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序章
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ケーシャルシティに入った頃には、23時になろうとしていた。街灯が等間隔に道路を照らしているが、ブルーローズの運転する車以外、行き交う車はまばらで空いている。
カーブをいくつか曲がり、以前4人で暮らした家が近付くと、助手席のミディアムは──赤いバラ柄に白いレースがあしらわれている──小さなポーチから、携帯電話を取り出した。程なくして相手に繋がったのか、ミディアムが話し出す。車は信号待ちの為に停車し、ブルーローズはその横顔を伺った。
「私よ。今から話しがあるの。……子供達の事よ。あの家では嫌だわ。……すぐすむから、近所の空き地まで出て来てちょうだい」
そう押し付けるように言うと、ミディアムは携帯を切った。そしてブルーローズの方へ向き直ると、聞いていたでしょ、と言わんばかりに睨んでくる。
「……あの空き地ね、分かったわ」
信号が青になりブルーローズが再び車を走らせると、ミディアムは助手席側の窓を下げた。すると、後部座席に乗せた黒真珠の花びらが風に吹かれ、貴婦人のドレスのように揺らめいた。
黒真珠は、カーズが好きなバラだった。ブルーローズは久しぶりに父に会えるので、途中、バイト先で購入した。閉店作業をしていた店長は──嫌な顔をする事なく──ブルーローズに花束を作ってくれた。
またカーブを曲がる。静かな住宅街に、エンジン音が響いている。少し進んだところで車を停車させると、すぐ横が空き地だった。既に空き地の中央に誰かいる。カーズだ。ブルーローズが下りようとすると、ミディアムがそれを止めた。
「貴方はここにいて頂戴」
「どうして?私だって、パパに会いたいわ」
そう言ったが、ミディアムはブルーローズを無視して車から下りて行った。残されたブルーローズは、そんな母の背中を見ていた。
2人が対面している。だが街灯が遠いせいか、その表情までは分からない。
何を話しているのだろう?揉めていなければいいが、と思っていると、カーズが妙な動きを始めた。まるで踊っているように見える。ミディアムはそんなカーズに、ぴったりとひっついている。
様子がおかしい。そうブルーローズが感じた時、不意に母の漏らした言葉が脳裏に浮かんだ。
──殺してやるわ……
確かに母はそう言った。
まさか、とは思ったが、体が震え出す。口の中が渇き、ブルーローズは唇を舐めた。
カーズはまだ踊っているようだったが、その動きは徐々に鈍くなってきた。ブルーローズは震える手でドアを開けると、ゆっくりと車の外に出た。3月の夜はまだまだ寒い。
「ママ……?何してるの?」
恐る恐る近付く。と、頬に水滴が降ってきた。見上げると、粒の大きな雨が降り出してきた。すぐに髪も肩も濡れ、草や土、アスファルトの湿った匂いがし出す。
更に近付くが、まだ様子がはっきりと見てとれない。
「ねぇ、ママ……!何してるのよ?ねぇってば!」
すぐ近付くまで歩み寄ると、カーズが崩れるように地面へ倒れた。
「パパ……!」
しゃがみ込み、カーズを抱き起こすが、ぐったりとした体や目を見開いたままの表情からは、既に生気が失われていた。ミディアムを見上げる。
「ママ、パパに何をしたの?」
声が震えている。それは寒さのせいか、ミディアムの冷たい視線にかは、分からない。
「ジョンを私から奪おうとした報いよ」
そう呟いたミディアムの手元には、ロープが握られていた。
カーブをいくつか曲がり、以前4人で暮らした家が近付くと、助手席のミディアムは──赤いバラ柄に白いレースがあしらわれている──小さなポーチから、携帯電話を取り出した。程なくして相手に繋がったのか、ミディアムが話し出す。車は信号待ちの為に停車し、ブルーローズはその横顔を伺った。
「私よ。今から話しがあるの。……子供達の事よ。あの家では嫌だわ。……すぐすむから、近所の空き地まで出て来てちょうだい」
そう押し付けるように言うと、ミディアムは携帯を切った。そしてブルーローズの方へ向き直ると、聞いていたでしょ、と言わんばかりに睨んでくる。
「……あの空き地ね、分かったわ」
信号が青になりブルーローズが再び車を走らせると、ミディアムは助手席側の窓を下げた。すると、後部座席に乗せた黒真珠の花びらが風に吹かれ、貴婦人のドレスのように揺らめいた。
黒真珠は、カーズが好きなバラだった。ブルーローズは久しぶりに父に会えるので、途中、バイト先で購入した。閉店作業をしていた店長は──嫌な顔をする事なく──ブルーローズに花束を作ってくれた。
またカーブを曲がる。静かな住宅街に、エンジン音が響いている。少し進んだところで車を停車させると、すぐ横が空き地だった。既に空き地の中央に誰かいる。カーズだ。ブルーローズが下りようとすると、ミディアムがそれを止めた。
「貴方はここにいて頂戴」
「どうして?私だって、パパに会いたいわ」
そう言ったが、ミディアムはブルーローズを無視して車から下りて行った。残されたブルーローズは、そんな母の背中を見ていた。
2人が対面している。だが街灯が遠いせいか、その表情までは分からない。
何を話しているのだろう?揉めていなければいいが、と思っていると、カーズが妙な動きを始めた。まるで踊っているように見える。ミディアムはそんなカーズに、ぴったりとひっついている。
様子がおかしい。そうブルーローズが感じた時、不意に母の漏らした言葉が脳裏に浮かんだ。
──殺してやるわ……
確かに母はそう言った。
まさか、とは思ったが、体が震え出す。口の中が渇き、ブルーローズは唇を舐めた。
カーズはまだ踊っているようだったが、その動きは徐々に鈍くなってきた。ブルーローズは震える手でドアを開けると、ゆっくりと車の外に出た。3月の夜はまだまだ寒い。
「ママ……?何してるの?」
恐る恐る近付く。と、頬に水滴が降ってきた。見上げると、粒の大きな雨が降り出してきた。すぐに髪も肩も濡れ、草や土、アスファルトの湿った匂いがし出す。
更に近付くが、まだ様子がはっきりと見てとれない。
「ねぇ、ママ……!何してるのよ?ねぇってば!」
すぐ近付くまで歩み寄ると、カーズが崩れるように地面へ倒れた。
「パパ……!」
しゃがみ込み、カーズを抱き起こすが、ぐったりとした体や目を見開いたままの表情からは、既に生気が失われていた。ミディアムを見上げる。
「ママ、パパに何をしたの?」
声が震えている。それは寒さのせいか、ミディアムの冷たい視線にかは、分からない。
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そう呟いたミディアムの手元には、ロープが握られていた。
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