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デビット艦長はゆっくりと、フィックスに自分達の仕事ついて語ってくれた。
宇宙規定に基づきパトロールをしているアルテミス号は、巨大な警察組織みたいなものに所属しているのだろう。そうフィックスは理解した。
そして、現在修復が行われているシステム、と言うのは、フィックスが知る言葉で言い直すところの、コンピュータネットワーク・システムで、それについてはファイが説明をしてくれた。
「正式には、神経回路システムと言って、人工合成された繊維状の脳神経が、インターフェースを通じて無数に接続し、形成されているコンピュータネットワーク・システムの事です。我々はそれを略して、システム、と呼んでいます」
そこでファイは言葉を切ると、デビットと自身の前に座るフィックスを見遣ってきた。
「はぁ……なんと、難しい話しですね。あぁ、先をどうぞ」
苦笑するしかない。
ファイは、フィックスを見つめながら続けた。
「その神経回路システムは、計算をするのではなく、人間の脳のように考える事が出来るコンピュータチップです。また、有機的思考を人工的に再現した事で、通常様々なヶ所で利用されるアイソリニア・チップより情報処理速度、反応速度がはるかに速いんです。神経回路は従来のアイソリニア・システムと連動していて、アイソリニア・システムでの計算や、情報検索結果を基に最適な環境を考え出す事が出来ます。ただ、人工知能とは異なる為、意思決定は艦長以下、クルーの判断によって決定されます」
もう、ファイの説明を完全に理解出来る自信は失せていた。
「え……と、貴方達の使っている神経回路システムは、人間のように考える事の出来る、優秀なコンピュータだと言う事は理解しました。それで、そのコンピュータが今、修復されているのですね?安易に修復出来るとは思えないのですが……」
有機的思考を人工的に再現したと言うからには、きっと大掛かりな修復が必要になるだろう。それにスペアとの交換も、容易ではなさそうだ。
「いえ、ご心配には及びませんよフィックス。システムは、アイソリニア・チップのように簡単に交換ができます。ですが、今回は交換ではなく、治療をしています。1時間もすれば完治するでしょう」
立ったままのファイに対し、デビットはデスクに座っている。ファイが話す間暇なのか、彼は宇宙船の模型を弄っていた。
「治療……ですか?それはその、システムが有機物だからですか?」
通常のコンピュータなら、そこは修復なり修理、と言う言葉を使う。だがファイが言うように、それが有機物なのであれば、治療、と使うのだろう。
「えぇ、そうです。先程も説明したように、システムは有機物です。そのため、通常のコンピュータ・チップでは起こりえない感染症を引き起こす事があるんです。今回の原因はその感染症です」
「感染症……?何の、ですか?」
それは、人体に問題ないのだろうか?
「感染症の特定は、現在行っています。特定が出来れば治療は可能ですし、万が一人体に感染しても大丈夫です」
僅かだがファイの口元が緩む。それを見たフィックスは、安心して背もたれへと体をもたせかけた。
「その治療方法と言うのはやはり、人間と同じくワクチンや熱消毒などを使った治療でしょうか?」
そうフィックスが尋ね、ファイが頷く。
「正解です、フィックス」
デビットが模型を置き、フィックスを見据えてきた。
「俺達の事は、少しは理解して貰えましたか?」
「えぇ、そうですね。とても友好的だと分かりましたよ。それに、私の想像よりも遥かに高い技術を持っておられる」
フィックスは微笑み、部屋を見渡した。整然とした室内はシンプルで、フィックスは気に入った。
「で、ケリーさん。他に質問は?」
そう言ったデビットの言葉に視線を戻すと、フィックスは首を左右に振った。
「いいえ、ありません。こちらからの詮索は、艦隊規則に違反するのでは?」
これ以上何を知れと言うのだろう。
あと1時間もすれば地球から去って行く彼等に、干渉はしない事だ。深く関わる事は、危険以外の何物でもない。彼等は未来人なのだから。
「そりゃそうだ。ですが、我々が退却するまで貴方にはアルテミス号にいてもらう。意味は分かりますね?ケリーさん」
人質、とは言わないデビットを睨み、フィックスは頷いた。
こちらが信用しようとしているのに対し、艦長はまだ何らかの疑念を抱いているようだ。それを不等だと訴えたところで、多分デビットの気持ちは変わらない。
「じゃあファイ、ケリーさんをゲスト・ルームへ」
