元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

文字の大きさ
267 / 504
第九章

372 今思い出しても

三人が驚くのも当然だ。アムラナを飲んだ自分達の変化は、神子としての力を少しばかり強め、寿命を倍以上伸ばすというもの。若返る効果など聞いたことがない。

まさか、今はまた眠りについている、かつて共に世界の平定のために駆けた神子仲間たちの中にも居るのかと顔を見合わせる。

その疑問を察して、ジンクは首を横に振った。

「他には多分いないんじゃないかな~。これは推測だけど、飲んだ時に周りが神域状態になってたから、それも原因だと思うんだ」
「……聖域ではなく……神域ですか……」

ソラがあえて、その違いを指摘する。

「そうそう。だから、あそこにドワーフ達は、持てる技術の全てを使って、大神殿を建てた」
「あそこって……っ、まさかっ」

ミナが顔をしかめながら、神教国の大神殿に目を向けた。同じようにギュッと眉根を寄せて、ユミとソラが見つめる。

「あそこはさ、はじめて教会っていうのを建てた場所らしい。神々にとっても、特別な場所だ。長く人々の想いを集めたあの場所は、聖域としての状態も安定していた。刻印術での固定化もできていて……で、俺が更にそれに手を加えたことで、一時的に神域になったんだと思う」

刻印術とは、術式を柱や壁に彫ることで、その場所に力を与える。教会にあるそれには、様々な効果があった。

教会内では心穏やかにいられること。治癒力が少なからず高まること。神の加護が増幅されることなどだ。しかし、欠点もある。術を発動させるには、当然魔力が必須だ。

神官達によって、ほんの少しずつその刻印術に魔力を注ぎ込む。それは祈りの時間に付随し、神に捧げるように行われていた。

規則正しい神官達の生活の中に織り込まれたため、魔力切れになることもなく、刻印術は永遠に稼働し続けていた。だが、物は劣化する。魔力を込めるものなので、保護のための魔術はかけられない。

だから、こちらの手入れも定期的に行わなくてはならなかった。時に入れ替える必要もあるのだ。それを手入れできる者は少なかった。

彫刻などを行う彫りもの師としての技術も必要になるのがこの刻印術。その上、神々が与える力ではなく、これは人が知恵を絞り、創り出した、唯一の技だった。だから、神が手を出すことはしないし、人によって管理されるべき技術だった。

「神域……ですか……」
「確かに、それは私たちの力でも、簡単に出来るものではないですね……」
「ジンクって、本当にすごかったんだ?」

ジンクは、なぜか三人に懐疑的な目で見られた。

「……お前らが、俺をどう見てるか、なんか分かった気がする……」

人当たりは良い。だが、ジンクは長く生きる。それは、エルフや獣人、ドワーフよりも遥かに長生きだ。そして、寿命が尽きる気配は未だにない。

人にしか見えないジンクが、何十年、何百年と見た目が変わらないのは、おかしなことだ。だから、誰とも深い関係を築こうとは思えなかった。

だが、それが寂しいとか、辛いと思ったことはない。それは、敬愛するコウルリーヤの存在が大きいだろう。

人々の中に混ざり、世界の秩序を整えるためにひと所に留まらず、深い関係の者を作らずに旅をし続けていたかつてのコウルリーヤの姿。それを、ジンク自身で体験していると思えば、幸福感さえあった。

それはきっと、他の神子達の身に起きたとしても、同じように考えるだろう。その証拠に、彼らがジンクに向ける目には、少しの嫉妬や羨望が見られる。

「でもいいなー。寿命も気にせず、長い時間を世界を見聞して回るなんて……コウルリーヤ様みたい……」
「そうですね……私達は、神子としてアムラナを飲み、本来の寿命よりは長く生きられますが……それでも、人の身。三百年が限界です……」
「だから私たちは眠ることを選んだ……んですよね……」

それはまさに苦肉の策だった。コウルリーヤへの暴挙を止めることが出来なかったことは、神子達にとっては、何よりの失態。けれど、優しいコウルリーヤが、自分が消えたことでゼストラーク達の怒りによって、この世界が消えることは望んではいないはず。

