死神とミュージシャン

たける

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5日目

3.

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撮影が終わり、タクミは死神と三上と共にタクシーに乗り込んだ。次は雑誌のインタビューがある。

「少し時間が押してますけど、向こうには伝えてますので」

助手席に乗っている三上が、振り返りながら言った。

「うん、ありがとね」

タクシーは坂道を慎重に下っている。雪は木々の枝に積もり始めていて、窓ガラスが雲っていた。

「雑誌の仕事が終わったら、今日は終わりだよな?」
「はい。明日は夕方から、クリスマスイベントがあります」

毎年、タクミが所属するレーベル会社で行われるイベントで、様々な歌手やバンドがライブホールに集まる。テレビカメラは入らないが、マスコミが多く参加していて、雑誌に特集が組まれる程の規模のものだ。

「あー……またかー……」

去年も出演したが、全員が終わるまで帰れない。退屈で仕方のないイベントで、ある意味苦行だ。

「そんな事言わないで下さいよ。今回は、タクミさんが可愛がってらっしゃる、ザ・トリプルズの参加も決まったんですから」
「えっ!そうなんだ。俺、アイツ等から聞いてないよー」

ザ・トリプルズは、デビュー当時からタクミが可愛がっている3人組のバンドで、リーダーでありギター担当の鷹野たかのキミヒコ、ベース担当の坂田さかたハジメ、ボーカルの戸塚とづかノボルの20代の若者だ。最近会ったのは、ザ・トリプルズの秋のツアー前だったように思う。

「昨日、社長に報告に伺った時に、私も聞いたんです」

恐らく、ザ・トリプルズを餌に、タクミをクリスマスイベントに参加させるつもりだろう。
あまり乗り気ではなかったが、ザ・トリプルズが出るのなら話は別だ。

「そうなんだ。そりゃ楽しみになってきたなー」
「ちなみに、今からの雑誌の仕事ですが、ザ・トリプルズとの対談になりましたよ」
「おぉ!そうなんだ!わぁ、アイツ等と会うの、久しぶりだな」

最期に一緒に仕事が出来るようになったのも、何かのご褒美なんだろうかと思ってしまう。

「クリスマスイベント直前ですからね、内容はそれについての対談になるかと……」

そう言って三上は前を向いた。タクミは死神の方へ顔を向けると、ニンマリと笑った。

「何が可笑しいんだ」
「え?違うよ、可笑しいんじゃなくて、楽しみなのー!」
「そうなのか」

窓の景色にビルが映り始めた。もうすぐ、可愛い後輩に会える。




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