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三章
05. 沖縄旅行編:ナイトプールと眠る人①
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滞在初日のディナーは、沖縄県産の食材をふんだんに使ったフレンチだった。
ヴィラ『The Avalon』では、連泊する宿泊客が圧倒的に多い。
そのため、世界各国の料理が代わる代わる提供され、朝晩の食事内容も飽きのこないように設定されている。
宿泊予約の画面にて選択日の食事がどこの国籍か参照できるので、日程に余裕のある場合は好きな料理が出される日を狙い撃ちする楽しみもある。
とはいえ、常に満室御礼で話題沸騰の隠れ家ヴィラのため、予約可能な日があれば即決で予約する者も多い。
「美味しかったですね」
「はい。先生はグジェールが好きそうでしたね」
「中に入っていたピスタチオのクリームが、とても好みでした」
街灯が照らす夜道を歩きながら、鳴成と月落は約2時間掛けて味わった夕食のことを思い返していた。
ピスタチオフロマージュのグジェール
島豆腐のムース 雲丹とキャビア添え
あぐー豚とマッシュポテトのミルフィーユ仕立て
スジアラのブイヤベース
ドラゴンフルーツのグラニテ
石垣牛フィレ肉 2種のソース
ダージリンシフォンとマンゴーのデセール
「きみはやっぱりステーキですか?」
「お肉、美味しかったです。島らっきょうのソースは人生で初めてでした」
「私もです。天ぷらになっているのは食べたことがあるんですが、まさかフレンチのお皿の上で出会う日がくるとは思いませんでした」
「デザートは足りました?」
「ええ、共に食事をした優しい紳士からお気持ちを頂いたので」
インルームダイニングで一皿一皿運ばれてくる絶品の数々。
食べ終わった丁度のタイミングで次の料理が提供されるそのサービスは、監視カメラでも付いているのかと疑うほどに鮮やかだった。
その後の遊びのために最初の一杯でアルコールは辞めたが、料理だけでも十二分に華やかだった。
「あ、先生、見えてきました。あれがプールです」
「何だか、ここからでも激しさが分かる感じですね」
ショッピングモールを通り過ぎ遊園地の横の道を抜けると、空を突き抜ける無数のレーザー光線が見える。
角を曲がると、プロジェクションマッピングで装飾された建物が唐突に現れた。
その前には、麦わら帽子を被ったライオンが咆哮を上げる巨大なフィギュアが、数色のライトによって下から照らされている。
普段は全く関りのないド派手さに、鳴成は一瞬立ち止まる。
「今年のプールは『サバンナからの酷暑見舞い』がテーマらしくて、中にもいっぱい動物がいるみたいで……先生?」
話を途中で止めた月落が、鳴成の顔を覗き込む。
降り注ぐ派手な色を受けてヘーゼルの色味を失くしたその瞳は、少しだけ躊躇うように揺れた。
「とてつもなく場違いな気がしてならないんですが、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫です。この中、人がひしめき合ってるので、誰も僕たちのことなんて気にしてません」
「今さら少し怖気づいてきました。クラブでパリピの陽キャな経験を若い頃に経験しておけば、と少し後悔しています」
「先生、語彙が増えましたね?」
くくく……と声を殺して笑う月落は、鳴成の肩をそっと撫でた。
「とりあえず行ってみましょう?初めてが僕となら、怖くないでしょう?」
「ええ、それは確かにそうなんですが……」
「浮き輪に入ってちゃぷちゃぷするだけでも楽しいと思いますから」
そう言って、鳴成の指先をそっと握りながら歩き出す。
近いからと、二人はヴィラで水着に着替えてから来ていた。
ベージュのサーフパンツにパーカータイプのネイビーのラッシュガードを羽織る鳴成と、黒のサーフパンツに半袖黒のラッシュガードを着て、首から防水のスマホケースを掛ける月落。
