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mission 20
217 やってやれないことはない
ルーセリウスの様子に宗徳はようやく気付いた。
「ああ。なんだ。書き損じるのが怖いのか?」
「と、当然だっ。こんな精巧な地図など……っ」
「お前にもやっただろ」
「特注の額に入れて、謁見の間に飾ったが?」
「地図を? どこにだって?」
宗徳には確かに良く出来た地図にはなったが、そんな飾るようなものではないとの認識だ。足に頬杖をついて片眉を上げる。
「玉座の後ろの国章の上だ」
「……いや、国章より下にしろや……」
「できるわけなかろうっ。これほどの地図だぞっ」
「いや、高い所に上げ過ぎたら見にくいだろうが」
「高く掲げた方が、全体が見える……」
「飾りにするんじゃなくて、机にでも敷いておけや。一枚地図を机に敷くのは普通だろ」
宗徳のイメージは、学習デスクに敷かれた日本地図や世界地図だ。少し前までは、アニメのキャラクターのガチャガチャしたのが流行っていた。今はシンプルなものが好まれる。
しかし、ルーセリウスには伝わらない。
「こんなものの上で仕事ができるかっ」
「なんでだよ。折り目も付かねえから、凸凹しねえし、問題ないだろ」
「うっかり穴でも空けたらどうするっ!」
「空かねえから……」
この地図は、机いっぱいに広がっており、つるりとしている。ルーセリウスはカップとソーサーを慎重に置くしかなかったが、それさえ嫌だったようだ。
どれだけ心配するのかと、ルーセリウスに呆れる宗徳の気持ちも、ルーセリウスには分からない。
「防水加工もしてあるって言ったろ? ったく、あ~、ほれ、こうして」
「っ、な、何をっ!」
地図に適当にペンで線を書く宗徳。それにルーセリウスは立ち上がって止めようとする。
「だから、落ち着けって。この濡れタオルでこうして……拭くと消えるくらいの加工はしてあるんだよ」
「…………は?」
ルーセリウスの思考が止まった。絶叫しそうになるくらい地図に無意味な線を書かれたことに衝撃を受けた後の衝撃だ。受け止めきれなかったようだ。
「だから、書き直しすりゃあいいんだよ。ほれ、さっさとしろ。それとも、単純にここと王都を直線で繋ぐか?」
「い、いかんっ。や、やはりそれなりにここまでの領都を繋いでくれなければ……」
「おうおう。それならそれで。定規使うか?」
「ああ……」
それからは落ち着いたらしく、ルーセリウスは綺麗に線を引き切った。
「これだ……っ」
「お、まあ、良さそうだな」
大きな仕事を終えたという様に、満足げにペンを置いたルーセリウス。地図を確認して頷く宗徳。寿子や亮司、幸菜は、二人の様子を微笑ましげに見ていた。
「本当に、なんか弟と世話焼きな兄って感じだな」
「ふふふっ。そうでしょう? 王妃様も可愛いのよ?」
「会ってみたいわねえ」
亮司と幸菜も、すっかり王族相手という緊張感をなくしていた。
「よし! 早速作業だ! ルース! この繋がる領都の領主への手紙? 許可状? なんか知らんが、そういうのいるだろ。よろしくな! とりあえず、ここからこの一番近い領地まで明日には終わらせるからな!」
「明日!?」
「おうっ。だから、今日中に領主に了解させといてくれよな!」
「っ、きょっ……わ、分かった……」
宗徳のやることだしなと、ルーセリウスは納得する。
そして、宗徳は満面の笑みで亮司と幸菜を見た。
「さっそくやるぞ!! 亮司! 幸菜さん! 魔法の訓練だ!!」
「え!? マジでやるのか!? それも今から!?」
「で、出来るのかしら……」
「大丈夫だって! やってやれないことはない!」
「ええ。本当に、この人はやれると思ったこと……いえ、やってみてもやれてしまうのよ……」
「そりゃあ……ノリさんらしいが……」
「ありそうねえ……」
寿子は呆れ顔だ。
宗徳はルーセリウスに手紙をさっさと書けと紙を用意していた。
「寿子!」
「ええ。書けたら、私が直接届けて来ますわ。あなたはすぐにでも取り掛かりたいのでしょう?」
「おうっ。行ってくるぜ!」
「亮司さん達は今日が初日なんですからね? 夕方には戻ってきてくださいよ」
「もちろんだ! 行くぞ!」
「お、おう」
「分かりましたっ」
亮司は戸惑いながら、幸菜は少しワクワクしながら宗徳の後に続いた。
「ここから始めるぞ! こう、カチっとさせて、スルっとさせるんだ! イメージは、トンボで綺麗に均しながら固める!」
「……」
「あ、分かりました~。こうですね?」
「おおっ! 幸菜さんは勘が良いなっ!」
「まあっ。ふふふっ。こんな感じでいいのね。亮司さん。難しく考えなくていいんですよ。感覚でいけます」
「か、感覚……ちょい、ゆっくりやってみる……」
「おう! がんばれ!」
「ファイトですよ! 亮司さんっ」
「お、おう……っ」
こうして応援されながら、十分もする頃には亮司もやり方を覚えた。
宣言した通り、日が落ち出す頃までに、隣の領都までの道が出来上がった。これにより、確かにやってやれないことはないなと、早くも亮司と幸菜は、宗徳のめちゃくちゃな主張に慣れはじめていた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
今年ものんびり続けていきます!
