鳴成准教授は新しいアシスタントを採用しました。実は甘やかし尽くし攻めの御曹司でした。

卯藤ローレン

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三章

16. クリスマスデートと返答の花束②

 在英時代、大学を出てからはロンドンに定住していた。
 そこでは毎年冬になると屋外スケートリンクが登場していたため、友人や昔の恋人と滑りに行ったことがあると話した鳴成に、意外なことに初心者だと月落が吐露したことで今日訪れてみることにした場所だ。

 入場ゲートを通過してスケート靴をレンタルする。
 リンクに行く途中で、月落はコートのポケットからグレインレザーの黒い手袋を取り出した。
 鳴成からのクリスマスプレゼントだ。

 平熱が高い上に正しく恒温動物である月落のクローゼットにはなかった防寒具であるが、スケートに行くならば装着必須ということで事前に鳴成が贈っていたものだ。
 普段身につけないだろうから無理して使わなくていい、という言葉を添えたため、今日が初お披露目の日となった。

 手袋に包まれた指先を握りながらいつまでもにまにましている年下の恋人を引っ張ってリンクへと行くと、そこは既に多くの人々で賑わっていた。
 大人も多いが子供も多い。
 けれど、窮屈すぎて滑れないというほどではなさそうだ。
 とりあえず端の方で、ゆっくり練習しながら流れに乗ってみようということになったのだが。

「上手……え、上手ですね。あれ?きみ、今日が初めって言ってましたよね?とても上手なんですが?」
「はい、今日が人生初滑りです」

 プレゼント交換会をした日に、ふたりで動画を観ながら予習をした。
 そのマニュアル通り、月落はリンクの壁に手をついて膝を高く上げながら歩くことから始めた。
 氷に慣れた頃合いで徐々にスライドするような足の運びになり、唐突に壁から手が離れ、開始後それほど経たない内にスムーズに滑れるようになってしまった。
 両手で危なげにバランスを取ることも腰が引けることもなく、軽い体重移動ですいすいと氷の上を進んでいく。

「あ、何か、大丈夫そうな気がします。先生と並んで滑れるかも」
「運動神経の良さはこういうところでも発揮されるんですね。上手すぎて普通に感心する反面、少々つまらない気持ちも芽生えるのが正直なところです。産まれたてのか弱いきみを、もっとお世話して可愛がりたかったんですが……」

 並走しながら呟かれた鳴成の言葉を聞いた瞬間、月落は急ブレーキを掛けてその場にしゃがみこんだ。
 そして見上げながら、鳴成へと黒皮の手を伸ばす。
 心なしか、潤んだ瞳の特典付きだ。

「先生、何だか急に滑れなくなりました。つるつるするのが怖いし、転ぶのも痛そうで嫌だし、掴まるものがないのも不安だし……でも、初心者なのでしょうがないですよね?秋史さん、引っ張ってください」

 もう既に初心者の域を超えるほどに華麗なブレーキを決めた本人が、一体何を言うのだろう。
 手助けなんてひとつも必要ないだろうに。
 そう思うけれど、大きなガタイの成人男性が人目を気にせず甘えてくるその健気ともとれる姿は、鳴成の胸を思いの外くすぐった。

 微笑みながら、鳴成は差し出された手を握る。
 しゃがむ月落を引っ張るように滑り出すが、いくら氷の上とはいえそれは重労働だった。
 息を若干乱しながら普通に滑ることを提案すると、あっさりと立ち上がった月落に手を繋ぎ直されて再出発となる。
 公の場では適度な距離を保つようにしているのだが、それをすっかり突破してきた月落の顔を覗き込む。

「大丈夫です。誰も見てません」

 周囲を確認すると、皆自分たちのスケートに夢中だ。
 親子や友達、恋人同士で手を繋いでいる人も多くいて、これならば衆目を集めることもないだろうと鳴成は気を緩めた。

 手袋越しの触れ合いは新鮮で、けれど厚みのあるせいかどこか心許なくて、鳴成はその指先に力を込めた。
 それを、ぎゅっと握り返される。
 サポートしなければならないほど危なっかしくない、むしろ別に全然問題のないスケーティングの二人組は、繋いだ手を離すことなく流れる景色を楽しんだ。

