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第1章 立身篇
第25話 村人 勇者と対決する
しおりを挟む「さぁ!!正々堂々と勝負だぁ!!」
勇者リンが剣を構えて叫んでいるはいいのだが、目の前の状況に俺は愕然としている。サマンサちゃんが勝手に腕試しをすることを提案した為に、俺はギルドの裏庭にいる。ちょっと前に力試しをした場所だ。それはさておき、俺と勇者の間にはサマンサちゃんが見届け人としているんだけど、彼女も少々呆れた顔をしている。それは、勇者リンの行動を見てのことだ。実は彼らは4人全員で身構えて俺の前に立っているのだ。
「せ・・正々堂々に・・ですよね?」
すると彼らは、如何にも当然のような顔をして
「「「「そうだ!!正々堂々だ!!」」」」
なんてチームワークがいい連中だ。
「それとも俺を見て臆したか?おとなしく降参するか?」
勇者リンの如何にも勝ったかの様に話しかけてくる。これほどの自信はどこから来るのだろうか?多分、勇者として生きる為には、精神状態もこのくらいになっていないといけないのだろうか。サマンサちゃんの方を見た。
「よ…4対1って…卑怯じゃないですか?」
勇者達を指さして、サマンサちゃんに聞いてみたが何も言わない。すると横から卑怯と言われたことに腹を立てたのか勇者が叫んだ。
「は?何を言っている!!俺たちは正々堂々と勝負しているではないか」
勇者言葉に合わせるかのように他三人が
「「「そうだ!!そうだ!!」」」
チームワークだけはいい連中だ。しかし、このままでは話にならない。俺としても4対1で戦いたくはない。
「俺、一人に対して、4人って…卑怯じゃないですか?」
俺が投げかけた言葉にも勇者は動じることすらない。むしろ卑怯だと言われたことに対して
「これのどこが卑怯だ?」
勇者の言葉に合わせて、魔導士の二人が声を上げる。
「「そうだ!!そうだ!!」」
最後に剣士と思われる輩が剣を高く掲げて
「俺たちは正々堂々としているではないか!!」
こいつらは別な意味で手強い。それとも俺のコミュニケーション能力に問題があるのだろうか?この状況に俺自身を思わず疑ってしまったのだが、やはり4対1は納得できない。
「村人一人相手に4人って、卑怯でしょう?」
しかし、俺の言葉は勇者には届かなかった。
「何が卑怯だ!!俺たちはパーティーで戦うのが基本だ!!何がおかしい!!さては怖気づいたな?」
これは、相当やばい連中だ。質のわるすぎる。多分、これ以上何を言っても聞き入れる耳は持っていない。どうしたものかと視線をサマンサちゃんへ送ると、あ…目を逸らした。仕方ない、4対1で戦わないといけないのか。そもそもサマンサちゃんが腕試しをしますか、なんて言わなければこんなことにならなかったんだ。
「サマンサちゃん・・・これ・・貸しにしておいていい?」
サマンサちゃんの目が挙動っている。
「え?・・いや・・貸しにはしたくないんだけど」
何を想像しているのやら、おっぱいを揉まれるとでも思っているのだろうか俺の視線が彼女の胸元へ移ると気づいたらしく両手で胸を隠した。その視線をもう少し下に落として
「1回でいいよ」
その言葉にビクンとして
「イヤ!!」
顔を真っ赤にして俺を見ている。
「だったら・・あいつらの資格を取り消してよ」
「それは・・・無理・・」
するとサマンサちゃんが俺の近くまで来て耳元で囁いた
「ギルドの規定では、さっきみたいにギルド内とか街なんかで一般人と喧嘩をした場合は、取り消せるんだけど、今回は違うの。彼らは正式にギルドで認定されている勇者パーティーなので、ギルドとしては、ギルド登録者と腕試しをしたいと申し出があった場合は勇者の意向が優先されるの・・・わかった」
「わからないけど…さっき、勇者に腕試しを薦めたのはサマンサちゃんじゃないか」
彼女は頭を抱えて
「それはいわないでー!!」
「じゃ・・これは貸しだね」
再び顔を赤くしたサマンサちゃんはようやく諦めがついたようだった。
「しかたないわね…、あ~!!嫌な奴に貸しを作ってしまった」
そう言って落ち込んでいる彼女に俺が人差し指と親指で何かを掴んでクリクリとしたそぶりを見せたらぞくぞくっとして震えていた。すると勇者たちが
「何をごちゃごちゃと話をしているんだ!!コッチは忙しい時間を割いてやっているんだ!!」
横でギザエフが吠えた
「そうだ!!さっさと済ませようぜ!」
相手は勇者、しかも、4対1、相手がどんな技を使うかわからない絶対的不利な状況で腕試しは始まってしまった。
「はじめ!!」
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