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第三章 制裁させていただきます
112 どこまで怒ってる?
小さな奥にある厨房から、こちらを覗きこむ料理人達。
カトラの魔術により、厨房と一緒に彼らも綺麗にしたので、最初に見たへこたれたような様子はもうない。
カトラはミンチの塊を乗せたバットを彼らに差し出す。
「これ、一口サイズの肉団子にして。スープはそこのトマトと野菜はこれで」
「っ……い、いただけるのですか……?」
「材料ないと出来ないでしょ?」
「……いえ、ですが……我々がもらえるのはいつも……」
料理人達は戸惑って手を出すことも、こちらへ一歩を踏み出すこともしない。
カトラが首を傾げて待っていると、ターザが隣へやってくる。
「早く受け取ってくれる? カーラが疲れるでしょ」
「っ、は、はい! あ、有り難く使わせていただきます!」
少しターザが威圧したため、料理人達は慌てて受け取った。だが、手がかなり震えているのに気づいた。
だから、カトラは離れていくその手に触れる。
「っ!?」
「大丈夫? 熱があるよ? 少し待って」
「え……?」
カトラは神聖魔術を発動する。ただし、怪我を治す一般的なものではない。神聖魔術では病は治らないのだから。だが、魔術として使えるカトラは別だ。
「これでいいね。後ろの人達も」
「へ?」
「あれ?」
「え?」
同じように調子の悪そうな者達を癒した。中には、怪我を中途半端に治された者もあったらしく、それが疲労すると熱を持つようになっていた。単に風邪を引いていた者も多かったようだ。
「ここ、衛生環境も悪かったし、他にも調子悪い子いるかな?」
「……居るだろうけど、全員治すつもり?」
「うん。お料理はこの人達に任せて、その間に」
「……」
ターザは考えるように口を閉ざした。そんなターザを、カトラは見つめる。
「ダメ? ターザがダメだって言うならやらない……」
「っ、なんで……?」
カトラは少し首を傾げながらターザを見上げた。すると、ターザは息を呑んで緩んでしまいそうになる口元を慌てて手で覆っていた。
「だって、ターザはまだこの国に怒ってるでしょう? 私も……まだ完全に許した訳じゃないし……どこまで怒ってる?」
「っ……」
ターザはカトラをずっと優先してきた。それがわかっているから、カトラはターザに判断を委ねる。責任を押し付けようとかそういうことではない。カトラだってターザの思いを大切にしたいのだ。
この国に来て、祖母とも会えた。助けられた。黒子達のこともそうだ。敵であった者だというのに、カトラのための守りとしてくれた。
ターザはいつだってカトラのために行動してくれる。ならばせめて、ターザが望まないことはしないでおこうと思ったのだ。
「これは私のわがまま。けど、ターザが不快に思うくらいならやらない。やりたいとは思わない」
「……それは、我慢することにはならない?」
「ならない。私も……ターザのこと、一番に思いたいから……」
「っ……」
ずっと考えていた。前世から見守ってくれていたと聞いて、きちんとターザとの関係を考えなくてはと思った。この思いに報いなくてはと。
こんなに大切に思ってくれる人など前世でも居なかった。だからこそ、失いたくはない。向けられる思いを感じられるようになった今、今度は答えなくてはならないと思った。
「この国でのことが終われば、私はやっと自由になれる。縛られるものがなくなる。だから、もっとちゃんと……ターザとも向き合えるよ。報いることができる。ここが始まり。ねえ、ターザは……こういうの、迷惑?」
「っ、そんなわけないよっ。でも、報いるとかはいらない。カーラが側に居てくれるだけでいいよ。それと、俺にはわがままであって欲しい。だから良いよ。君がしたいようにして。俺もやりたいようにやる。君のために」
ターザは嬉しそうに笑った。だから同じように笑みを向ける。
「分かった。でも、して欲しいこととかあったら言ってね?」
