贖罪人形

黒泥

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贖罪人形

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男は笑う。自分を殺そうと、人形が城に足を踏み入れたことを察知して。心底楽しそうに。男は呟く。
「さあ、君に、殺すことが出来るか。」

思った通り、男は広間の玉座で、悠々と座っていた。人形は、自分の持てる全力の速さで、男に向かって刃物を出しながら突進する。そして、そのまま首に、刃物を突き立てた。血飛沫が上がる。玉座が赤く染まる。人形は、刃物を、自らに向けてー。
「ハハハハハ」
人形は飛び退いた。殺したはずの男が笑っている。そして、人形は男の首を見て絶句した。いつの間にか、男の首が治っている。
「人形、話をしないか?互いにとって有益な話だ。」
「聞く気は無いです。」
繰り返し、人形は男の身体中に刃物を突き立てる。しかし、男の身体には傷一つ付いた痕跡すらない。なぜ、傷つかないのか。しかし、わかってしまったことがあった。理解してしまったことがあった。この男は、死なない。
男は繰り返し言う。
「話を聞いてくれ。」
沈黙。男はそれを許可と取ったのか、人形に語り掛ける。
「君の願いはなんだ?」
ニヤリとしながら聞く男に向け、人形は嘘をつく。
「あなたの死です。」
男は、片手で両目を抑え、声にならない笑い声をあげる。そのまま半笑いで、人形に言い放つ。
「嘘つけ、主の復活だろう?叶えてやろうか。」
誘いに乗ってはいけない。そのくらい、人形でもわかる。しかし、主の復活は、自分の罪滅ぼしとして、贖罪として、とても魅力的に感じてしまった。男は続ける。
「ただし、生贄が必要だ。人の命ひとつ奪うのは簡単だが、戻すとなればそうはいかない。なに、心配することはない。これまで通りのことをしていれば、生贄はいずれ集まる。」
その誘いに、甘い言葉に、人形は堕とされる。従えば、大切なものが元に戻る。自分の贖罪もできる。こんな悪魔と心中するよりも、とてもいい。
人形は気が付かない。また、男の言葉を、無意識に全て信じていることに。

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かつて、行方不明者が絶えなかったその街では、死体が大量に見つかるようになった。なんでも、主の復活のため、主を殺した罪を償うため、夜な夜な人を殺し続ける人形がいるそうだ。それが、本当に罪滅ぼしと呼べるのか、人形自身も分かっていないらしい。

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人形は、あれから殺し続けた。主は、一向に復活しない。男は、生贄が足りないと言っている。いつまで、生贄集めが、続くのだろうか。

それが終わらないことを、もう知っている。

それが終わることを、ずっと信じている。

今日も人形は殺す。

贖罪のために。


                                                         贖罪人形~完~
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