 余談だが、大男の自覚ありな准教授とTAは、フリーダムにカットインしてはきゃっきゃと動いてフレームアウトして行くカラフルな洋服のちびっこ達を巻き込んでしまわぬよう、意外な神経をすり減らすこととなった。




―――――――――――――――




 時計の長針が一周半するほど滑ってすっかり身体の冷え切った鳴成と月落は、暖を求めて近くのカフェへと逃げ込んだ。
 ホットのほうじ茶ラテとピスタチオラテで身体を解凍しつつ過ごし、冬の夜が密度を増し始める時間帯に銀座へと向かった。

 17時50分。
 雑居ビルの7階でエレベーターを降りると、そこは既に店のエントランスだった。
 淡い光に照らされた木製の表札には『銀座 こが』の文字のみが彫られている。

「渉様、お連れ様も、ようこそお越しくださいました」
「女将さん、お世話になります」
「よろしくお願いします」

 地紋に大王松が浮かぶ白緑色の色無地で現れた女性に挨拶をする。
 詳細は知らされていなかったが、その呼び方からどうやら月落の贔屓の店らしいと鳴成は推測した。
 初めての場所を開拓するのも心弾むが、彼の馴染みの店に行くとそれはそれで恋人の思わぬ昔話を聴けるので楽しいのだ。

 鈍色の塗り壁を左に見ながら女将の後ろをついて行くと、あえて狭く造られた通路は白木のカウンターが目を引く客席へと続いていた。
 十名掛けの座席は既に満席だ。
 隣の連れと話しながらグラスを傾けている者もいる。

「渉様、いらっしゃいませ。お待ちしておりました」

 カウンターの内側にいた男性が笑顔で迎えた。
 白いワイシャツにネクタイ、その上から調理白衣を纏ったその人は、親し気でありながら貫録を感じさせる佇まいだ。

「古河さん、こんばんは。今日はよろしくお願いします」
「心を込めてご用意しますので、お楽しみになさってください。さ、どうぞごっゆくり」

 鳴成と月落は、奥へと案内された。
 女将に従ってカウンター席の後ろを通る途中、座っていた中年男性のひとりから非難の声が上がる。

「なんだよ、大将。俺だって本当は個室でゆっくりしたくて前々からお願いしてたのに、それは無理だって断られたからカウンターで我慢したのにさ。あんな若造の方が、長年通った俺より大事だってことなのか?」
「ちょっと、あなた、おやめなさいな。クリスマス当日にここでお料理が食べられるだけでも幸運なんだから。ねぇ、大将?」

 男性の険を含んだ物言いとそれを宥める女性に、思わず振り向きそうになる鳴成を、月落がそっと寄り添うことで遮った。
 「気にせず」と囁かれたのでそのまま前だけを向いた。
 遠ざかる場では、カウンターの別の一席にいた老年の男性が、中年男性へと声を掛けている。

「横から話に入って申し訳ないですが、そちらのお客さん、ご職業は何を?」
「え、職業ですか?……私は北関東で小売りの自営業を少々」
「それならもしや、ご存じないのは仕方ないかもしれませんな。私の見間違いでなければ、先ほど後ろを歩いておられた方は、TOGグループの御曹司ですぞ」
「へ?!てぃ、TOGグループ……?!」

 ばさりと場に荒波が立つ。
 場所柄か、この店の敷居の高さからか、客の年齢層は高めだ。
 その巨大グループの名は若年であれば首を傾げることもあろうが、クリスマスという特大イベントの日に銀座の高級店で食事のできる世代で知らぬ者はいないだろう。
 隣に座る者同士そこかしこで、小さくない声量での会話が湧く。