更衣室のロッカーに持ってきたバスタオル数枚を入れて、いざプールの中へと進む。
ちなみに、月落の手にはドーナツ柄とクジラ柄の浮き輪がぶら下がっている。
レセプションでナイトプールに行くと聞いた実咲から、『これで遊びなさい』とヴィラの従業員を通じて渡されたのだ。
折角だからと持ってきたが、そのアイテムがあることでどの角度から見てもナイトプールを本気で楽しみにきた浮かれた二人組として成り立ってしまい、気持ちとは裏腹な格好に鳴成は若干居たたまれない。
鳴成の腕に付けられたハイビスカスのブレスレットを、入口のスタッフに見せると大きく頷きながら通された。
「う、う……うわぁ……」
小さく、鳴成から発せられる何とも言えない感嘆の声。
多分、想像の何倍も衝撃的だったのだろう。
いつもゆったりおっとりしている鳴成の初めて見せる臆した姿が新鮮で、月落はそれだけでもう既にここに来た意味があったと半分以上満足した。
正直、もう帰ってもいい。
そう思うのも大袈裟ではない。
けれどこうして足を運んだからには、少しだけ遊んで行きたいという気持ちもある。
「派手ですね、先生」
「ええ。18歳未満は入場制限と聞いたのである程度覚悟はしていたんですが、想像以上にギラギラでした」
爆音で流れるEDM、激しく点滅する蛍光色の眩しいネオン、それを跳ね返す水面、うねる幾筋の噴水、騒ぎ声。
DJブースのあるステージではミラーボールも回り、その前では水着の大勢が音楽に合わせてリズムに身を任せている。
奥の行列の先にあるのは、動物のイルミネーションと写真が撮れるスポットらしい。
「皆さん、楽しそうですね」
「雰囲気は派手なんですがお酒の提供はやってないので、そこまで羽目を外す感じじゃないみたいですね」
もっと怪しいムードかと思っていたが、純粋に夜のプールを満喫しにきた人々が多いようだ。
ふざけ合って時々水しぶきが高く上がる場所もあるけれど、その方が珍しい。
思った以上に健全な様子に、めくるめく妄想を広げていた鳴成の肩から力が抜ける。
「という訳で、とりあえず波の出るプールからですね」
昼には15分毎に大波が押し寄せるのが目玉のメインプールだが、夜は安全性を考慮して1時間に1回に変更されている。
その代わり、小波が絶え間なく出現するシステムになっていて、さざ波が本当の海のようだ。
端の方から足を水に浸ける。
気温の下がった夜でも冷たさすぎない温度で、これならばずっと入っていても寒くならないだろう。
「あ、ちゃんと濡れる……」
「あの海の水とは違いますね」
鳴成が何と比較しているのかを瞬時に察した月落は、すぐに同意した
6月下旬、薔薇の奥庭から扉一枚を隔てた向こう側に出現したエメラルドの海。
冷たいのに濡れない、濡れている感覚は確かにあるのに次の瞬間には消えてなくなってしまう不思議な水。
それを思い出した鳴成は、掬った水を月落へと投げた。
逃げる隙もなくそれをまんまと浴びた月落は、前髪を濡らす。
「っ、先生!」
「濡れちゃいますね?やっぱり」
「そういうことするとお返しをされるっていう常識を、まさか知らない訳じゃないですよね?」
「わ、待って、多い……!」
月落から繰り出されるスプラッシュ攻撃に、逃げるネイビーのラッシュガード。
その身体を背後から襲う小波も弄んで、鳴成は頭からずぶ濡れになる。
「え、先生、すっごく濡れちゃいましたね。大丈夫ですか?」
紫の光を綺麗に反射いている髪を、大きな手が掻き上げていく。
「ええ、何とか……でも、波に揺られるのは楽しいので、きみも早く私と同じ有り様になってほしいです」
そう言いながら、深い場所へと進んでいく。
背の高い二人が腰の下辺りまで入る中央エリアに来ると、波の強さも増す。
ジムで鍛えてるからそんなに簡単には波に屈しません、と言っていた月落だが、バランスを崩した女子の集団を避けようとして足を縺れさせ、呆気なく顔からダイブした。
