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第三章 制裁させていただきます
110 あなたも元気になって
カトラや黒子達によって、王都内の怪我人は全て治癒させた。時間としては二時間ほどだ。地図によって割り振ったのも良かったようだ。
そして、教会に戻って来る頃。カトラは自分が聖女と呼ばれていることに気付いた。
「……あれ、私のこと……?」
今の今まで自覚がなかった。『聖女が現れた』という声に『へえ……』と他人事として聞いていたのだ。黒子の誰かかなとも思わなかった。どうでも良かったのだ。
「そうだけど?」
「……」
「嫌だった?」
「……名前で特定されるのとは違うから……いいけど」
「うん。なら、そこは徹底させるね。変なのに目をつけられても嫌だし」
ターザとしては、カトラを特定されて王族などに目をつけられるのは良くないなと考えていた。なので、確実に徹底させるだろう。そこは安心できそうだ。
教会に入ると、国の代表が数人増えているようだった。それも、その増えた者たちは、教会の擁護に回っていた。
「あれは……もしかして、結界石を受け取ってる国?」
「それっぽいね」
彼らはこの国に恩を感じている。結界によって魔獣の脅威から守られていると思っているのだから当たり前だ。
大司教達の拘束を解こうともしたようだが、それは残った黒子達が許さなかったのだろう。
「恩恵を受けておきながら、これでは、神が許しはしません!」
「さっさと大司教達を解放しろ! どれだけこの国に助けられてきたと思っている!」
「こんなことをするなんて信じられませんわ!」
教えてやったらどうだろうとターザの顔を見る。クスクスと笑っていた。
「ターザ……」
絶対に面白がっている。
「だって、これでどうやって掌を返すか見ものじゃない?」
「まあ……そうだね。気になる」
人のことは言えなかった。面白そうだ。
ターザはパンパンと手を叩いて注目させた。
「いいかな。そっちの代表の人たちにお知らせしようと思うんだけど」
「なっ、何者です!」
ターザの肌の色の特徴を見れば、ここより遥か南の国の者だとわかる。そして、その国があまりこの国と関係を持っていないことも知っているようだった。だからこそ、何者だと思ったのだろう。
「俺は冒険者だよ。その人たちに迷惑を被った……ね。それでお知らせだけど……」
聖結界の性質と弊害について、ターザは懇切丁寧に解説した。ついでにふっかけられていましたよとも言っておく。落とすのに抜かりはない。
「ってことで、恩恵どころか確実に死と直結する結果になるんだけど大丈夫?」
「……」
「……っ」
誰もが口を閉じた。
だが、当事者となる先程まで強気で出ていた代表たちは、震えながらも確認する。顔は真っ青だ。
「で、では、あの聖結界があることで、周りの魔獣達が狂暴化したと……っ」
「そうだね。もう結界を失くしたら一日で国が滅ぶくらいには手遅れだけど」
魔獣達はあの結界を嫌悪している。そのため、なくなったら一直線だろう。回避はできない。
「っ、性能が悪いというのは……」
「あれくらいの結界石なら、ここの見習いレベルでも作れるよ。その証拠に、この国に張ってある聖結界は半年保つ結界石を使ってる。まあ、俺にしたらそれでも低品質だけど」
「は、半年!? 毎日交換していましたよ!?」
「だろうねえ」
消費量がハンパない。
「ま、まさか、昼ごろに冒険者達が町から消えるのは……知っているから……?」
「あ~、あの辺では常識。冒険者ギルドは結界を張って交換の時間の安全確保をするんだよ。可能なら冒険者達は外に出る。狙われるのは町の方だからね」
冒険者ギルドは聖結界の弊害について理解していた。そのため、きっちり自分達だけは守れるようにしていたのだ。
「っ、なぜ教えてくれないんだ!!」
「それ、言うと思ったよ。どうだった?」
ターザが確認するように目を向けた先。そこに居た黒子の一人が報告する。
「はい。どの冒険者ギルドも、何度か国に聖結界に頼るのは止めるようにと伝えておりました」
「だよね。ってことだよ。聞く耳持たなかったのはそっち。理解するまで何度も説明したりするほど親切にする必要ないよね?」
「っ……そんな……っ」
ギルドも警告は何度もした。それでも改善しないなら諦める。勝手にしろと自分達だけは守れるように行動していたというわけだ。