「うん。あ、なら……ううん。ごめん。なんでもない」
何か思いついたというように口にしたが、すぐにターザは首を横に振った。
「なあに?」
「っ……」
一歩近付き、上目遣いで見上げるカトラに、ターザは驚いたように息を止めた。
「ちゃんと言って。私……察するとか苦手」
「っ、う、うん……結っ……婚約してくれないかなって……ほら、ここで目立っちゃったから、言い寄ってくる奴も増えそうだしっ。でも、カーラはそういうのっ……」
「いいよ」
「……へ?」
カトラは昔から、仮でも婚約とか恋人とかを嫌がる。愛や恋が理解できないからだ。それを装おうというのができない。どこか、完璧主義な所のあるカトラは、そういった中途半端が嫌なのだ。
だが、今確かにカトラは頷いた。頬を赤めながら。
「いいよ……っ、前まではまだ、政略結婚とかあり得たしっ……それだと迷惑がかかるって思ってた。それに……ターザの冗談だと思ってたから……冗談じゃない……んだよね?」
「本気だよ! いつだって俺は本気だったっ」
「なら……婚約……しよう?」
「うっ、そ、その目……ちょっと刺激が強過ぎるよ……っ……結婚しよう!」
「ん? 婚約じゃないの?」
「すぐに結婚しようね!」
とっても分かりやすく暴走しだした。これはまずい。今すぐにでもドレスとか手配しそうだ。
「えっと……婚約期間は欲しいな~……やっぱりこ、婚約者だって……その、紹介されるの……やってみたい」
「っ、分かった! 婚約者! うん。今日から君は俺の婚約者だよ!」
「っ、うん。よっ、よろしく……?」
「うん!」
ちょっと恥ずかしいが、婚約者に憧れはあった。だから、まあ素直になってもいいかと思ったのも確かだ。これはこれで正解だろう。
そんな一連の出来事が、厨房で行われたのだ。
「あ、こんな所でとか、もったいない! そうだ! お義父さんに報告しないとねっ」
「あ~……うん」
張り切るターザに、カトラは少しばかり引く。
「……早まった?」
ほんのちょっとだけ後悔した。
************
読んでくださりありがとうございます◎
カトラの魔術により、厨房と一緒に彼らも綺麗にしたので、最初に見たへこたれたような様子はもうない。
カトラはミンチの塊を乗せたバットを彼らに差し出す。
「これ、一口サイズの肉団子にして。スープはそこのトマトと野菜はこれで」
「っ……い、いただけるのですか……?」
「材料ないと出来ないでしょ?」
「……いえ、ですが……我々がもらえるのはいつも……」
料理人達は戸惑って手を出すことも、こちらへ一歩を踏み出すこともしない。
カトラが首を傾げて待っていると、ターザが隣へやってくる。
「早く受け取ってくれる? カーラが疲れるでしょ」
「っ、は、はい! あ、有り難く使わせていただきます!」
少しターザが威圧したため、料理人達は慌てて受け取った。だが、手がかなり震えているのに気づいた。
だから、カトラは離れていくその手に触れる。
「っ!?」
「大丈夫? 熱があるよ? 少し待って」
「え……?」
カトラは神聖魔術を発動する。ただし、怪我を治す一般的なものではない。神聖魔術では病は治らないのだから。だが、魔術として使えるカトラは別だ。
「これでいいね。後ろの人達も」
「へ?」
「あれ?」
「え?」
同じように調子の悪そうな者達を癒した。中には、怪我を中途半端に治された者もあったらしく、それが疲労すると熱を持つようになっていた。単に風邪を引いていた者も多かったようだ。
「ここ、衛生環境も悪かったし、他にも調子悪い子いるかな?」
「……居るだろうけど、全員治すつもり?」
「うん。お料理はこの人達に任せて、その間に」
「……」
ターザは考えるように口を閉ざした。そんなターザを、カトラは見つめる。
「ダメ? ターザがダメだって言うならやらない……」
「っ、なんで……?」
カトラは少し首を傾げながらターザを見上げた。すると、ターザは息を呑んで緩んでしまいそうになる口元を慌てて手で覆っていた。