その時のゼストラーク達は、怒りで我を忘れていた。だが、もしその怒りが晴れた時、目の前にコウルリーヤが愛した世界の壊れた様子があったら、ゼストラーク達はどう思うだろうか。

そんな神の想いを理解していた神子達は、立ち上がるしかなかった。けれど、それでも神子達は神ではない。たった数人で、それも神の力によって荒れた一つの世界を平定するには、全力を出す必要がある。力を使うことで、寿命がその分削られることになった。

もう大丈夫だろうと判断した時には、自分達には後数十年の命しか残っていないことに気付いた。

けれど、再びゼストラーク達が地上に目を向ける日は、いつになるかわからない。コウルリーヤが完全に消滅するなど信じていない神子達は、当然のように復活することを信じた。

自分達の死を今まで以上に近く感じて、神子達は願った。


『もう一度お会いしたい』
『声を聞きたい』
『あの笑顔を見たい』


嘆く神子達は、だんだんとそれぞれの地で病んでいった。

そこに救いの手を差し伸べたのがジンクだった。

深く仮死状態で眠りにつくこと。それは封印のようなもの。時を止め、時を越える。

ジンクも神子だからこそ、彼らの気持ちが分かった。頑張ったことを神達に褒めてもらいたい。きっとこの地に再び目を向けたなら、ゼストラーク達は褒めてくれるだろう。

神子は神の子ども。親に褒められることが何よりも嬉しく、心から望むことなのだから。

そして、時は来た。

「お前らをいつ起こすか……すげえ迷った。ゼスト様達が落ち着いた時……コウルリーヤ様が生まれ変わったと知った時……けど、なんか違うなと思ったんだ。今じゃないって」
「「「………」」」

どれだけ早く起こして欲しかったと文句を言っていても、三人は分かっていた。

ジンクと揃って目を向けた先にあるのは、膠着状態の続く神教国の中心。

「ずっと、俺やベニちゃん達は気になってた。いくら不満があったからって……その不満が多くの人の賛同を得たからって、あんなことにはならなかったはずだ。神に弓引くなんて……この世界に生きる者なら、必ずその考えに嫌悪感を覚える。殺人より、何より嫌な感覚が生まれるはずだ」

それが、神が近い世界の理。神の加護が存在する世界では、神に反発する思いさえも禁忌となり得るもの。

「神との距離がある今なら分からん。けど、あの頃では考えられないんだ。反発する心もコウルリーヤ様は育てておられたけど、あれは異常だった」

だからその原因を見極めようと思ったのだ。

「それに……だいたいさあ、あのコウルリーヤ様を見て、悪者扱いとか、何考えてんだって思うでしょ! その目は節穴っつてか、付いてねえだろって!」
「っ、ほんとそれよ! 目を少し伏せられただけでも美しくて、カッコいいのよ!? 美しくてカッコいいって何よ!」

ユミがジンクに釣られるように、一気に興奮する。多分、自分で何を言っているかも分かっていないだろう。

彼女だけではなかった。大人しめの青年ソラも、頬を染めている。

「はにかむように笑われた時の、あの周りがふわりと暖かくなる感覚……今思い出しても、感動で涙が出ますっ」
「絵で表すことも出来ない……ですが、それを出来ていたらっ……あのお方のお姿を誰もが目にしていたらっ……っ、悔しくてなりませんっ」

ミナは胸を押さえ、握りしめ、思い出したコウルリーヤの姿に顔を真っ赤にして頭を横に振る。

「そうだよ! 今のコウヤくんの可愛ささえ表せないんだよ!? あの子、大きくなったらどうなるんだ!? 今から可愛くて頼りになって、もう最高じゃない!? コウヤくん最こっ……」
「俺がどうかしました?」