月落の身体が倒れる衝撃で発生した水しぶきに襲われた鳴成は、声を出して笑う。
起き上がったその人は、上から下までずぶ濡れだ。
先ほどとは逆に、その黒髪を生成りの指先が掻き上げた。
「ようこそ、こちら側の世界へ」
「ご一緒できて光栄です」
「水泳が得意だから、こんなの何ともないでしょう?」
「はい、特に。なので、こうして先生を道連れにするのも全く抵抗がありません」
「わ、あっ!」
ドーナツ柄の浮き輪に入っていた鳴成の腰に手を回すと、月落は後ろ向きに勢いよく倒れた。
浮き輪ごと鳴成は水に沈められる。
かろうじて水面から顔を出す格好で座り込んだ月落に抱き留められながら、子供の頃父親にさえされなかった激しさを体験した鳴成は、目をまん丸に開いてまばたきを繰り返す。
「ビックリしました?」
「……ええ、とても」
「もう一回しましょうか?」
「それは遠慮します……ん?様子が何だかおかしいですね」
「はい、より一層ギラつき始めましたね」
プールを照らしている蛍光ネオンが点滅のリズムを変える。
それと同時に、青や紫だった色も、黄色と赤にその組み合わせを変えた。
人工的に波を作っている奥の壁周辺の、水面の動きが怪しくなる。
爆音のEDMをかき消すようなファンファーレが響き渡った。
「もしかしてこれって……」
「先生、大波です!」
瞬間、作り出された猛烈な波がぐんぐんと速度を上げて近づいてくる。
鳴成を抱き込んで壁となった月落だが、その波の威力は到底防げるものではなく、二人の身体は思い切り宙に浮いて遠くに流された。
同じように荒波に流された人々が、楽しそうな悲鳴を上げる。
まさか、遊び始めてすぐに1時間に1回の大波を引き当てるとは。
「あはははははは!」
ぐしゃぐしゃに濡れる。
けれど、それが楽しい。
テンションが振り切れて、大声で笑う。
入口で感じていた躊躇いはいつの間にかどこかへやら、吹き飛んだ。
夜空の下、喧噪の中で、鳴成と月落は髪も顔も肌も濡らしてめいっぱい遊んだ。
ヴィラ『The Avalon』では、連泊する宿泊客が圧倒的に多い。
そのため、世界各国の料理が代わる代わる提供され、朝晩の食事内容も飽きのこないように設定されている。
宿泊予約の画面にて選択日の食事がどこの国籍か参照できるので、日程に余裕のある場合は好きな料理が出される日を狙い撃ちする楽しみもある。
とはいえ、常に満室御礼で話題沸騰の隠れ家ヴィラのため、予約可能な日があれば即決で予約する者も多い。
「美味しかったですね」
「はい。先生はグジェールが好きそうでしたね」
「中に入っていたピスタチオのクリームが、とても好みでした」
街灯が照らす夜道を歩きながら、鳴成と月落は約2時間掛けて味わった夕食のことを思い返していた。
ピスタチオフロマージュのグジェール
島豆腐のムース 雲丹とキャビア添え
あぐー豚とマッシュポテトのミルフィーユ仕立て
スジアラのブイヤベース
ドラゴンフルーツのグラニテ
石垣牛フィレ肉 2種のソース
ダージリンシフォンとマンゴーのデセール
「きみはやっぱりステーキですか?」
「お肉、美味しかったです。島らっきょうのソースは人生で初めてでした」
「私もです。天ぷらになっているのは食べたことがあるんですが、まさかフレンチのお皿の上で出会う日がくるとは思いませんでした」
「デザートは足りました?」
「ええ、共に食事をした優しい紳士からお気持ちを頂いたので」
インルームダイニングで一皿一皿運ばれてくる絶品の数々。
食べ終わった丁度のタイミングで次の料理が提供されるそのサービスは、監視カメラでも付いているのかと疑うほどに鮮やかだった。
その後の遊びのために最初の一杯でアルコールは辞めたが、料理だけでも十二分に華やかだった。
「あ、先生、見えてきました。あれがプールです」
「何だか、ここからでも激しさが分かる感じですね」
