Love Trap

たける

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9.

小型宇宙船に乗り込んだノッドは、部屋で見守っているであろう未来の自身とファイの事を考えた。
本当ならこの操舵席に、未来の自分が座る筈だったが、彼はノッドの為に辞退し、操作方法を教えてくれた。
辞退の理由は言葉にしなかったが、ノッドにだけ聞こえた。


『俺よりハンクを知ってるのはお前だろ』


だからノッドは何も言わずに乗り込んだ。
2人乗りの小型宇宙船は車より広いが、細かい機器やボタン、レバー等がところ狭しと言わんばかりに配置されている。
隣では、2人して研究所の外で燃やした、ハンクの灰を入れた壷をフィックスが抱いている。
ある程度アルテミス号から距離を取った場所で小型宇宙船を停滞させると、ノッドはフィックスへ視線を向けた。
泣きたいと言うか、泣いてもいい筈なのに、フィックスはずっと涙を見せていない。
ハンクの死があまりにも突然で、感情がついて行けていないのだろうか。

「これが最期だ」

そうノッドは言うと、ハンクを抱いているフィックスに手を重ねた。

「まだ信じられないんだ。ハンクがもういないなんて」

そう微笑しながら壷を撫でたフィックスは、視線を落としたまま目を閉じた。
何かを思い出すように閉じられた瞼からは、まだ涙の様子はない。

「ハンク……貴方君と出会えて本当に良かった。本当さ。君と過ごした23年は、俺の中のかけがえのない宝物だよ」

語尾が震えた。泣き出しそうな雰囲気を感じたノッドは、フィックスの肩を抱き寄せた。

「ずっと忘れない」

そう呟き睫毛を押し上げると、懐からハンクの最後に使った銃を取り出した。そして、ゆっくりとした動作でリボルバーから弾を手の平に出すと、2つあるうちの1つをノッドに握らせてくれた。

「ハンクはそんなに銃が好きではなかったけど、彼が選びそうな銃だな」

睫毛が濡れている。

「S&WのM19……」

通称コンバットマグナム、と呼ばれるそれは、以前までは警察用として広く使用されていた物だ。だが現在、M19は殺傷能力が高いとされあまり使用されてはいない。
フィックスは壷の蓋を開けると、銃を灰に変えて一緒に納め、また蓋を閉めてから目を閉じた。次の瞬間には壷は、眼前のモニターに映る宇宙へぽっかり浮かんだ。

「俺も忘れないよ」

ノッドも壷を見つめながら呟くと、フィックスはそれに手を翳して砕いた。
中の灰が星に混ざり、ゆっくりと浮遊して行く。

「これはハンクの形見として、俺達が持っていよう。例えこの事を忘れないとしても、ね」

そう言ってフィックスは胸の前で手を握り、何かを祈った。ノッドも同じように手を組むと、ハンクに誓った。
フィックスを、もう2度と悲しませないと。




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