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第9章
7.
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2人が帰った後、ゲイナーはまだ痛む体を引きずるようにして──ナースステーション前の廊下に設置されている──公衆電話から家に連絡を入れた。
心配いらない、とゲイナーは言ったが、マーガレットは明日見舞いに行くと言っていた。
警察官の妻は心配が絶えない、と言われているが、確かにその通りだとゲイナーは改めて思った。
──心配ばかりかけている。
もう少し、身辺には気をつけようと思いながら朝を向かえ、面会時間がくると、リリが1番に病室を訪れた。
「お体の調子はいかがですか?本部長」
手には花束の代わりに鞄が持たれている。昨夜の追跡劇の報告書が入っているのだろう。
「あぁ、ありがとう。心配はいらないさ」
そう答え椅子をすすめると、リリはそれに腰掛け、鞄から紙の束を取り出した。
「昨夜のご報告を」
そう言うなり、リリはその紙をゲイナーに手渡した。視線を落として報告書を読み進めると、ゲイナーは目を細めた。
「カルロスの部下?」
「はい。尋問では、カルロスとは関わりがない、と言っていましたが、調べたところによるとそのようです」
報告書には犯人の写真も添えられていて、見覚えがある、とゲイナーは思った。
「彼は以前、どこかで見たな」
そう言うと、リリは軽く頷いた。
「はい。昨年、麻薬密売で1度検挙してます。本部長に怪我を負わせた件については、罪を認めました」
強い目をゲイナーに向けながら、リリはそう言った。
「そうか、ありがとう」
そう言って微笑み、ゲイナーは書類をリリに返した。
カルロスがついに動き出したのだろうか?そして、部下に命じたのだろうか?そう考えたが、何の為にカルロスが、自分を襲わせたのか分からなかった。
だが、もし動き出したのなら、クレイズの元へも現れるに違いない。
扉がノックされ、ゲイナーは我に返った。返事をすると、マーガレットがボストンバッグを手に病室へ入って来た。
「どうも。お邪魔してます」
そう言ってリリが椅子から腰を浮かせると、妻は手の平を横に振った。
「いえいえ、いいんですよ。お仕事のお話しでしょう?」
マーガレットはベッドの脇にバッグを置くと、窓際に置かれている、何もいけられていない花瓶を手に取った。
「お花、活けてきますので」
そう言うと、足早に病室を出て行った。それを見ていたリリはゲイナーを振り返った。
「悪い事しちゃいましたかね」
「いや、いいんだ。それより、捜査の方、よろしく頼む」
リリは頭を下げ、病室を出て行った。ゲイナーは窓へと視線を向けると、あれこれ考えた。
クレイズの結婚や、カルロスの存在。そして、自分を襲った犯人の事。
どれもゲイナーを悩ませた。
──クレイズが、本当に結婚してしまう。
既にドーズが婚姻届を出していたものと思っていた為に、その事実は一瞬だけゲイナーを喜ばせ、そして一瞬にして落胆させた。
だが、クレイズ自身がそう決めたのだ。
──祝福すると言ったじゃないか。
そう思い返し、ゲイナーは目を閉じた。
クレイズは諦めようとしているのだ。自分もそれに従わなければならない。
だがゲイナーの中ではまだ、クレイズへの想いは燻っていて、容易に諦められそうにない。
クレイズはどうだろうか?そう思っていると、マーガレットが戻ってきた。
心配いらない、とゲイナーは言ったが、マーガレットは明日見舞いに行くと言っていた。
警察官の妻は心配が絶えない、と言われているが、確かにその通りだとゲイナーは改めて思った。
──心配ばかりかけている。
もう少し、身辺には気をつけようと思いながら朝を向かえ、面会時間がくると、リリが1番に病室を訪れた。
「お体の調子はいかがですか?本部長」
手には花束の代わりに鞄が持たれている。昨夜の追跡劇の報告書が入っているのだろう。
「あぁ、ありがとう。心配はいらないさ」
そう答え椅子をすすめると、リリはそれに腰掛け、鞄から紙の束を取り出した。
「昨夜のご報告を」
そう言うなり、リリはその紙をゲイナーに手渡した。視線を落として報告書を読み進めると、ゲイナーは目を細めた。
「カルロスの部下?」
「はい。尋問では、カルロスとは関わりがない、と言っていましたが、調べたところによるとそのようです」
報告書には犯人の写真も添えられていて、見覚えがある、とゲイナーは思った。
「彼は以前、どこかで見たな」
そう言うと、リリは軽く頷いた。
「はい。昨年、麻薬密売で1度検挙してます。本部長に怪我を負わせた件については、罪を認めました」
強い目をゲイナーに向けながら、リリはそう言った。
「そうか、ありがとう」
そう言って微笑み、ゲイナーは書類をリリに返した。
カルロスがついに動き出したのだろうか?そして、部下に命じたのだろうか?そう考えたが、何の為にカルロスが、自分を襲わせたのか分からなかった。
だが、もし動き出したのなら、クレイズの元へも現れるに違いない。
扉がノックされ、ゲイナーは我に返った。返事をすると、マーガレットがボストンバッグを手に病室へ入って来た。
「どうも。お邪魔してます」
そう言ってリリが椅子から腰を浮かせると、妻は手の平を横に振った。
「いえいえ、いいんですよ。お仕事のお話しでしょう?」
マーガレットはベッドの脇にバッグを置くと、窓際に置かれている、何もいけられていない花瓶を手に取った。
「お花、活けてきますので」
そう言うと、足早に病室を出て行った。それを見ていたリリはゲイナーを振り返った。
「悪い事しちゃいましたかね」
「いや、いいんだ。それより、捜査の方、よろしく頼む」
リリは頭を下げ、病室を出て行った。ゲイナーは窓へと視線を向けると、あれこれ考えた。
クレイズの結婚や、カルロスの存在。そして、自分を襲った犯人の事。
どれもゲイナーを悩ませた。
──クレイズが、本当に結婚してしまう。
既にドーズが婚姻届を出していたものと思っていた為に、その事実は一瞬だけゲイナーを喜ばせ、そして一瞬にして落胆させた。
だが、クレイズ自身がそう決めたのだ。
──祝福すると言ったじゃないか。
そう思い返し、ゲイナーは目を閉じた。
クレイズは諦めようとしているのだ。自分もそれに従わなければならない。
だがゲイナーの中ではまだ、クレイズへの想いは燻っていて、容易に諦められそうにない。
クレイズはどうだろうか?そう思っていると、マーガレットが戻ってきた。
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