「言っておくけど、聖結界を張らない体制に今からするなら、特大の魔獣の集団暴走を相手にする用意がないと無理だからね? 突然結界消したら滅びに一直線。あと、冒険者が協力するかも微妙。ギルドも思うところあるだろうしね」
「っ……どうすれば……」
「答えをあげると思う? とりあえず、帰って相談したら? こいつら擁護するだけ無駄だって分かったでしょ」
「……失礼します」
「わ、私も……」
「……お騒がせしました……」
肩を落とし、彼らは出て行った。
「反発しなかったね」
「ちょっと衝撃を与えすぎたかな」
掌返しが見えなくて残念だ。
「さてと。それで、こっちはどうなったのかな」
黒子の方に確認する。
「この国の解体を視野に入れております」
「やっぱり? そこで提案なんだけど」
代表達はターザへ目を向ける。一介の冒険者の意見を聞こうという彼らが不思議だ。
「住民達に聞くところによると、そこの教皇は悪い人ではないらしい」
全員の視線が集中し、教皇はびくりと震えた。
「影で人助けしてたヘタレみたいだね。どう? 国を一つ解体するのは大変だよ? 何より、さっきの人たちの国が周りにあって防壁の役目をさせてるけど、同じように聖結界がなければ生きていけないような危険区域になってる。分けるとかも無理でしょう?」
「……」
誰もが考え込む。先程の聖結界の弊害を聞いたからこそ悩む。
「ってことで考え直すといいよ」
そうしてもう一度放り出した。
カトラは教皇に近付く。かなり疲れているようだったからだ。
「大丈夫?」
「え……」
他にも疾患があったようだ。というか、胃に穴が空いていた。すべて癒す。教皇は普段はもう麻痺して感じていなかった痛み。けれど、確実に楽になったのに驚いていた。
「食事も考えるね。鍛冶屋のおじちゃんや果物屋のおばちゃんも心配してたよ」
「あ……そ、そうですか……」
「ちゃんと全員の怪我は治してきたよ」
「怪我を?」
「うん。だから、あなたも元気になって。食事、用意しておくね」
「っ……?」
栄養も全く足りていない。ガリガリな教皇なんて絵面的よろしくない。
「ターザ、食事作ってくる」
「少ししたら行くよ。誰かついてて」
「わたくしが」
「フェジか。頼むよ」
「はい」
フェジに案内され、教会の厨房へ向かった。
************
読んでくださりありがとうございます◎
そして、教会に戻って来る頃。カトラは自分が聖女と呼ばれていることに気付いた。
「……あれ、私のこと……?」
今の今まで自覚がなかった。『聖女が現れた』という声に『へえ……』と他人事として聞いていたのだ。黒子の誰かかなとも思わなかった。どうでも良かったのだ。
「そうだけど?」
「……」
「嫌だった?」
「……名前で特定されるのとは違うから……いいけど」
「うん。なら、そこは徹底させるね。変なのに目をつけられても嫌だし」
ターザとしては、カトラを特定されて王族などに目をつけられるのは良くないなと考えていた。なので、確実に徹底させるだろう。そこは安心できそうだ。
教会に入ると、国の代表が数人増えているようだった。それも、その増えた者たちは、教会の擁護に回っていた。
「あれは……もしかして、結界石を受け取ってる国?」
「それっぽいね」
彼らはこの国に恩を感じている。結界によって魔獣の脅威から守られていると思っているのだから当たり前だ。
大司教達の拘束を解こうともしたようだが、それは残った黒子達が許さなかったのだろう。
「恩恵を受けておきながら、これでは、神が許しはしません!」
「さっさと大司教達を解放しろ! どれだけこの国に助けられてきたと思っている!」
「こんなことをするなんて信じられませんわ!」
教えてやったらどうだろうとターザの顔を見る。クスクスと笑っていた。
「ターザ……」
絶対に面白がっている。
「だって、これでどうやって掌を返すか見ものじゃない?」
「まあ……そうだね。気になる」
人のことは言えなかった。面白そうだ。
ターザはパンパンと手を叩いて注目させた。
「いいかな。そっちの代表の人たちにお知らせしようと思うんだけど」
「なっ、何者です!」
ターザの肌の色の特徴を見れば、ここより遥か南の国の者だとわかる。そして、その国があまりこの国と関係を持っていないことも知っているようだった。だからこそ、何者だと思ったのだろう。
