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mission 18
188 慎重に
本来の自宅よりも、扉を通って普段の生活を送るようになった『時の屋敷』での生活が当たり前になる頃。
「寿ちゃん。買い物にわざわざ出るの面倒じゃないの?」
「畑に野菜、いくらでもあるしね。せめて、週に一回で良いんじゃない?」
美希鷹と律紀は、学校が終わるとほぼ毎日やって来る。そうして週に二回、スーパーの特売日に合わせて寿子と一緒にスーパーで待ち合わせをして買い物をする。この日も一緒に買い物をし、家に向かって歩いている所だった。
「そうねえ。けど、人の出入りが全くなくなるのって、物騒でしょう?」
自宅がいつも留守に見えるというのは良くない。夜も最近は『時の屋敷』で過ごしている。ずっと鍵をしたまま、窓も開けないというのは家にとっても良くないだろう。
「でも、おじいちゃんが新聞取りに来たりとかはしてるし、大丈夫じゃない?」
日に二度、宗徳は朝と夕に新聞と郵便を取りに来る。郵便物が溜まるのが一番良くないだろう。宗徳は朝に新聞を読まないと落ち着かないので、これは特に苦になることではない。ついでに窓を開けることもある。
「あの人は外にまでは出ないもの。それに、昔よりはご近所の方達との交流は減ったし、お喋り好きな人もいなくなってしまったけど、それでも、知っている人はいるから」
「あ~、いたいた。近所の家の事情とか、その人が知ると次の日には近所中に知られてるとかってくらいお喋りで嫌味っぽいおばちゃん」
お喋り好きで情報通。一日中、町内を練り歩いているんじゃないかという人が、どこの町内にも一人くらい居たものだ。その人が居たなら、日中家に居ないこともバレて、怪しまれていただろう。
「ふふふっ。嫌われ者になったりするけど、やっぱり、ああいう人が居る方が、ご近所との距離も取りやすいのよ。すぐに情報も入るしね?」
「どこに誰が引っ越してきたとか? 嫁に行ったとかでしょ」
「そう。どこそこの人が入院したとかね。近所に停まった救急車がどこの家の人を乗せていったかも次の日にはわかったものよ」
人のプライバシーを侵害するような行為で、今では憚られるものだが、完全に近所とは無関係、無関心を貫く冷たさよりは、噂話で盛り上がり、勝手にだが心配したり祝福したりできるのは、人の体温が感じられて良いものでもあった。
「え~、それ、ちょっと怖い」
「今の時代では、完全に非難される対象になるでしょうね。本人に悪気はないのよ? 今思えば、ただはっきりと物を言う人で、黙っていられない正直な人ってだけなんでしょうね」
「匿名で人の悪口書き込む奴らより、よっぽど良い人なんじゃね?」
「う~ん。そう思うと、確かに」
誰が言ったか分からない悪意ある言葉よりも、確実な発信者が分かり、堂々と話を広める人の方がまだ許せそうだと律紀も判断したらしい。
「陰から反応を見てニヤつく愉快犯より、的外れでも無自覚に知った事を所構わず口にする構ってちゃんの方が可愛げがあるってことだよなっ」
「構ってちゃんも迷惑よ……」
「ふふふっ」
そんな話をしながら、家に帰って来ると、どうやら宗徳が居間に来ているようだった。新聞と郵便物を取りに来たのだろうと予想できる。
「ただいま戻りました。あなた?」
いつもならば、すぐに出て来て、荷物を運ぼうとしてくれる宗徳。しかし、玄関を上がっても出て来る様子がない。
律紀も不思議に思ったようだ。
「おじいちゃん? 居るんだよね? ただいま~」
首を傾げながら、三人で居間に行くと、宗徳は手紙を机の上に置き、それを前にして寂しそうな顔をしていた。
「どうしたんです?」
「ん……ああ。お帰り」
「ただいま。今日は餃子パーティですよ。餃子の皮を沢山買ってきました」
「寧ろ買い占めて来た」