ショッピングモールを通り過ぎ遊園地の横の道を抜けると、空を突き抜ける無数のレーザー光線が見える。
角を曲がると、プロジェクションマッピングで装飾された建物が唐突に現れた。
その前には、麦わら帽子を被ったライオンが咆哮を上げる巨大なフィギュアが、数色のライトによって下から照らされている。
普段は全く関りのないド派手さに、鳴成は一瞬立ち止まる。
「今年のプールは『サバンナからの酷暑見舞い』がテーマらしくて、中にもいっぱい動物がいるみたいで……先生?」
話を途中で止めた月落が、鳴成の顔を覗き込む。
降り注ぐ派手な色を受けてヘーゼルの色味を失くしたその瞳は、少しだけ躊躇うように揺れた。
「とてつもなく場違いな気がしてならないんですが、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫です。この中、人がひしめき合ってるので、誰も僕たちのことなんて気にしてません」
「今さら少し怖気づいてきました。クラブでパリピの陽キャな経験を若い頃に経験しておけば、と少し後悔しています」
「先生、語彙が増えましたね?」
くくく……と声を殺して笑う月落は、鳴成の肩をそっと撫でた。
「とりあえず行ってみましょう?初めてが僕となら、怖くないでしょう?」
「ええ、それは確かにそうなんですが……」
「浮き輪に入ってちゃぷちゃぷするだけでも楽しいと思いますから」
そう言って、鳴成の指先をそっと握りながら歩き出す。
近いからと、二人はヴィラで水着に着替えてから来ていた。
ベージュのサーフパンツにパーカータイプのネイビーのラッシュガードを羽織る鳴成と、黒のサーフパンツに半袖黒のラッシュガードを着て、首から防水のスマホケースを掛ける月落。
更衣室のロッカーに持ってきたバスタオル数枚を入れて、いざプールの中へと進む。
ちなみに、月落の手にはドーナツ柄とクジラ柄の浮き輪がぶら下がっている。
レセプションでナイトプールに行くと聞いた実咲から、『これで遊びなさい』とヴィラの従業員を通じて渡されたのだ。
折角だからと持ってきたが、そのアイテムがあることでどの角度から見てもナイトプールを本気で楽しみにきた浮かれた二人組として成り立ってしまい、気持ちとは裏腹な格好に鳴成は若干居たたまれない。
鳴成の腕に付けられたハイビスカスのブレスレットを、入口のスタッフに見せると大きく頷きながら通された。
「う、う……うわぁ……」
小さく、鳴成から発せられる何とも言えない感嘆の声。
多分、想像の何倍も衝撃的だったのだろう。
いつもゆったりおっとりしている鳴成の初めて見せる臆した姿が新鮮で、月落はそれだけでもう既にここに来た意味があったと半分以上満足した。
正直、もう帰ってもいい。
そう思うのも大袈裟ではない。
けれどこうして足を運んだからには、少しだけ遊んで行きたいという気持ちもある。
「派手ですね、先生」
「ええ。18歳未満は入場制限と聞いたのである程度覚悟はしていたんですが、想像以上にギラギラでした」
爆音で流れるEDM、激しく点滅する蛍光色の眩しいネオン、それを跳ね返す水面、うねる幾筋の噴水、騒ぎ声。
DJブースのあるステージではミラーボールも回り、その前では水着の大勢が音楽に合わせてリズムに身を任せている。
奥の行列の先にあるのは、動物のイルミネーションと写真が撮れるスポットらしい。
「皆さん、楽しそうですね」
「雰囲気は派手なんですがお酒の提供はやってないので、そこまで羽目を外す感じじゃないみたいですね」
もっと怪しいムードかと思っていたが、純粋に夜のプールを満喫しにきた人々が多いようだ。
ふざけ合って時々水しぶきが高く上がる場所もあるけれど、その方が珍しい。
思った以上に健全な様子に、めくるめく妄想を広げていた鳴成の肩から力が抜ける。
「という訳で、とりあえず波の出るプールからですね」
