Dark Moon

たける

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明け方近くになり、緩やかな睡魔がゆっくりと舞い降り始めた時、部屋に何者かの気配を感じた。

「またいらしたんですか?ノッド」

振り返る事なくそう言うファイは、コンソールの電源を落とした。

「俺には、どこにも戻る場所はない」

作るつもりもない。だがまた、作ってみるのも悪くはないだろう。それが再び悲しみを伴う物であったとしても、長い歳月を1人で過ごす事に比べれば、幾分かはましに思えた。

「どこか、戻りたい場所はないのですか?」

そう言いながら振り返ったファイは、扉の前に立つノッドを見つめた。数時間前に見た男と同一だとは思えない。
悲しみに満ちた瞳はファイを捉えている。

「ない、もう」
「それなら、作ればいいのでは?」

立ち上がり歩み寄る。ノッドは動かない。

「何処にだ?」

頬に触れる指先は、細く白い。それは大切な人を思い返させるようだ。だが、違う。別人だ。

「そうですね」

どこか自分に似ている男に触れながら、それが自分でも構わないと言う気になってくる。それを何と呼ぶか知っている。
だが口にはしない。

「貴方が望めば、どこにでもそれは作れる筈です」
「どこでも……?例えば?」

腰を抱き寄せ、ファイを見つめる。何を言おうとしているか分かっていた。
それを敢えてこのリタルド人に言わせてやりたい。

「私に、何を言わせたいのです?」

互いにそれを、相手に言わせてやりたいと思っているらしい。ファイは口角を僅かに引き攣らせた。

「まさか俺に言わせるつもりなのか?」
「貴方が、そう望まなければなりません」

即座に切り返すと、ノッドは微笑した。年上だとは思えない、幼い笑みだ。

「お前はどうなんだ?望まないのか?」

クールなファイは、唇を強く結んでいる。何と答えるのがいいのかを考えているのだろう。

「たまには、自分に素直になったらどうだ?」

唇に指で触れると、ファイは僅かに唇を開いた。

「ノッド、貴方は私にとってはまだ未知の存在です」

どうやら素直には言えないらしい。

「だから?」
「1人の男として、貴方に興味がある」

差し延べられる手を掴む。

「俺もお前に興味がある。だからファイ、俺に全部見せろ」

キスをされ、ファイはその柔らかな感触にそっと目を細めた。悪くない。
この後、ノッドがどのような行動に出るかは分かっていた。だがもう、拒もうと言う気はなかった。
何故そのように思うようになったかは分からない。自分でも、それがおかしな考えだと理解している。だがノッドは、素直になれ、と言っていた。

「不本意ではありますが、まぁ……いいでしょう」

唇を重ねる。今度はすぐに放れたりはしなかった。

「素直じゃねーっての」

いつか、このリタルド人に素直になる事の必要性を教えてやろう。時間はたっぷりある。
ノッドに、漸く戻る場所とこれから共に生きる者。そして、成さねばならない事が出来た。
それは実に70年もかかって捜し出した、新しい秘境の地だった。


















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