「ああ。なんだ。書き損じるのが怖いのか?」
「と、当然だっ。こんな精巧な地図など……っ」
「お前にもやっただろ」
「特注の額に入れて、謁見の間に飾ったが?」
「地図を? どこにだって?」
宗徳には確かに良く出来た地図にはなったが、そんな飾るようなものではないとの認識だ。足に頬杖をついて片眉を上げる。
「玉座の後ろの国章の上だ」
「……いや、国章より下にしろや……」
「できるわけなかろうっ。これほどの地図だぞっ」
「いや、高い所に上げ過ぎたら見にくいだろうが」
「高く掲げた方が、全体が見える……」
「飾りにするんじゃなくて、机にでも敷いておけや。一枚地図を机に敷くのは普通だろ」
宗徳のイメージは、学習デスクに敷かれた日本地図や世界地図だ。少し前までは、アニメのキャラクターのガチャガチャしたのが流行っていた。今はシンプルなものが好まれる。
しかし、ルーセリウスには伝わらない。
「こんなものの上で仕事ができるかっ」
「なんでだよ。折り目も付かねえから、凸凹しねえし、問題ないだろ」
「うっかり穴でも空けたらどうするっ!」
「空かねえから……」
この地図は、机いっぱいに広がっており、つるりとしている。ルーセリウスはカップとソーサーを慎重に置くしかなかったが、それさえ嫌だったようだ。
どれだけ心配するのかと、ルーセリウスに呆れる宗徳の気持ちも、ルーセリウスには分からない。
「防水加工もしてあるって言ったろ? ったく、あ~、ほれ、こうして」
「っ、な、何をっ!」
地図に適当にペンで線を書く宗徳。それにルーセリウスは立ち上がって止めようとする。
「だから、落ち着けって。この濡れタオルでこうして……拭くと消えるくらいの加工はしてあるんだよ」
「…………は?」
ルーセリウスの思考が止まった。絶叫しそうになるくらい地図に無意味な線を書かれたことに衝撃を受けた後の衝撃だ。受け止めきれなかったようだ。
「だから、書き直しすりゃあいいんだよ。ほれ、さっさとしろ。それとも、単純にここと王都を直線で繋ぐか?」
「い、いかんっ。や、やはりそれなりにここまでの領都を繋いでくれなければ……」
「おうおう。それならそれで。定規使うか?」
「ああ……」
それからは落ち着いたらしく、ルーセリウスは綺麗に線を引き切った。
「これだ……っ」
「お、まあ、良さそうだな」
大きな仕事を終えたという様に、満足げにペンを置いたルーセリウス。地図を確認して頷く宗徳。寿子や亮司、幸菜は、二人の様子を微笑ましげに見ていた。
「本当に、なんか弟と世話焼きな兄って感じだな」
「ふふふっ。そうでしょう? 王妃様も可愛いのよ?」
「会ってみたいわねえ」
亮司と幸菜も、すっかり王族相手という緊張感をなくしていた。
「よし! 早速作業だ! ルース! この繋がる領都の領主への手紙? 許可状? なんか知らんが、そういうのいるだろ。よろしくな! とりあえず、ここからこの一番近い領地まで明日には終わらせるからな!」
「明日!?」
「おうっ。だから、今日中に領主に了解させといてくれよな!」
「っ、きょっ……わ、分かった……」
宗徳のやることだしなと、ルーセリウスは納得する。
そして、宗徳は満面の笑みで亮司と幸菜を見た。
「さっそくやるぞ!! 亮司! 幸菜さん! 魔法の訓練だ!!」
「え!? マジでやるのか!? それも今から!?」
「で、出来るのかしら……」
「大丈夫だって! やってやれないことはない!」
「ええ。本当に、この人はやれると思ったこと……いえ、やってみてもやれてしまうのよ……」
「そりゃあ……ノリさんらしいが……」
「ありそうねえ……」
寿子は呆れ顔だ。
宗徳はルーセリウスに手紙をさっさと書けと紙を用意していた。
「寿子!」
「ええ。書けたら、私が直接届けて来ますわ。あなたはすぐにでも取り掛かりたいのでしょう?」
「おうっ。行ってくるぜ!」
「亮司さん達は今日が初日なんですからね? 夕方には戻ってきてくださいよ」
「もちろんだ! 行くぞ!」
「お、おう」
「分かりましたっ」
亮司は戸惑いながら、幸菜は少しワクワクしながら宗徳の後に続いた。
「ここから始めるぞ! こう、カチっとさせて、スルっとさせるんだ! イメージは、トンボで綺麗に均しながら固める!」
「……」
「あ、分かりました~。こうですね?」
「おおっ! 幸菜さんは勘が良いなっ!」
「まあっ。ふふふっ。こんな感じでいいのね。亮司さん。難しく考えなくていいんですよ。感覚でいけます」
「か、感覚……ちょい、ゆっくりやってみる……」
「おう! がんばれ!」
「ファイトですよ! 亮司さんっ」
「お、おう……っ」
こうして応援されながら、十分もする頃には亮司もやり方を覚えた。
宣言した通り、日が落ち出す頃までに、隣の領都までの道が出来上がった。これにより、確かにやってやれないことはないなと、早くも亮司と幸菜は、宗徳のめちゃくちゃな主張に慣れはじめていた。
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