幻想序曲

たける

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第六章

2.

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行くしかなかった。しかし2人には、京助の故郷など分からない。全ては藤崎の能力にかかっていた。このペンダントを通じて見える風景。今と昔では大分変わっているだろうが、京助だって何かを示してくれるに違いない。そう信じて、2人は電車に乗り込んだ。
京助の遺体を灰にし、小瓶に入れて懐にしまった。2人は行き着く事が出来るのなら、京助を故郷に埋めてやろうと思ったのだ。しかし、取り敢えずは大阪に出なければならない。大阪に出て、それからは……

「茂、オレたち」
「どうする事も出来なかったけど、追うしかないんだもん。僕たちには何ができるかって考える前に、行動してみようよ」

力のない微笑みを浮かべ、澤木が言った。

「そうだな、とりあえずそれしか……!」

藤崎の顔から暗さが消え、驚きが現れた。澤木はそんな顔を覗き込む。

「どうしたの、ねぇ拓巳」
「十字架が、オレの頭に何かを伝えて来るんだ。これは、誰だ。まさか、選ばれるべき者なのか?」

どこを見ているようでもなく、藤崎が言った。澤木はその視線の先が分からなかったが、じっと藤崎を見ている。

「きっと美山さんが教えてくれているんだ。きっとそうだよ!」
「だったら、だったら近いな。オレ達の近くにいるみたいだ。この少年の回りには人がいて、電車の中か、ガタンガタン音がする」

緊張した。新たな選ばれし者が見つかった事により、2人に希望が生まれたようだった。何の能力を持っているのかまでは分からないが、期待が持てそうだった。藤崎の目が輝いた。しかしまだ少年だ、少々不安なものの、こいつを信じるしかない。次はないのだ。きっと。

「どんな子なの?」

澤木の目も輝き出した。自然と声も明るくなる。

「何歳ぐらいだろ、ジーンズにセーター。なかなかのオシャレで、黒い髪が目にかかって……子供じゃないみたいな鋭い瞳をしている」

目を閉じ、こめかみに手を当てながらポツリポツリと呟く。澤木も目を閉じ、想像をしているようだ。

「大きな特徴はある?」
「大きな……?大きいとまではいかないかも知れないけど、左目の下にホクロが1つあるな」

ふーんと言いつつ、澤木は目を開けた。目の前に人が立っていた、いつの間に。少し驚いたいたが、視線を藤崎に向けた。
大阪駅は人だらけで、この中から選ばれるべき者のあの少年を捜すのは、難しそうに思えた。しかし2人は懸命に捜した。頼れるのは藤崎の能力と、十字架のみ。キョロキョロし、小さな希望を探す。

「凄い人だね」
「ああ。この中から少年を……」

少年の景色が頭に広がる。柱が見える、そしてこれは、自分たちだ、少年は自分達を見ている。藤崎は頭を上げた。

「見つかったの?」
「あそこだ、オレたちを見ている」

藤崎の指の先には、1人の少年の姿があった。こちらを見ている──なんて鋭い瞳、これ程までとは想像もつかなかった──澤木はゴクリと唾を飲んだ。
急に回りに人の姿がなくなった。どよどよしていた声すらも、空気に消えてしまったようだった。

「お兄さん達、ボクを捜してるんでしょ。待ってたよ、ずっと」
「君は、分かっているのかい自分の事を」

澤木が言った。少年は目元に笑みを浮かべ、歩み寄ってきた。

「もちろん分かってるよ。親から全てを教えてもらったんだもの。ボクはね、ボクの能力はね、消す、消滅なんだよ」

藤崎がピクリと体を震わせた。こいつは子供なんかじゃない。見かけに惑わされているだけだ。しかし、選ばれるべき者には違いない。

親を・・ここにいる人を消したのか・・・・・・・・・・・・?」

勢いよく澤木も藤崎を見た。爆弾のような台詞せりふだった。

「うん。ジャマだったからね。ところで、お兄さん達名前は?ボクは三神みかみタカシ」

スッと差し伸べられた、タカシの白く小さな手。藤崎はその手を取る事を、暫く躊躇したが、すぐに思い切ったように乱暴に取った。信じられるのか?むしろ恐い、オレはこいつに恐怖を抱いている・・・・・・・・・・・・。倒せるのか、奴を?

「オレは藤崎拓巳、能力は千里眼」
「ぼ、僕は澤木茂。結界を張ったり破ったりするのが能力、です」

藤崎の上に手を置いた。

「よろしくね、拓巳さん、茂さん」

そう言って、タカシは不気味に笑った。









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