大人のためのディズニー考察

鼓太朗

文字の大きさ
3 / 4
ルックスコンプレックスを乗りこえろ!

ルックスコンプレックス② カジモド(「ノートルダムの鐘」より)

一番分かりやすくビジュアルにコンプレックスを持つディズニーキャラクターはやはり彼を置いて他にないでしょう。

映画『ノートルダムの鐘』の主人公、カジモド。

彼はノートルダム大聖堂に程近い船着き場から闇夜に紛れてパリに侵入してきたジプシーの末裔です。
そもそも虐げられている存在であるジプシー。
同じ人間でありながら公然と差別を受け、辛い立場にあります。

そして彼には最大のコンプレックス、『容姿』の問題を抱えています。
腫れぼったい目、ガタガタの歯、シミだらけでシワだらけの顔、ボサボサの髪型。
また、彼は醜い容姿だけではなく、背骨が異様に湾曲する「くる病性円背」という一種の障がいを抱えています。

乳児の段階で親を最高裁判事・フロローに殺害され、天涯孤独となるカジモド。
事実を知らされぬまま、親を殺した張本人であるフロローに育てられ、彼は青年へと成長していきます。
彼の願いは「陽射しの中で愛される友達に囲まれ、当たり前の生活を送りたい」というもの。
しかし残念ながらそれを邪魔するのが自身のルックス。
同時に彼は考えます。
「誰が自分みたいな醜い男を愛してくれるだろう。受け入れてくれるだろうか?」
ちょっとかわいそうな気もしながら言いますが、彼は愛された経験の無さから、ただ一方通行に「愛されたい」という願望に苛まれています。
「愛」は双方向であるべきですが、「愛」を知らない彼はその事に気づきません。
彼のベクトルは常に内側に向いています。
「何で俺はこんなに不幸なんだろう?」
そんな考えが常に彼の中には渦巻いています。
そんな奴を愛す奴なんているか?
とも思ってしまいます。

そんなコンプレックスの塊である彼が勇気を振り絞って繰り出したお祭り。
トップシー・ターヴィー(逆さま祭)。
賑やかで明るい雰囲気に彼は一瞬だけ、日差しの中に躍り出ます。
しかし、ある意味で育ての親であるフロローの言う通り、世間は冷たく、トマトを投げつけられるなど手痛い仕打ちを受けます。
ある程度まで落としきるのがディズニー流。
彼は深く傷つき、「コンプレックスの解消」に暗雲が立ち込めます。
そんな絶体絶命な精神的ピンチを救うのがジプシーの美女、エスメラルダ。
そして、イケメン護衛隊長のフィーバス。
ここではじめて彼に「友達」ができます。
フィーバスの台詞の中で、一番好きな言葉。
「彼女(エスメラルダ)は幸せだな。君みたいな友達がいて。」
何でもない台詞ですが、この台詞が、精神的にカジモドを救います。
孤独から彼を救うこの台詞から物語はエンディングへの一悶着へ大きく舵が切られます。
卑屈で内向的、自分のコンプレックスがこびりついて孤独なカジモドですが、このあと、自分の欲求ではなく「人のために」行動するということを始めます。
「エスメラルダを救いたい」
「ジプシーたちを助けたい」
そんな新たな欲求が彼を変えます。
そでやっとカジモドの中に双方向の愛が生まれ、最終的に彼はコンプレックスを乗り越え、パリの人々に受け入れられ、文字通り「陽射しの中へ」歩きだし、めでたしめでたしとなります。

「ノートルダムの鐘」が他のディズニー映画と一線を画す点が二つあります。
ひとつ目は、ヒーロー(主人公)とヒロイン(プリンセス)が最終的に結ばれないというところ。
他のディズニー映画の主人公たちは、ほぼ100%、ヒーローとヒロインは最終的に結ばれます。
最近のディズニー映画(例えば「モアナと伝説の海」「ラーヤと龍の王国」「ミラベルと魔法だらけの家」など)はそうでもないですが…。
この時代のディズニー映画としてはかなり異色です。
そして、エスメラルダが相手に選ぶのは最終的にフィーバス。
「結局イケメンかよ!」
と突っ込みたくなりますが、現実はそんなもんです。
世知辛い世の中を風刺しているようではありますが、ハッピーエンドの中に「ちょっとだけ現実」が挟み込まれているのが、個人的にはすごく好きです。

そしてふたつ目は、ハッピーエンドの形が「恋の成就」ではない点です。
カジモドはエスメラルダに対して淡い恋心を抱きながら、それを直接的に伝えることはしません。
最後の最後、カジモドはフィーバスとエスメラルダの手を大きな手で包み込むと優しく繋ぎ、二人の元から離れます。
はじめて出来た友達の恋を優先して自分はそっと身を引くのです。
これも他のディズニー映画には見られないエンディングです。
「美女と野獣」や「塔の上のラプンツェル」、「アラジン」のように、プリンセスと結ばれてめでたしめでたし、ではなく。
みんなハッピーになりながらもカジモドの恋は成就しません。
でも、それがこの物語の良さだと思うんです。
これは「La La Land」など、ディズニー以外の他の映画にも繋がる新しい「成就の形」だと思います。

主人公のカジモドはビジュアルにコンプレックスがあるにも関わらず、最後までそこは変わりません。
「現実は厳しい」とも取れるこのエンディング。
「美女と野獣」のビーストや「リトルマーメイド」のアリエルのように最終的に求める姿になるディズニーキャラクターもいますが、カジモドはそうなりません。
見た目は醜いまま。
それでも内面の変化がカジモドを文字通り陽射しの中へいざないます。
民衆の中で一番最初に彼に手を差しのべるのが幼い少女なのも、純粋な心を持つ子どもを全面に出すディズニーの粋な計らいです。
内面を磨くことで、同じように清らかな内面を持つ人に導かれていきます。

「あなたは一人ではない。」

全体的にダークな物語なので、あまり取り立たされることはありませんが、隠れた名作だと個人的には思います。
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき