arkⅣ

たける

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いくつもの光子魚雷がアルテミス号を攻撃し、ミューズが迎撃する中、デルマが間髪のところで回避していた。それでもいくつかが船尾に当たり、艦が震動する。

「シールドが70%に低下!」

ノッドの報告に、ジョシュは頷いた。そして視界の隅では、自身のコンソールをチェックしていた。


──まだ戻らないのか!


苛々しながらも、その時を待っていた。と、不意に転送部からの通信が入り、機関士のカールから、2人を無事収容したと報告を受けた。

「バートン看護婦長を無事収した!フェイザー砲用意!」
「フェイザー砲用意!照準、ワムール艦にセット!」

ミューズがコンソールの上で指を踊らせた。そしてリフトの扉が開くと、ファイがバートン看護婦長を連れて入ってきた。

「発射!」

モニターが煌めき、フェイザー砲がワムール艦を貫いた。そしてすぐさま、ジョシュは光子魚雷を発射するよう命じた。

「光子魚雷発射!」

フェイザー砲の攻撃で損傷を受けていたワムール艦は、シールドも低下している。そこへとどめの光子魚雷が直接ワムール艦に衝突し、あちこちで爆発を起こした。次いで2発目の魚雷がワムール艦に衝突すると、広大な爆風だけを残して画面から消えた。モニターは再びヨラヌス艦と星間を映し出している。

「艦長、ただ今戻りました」

司令席の脇に立ったファイが、無感情な声で言った。ジョシュは椅子を回転させると、申し訳なさそうにしているジュリアを見上げた。

「あの、ご心配をおかけしてすみません」
「いや、無事帰艦してくれて嬉しいよ。ただちに医務室で、船医長の補助を頼む」

ワイズも、彼女の帰艦を心待ちにしている。一刻も早く、会わせてやりたい。

「はい、では、失礼します」

ジュリアはブリッジを出て行った。次いでジョシュはファイを見遣った。

「タルボル艦長には、トラボタヌ石の運搬許可と、それに対する条件を伝えてあります」
「よし。ホップス、ヨラヌス艦と通信を」

再び椅子を回してモニターを見ると、タルボル艦長が映った。

「副艦長から伝えた通りだ。貴艦はワープ2でヨラヌス星へ向かってくれ。我々も後を追う」
『ありがとう、デビット艦長。それでは向こうで会おう』

通信を終えたジョシュは、さっそくミューズにワープ2でヨラヌス星へ向かうよう指示した。

「到着まで4分だ」

計算をし、ノッドが報告する。ジョシュは頷くと、通信席へ歩み寄った。

「キルトン船医長に、転送室で会おうと伝えてくれ。ファイ、我々がヨラヌス星へ上陸している間、君が指揮を出してくれ」

そう言ってリフトへ乗り込もうとしたが、ファイに引き止められた。振り返ると、姿勢正しくこちらを見ている。

「艦長、ヨラヌス艦に誰かを置いておかなくて良かったのですか?」
「あぁ。彼等はバートンを無傷で返してくれた。だからこそ信用し、誰も置かなかったんだ」

こう言った小さな事象の積み重ねで信頼を得て、行く行くは宇宙連邦の平和軍に加入してもらう。それがジョシュの狙いだ。

「まだ何かあるかい?」
「はい。ヨラヌス星へ、私も連れて行って下さい。船医長が一緒と言えど、科学士官も必要になると推測します」

暫くジョシュはファイを見つめていたが、その瞳の奥に、何かしらの不安があるように感じられた。

「いや、駄目だ。君は科学士官でもあるが、副艦長でもある。どうしても科学士官が必要と言うのなら、ノッドを連れて行く」

そう言うと、ノッドが自席で腰を浮かせた。だがジョシュはそれを片手で拒否すると、今度こそリフトに乗り込んだ。


──何故艦長は、いつも私を置いて行くのだろう……


閉じた扉を見つめながら、ファイはふと疑問を覚えた。勿論、艦長不在の場合は、誰かがその責務を担う事になる。ファイの次に指揮をとる者となると、機関士長のカール・ディックだ。だが彼は、今頃損傷部位の修繕に追われている事だろう。

「ファイ……」

科学席からノッドが声をかけてきた。その瞳は心配そうに細められている。

「ノッド、到着まであと何分ですか?」
「あと3分」


──きっとジョシュならうまくやる……不安はない。


気持ちを切り替える為に、ファイは司令席へ座った。

「全部署に、到着準備をせよと伝えて下さい」
「はい、ファイ副艦長」

ホップスが答え、ファイの司令が全乗組員に伝えられた。




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