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天ヶ崎舞羽とピクニック

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 天ヶ崎舞羽がピクニックに行きたいと言い出した。

 僕が断ると、子供のように騒ぎ出した。

「なんでーーーーー!? 行こうよ! 行こうよーーーー!」

「あのなぁ……今は夏だぞ。暑いじゃないか」

「ゆうがそれ言っちゃうの!?」

 今は8月の3日。夏真っ盛りの暑い暑い昼下がりである。僕はあえてクーラーをつけずに蒸され続ける苦行(阿呆極まりない)にて無為に水分と塩分および貴重な青春の1ページを浪費しているというのに、なぜ肌を焼くような紫外線が支配している外界へ好き好んで突撃しなければならないのだろうか? 得られるものと言えば、宿題を終わらせたという夏休み限定の実績のみである。

「こんな夏の悪いところばっかり接種してないでさ、一緒に外にでようよ!」

「夏の悪いところとはなんだ。心頭滅却すれば火もまた涼し。僕は修行中だ」

「それ、焼けちゃったお坊さんが言ったやつじゃん! ゆう死んじゃやだよ! 出よ? 出よ!?」

 舞羽は僕の肩を掴んでガックガックと揺さぶった。その恰好はいかにも涼しそうで、全身から「ピクニックに行きたい!」という叫びが聞こえるほどに眩しい恰好だった。

 天ヶ崎舞羽は青空にかかる浮雲のように柔らかそうなワンピースを着ている。その色は日輪も斯くやと思わせる白色で、もし外へ出ればそのまま陽光に溶けてしまうのではないかと見紛うほど高貴で純白のワンピースだった。手にはピクニック用のバスケット。頭にはすでに麦わら帽子をかぶっている。バスケットからはおいしそうな匂いが漂っており、彼女は夏を満喫する気まんまんであった。

「ねーえー、ゆうとピクニックに行きたいの。そんなに遠い場所じゃないんだよ? ほら、そこの山にね、開けた広場があってね、とってもいい眺めなんだって!」

「へえ……そう」

 夏休みに入ってからというもの、舞羽が一段とアクティブになっているような気がする。まるで太陽の光が力を与えているかのごとく溌剌はつらつと、向日葵ひまわりが大地を化粧するように笑顔を咲かせる舞羽は夏の妖精であった。

「うんうん! ね、勉強ばかりしてないで、一緒にピクニックしよっ?」

「そっか」

「うん!」

「…………………………」

「…………………………」

 僕は本に目を落として、ページをめくった。

「ゆ~~~~~~う~~~~~~~~!」

 妖精は僕の背中をぽこぽこ叩いた。
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