「お野菜いっぱいの餃子にしようって」
そう口にしながら、宗徳の顔色を窺っていた。すると、力ない笑みが返ってくる。
「そりゃあ、子ども達も喜ぶだろうな」
「ええ……あなた? 本当にどうしたんです?」
「ああ……バンとリョウジがな……」
そう言って、寿子に手紙を差し出す。それを確認した寿子はハッとする。
「っ、バンさんが亡くなった……? リョウジさんが、病気……っ」
「俺らの年齢なら、おかしいことじゃねえけど、やるせなくてな……」
「っ、ユキナちゃんが会いたいって……リョウジさんも……」
ユキナとは、バンと呼んだ友人の妻だ。夫婦共に昔の友人でもあった。夫が亡くなり、かなり気落ちしているようだ。そして、リョウジという友人も、もう先がないと言って、会いに来て欲しいとの手紙だった。
「明日にでもすぐに行きましょうっ!」
寿子にとってもどちらも友人で、今すぐにでも会いに行きたいと思っていた。しかし、宗徳は落ち着いた声で答える。
「寿子。少し、落ち着いて座れ」
「でもっ」
「座るんだ。俺たちは、こういうことにもっと慎重に、冷静に向き合わないといけない」
「そんなっ、悠長なことっ。リョウジさんにならポーションをっ」
「落ち着くんだっ」
「寿ちゃんっ! それはダメだよ!」
「っ……あ……」
落ち着かなくてはならない理由が、美希鷹にも言われたことで、寿子もわかった。
「分かるだろう……ポーションはダメだ」
「あ……っ、そ、そうよね……っ」
「そうだ。俺たちは、特別な力を持っている。だが、安易に使って良いものじゃない。それを……きちんと理解しよう。できる事があっても、やってはいけないこともあるんだ」
「……そう……ね……っ、ごめんなさい……」
助けられるのに、助けられない。助けてはいけないというのは、どうしても助からないのだと、救えないのだと絶望するよりも辛いことなのかもしれない。
数日、気持ちの整理をする必要がありそうだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「寿ちゃん。買い物にわざわざ出るの面倒じゃないの?」
「畑に野菜、いくらでもあるしね。せめて、週に一回で良いんじゃない?」
美希鷹と律紀は、学校が終わるとほぼ毎日やって来る。そうして週に二回、スーパーの特売日に合わせて寿子と一緒にスーパーで待ち合わせをして買い物をする。この日も一緒に買い物をし、家に向かって歩いている所だった。
「そうねえ。けど、人の出入りが全くなくなるのって、物騒でしょう?」
自宅がいつも留守に見えるというのは良くない。夜も最近は『時の屋敷』で過ごしている。ずっと鍵をしたまま、窓も開けないというのは家にとっても良くないだろう。
「でも、おじいちゃんが新聞取りに来たりとかはしてるし、大丈夫じゃない?」
日に二度、宗徳は朝と夕に新聞と郵便を取りに来る。郵便物が溜まるのが一番良くないだろう。宗徳は朝に新聞を読まないと落ち着かないので、これは特に苦になることではない。ついでに窓を開けることもある。
「あの人は外にまでは出ないもの。それに、昔よりはご近所の方達との交流は減ったし、お喋り好きな人もいなくなってしまったけど、それでも、知っている人はいるから」
「あ~、いたいた。近所の家の事情とか、その人が知ると次の日には近所中に知られてるとかってくらいお喋りで嫌味っぽいおばちゃん」
お喋り好きで情報通。一日中、町内を練り歩いているんじゃないかという人が、どこの町内にも一人くらい居たものだ。その人が居たなら、日中家に居ないこともバレて、怪しまれていただろう。
「ふふふっ。嫌われ者になったりするけど、やっぱり、ああいう人が居る方が、ご近所との距離も取りやすいのよ。すぐに情報も入るしね?」
「どこに誰が引っ越してきたとか? 嫁に行ったとかでしょ」
