Go to the Frontier(new)

鼓太朗

文字の大きさ
7 / 57
第一章 旅の始まり

マクベスの通行証と白馬ペガ

しおりを挟む
まだ薄暗い夜明け前。
焚き火の後処理を手早くし、川原の灰と骨だけになったクロジャッカルの死体を埋めると、レオンたちは再びしずまにかえったアラベラの町に突入を試みた。

レオンたちは再びひっそりとしたアラベラの町にいた。
物音は微かにするレオンたちの靴音だけ。
町全体が死んだようにしずまにかえっている。
ここにいま生きている人間は自分達だけだから当たり前か、とレオンは自分に言い聞かせる。
昨晩は柔らかい草を敷いて寝たが、やはり背中がバキバキと音をたてるほど痛い。
肩を回すとミシミシとゴリゴリの間、なんとも言いがたい嫌な音がした。
暖かいベッドで寝たいと思うが今はそれは叶いそうにないから諦めることにする。

夜明け前に危険を承知でアラベラの町に戻ったのには訳があった。
一つは大切な忘れ物に気づいたから。
大通りを避け、できるだけ細い路地を選んで進む。
「もしゴーレムと鉢合わせしてもあいつらは身体が大きくて細い路地では小回りが効かない。こっちの方が有利だ」
ダンは出発前にそう言っていた。
ゴーレムたちは地面に転がってよく眠っている。
思い思いの場所で大の字になって眠るゴーレム。
呑気なものだ。
少し心配していたが、地中から突然襲ってくることもなかった。
だが油断はできない。
眠っているゴーレムの傍らを忍び足で家に帰るレオン。
息をするのも気を遣いながら、普段なら数分で着く我が家に回り道を繰り返してようやくたどり着いた。
表の扉は裏側から家具で押さえているので開かない。
そのため侵入は裏口から。
昨日もわざわざ二階から飛び降りなくても、ここから出ればよかったのに、と言われそうだ。
実際レオンも冷静になればそう思う。
ただ昨日、そんなこと思い付く余裕はレオンにもポックにもなかった。
もちろんダンはそんな裏口のことは知らないからどうしようもない。
何はともあれ裏口に到着すると、やはりできるだけ音を立てないように(途中で扉がギーッと鈍い音を立てたときは肝が冷えた)気を付けながら家の中へ。
入って扉を閉めるとレオンもダンもポックもへなへなと座り込んだ。
「…何とか…なったのか?」
息をするのを思い出したようにダンが途切れ途切れに聞く。
「みたいだね。さぁ、一階のダイニングに」
レオンは真っ暗な家の中をそろそろと進む。
そしてダイニングにたどり着くと、食器棚と反対側の本棚に近づく。

