Dark Moon

たける

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「到着3分前です」

ミューズが報告し、ジョシュは頷いた。その視線はまだ副艦長席を見つめていたが、誰もそれを注意する者はいなかった。
ちょっと借りる、と、男は言っていた。今にして思えば、何故あの時ホップスが進言したように、男を疑い、止められなかったのか。いや、いくら返して貰えないと分かっていても、それは一瞬の事で、誰にも止められなかったに違いない。
借りると言っていたのだ。必ず返してくれる。そう、返してくれる筈だ。
ジョシュはそう思い込もうとした。
その時、見つめていた視線の先に、突如副艦長の姿が戻った。一瞬幻覚かと目を見開き擦ってみる。何度か瞬きをしていると、それは席から立ち上がってジョシュの元へと歩み寄って来た。
誰も言葉を発しないのは、ジョシュのように幻覚ではないかと疑っているからだろうか。

「艦長、只今戻りました」

目の前には疑いようもなくファイが立っている。立ち上がり、その肩を叩くと確かな手応えがあった。

「ファイ……!おっかえりー!」

友人を抱きしめると、ファイは口角を僅かに引き攣らせた。

「遅くなってしまってすみません」

腕を回すのが躊躇われ、ファイはジョシュの腕をそっと掴むだけに止まった。

「無事だったんだな……!良かった」

抱擁を解いたジョシュは、人懐っこい笑みを見せた。その中に嬉しさと僅かな怒りと悲しみが混ざっていたが、その感情を何と呼ぶのか彼には分からなかった。

「はい。私は無事です」

ここは笑って見せるシーンだが、ファイは笑わなかった。だがその口元は笑おうとしているように見える。ジョシュにはそれだけで十分だった。

「艦長、間もなく地球へ到着します」

デルマの報告に、2人してスクリーンへと振り返る。そこには満面の笑みを浮かべる仲間達がいた。
自分には待っていてくれる仲間がいる。もう、決して1人ではない。その事に深い感銘を受けたが、それを顔には出さない。

「よし、ファイ。到着準備だ……!」

きびきびとした動きで指令席に向かう艦長を、落胆せずに済んだ事に安堵し、ファイも自身の席へと向かった。
自分のこれから歩む道は暗くはない。例え闇が待ち受けていたとしても、何も恐れる必要はなかった。




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