「俺は冒険者だよ。その人たちに迷惑を被った……ね。それでお知らせだけど……」
聖結界の性質と弊害について、ターザは懇切丁寧に解説した。ついでにふっかけられていましたよとも言っておく。落とすのに抜かりはない。
「ってことで、恩恵どころか確実に死と直結する結果になるんだけど大丈夫?」
「……」
「……っ」
誰もが口を閉じた。
だが、当事者となる先程まで強気で出ていた代表たちは、震えながらも確認する。顔は真っ青だ。
「で、では、あの聖結界があることで、周りの魔獣達が狂暴化したと……っ」
「そうだね。もう結界を失くしたら一日で国が滅ぶくらいには手遅れだけど」
魔獣達はあの結界を嫌悪している。そのため、なくなったら一直線だろう。回避はできない。
「っ、性能が悪いというのは……」
「あれくらいの結界石なら、ここの見習いレベルでも作れるよ。その証拠に、この国に張ってある聖結界は半年保つ結界石を使ってる。まあ、俺にしたらそれでも低品質だけど」
「は、半年!? 毎日交換していましたよ!?」
「だろうねえ」
消費量がハンパない。
「ま、まさか、昼ごろに冒険者達が町から消えるのは……知っているから……?」
「あ~、あの辺では常識。冒険者ギルドは結界を張って交換の時間の安全確保をするんだよ。可能なら冒険者達は外に出る。狙われるのは町の方だからね」
冒険者ギルドは聖結界の弊害について理解していた。そのため、きっちり自分達だけは守れるようにしていたのだ。
「っ、なぜ教えてくれないんだ!!」
「それ、言うと思ったよ。どうだった?」
ターザが確認するように目を向けた先。そこに居た黒子の一人が報告する。
「はい。どの冒険者ギルドも、何度か国に聖結界に頼るのは止めるようにと伝えておりました」
「だよね。ってことだよ。聞く耳持たなかったのはそっち。理解するまで何度も説明したりするほど親切にする必要ないよね?」
「っ……そんな……っ」
ギルドも警告は何度もした。それでも改善しないなら諦める。勝手にしろと自分達だけは守れるように行動していたというわけだ。
「言っておくけど、聖結界を張らない体制に今からするなら、特大の魔獣の集団暴走を相手にする用意がないと無理だからね? 突然結界消したら滅びに一直線。あと、冒険者が協力するかも微妙。ギルドも思うところあるだろうしね」
「っ……どうすれば……」
「答えをあげると思う? とりあえず、帰って相談したら? こいつら擁護するだけ無駄だって分かったでしょ」
「……失礼します」
「わ、私も……」
「……お騒がせしました……」
肩を落とし、彼らは出て行った。
「反発しなかったね」
「ちょっと衝撃を与えすぎたかな」
掌返しが見えなくて残念だ。
「さてと。それで、こっちはどうなったのかな」
黒子の方に確認する。
「この国の解体を視野に入れております」
「やっぱり? そこで提案なんだけど」
代表達はターザへ目を向ける。一介の冒険者の意見を聞こうという彼らが不思議だ。
「住民達に聞くところによると、そこの教皇は悪い人ではないらしい」
全員の視線が集中し、教皇はびくりと震えた。
「影で人助けしてたヘタレみたいだね。どう? 国を一つ解体するのは大変だよ? 何より、さっきの人たちの国が周りにあって防壁の役目をさせてるけど、同じように聖結界がなければ生きていけないような危険区域になってる。分けるとかも無理でしょう?」
「……」
誰もが考え込む。先程の聖結界の弊害を聞いたからこそ悩む。
「ってことで考え直すといいよ」
そうしてもう一度放り出した。
カトラは教皇に近付く。かなり疲れているようだったからだ。
「大丈夫?」
「え……」
他にも疾患があったようだ。というか、胃に穴が空いていた。すべて癒す。教皇は普段はもう麻痺して感じていなかった痛み。けれど、確実に楽になったのに驚いていた。
「食事も考えるね。鍛冶屋のおじちゃんや果物屋のおばちゃんも心配してたよ」
「あ……そ、そうですか……」
「ちゃんと全員の怪我は治してきたよ」
「怪我を?」
「うん。だから、あなたも元気になって。食事、用意しておくね」
「っ……?」
栄養も全く足りていない。ガリガリな教皇なんて絵面的よろしくない。
「ターザ、食事作ってくる」
「少ししたら行くよ。誰かついてて」
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