「一族の方でいらっしゃる?私、知りませんでした」
「僕も知らなかったな。もっときちんと見ておくんだった。なんとか繋ぎをつけられれば、今後の事業展開に有利に働くかもしれなかったのに」

 その波の間で、先ほどの中年男性とその連れの女性は耳を赤く染めている。
 女性は男性の肩を、容赦なく叩きながら。

「あなた、とんでもないところに喧嘩売るところだったわよ。やだわぁ、もう。その怒りっぽいところ直してちょうだいって、いつも言ってるじゃない」
「あ、ああ、すまん」
「大将もお騒がせしてごめんなさいね。本当に余計なことばっかり言う主人で困っちゃうわ」
「カウンター席であっても個室であっても、お出しする料理やお召し上がりいただくお客様に捧げる愛情は少しも変わりません。本日ご予約いただいた皆様全てに、真心溢れる特別メニューをご用意しておりますので、どうぞお楽しみください」

 言い切った料理長に、客から拍手喝采が送られる。
 それは当然、そんな一部始終が展開されているとは知らない鳴成と月落がいる個室にも漏れ聞こえてくる。

「盛り上がっていらっしゃるようですね。理由は分かりませんが、雰囲気が好転したならば何よりです」

 スパークリングワインを注文した両者の元へ、宣誓を終えた料理長が挨拶をしに現われる。

「渉様、鳴成様、先ほどはお騒がせをいたしました。申し訳ございません」
「いいえ、大将。僕たちのことは何もお気になさらずいてください。無理を言って個室を用意していただいたのはこちらなので、むしろ先ほどのお客様が仰ることは至極真っ当だな、と考えていたくらいです」
「無理を通した訳では決してありません。正志様から席はどこでも良いと伺っていたのを、是非とも個室でと押し切ったのは私たちですので」

 知っている名前が出てきた鳴成は、思わず月落の顔を窺い見る。

「あ、言ってませんでした。ここ実は、元漁師の叔父が持ってるお店なんです。普段は海鮮専門の日本料理を出してるんですが、クリスマスの2日間だけは蟹専門になるんです。ちなみに、隣にもうひとつ個室があるんですが、叔父家族が座ってます」
「いつも大変お世話になっていますし、後でご挨拶に伺った方がいいでしょうか?」
「こっちはこっちで好きにやるから、そっちはそっちで好きにやれ、と言われてるので大丈夫です。夏に送ってもらった紅ズワイガニの感想を、先生自ら叔父にご連絡くださったのが相当嬉しかったようです。その後すぐに古河さんに連絡してクリスマスの予約をしたって、この前ネタバレされました」
「そんなに早い内から手配してくださっていたんですね。嬉しいです」

 話を聴いていた古河が、スキンフェード坊主の頭を上下に振りながら同意を示す。

「25日は何が何でも二席分は空けておけ、とのご指令でした。本日こうしてご来店いただけて、私どもも嬉しく思います」
「ありがとうございます」
「さて、本日は福井県産の越前がにとせいこがにの、かに尽くしコースをご用意しております。私や副料理長、そして蟹マニアのスタッフが代わる代わるお邪魔して、一品一品を目の前でお作りいたします。本日は献上サイズの越前がにと特大サイズのせいこがにを存分に使いますので、渉様にもきっとご満足いただけると思います」

 そう残して退出する料理長と入れ替わりで、同じ格好の男性が入室する。
 副料理長のようだ。
 その後ろから女将が現れ、鳴成と月落の前にスパークリングワインを置いた。
 黄金で満たされたグラスの中で、細かく弾ける泡がムードを高める。

 喉を潤していると、蟹しんじょが浮かぶ御椀が届けられた。

「ふわふわの極みですね。優しい味わいなのに、旨みが凄いです」
「汁物なのに、蟹の甘さが溢れてますね。美味しいです」

 刺身、茹で、焼き、蒸し、せいこがにの内子と外子の盛り合わせ、かに味噌の甲羅焼き、しゃぶしゃぶ、天ぷら、握り。
 丁寧な調理で素材の魅力を最大限に引き出した蟹のフルコースはどれも美味しく、合間合間で出される旬の海の幸を使った箸休めにも何度も舌鼓を打った。
 食事も酒も、料理長をはじめとするスタッフの気遣いも、存分に堪能した夜だった。


