Moon Light

たける

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「何か、私に出来る事はないかと思いまして……」

そう言って見上げてくるフィックスは、その存在を確かめたがっているようだった。明らかに不安が戻ってきているようで、ファイはその肩に手を乗せた。

「フィックス、ここはもう大丈夫です。見ての通り、破損部位の修復は機関士のカール・ディックが行っておりますし、船医長であるワイズ・キルトンによる診察により、感染者もいませんでした」

そう説明するが──フィックスは苦笑するばかりで──その不安はファイには拭いきれなかったらしい。

「それは、よかったです。本当に……」

青い瞳が悲しげで、フィックスはどうにかしてやりたいと思った。
フィックスを思うと、何故か酷く感情的な事を考えてしまう。その理由は未だ不明だったが、ファイは自身が思うようにしようと決めた。

「フィックス、貴方が自由になるまで、あと25分です。その間少し、私と話しをしませんか?」

少しでも、その不安を取り除いてやりたい。
その為のファイの提案は許可された。

「はい。私も、貴方と話しがしたいです」

頷いたフィックスを伴い、平静を取り戻しつつある通路を歩く。後ろを歩くフィックスの姿が硝子に映り、ファイはそっとその姿を見遣った。
リフトが到着し、中にいたクルーが一礼して出て行くのを見送ってから、ファイはフィックスを促した。

「続きを聞かせて下さい、フィックス」

扉が閉まり、2人だけになる。静か過ぎる密閉された空間に、フィックスのため息が聞こえた。

「私は無力です。ここへ連れて来られても、何を貴方達に話す訳でも、手伝える訳でもない。ただ、下手な事を言わない様監視され、行動を制限され、本当に人質みたいです」

目的階に到着したが、ファイは素早く停止ボタンを押し、リフトを急停止させた。
フィックスが続ける。

「文明……いや、科学の発達した貴方達の前で、私が無力なのは元々分かっていた事ですし、それに人質である事も理解していた筈なんです。しかしファイ。貴方の優しい気遣いが、どうやら私に勘違いをさせたようです」
「私の……?」

優しさを勘違いする、と言うのは、どう言う事だろうか。ファイがフィックスを見つめていると、顔を上げた彼は困った顔をしていた。

「すみません……貴方は悪くないのに…」

見つめ返してくる瞳には、初めて通信画面で見た熱さが抜けてしまっているようだ。膨らんだ風船が、時が経つのにつれ萎んでしまうような、そんな感じがする。

「フィックス……貴方は無力ではありません。ただ、このアルテミス号にいるべきではない人間だから、そう感じるのです。もし仮に、貴方が我々と同じクルーだったのなら、私は貴方を信頼に足る仲間だと認識するでしょう。私だけではありません。きっと艦長であるデビットも、同意見だと思いますよ」

そう言った言葉も、フィックスにとって慰めにはならないだろう。だがそれはファイの本心だった。
もしフィックスが宇宙艦隊士官だったのなら、ファイは彼をひいき目なく、アルテミス号に乗船させただろうし、ジョシュも温かく迎えただろう。
だが現実はそうではない。
フィックスは殺人科の捜査官であり、宇宙艦隊士官ではない。ましてや、自分達の生きる時代の人間でもないのだ。

「ありがとう……ございます、ファイ。本当に貴方は優しい方だ」

そう言ったフィックスは、仲間に見せていた柔和な笑みをファイにも向けた。

「優しい、の定義は分かりませんが、貴方が笑ってくれて私は嬉しいです」




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