんな夫と
「そうよ! あなたなんか息子にふさわしくない!」
そんな義母のいる伯爵家に嫁いだケリナ。
嫁を大切にしない?ならば、内部から崩壊させて見せましょう
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
婚約破棄? そもそも君は一体誰だ?
歩芽川ゆい
ファンタジー
「グラングスト公爵家のフェルメッツァ嬢、あなたとモルビド王子の婚約は、破棄されます!」
コンエネルジーア王国の、王城で主催のデビュタント前の令息・令嬢を集めた舞踏会。
プレデビュタント的な意味合いも持つこの舞踏会には、それぞれの両親も壁際に集まって、子供たちを見守りながら社交をしていた。そんな中で、いきなり会場のど真ん中で大きな女性の声が響き渡った。
思わず会場はシンと静まるし、生演奏を奏でていた弦楽隊も、演奏を続けていいものか迷って極小な音量での演奏になってしまった。
声の主をと見れば、ひとりの令嬢が、モルビド王子と呼ばれた令息と腕を組んで、令嬢にあるまじきことに、向かいの令嬢に指を突き付けて、口を大きく逆三角形に笑みを浮かべていた。
【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。
紺
ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」
実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて……
「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」
信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。
微ざまぁあり。
婚約破棄?ありがとうございます!では、お会計金貨五千万枚になります!
ばぅ
恋愛
「お前とは婚約破棄だ!」
「毎度あり! お会計六千万金貨になります!」
王太子エドワードは、侯爵令嬢クラリスに堂々と婚約破棄を宣言する。
しかし、それは「契約終了」の合図だった。
実は、クラリスは王太子の婚約者を“演じる”契約を結んでいただけ。
彼がサボった公務、放棄した社交、すべてを一人でこなしてきた彼女は、
「では、報酬六千万金貨をお支払いください」と請求書を差し出す。
王太子は蒼白になり、貴族たちは騒然。
さらに、「クラリスにいじめられた」と泣く男爵令嬢に対し、
「当て馬役として追加千金貨ですね?」と冷静に追い打ちをかける。
「婚約破棄? かしこまりました! では、契約終了ですね?」
痛快すぎる契約婚約劇、開幕!
「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ
猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。
当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。
それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。
そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。
美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。
「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」
『・・・・オメエの嫁だよ』
執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。