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mission 14 大地の再生
142 大地に
宗徳と寿子は魔術で風を操り、ほぼ同時に地上に降り立った。
寿子は宗徳が思いっきり顔を顰めているのを見て、先程受けていたイザリと宗徳の会話を思い出す。
「……魔素……でしたか……」
恐らく、宗徳にはその魔素が見えているのだ。だが、寿子には見えなかった。だから、魔素と聞いてそれを意識するようにする。そうすると、ゆっくりと目に見える景色が変わっていく。
「ッ……」
宗徳がさてどうしようかと考えていると、驚きに目を見開き、明らかに空気が悪いことを不快に思っているような顔を見せた寿子に気付いた。
「……見えるか?」
「っ、ええ……子ども達と出会った毒の霧を思い出します……」
「これも毒っちゃ、毒だがな……やれそうか?」
「そうですね……取り込んでしまった魔素を魔力として放出させる……先ずは、魔素と空気を分けましょう。気絶しているとはいえ、これ以上吸うのは問題です」
二人は無意識にあまり吸わないようにと、浅く呼吸していたのだが、それでもなんだか落ち着かない気持ちになってくるのを感じていた。
自分達の体で一度試してみようと、手に小さな火の玉を出してみる。少し警戒して蝋燭の火からいの感覚で出したのだが、それは野球のボールくらいの密度の高い火の玉になった。これだけで恐らく、ここら一帯を爆破できる。
「……っ、これ、気持ち悪ぃな……」
「ですね……いつもの感覚でやると、ズレが大きくて……っ、無理やり出てくる見たいな感じも気持ち悪いです……」
まるで、自分の体ではないような、そんな、思い通りにならない暴走気味な感覚があったのだ。
それでも何度か試し、認識との誤差を修正していく。
「いつもの二十五倍の感覚だな」
宗徳は物事を感覚で読み取る。もちろん、それが他人には伝わらないことを、これまでの半世紀以上の人生で分かっている。だが、ここにいるのは、長年連れ添った寿子だ。
「二十……より少し多く……なるほど……理解しました」
寿子は、宗徳の微妙な感覚の大きさまできちんと把握できる。
「相変わらずですねえ、あなたは」
「なんだよ。お前なら分かるんだからいいだろ」
「まあ、そうですね。こう……久し振りにピタっと正解が分かったような嬉しさを感じましたよ」
「っ、お、おう……っ」
「っ、も、もう、なんて顔をするんです……っ」
「ッ、すまん……」
黒い、体に悪い霧の中で二人で頬を赤らめる。
若い頃は、それこそ分かり合えたことが嬉しくて、答え合わせをするように二人の感覚を擦り合わせていった。
いつしか、それは日常的に自然なことになり、背筋がぞくりとするほど、ピタリとハマる感覚を感じることはなくなっていた。だからこそ、なんだか懐かしくて、くすぐったい。
二人は今、明らかに周りの状況を無視していた。
《くる……》
《ぐるる……》
白欐と黒欐は、宗徳の感覚の邪魔にならないようにと、少し前から離れていたのだが、いつの間にか二人の世界に入ってしまった様子に、『これ、どうする?』と顔を見合わせていた。
そんな二匹の隣りに、魔女の一人が降り立った。
「な~んか、微笑ましいことになってるね」
《くるる》
《ぐる……》
「あ~、言葉分かんないけど、言いたいことは分かるよ。やることやってからにしてってやつね」
《く、くる……》
《ぐるる……る……》
そこまでは言わないけどと、二匹は何度も目を見合わせて、確認しあう。空気の読める神さまだ。
「いいのいいの。あれよ。バカップルってね。ある意味別次元に二人の世界持ってるの。さっさと連れ戻すべきよ。ってことで、お二人さ~ん。仲良しなのは分かったから。助けたいんじゃないの?」
「「っ!!」」
はっと宗徳と寿子が現実に戻ってくる。先程よりも真っ赤になっていた。
「まっ、魔女様っ。あ、す、すんません! すぐやります! 白っ、黒っ、この魔素使って町の外に草原作ろうぜ!」
《く、くるる!?》
《ぐる?》
「だってよお、バカやったのは人だろ? 外に居る獣達に罪はねえだろ。な?」
《くるっ》
《ぐるっ》
それならと二匹は頷き合う。
人に制裁を加えるつもりで、この大地から力を奪った。これに巻き込まれたのが、魔獣達だ。凶暴化しているのも、食べ物がないからというのが大きい。
「人には反省させるための罰は必要だ。だから、町に影響がないように調整はするぞ」
《くるるっ》
《……ぐるっ、ぐるる!》
「ん? ああ。そうだな。人なら、町を広げるかもしれん。だが、魔獣達が元気になれば、弱ってる人なんて怯えて、更に外に出ようなんて思わなくてなるさ。もし、反省もなく町を広げたら、それこそ、またその土地の力を失くしてやればいい。きっちり反省させるぞ」
それが、白欐と黒欐が納得できる落とし所だろうと思うのだ。ゆっくりでいい。少しでも穏やかに、心のシコリを昇華できればと願う。この宗徳の思いが、二匹には嬉しかった。
《くるる……くるっ》
《ぐるっ》
「そうかっ。なら、やるぞ」
やるっ、と頷く二匹を撫で、宗徳は魔素をまとめながら、町の外に引っ張って行く。
そして、外壁も飛び越え、魔素の帯を一度自分の体を通して吸収し、ムチのように水の魔術として地面に叩きつけた。
大地を叩き起こすように、乾燥し、硬くなった土の地下深くに魔素を少し多めに混ぜた水を注ぎ込む。
ここに、白欐と黒欐の力が注ぎ込まれた。すると、宗徳の放った水の筋のついた土から、緑の若葉がふわりと生えてきたのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