「だって、ターザはまだこの国に怒ってるでしょう? 私も……まだ完全に許した訳じゃないし……どこまで怒ってる?」
「っ……」
ターザはカトラをずっと優先してきた。それがわかっているから、カトラはターザに判断を委ねる。責任を押し付けようとかそういうことではない。カトラだってターザの思いを大切にしたいのだ。
この国に来て、祖母とも会えた。助けられた。黒子達のこともそうだ。敵であった者だというのに、カトラのための守りとしてくれた。
ターザはいつだってカトラのために行動してくれる。ならばせめて、ターザが望まないことはしないでおこうと思ったのだ。
「これは私のわがまま。けど、ターザが不快に思うくらいならやらない。やりたいとは思わない」
「……それは、我慢することにはならない?」
「ならない。私も……ターザのこと、一番に思いたいから……」
「っ……」
ずっと考えていた。前世から見守ってくれていたと聞いて、きちんとターザとの関係を考えなくてはと思った。この思いに報いなくてはと。
こんなに大切に思ってくれる人など前世でも居なかった。だからこそ、失いたくはない。向けられる思いを感じられるようになった今、今度は答えなくてはならないと思った。
「この国でのことが終われば、私はやっと自由になれる。縛られるものがなくなる。だから、もっとちゃんと……ターザとも向き合えるよ。報いることができる。ここが始まり。ねえ、ターザは……こういうの、迷惑?」
「っ、そんなわけないよっ。でも、報いるとかはいらない。カーラが側に居てくれるだけでいいよ。それと、俺にはわがままであって欲しい。だから良いよ。君がしたいようにして。俺もやりたいようにやる。君のために」
ターザは嬉しそうに笑った。だから同じように笑みを向ける。
「分かった。でも、して欲しいこととかあったら言ってね?」
「うん。あ、なら……ううん。ごめん。なんでもない」
何か思いついたというように口にしたが、すぐにターザは首を横に振った。
「なあに?」
「っ……」
一歩近付き、上目遣いで見上げるカトラに、ターザは驚いたように息を止めた。
「ちゃんと言って。私……察するとか苦手」
「っ、う、うん……結っ……婚約してくれないかなって……ほら、ここで目立っちゃったから、言い寄ってくる奴も増えそうだしっ。でも、カーラはそういうのっ……」
「いいよ」
「……へ?」
カトラは昔から、仮でも婚約とか恋人とかを嫌がる。愛や恋が理解できないからだ。それを装おうというのができない。どこか、完璧主義な所のあるカトラは、そういった中途半端が嫌なのだ。
だが、今確かにカトラは頷いた。頬を赤めながら。
「いいよ……っ、前まではまだ、政略結婚とかあり得たしっ……それだと迷惑がかかるって思ってた。それに……ターザの冗談だと思ってたから……冗談じゃない……んだよね?」
「本気だよ! いつだって俺は本気だったっ」
「なら……婚約……しよう?」
「うっ、そ、その目……ちょっと刺激が強過ぎるよ……っ……結婚しよう!」
「ん? 婚約じゃないの?」
「すぐに結婚しようね!」
とっても分かりやすく暴走しだした。これはまずい。今すぐにでもドレスとか手配しそうだ。
「えっと……婚約期間は欲しいな~……やっぱりこ、婚約者だって……その、紹介されるの……やってみたい」
「っ、分かった! 婚約者! うん。今日から君は俺の婚約者だよ!」
「っ、うん。よっ、よろしく……?」
「うん!」
ちょっと恥ずかしいが、婚約者に憧れはあった。だから、まあ素直になってもいいかと思ったのも確かだ。これはこれで正解だろう。
そんな一連の出来事が、厨房で行われたのだ。
「あ、こんな所でとか、もったいない! そうだ! お義父さんに報告しないとねっ」
「あ~……うん」
張り切るターザに、カトラは少しばかり引く。
「……早まった?」
ほんのちょっとだけ後悔した。
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