幻想序曲

たける

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第二章

1.

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バスに乗っても電車に乗っても、男はついてきた。帝はウォークマンを聴き、無視していた。別に男の方も話しかけたりはしてこない。
窓の外はすっかり暗くなっていた。もう17時過ぎだ、車内も混んでいる。そんな中、その男は頭1つ分大きくて目立っていて、嫌でも目に付いた。帝は目をつぶった。


──あの男は普通の人間やない・・・・・・・・。自分からそう言うてた。


帝は人が去って行ってから、男が言っていた事を思い出していた。


「あ、ありがとう」

帝はペコリと頭を下げた。男はいいと言った。

「それよりも帝、お前は狙われているんだ」

突拍子もない言葉に、思わず帝もすっとんきょうな声を上げて男を見た。男の顔は真剣で、自分が妙な声を出した事がいけない気がしてまた頭を下げた。

「オレはお前たちを守るために大阪こっちに来たんだが、聖の方は間に合わなかった」
「どういうこと?兄貴は間に合えへんかったって。それに、何でうちらの名前を知ってんの?アンタ、何者やのん」

今度は男が驚いたような顔をしたが、すぐに帝の問いに答えた。

「オレは藤崎拓巳ふじさきたくみって言って、帝達と同じ、悪しきモノを消せる一族・・・・・・・・・・・の1人だ。しかし、そんな一族も次々に殺され、もうオレと帝と聖と、澤木茂さわきしげるの4人だけなんだ」

帝の頭はキブアップしていた。何を言っているか分からない。ただ分かるのは、この男が藤崎拓巳と言う事と、何かの一族と言う事だけである。ポカンと帝は、藤崎を見つめていた。

「この4人は、普通の人間じゃない、選ばれた者なんだ。君は見ただろ、オレの力を」
「え……あ、あの光るやつ?」
「あぁ、そうだ。あれは悪しきモノを滅するための、聖なる力なんだ。帝も使える。今はただ、状況を理解して欲しい。力の事はオレが教えてやる。両親、早くに亡くなられて教わらなかったんだろう……」

家族の事まで知っている。帝は何だか藤崎が恐くなった。そう思うと帝は、藤崎から離れようと踵を返した。


──うちも普通の人間やないなんて、そんなん嘘や。


帝は眉をひそめた。その時、急に電車がガクッとなって停車して──帝も片膝をついた──しまった。立っている人の何人かは倒れてしまっている。ザワザワとした車内に、アナウンスが入った。

『急停車申し訳ございません。しばらくお待ち下さい』

何や?帝は窓の外を見た。

──カタカタカタ

「!」

窓いっぱいに、骸骨がへばりついている。帝はギョッとして立ち上がった。

「帝、早く出るんだ」

いつの間に寄ってきたのか、藤崎が肩を掴んで言った。帝は静かに頷いたが、どうやって出るのだろうか、ふと考えてしまう。

「どうやって……?」
「骸骨を散らすから、その間に1人で逃げろ」
「1人で?そんなん嫌や!」

藤崎はチラリと帝を見た。微かに震えている。無理もない、まだ19だし女だし、自分の力の事なぞ、ついさっきまで知らなかったのだ。

「それでも行くしかないんだ。いいか、ここに地図がある。ここに行け」

内ポケットから4つにたたんだ地図を出し、帝に手渡した。帝は恐る恐るそれを受け取ったが、首を振っていた。

「うちは、うちは……」
「いいか、30分だけ守ってやる。それがオレの力の限界だ。それまでにそこへ行くんだ」

そう言って藤崎は、右手の人差し指と中指で六望星を描き、そして軽く帝の額を突いた。すると突かれた帝の額に、青白い六望星が浮かび上がった。

「この星印がバリヤーを作る。消えるまで30分しかない、早く行け!」

1つの窓を割り、藤崎が外に飛び出した。骸骨は中に入ってこようとする。人々は叫び散らして──どうやら今回は骸骨が見えるらしい──いる。


──あいつらはうちを狙ってんのや。


帝はぐっと拳を握り、藤崎が出て行った窓から、自分も飛び出した。骸骨は窓から離れ、帝に向かって迫ってくる。

「ううっ……」

足が震えて動けない。立っているのが不思議なくらいだった。どんどん骸骨が近づいてくる。不気味に歯をカタカタ言わせ、黙々と自分に向かってやってくる。その間に人々は車内から飛び出し、蜘蛛の子を散らしたかのように、それぞれてんでバラバラに逃げている。

「時間がない、早く行くんだ」

藤崎は帝に怒鳴りながらも短剣を振り回し、次々に骸骨を灰に変えている。しっかりせなあかん。小さく頭を振り、帝はぎこちない足取りで地図を見ながら走り出した。骸骨もついてこようとする。が、その前に藤崎が立ち、1体の骸骨を灰にした。

「帝を追うならオレに勝ってからにしろ」

骸骨たちは一瞬怯んだ。




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