そう言うとデビットは立ち上がった。
宇宙規定に基づきパトロールをしているアルテミス号は、巨大な警察組織みたいなものに所属しているのだろう。そうフィックスは理解した。
そして、現在修復が行われているシステム、と言うのは、フィックスが知る言葉で言い直すところの、コンピュータネットワーク・システムで、それについてはファイが説明をしてくれた。
「正式には、神経回路システムと言って、人工合成された繊維状の脳神経が、インターフェースを通じて無数に接続し、形成されているコンピュータネットワーク・システムの事です。我々はそれを略して、システム、と呼んでいます」
そこでファイは言葉を切ると、デビットと自身の前に座るフィックスを見遣ってきた。
「はぁ……なんと、難しい話しですね。あぁ、先をどうぞ」
苦笑するしかない。
ファイは、フィックスを見つめながら続けた。
「その神経回路システムは、計算をするのではなく、人間の脳のように考える事が出来るコンピュータチップです。また、有機的思考を人工的に再現した事で、通常様々なヶ所で利用されるアイソリニア・チップより情報処理速度、反応速度がはるかに速いんです。神経回路は従来のアイソリニア・システムと連動していて、アイソリニア・システムでの計算や、情報検索結果を基に最適な環境を考え出す事が出来ます。ただ、人工知能とは異なる為、意思決定は艦長以下、クルーの判断によって決定されます」
もう、ファイの説明を完全に理解出来る自信は失せていた。
「え……と、貴方達の使っている神経回路システムは、人間のように考える事の出来る、優秀なコンピュータだと言う事は理解しました。それで、そのコンピュータが今、修復されているのですね?安易に修復出来るとは思えないのですが……」
有機的思考を人工的に再現したと言うからには、きっと大掛かりな修復が必要になるだろう。それにスペアとの交換も、容易ではなさそうだ。
「いえ、ご心配には及びませんよフィックス。システムは、アイソリニア・チップのように簡単に交換ができます。ですが、今回は交換ではなく、治療をしています。1時間もすれば完治するでしょう」
立ったままのファイに対し、デビットはデスクに座っている。ファイが話す間暇なのか、彼は宇宙船の模型を弄っていた。
「治療……ですか?それはその、システムが有機物だからですか?」
通常のコンピュータなら、そこは修復なり修理、と言う言葉を使う。だがファイが言うように、それが有機物なのであれば、治療、と使うのだろう。
「えぇ、そうです。先程も説明したように、システムは有機物です。そのため、通常のコンピュータ・チップでは起こりえない感染症を引き起こす事があるんです。今回の原因はその感染症です」
「感染症……?何の、ですか?」
それは、人体に問題ないのだろうか?
「感染症の特定は、現在行っています。特定が出来れば治療は可能ですし、万が一人体に感染しても大丈夫です」
僅かだがファイの口元が緩む。それを見たフィックスは、安心して背もたれへと体をもたせかけた。
「その治療方法と言うのはやはり、人間と同じくワクチンや熱消毒などを使った治療でしょうか?」
そうフィックスが尋ね、ファイが頷く。
「正解です、フィックス」
デビットが模型を置き、フィックスを見据えてきた。
「俺達の事は、少しは理解して貰えましたか?」
「えぇ、そうですね。とても友好的だと分かりましたよ。それに、私の想像よりも遥かに高い技術を持っておられる」
フィックスは微笑み、部屋を見渡した。整然とした室内はシンプルで、フィックスは気に入った。
「で、ケリーさん。他に質問は?」
そう言ったデビットの言葉に視線を戻すと、フィックスは首を左右に振った。
「いいえ、ありません。こちらからの詮索は、艦隊規則に違反するのでは?」
これ以上何を知れと言うのだろう。
あと1時間もすれば地球から去って行く彼等に、干渉はしない事だ。深く関わる事は、危険以外の何物でもない。彼等は未来人なのだから。
「そりゃそうだ。ですが、我々が退却するまで貴方にはアルテミス号にいてもらう。意味は分かりますね?ケリーさん」
人質、とは言わないデビットを睨み、フィックスは頷いた。
こちらが信用しようとしているのに対し、艦長はまだ何らかの疑念を抱いているようだ。それを不等だと訴えたところで、多分デビットの気持ちは変わらない。
「じゃあファイ、ケリーさんをゲスト・ルームへ」
そう言うとデビットは立ち上がった。
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