昼には15分毎に大波が押し寄せるのが目玉のメインプールだが、夜は安全性を考慮して1時間に1回に変更されている。
その代わり、小波が絶え間なく出現するシステムになっていて、さざ波が本当の海のようだ。
端の方から足を水に浸ける。
気温の下がった夜でも冷たさすぎない温度で、これならばずっと入っていても寒くならないだろう。
「あ、ちゃんと濡れる……」
「あの海の水とは違いますね」
鳴成が何と比較しているのかを瞬時に察した月落は、すぐに同意した
6月下旬、薔薇の奥庭から扉一枚を隔てた向こう側に出現したエメラルドの海。
冷たいのに濡れない、濡れている感覚は確かにあるのに次の瞬間には消えてなくなってしまう不思議な水。
それを思い出した鳴成は、掬った水を月落へと投げた。
逃げる隙もなくそれをまんまと浴びた月落は、前髪を濡らす。
「っ、先生!」
「濡れちゃいますね?やっぱり」
「そういうことするとお返しをされるっていう常識を、まさか知らない訳じゃないですよね?」
「わ、待って、多い……!」
月落から繰り出されるスプラッシュ攻撃に、逃げるネイビーのラッシュガード。
その身体を背後から襲う小波も弄んで、鳴成は頭からずぶ濡れになる。
「え、先生、すっごく濡れちゃいましたね。大丈夫ですか?」
紫の光を綺麗に反射いている髪を、大きな手が掻き上げていく。
「ええ、何とか……でも、波に揺られるのは楽しいので、きみも早く私と同じ有り様になってほしいです」
そう言いながら、深い場所へと進んでいく。
背の高い二人が腰の下辺りまで入る中央エリアに来ると、波の強さも増す。
ジムで鍛えてるからそんなに簡単には波に屈しません、と言っていた月落だが、バランスを崩した女子の集団を避けようとして足を縺れさせ、呆気なく顔からダイブした。
月落の身体が倒れる衝撃で発生した水しぶきに襲われた鳴成は、声を出して笑う。
起き上がったその人は、上から下までずぶ濡れだ。
先ほどとは逆に、その黒髪を生成りの指先が掻き上げた。
「ようこそ、こちら側の世界へ」
「ご一緒できて光栄です」
「水泳が得意だから、こんなの何ともないでしょう?」
「はい、特に。なので、こうして先生を道連れにするのも全く抵抗がありません」
「わ、あっ!」
ドーナツ柄の浮き輪に入っていた鳴成の腰に手を回すと、月落は後ろ向きに勢いよく倒れた。
浮き輪ごと鳴成は水に沈められる。
かろうじて水面から顔を出す格好で座り込んだ月落に抱き留められながら、子供の頃父親にさえされなかった激しさを体験した鳴成は、目をまん丸に開いてまばたきを繰り返す。
「ビックリしました?」
「……ええ、とても」
「もう一回しましょうか?」
「それは遠慮します……ん?様子が何だかおかしいですね」
「はい、より一層ギラつき始めましたね」
プールを照らしている蛍光ネオンが点滅のリズムを変える。
それと同時に、青や紫だった色も、黄色と赤にその組み合わせを変えた。
人工的に波を作っている奥の壁周辺の、水面の動きが怪しくなる。
爆音のEDMをかき消すようなファンファーレが響き渡った。
「もしかしてこれって……」
「先生、大波です!」
瞬間、作り出された猛烈な波がぐんぐんと速度を上げて近づいてくる。
鳴成を抱き込んで壁となった月落だが、その波の威力は到底防げるものではなく、二人の身体は思い切り宙に浮いて遠くに流された。
同じように荒波に流された人々が、楽しそうな悲鳴を上げる。
まさか、遊び始めてすぐに1時間に1回の大波を引き当てるとは。
「あはははははは!」
ぐしゃぐしゃに濡れる。
けれど、それが楽しい。
テンションが振り切れて、大声で笑う。
入口で感じていた躊躇いはいつの間にかどこかへやら、吹き飛んだ。
夜空の下、喧噪の中で、鳴成と月落は髪も顔も肌も濡らしてめいっぱい遊んだ。
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