少女と二千年の悪魔

大天使ミコエル

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第四章

14歳の誕生日 2

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 それは、確かに悪魔だった。
 音もなく床に降り立った時、上着がなびき、尻尾のようにふわりと燕尾服になる。頭の上のシルクハットを抑え、ひざまずいた。
 目を閉じたままのマリィの手を取る。
 マリィの手に何かが触れた時、ああやっぱり、と心が躍った。このひとときが逃げてしまわないよう、目は閉じたまま。その手に引かれ、ワルツを踊る。
 緩やかなランプの光が、二人だけを照らし出した。
 体のサイズが違うからターンが大振りだわ。
 跳ぶようにターンしながら、くるくるとまわる。ホールをふわふわと巡る。
 音のない部屋で、カツカツとかかとが降りる音だけが響く。二人分の音。その音が、ここに悪魔がいるんだと思わせてくれた。その音だけに耳を澄まし、静かな時間を楽しんだ。
 ひとしきり踊ると、ふんわりと床に座るよう促された。
 ぺったりと座る。
 この時間はもう終わりなのだろうか。
 ゆっくりと目を開けると、やはり悪魔はそこにはいなかった。
 いない。
 大切な時間が、目を開けただけでなくなってしまったようだった。けれど、確かにそこにはあった。かけがえのないものが。
 その途端、涙が、ぽろぽろとこぼれた。
 嬉しいのと、悲しいのと、いろいろな感情が入り混じる。
 おかしいな。止まらない。
 今日のは、どういう意味なんだろう。どういう意味だったんだろう。どうして一緒にダンスを踊ったんだろう。どうして目を開けたらいなくなってしまうんだろう。
 考えてもわからない。
 ただ、涙は止まることなく、そのままぽろぽろとこぼれ落ちた。
 一人泣いていると。
 背中に、ふんわりと、何かが触れた気がした。背中に何かが乗ったわけでもなさそうだったけれど、気のせいとも思えない。
 ……泣いているところ、見られた…………。
 誰かを想って泣いているところを、その本人に見られるなんて。
 こんな顔見られたくなかった。
 身体の中を熱が駆け上り、涙が止まる。
 それでも周りを見渡すことも、何も出来ないまま、じっとそこに座っていた。
 どこにいるかもわからないから、後ろも前も向いていられない。
 ……こんな顔見せられない。
 熱を帯びた頬を、隠すようにじっとする。
 かなりの時間を要した後、ゆっくりと立ち上がった。
 どことなく現実味のないままのくらくらとした頭で部屋に戻る。
 なんだか甘やかされたような気分だ。
 その日はそれ以上、何もなかった。
 結局、二人でダンスをするためにあんな準備を……?
 何のためのダンスだったのだろう。
 けれど、ダンスをしようと思ってくれたんだと、そう考えるだけで、ちょっとだけ嬉しくなる。
 ゆっくりとバスタブにつかった後、ベッドに入った。
 見慣れた天井を眺めながら、何度も今日のことを思い描いた。
 1日の終わり、またふわふわと涙が溢れる前に、胸の上に手を当てて、ひとつだけ深呼吸をする。
 心の中に温かいものが残っていることに気付き、それをしっかりと抱きしめて眠った。
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