二週空きます。
よろしくお願いします◎
寿子は宗徳が思いっきり顔を顰めているのを見て、先程受けていたイザリと宗徳の会話を思い出す。
「……魔素……でしたか……」
恐らく、宗徳にはその魔素が見えているのだ。だが、寿子には見えなかった。だから、魔素と聞いてそれを意識するようにする。そうすると、ゆっくりと目に見える景色が変わっていく。
「ッ……」
宗徳がさてどうしようかと考えていると、驚きに目を見開き、明らかに空気が悪いことを不快に思っているような顔を見せた寿子に気付いた。
「……見えるか?」
「っ、ええ……子ども達と出会った毒の霧を思い出します……」
「これも毒っちゃ、毒だがな……やれそうか?」
「そうですね……取り込んでしまった魔素を魔力として放出させる……先ずは、魔素と空気を分けましょう。気絶しているとはいえ、これ以上吸うのは問題です」
二人は無意識にあまり吸わないようにと、浅く呼吸していたのだが、それでもなんだか落ち着かない気持ちになってくるのを感じていた。
自分達の体で一度試してみようと、手に小さな火の玉を出してみる。少し警戒して蝋燭の火からいの感覚で出したのだが、それは野球のボールくらいの密度の高い火の玉になった。これだけで恐らく、ここら一帯を爆破できる。
「……っ、これ、気持ち悪ぃな……」
「ですね……いつもの感覚でやると、ズレが大きくて……っ、無理やり出てくる見たいな感じも気持ち悪いです……」
まるで、自分の体ではないような、そんな、思い通りにならない暴走気味な感覚があったのだ。
それでも何度か試し、認識との誤差を修正していく。
「いつもの二十五倍の感覚だな」
宗徳は物事を感覚で読み取る。もちろん、それが他人には伝わらないことを、これまでの半世紀以上の人生で分かっている。だが、ここにいるのは、長年連れ添った寿子だ。
「二十……より少し多く……なるほど……理解しました」
寿子は、宗徳の微妙な感覚の大きさまできちんと把握できる。
「相変わらずですねえ、あなたは」
「なんだよ。お前なら分かるんだからいいだろ」
「まあ、そうですね。こう……久し振りにピタっと正解が分かったような嬉しさを感じましたよ」
「っ、お、おう……っ」
「っ、も、もう、なんて顔をするんです……っ」
「ッ、すまん……」
黒い、体に悪い霧の中で二人で頬を赤らめる。
若い頃は、それこそ分かり合えたことが嬉しくて、答え合わせをするように二人の感覚を擦り合わせていった。
いつしか、それは日常的に自然なことになり、背筋がぞくりとするほど、ピタリとハマる感覚を感じることはなくなっていた。だからこそ、なんだか懐かしくて、くすぐったい。
二人は今、明らかに周りの状況を無視していた。
《くる……》
《ぐるる……》
白欐と黒欐は、宗徳の感覚の邪魔にならないようにと、少し前から離れていたのだが、いつの間にか二人の世界に入ってしまった様子に、『これ、どうする?』と顔を見合わせていた。
そんな二匹の隣りに、魔女の一人が降り立った。
「な~んか、微笑ましいことになってるね」
《くるる》
《ぐる……》
「あ~、言葉分かんないけど、言いたいことは分かるよ。やることやってからにしてってやつね」
《く、くる……》
《ぐるる……る……》
そこまでは言わないけどと、二匹は何度も目を見合わせて、確認しあう。空気の読める神さまだ。
「いいのいいの。あれよ。バカップルってね。ある意味別次元に二人の世界持ってるの。さっさと連れ戻すべきよ。ってことで、お二人さ~ん。仲良しなのは分かったから。助けたいんじゃないの?」
「「っ!!」」
はっと宗徳と寿子が現実に戻ってくる。先程よりも真っ赤になっていた。
「まっ、魔女様っ。あ、す、すんません! すぐやります! 白っ、黒っ、この魔素使って町の外に草原作ろうぜ!」
《く、くるる!?》
《ぐる?》
「だってよお、バカやったのは人だろ? 外に居る獣達に罪はねえだろ。な?」
《くるっ》
《ぐるっ》
それならと二匹は頷き合う。
人に制裁を加えるつもりで、この大地から力を奪った。これに巻き込まれたのが、魔獣達だ。凶暴化しているのも、食べ物がないからというのが大きい。
「人には反省させるための罰は必要だ。だから、町に影響がないように調整はするぞ」
《くるるっ》
《……ぐるっ、ぐるる!》
「ん? ああ。そうだな。人なら、町を広げるかもしれん。だが、魔獣達が元気になれば、弱ってる人なんて怯えて、更に外に出ようなんて思わなくてなるさ。もし、反省もなく町を広げたら、それこそ、またその土地の力を失くしてやればいい。きっちり反省させるぞ」
それが、白欐と黒欐が納得できる落とし所だろうと思うのだ。ゆっくりでいい。少しでも穏やかに、心のシコリを昇華できればと願う。この宗徳の思いが、二匹には嬉しかった。
《くるる……くるっ》
《ぐるっ》
「そうかっ。なら、やるぞ」
やるっ、と頷く二匹を撫で、宗徳は魔素をまとめながら、町の外に引っ張って行く。
そして、外壁も飛び越え、魔素の帯を一度自分の体を通して吸収し、ムチのように水の魔術として地面に叩きつけた。
大地を叩き起こすように、乾燥し、硬くなった土の地下深くに魔素を少し多めに混ぜた水を注ぎ込む。
ここに、白欐と黒欐の力が注ぎ込まれた。すると、宗徳の放った水の筋のついた土から、緑の若葉がふわりと生えてきたのだ。
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