静かにしろよ、ハニー・トラップ!

大天使ミコエル

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63 初級ダンジョンの島(5)

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 なんの模様もない、ドアノックすら付いていない簡素な作りの木製の扉は歪んでいた。
 手で引くと、ギギ……、と耳に響く音を立てる。
 家の中は暗く、それでも埃を被るだけで整然としている。
 小さなテーブル、それに丸椅子が2つ。簡素なベッド。
 あとは、一人分の食器が入った小さな食器棚のようなものがあるだけで、最初の部屋はおしまいだ。
 奥に台所と小さな倉庫がある。
 特別、変わったところはないように思えた。

「胡散臭いですわね」
 そう呟いたのはマルだ。

「何か、変か?」
 埃っぽいが、怪しい匂いもしない。

 堂々と進んで行くハニトラと違い、マルは一歩埃っぽい床をその肉球で踏むと、汚いものを踏んでしまったとばかりに前足をペッペッと振る。

「何もなさすぎますわ。引っ越しにしたって、腐るものは何一つ残さず、食器はそのまま」

 つまり、モデルハウスみたいだって言いたいのか。
 住む為ではなく、見せる為の家。

「こういう場合、大きな可能性として。一つは、家具を必要としない種族だったか。そしてもう一つは、」
 言いながら、マルは嫌そうに眉のあたりを寄せた。
「本当は違う場所に住んでいたか」
「それは……秘密基地みたいなものか……」
「そうとは限りませんわ。警戒心の強い者なら、そういう事はしますから。けれどやはり、」
 ハニトラが、家の中を物色する物音が響く。
「こんな場所で、一人。家をカムフラージュしなければならない者。誰かに追われている犯罪者か、もしくは……、」
「もしくは?」
「これから犯罪を犯す予定のある者だったか、ですわ」

 そう言って、マルは何かを示唆するように島全体を眺めた。
 それに釣られ、俺も魔物が蔓延る島の事を思う。

 鬱蒼とした木々に囲まれ、隠れるように住んでいた誰か。



 そんな予想を立て、俺達は家の周りの調査から始めた。
 何かがあった時にそこから逃げられるよう、外に出入口がある可能性も大きいのだという事だ。

「特に何もない、か」
 顔を上げ、腰を伸ばす。
「あれ?」
 じっと、家を見る。
 外から見ると四角い小屋。
 あそこが居住空間だろ、それでその隣が台所、倉庫……。
 窓のない居室。確かに内部は暗かった。

 けど、大きさって、あんなもんだったか?
 台所と壁は一続きだったか?
 台所と居室は、同じ幅だったか?

「中を見てみよう」
「うん」とついてくるハニトラと、嫌そうな顔のマルに声をかけ、家の中に入る。

 台所を覗けば、やはり、居室の壁の方が内側にあるように見えた。
 コンコン、と壁を叩く。……ピンとは来ないが。
「……この、向こう側が気になるんだ」

「う~ん」
 と言いながら、ハニトラが壁の周りに手を差し出しながら伝って行く。
 そのハニトラの手が、食器棚にかかった時だった。
 ガコン、と食器棚が動いた。
「これ……車輪が付いてる」

 確かめにユキナリが食器棚を押してみると、確かに食器棚はすんなりと横へ動いた。
 思った以上に、簡単に。

 壁のあるはずの部分には、やはり、大きな穴が空いていた。
 本当に、奥に部屋が……?

 よくは見えないので、ランプに火を灯し、改めて覗いてみる。

 穴の向こうには、横へ向かって続く階段があるようだった。
 壁の向こう側に、スイッチがある事に気付く。

 ……あれは、電灯のスイッチか?

 恐る恐る入れてみると、手前から順番に、壁の上に付いているランプに炎が灯っていく。

 そこには、地下へと続く長い階段が、灯りの中で佇んでいた。



◇◇◇◇◇



島エピソード、もうちょっと続きます!
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