「そう。どこそこの人が入院したとかね。近所に停まった救急車がどこの家の人を乗せていったかも次の日にはわかったものよ」
人のプライバシーを侵害するような行為で、今では憚られるものだが、完全に近所とは無関係、無関心を貫く冷たさよりは、噂話で盛り上がり、勝手にだが心配したり祝福したりできるのは、人の体温が感じられて良いものでもあった。
「え~、それ、ちょっと怖い」
「今の時代では、完全に非難される対象になるでしょうね。本人に悪気はないのよ? 今思えば、ただはっきりと物を言う人で、黙っていられない正直な人ってだけなんでしょうね」
「匿名で人の悪口書き込む奴らより、よっぽど良い人なんじゃね?」
「う~ん。そう思うと、確かに」
誰が言ったか分からない悪意ある言葉よりも、確実な発信者が分かり、堂々と話を広める人の方がまだ許せそうだと律紀も判断したらしい。
「陰から反応を見てニヤつく愉快犯より、的外れでも無自覚に知った事を所構わず口にする構ってちゃんの方が可愛げがあるってことだよなっ」
「構ってちゃんも迷惑よ……」
「ふふふっ」
そんな話をしながら、家に帰って来ると、どうやら宗徳が居間に来ているようだった。新聞と郵便物を取りに来たのだろうと予想できる。
「ただいま戻りました。あなた?」
いつもならば、すぐに出て来て、荷物を運ぼうとしてくれる宗徳。しかし、玄関を上がっても出て来る様子がない。
律紀も不思議に思ったようだ。
「おじいちゃん? 居るんだよね? ただいま~」
首を傾げながら、三人で居間に行くと、宗徳は手紙を机の上に置き、それを前にして寂しそうな顔をしていた。
「どうしたんです?」
「ん……ああ。お帰り」
「ただいま。今日は餃子パーティですよ。餃子の皮を沢山買ってきました」
「寧ろ買い占めて来た」
「お野菜いっぱいの餃子にしようって」
そう口にしながら、宗徳の顔色を窺っていた。すると、力ない笑みが返ってくる。
「そりゃあ、子ども達も喜ぶだろうな」
「ええ……あなた? 本当にどうしたんです?」
「ああ……バンとリョウジがな……」
そう言って、寿子に手紙を差し出す。それを確認した寿子はハッとする。
「っ、バンさんが亡くなった……? リョウジさんが、病気……っ」
「俺らの年齢なら、おかしいことじゃねえけど、やるせなくてな……」
「っ、ユキナちゃんが会いたいって……リョウジさんも……」
ユキナとは、バンと呼んだ友人の妻だ。夫婦共に昔の友人でもあった。夫が亡くなり、かなり気落ちしているようだ。そして、リョウジという友人も、もう先がないと言って、会いに来て欲しいとの手紙だった。
「明日にでもすぐに行きましょうっ!」
寿子にとってもどちらも友人で、今すぐにでも会いに行きたいと思っていた。しかし、宗徳は落ち着いた声で答える。
「寿子。少し、落ち着いて座れ」
「でもっ」
「座るんだ。俺たちは、こういうことにもっと慎重に、冷静に向き合わないといけない」
「そんなっ、悠長なことっ。リョウジさんにならポーションをっ」
「落ち着くんだっ」
「寿ちゃんっ! それはダメだよ!」
「っ……あ……」
落ち着かなくてはならない理由が、美希鷹にも言われたことで、寿子もわかった。
「分かるだろう……ポーションはダメだ」
「あ……っ、そ、そうよね……っ」
「そうだ。俺たちは、特別な力を持っている。だが、安易に使って良いものじゃない。それを……きちんと理解しよう。できる事があっても、やってはいけないこともあるんだ」
「……そう……ね……っ、ごめんなさい……」
助けられるのに、助けられない。助けてはいけないというのは、どうしても助からないのだと、救えないのだと絶望するよりも辛いことなのかもしれない。
数日、気持ちの整理をする必要がありそうだった。
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