背後から唐突に聞こえた声に、ジンクは悲鳴を上げた。

「ッ、ぎゃぁぁっ」
「「「ひいっ!!」」」
「ん?」

振り返った神子達の視線の先には、目を瞬かせ、首を傾げるコウヤが居たのだ。

************
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
感想 2,852

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

「お前がいると息が詰まる」と追放された令嬢——翌週から公爵家の予定が全て狂った

歩人
ファンタジー
クラリッサは公爵家の日程管理を一手に担う令嬢。前世の社畜経験を活かし、行事計画、来客対応、予算管理まで完璧にこなしていた。 だが婚約者ヴィクトルは言った。「お前がいると息が詰まる。もっと華やかな女がいい」 追放されたクラリッサが去った翌週、公爵家の予定が全て狂い始める。 舞踏会の招待状は届かず、外交晩餐会の料理は手配されず、決算書類は行方不明。 一方クラリッサは、若き領主の元で「定時退社」という夢を叶えていた。 「もう、残業はしません」

「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった

歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。 だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」 追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。 一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。 誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。 「その言葉は、もう翻訳できません」

本の虫な転生赤ちゃんは血塗りの宰相の義愛娘~本の世界に入れる『ひみちゅのちから』でピンチの帝国を救ったら、冷酷パパに溺愛されてます

青空あかな
ファンタジー
ブラック企業に勤める本の虫でアラサーOLの星花は、突然水に突き落とされた衝撃を感じる。 藻掻くうちに、自分はなぜか赤ちゃんになっていることを理解する。 溺死寸前の彼女を助けたのは、冷徹な手腕により周囲から「血塗りの宰相」と恐れられるアイザック・リヴィエール公爵だった。 その後、熱に浮かされながら見た夢で前世を思い出し、星花は異世界の赤ちゃんに転生したことを自覚する。 目覚めた彼女は周囲の会話から、赤ちゃんの自分を川に落としたのは実の両親だと知って、強いショックを受けた。 前世の両親もいわゆる毒親であり、今世では「親」に愛されたかったと……。 リヴィエール公爵家の屋敷に連れて行かれると、星花にはとても貴重な聖属性の魔力があるとわかった。 アイザックに星花は「ステラ」と名付けられ彼の屋敷で暮らすようになる。 当のアイザックとはほとんど会わない塩対応だが、屋敷の善良な人たちに温かく育てられる。 そんなある日、精霊と冒険する絵本を読んだステラはその世界に入り込み、実際に精霊と冒険した。 ステラには「本の世界に入り込み、その本の知識や内容を実際に体験したように習得できる特別な力」があったのだ。 彼女はその力を使って、隣国との条約締結に関する通訳不在問題や皇帝陛下の病気を治す薬草探索など、様々な問題を解決する。 やがて、アイザックは最初は煩わしかったはずのステラの活躍と愛らしさを目の当たりにし、彼女を「娘として」大切に思うようになる。 これは赤ちゃんに転生した本好きアラサーの社畜OLが、前世の知識と本好きの力を活かして活躍した結果、冷徹な義父から溺愛される話である。

結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です

柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。 そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。 真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。 けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。 「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」 彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。 アンリは実は、亡き国王の婚外子。 皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。

家族に忘れられていた第五王子は愛され生活を送る

りーさん
ファンタジー
 アズール王国の王宮には、多くの王子や王女が住んでいる蒼星宮という宮がある。  その宮にはとある噂が広まっていた。併設されている図書館に子どもの幽霊が現れると。  そんなある日、図書館に出入りしていた第一王子は子どものような人影を見かける。  その時、父である国王にすら忘れられ、存在を知られていなかった第五王子の才覚が露になっていく。

「仲睦まじい夫婦」であるはずのわたしの夫は、わたしの葬儀で本性をあらわした

ぽんた
恋愛
サヤ・ラドフォード侯爵夫人が死んだ。その葬儀で、マッケイン王国でも「仲睦まじい夫婦」であるはずの彼女の夫が、妻を冒涜した。その聞くに堪えない本音。そんな夫の横には、夫が従妹だというレディが寄り添っている。サヤ・ラドフォードの棺の前で、夫とその従妹はサヤを断罪する。サヤは、ほんとうに彼らがいうような悪女だったのか?  ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。 「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」 私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。