少女と二千年の悪魔

大天使ミコエル

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第二章

大切な人 3

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 2人で街へ出た。母の用事を済ませ、エミルは両手に荷物を抱えていた。
「ねえ、エミル見て!あそこのウィンドウに飾ってあるケーキ……」
 話しかけているのに、スタスタと先へ行ってしまう。
 そんな。お母様とは一緒にお菓子を買おうって言っていたのに。
「…………エミル!」
 お土産にだってしたいのに。
 どうして立ち止まってくれないの。
 マリィは立ち止まり、ショーウィンドウを見上げた。華やかなピンクのケーキ、それを囲んだハートの飾り、美味しそうなチョコやビスケット。
 行ってしまうエミルの後ろ姿を眺め、マリィはエミルとは反対の方向へ走り出した。
 私はお母様にお土産を用意したいのに……!
 街からはずれ、ちょうどいい花畑を見つけると、花を摘んだ。赤、白、青。沢山の野の花はとても華麗だ。
 エミルなんて、もう知らないわ。
 ちょっと怒りながらも、左手にいっぱいの花束をつくった。気がつけば夜も近づき、空はオレンジ色に変わる頃。
「マ……マリィ様……!」
 ふと顔を上げると、そこにはエミルが立っていた。とても息が切れていて、髪も服も泥で汚れている。
「え?」
 どうしたんだろう。ここからならマリィ一人でだって屋敷へ帰れるのに。それどころか、街の中ならどこからだって帰れる。そんなに心配しなくても。もう5歳だっていうのに。
「エミル?見て、お母様にお土産……」
 言いかけたところで、エミルがマリィの元へ慌てて駆けつけ、膝立ちになった。
「マリィ様……。ど、どこかお怪我は……」
「私は大丈夫よ。お菓子が買えなかったから、私、お母様にお土産を……」
 マリィの腕や足を確かめるエミルの顔は、なんだか泣きそうだなと思った。
 その瞬間、いよいよエミルの顔が崩れて、大きな声で泣き出した。
「エミル?」
 まるで小さな子供みたいだった。マリィだって、こんなに泣くことは滅多にないくらいの。
「うわぁぁぁぁぁぁ。マリィ様……ごめんなさいマリィ様……」
「…………」
 わからなかった。どうしてエミルが泣いているのかも、何を謝っているのかも。けれど、その涙を見ていると、なんだか泣けてきて。なんだか泣けてきて、マリィも一緒になって泣いた。
 二人で泣きながら、手を繋いで帰った。草原の中の道をゆっくりと歩いた。
 二人とも言葉を交わすこともなく。ただ、二人してわぁわぁと泣いて帰った。
 屋敷へ帰ると母が抱き止めてくれた。不思議なことに、エミルとマリィ二人とも、娘のように抱きしめられた。そして、不思議なことに、それが嬉しかった。
 エミルはもう大人のはずなのに。
 母の腕の中で、今まで以上に泣きわめいた。
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