こんなに危険を犯して取りに帰った忘れ物とは…。
「…たしかこの辺に…。…あった!じゃーん!これ!」
レオンがポックとダンに見せたのは数枚の紙切れ。
手にしているのは端の擦りきれて少し黄ばんで変色した紙が数枚。
「これがないと何かと不便なんだよねー」
レオンはその紙切れのしわを伸ばしてくしゃくしゃにならないように目の前の本棚に並ぶ本の中から手近にあった一冊を取り出して挟んだ。
手に取った本は…ルーナの日記。
しかもかなりの昔のものだ。
たくさんあるからルーナはマメに日記を書いていたようだ。
中が気にはなったが、とりあえず急いでいるので中身を見ずに一冊拝借することにした。
小さな金具がついているから袋の中で勝手に開いたりもしない。
「で、それ、なんの書類なんだ?」
ダンは首をかしげる。
レオンはフフン、と鼻で笑うと、
「これ、マクベスの城門の通行証。これがないと手続きがかなり煩雑で面倒。マクベスに行くなら絶対必要な書類なんだよね」
レオンが説明する。
「何度か伯父さんたちに連れられてマクベスに行ったことがあるけれど、一回これを忘れて丸一日門の前で待たされたんだ。これがあれば十秒でOK。どう?危ない目をして取りに帰ってきた価値、あるでしょ?」
そう言うとレオンはまた裏口からこっそりと町に出た。
ダンたちもあとに続く。
そして危険な思いをして町に戻った目的はもうひとつある。
旅をするには馬車があった方が何かと便利だ。
レオンの悪友、ジャックの家には立派な馬車と馬がいた。
ジャックの父親はこの馬車で切り出した木材を近隣の町に売りに行く仕事をしていた。
一頭馬車だがかなり大きい。
この馬車を引くのがジャックがペガと呼ぶ真っ白な馬だ。
身体が非常に大きく真っ白な立派な馬だ。
たくさんの木材を積んだ馬車を一頭で引くことが出来る。
「こいつはきっと前世はペガサスだったんだぜ。パワーもデカさも段違い!」
とジャックはいつも自慢していた。
だから名前はペガ。
ペガをこっそり借りることができれば、移動手段としてはかなり重宝するだろう。
というわけで、レオンたちはペガのもとへやって来たのだ。
町の外れの馬小屋に繋がれたペガは石にならずに不安そうな顔をしていた。
落ち着きがなく、ソワソワしている。
誰も来ないから不安なのだろう。
レオンが近づくとヒヒンッと嬉しそうに小さく鳴いた。
「よかった。ペガは無事だったみたい。」
レオンはペガに近づく。
そして「しーっ!」と指をたててペガをおとなしくさせる。
それでおとなしくなるのだからペガはかなり賢い馬だ。
このままペガをつれていくことにした。
このまま繋がれていたらいずれは飢え死にしてしまうだろう。
おじさんもきっと許してくれる。
そう自分に言い聞かせると、レオンは手早く柱から引き綱を外すと馬車とペガを繋いだ。
これもジャックとおじさんがやっているのを何度も見ているので手順はバッチリ。
なれた手付きでペガと馬車を繋ぐ。
ダンもそれを手伝う。
「なんだか盗みにはいるみたいで気が引けるけれど、さっさと行こうぜ。」
ダンはそういうと静かな町の中をペガを引きながら急いだ。

*****

何とか町を脱出すれば。
しかし、すんなりと脱出はできないようだ。
あと少しで町を出るというところで、目の前に突然ゴーレムが現れた。
足元からニュッと出てきたゴーレムはペガを盛大に驚かせた。
「おーっと、ペガ!大丈夫!大丈夫だから!」
ペガを落ち着かせていたことでレオンの反応がほんの一瞬、遅れた。
身体の大きなゴーレムは訳のわからないことを叫びながらレオンに突進し、そのままのしかかってきたのだ。
身体の小柄なレオンにはたまらない。
息が苦しい。
全身を圧迫され、動くことはおろか息もできない。
もう無理…と思った時だった。
すぐにレオンはゴーレムから解放された。
ダンが信じられないような腕力でゴーレムを持ち上げたのだ。
ダンは両腕でじたばたする巨大なゴーレムを持ち上げ、そのまま頭上から石畳の地面に叩きつけた。
ゴーレムはそのまま粉々になり、二度ともとには戻らなかった。
「ありがとう。ぺしゃんこにされるかと思った。」
レオンが苦笑いすると、ダンは息を整えながら親指をたてる。
「追っ手が来る前に早くここから逃げよう。」
そういうとダンはまだ興奮しているペガを落ち着かせ、早足で町の外へ向かった。
町の東側に大きな道が延びている。
この道を進み、橋を渡り、迷いの森を抜けて行くとそこにはトクラという町がある。
とりあえず最初の目的地はトクラとなる。
「北回りはクララトの町だけど、あそこへは馬車は使えないからダメ。」
これもさっき家から持ってきたもの。
周辺の地図を広げてレオンは呟く。
「南回りのエスカは焼け野原。」
ダンはエスカを指ではじく。
「やっぱりこの森を越えていくしかなさそう。直線距離だと一番近道。」
東の方角に進むこの迷いの森ルートが一番近いという結論から、この道を行くことに決定した。

最後に、レオンは町の入り口で再び故郷を振り返った。
「必ず謎を解き明かして帰ってくるから。」
レオンは心の中で強く誓った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...