 一件だけ、小さな出来事があった。
 『極』と刻印されたタグのついた手足を、じたばたと振り回しながら動く活きの良い蟹。
 それを料理長が躊躇なく出刃包丁で捌き始めたとき、鳴成が全動作を緊急停止させた。
 刺激が強かったようだ。
 無口になった恋人のヘーゼルの瞳を手の平でそっと覆って、何なら耳も覆った月落だった。

 女将が、優しい眼差しで見つめていた。




―――――――――――――――




 21時過ぎに店を出た鳴成と月落は、イルミネーションの煌めく道を通って日比谷にあるホテルへとやって来た。
 エントランスを抜けてラウンジへと向かう。
 ホワイトゴールドの丸テーブルとソファで構成された二人席に案内されたとき、帰り支度をしていた隣の席の男性に月落は名を呼ばれた。

「渉か?」
「……あ、長野さんだ。こんばんは」

 鳴成を奥の席へと座らせようとしていた月落が、身をかがめてそっと囁く。
 「うちのグループの飲料部門のCEOです。親戚ではありませんが、長年の知り合いなのでほぼ親戚です。良い人です」と、早口に鳴成へと伝える。
 ちらりと月落を見上げた鳴成は何も言わず、長野へと微笑みながら会釈をした。
 長野もそれに同様の会釈だけを返しながら、若者たちへ着席を促した。

「長野さん、どうしたんですか?こんなところで会うなんて珍しいですね」
「クリスマスだからって娘に付き合わされたんだよ。何だ、夜パフェ、っていうやつだったかな。あ、もしかしてお前たちもそれを食べにきたのか?」
「はい、そうです。美味しかったですか?」
「まさかこの年齢になって夜にパフェを食べることになるとは思ってもなかったが、美味しかったよ。ビターなバージョンはラム酒が効いてて……そうそう、それだ」

 ホールスタッフに手渡されたメニューを開いた月落が、イラストを長野へと見せる。
 そこには、このラウンジの夜メニューの主役である、2種類のパフェが描かれていた。
 幾重にも重ねられた層は、手書き風の文字での解説付きだ。

「クリスマス時期の12月後半はカップルで来店されるお客様が多くなるだろうことを見越して、正志が用意させた特別メニューらしいが、さすがだな。元漁師のお前の叔父は、魚以外のことにも細かく気が回るよ」
「早苗叔母さんが甘いの好きじゃないので、そこ発想っていうのも十分考えられますね」
「そうか、早苗ちゃんは辛党だったな」
「激辛党ですね。あれ、そういえば、娘さんはどこに?」
「メイクを直しに行ってる……ああ、戻ってきたな。戻ってきたけど、しまった忘れてた。うるさくなりそうだから、俺はこのまま退散して——」
「渉さんだ!!こんばんは!!」

 父の言葉を遠慮の欠片もなく遮って、上から被せられた娘の元気な挨拶。
 袖にファーの付いたニットワンピースに身を包んだ、高校生くらいの見た目の少女が小走りで近づいてくる。

胡桃くるみちゃん、こんばんは」
「えー、こんなところで会えるなんてクリスマスの奇跡かも!嬉しい」

 そう言いながら少女は、父と対面の席へと座る。

「胡桃、座らないぞ。立ちなさい。もう帰るからって化粧室に行ったんだろう?」
「せっかく渉さんに会ったのにすぐに帰るなんて無理無理。お父さん、もうちょっと長居しよう?ね?」
「高校生は寝る時間だぞ。立ちなさい」
「クリスマスマジックで高校生の就寝時間は後ろに倒れてますー。こういう時に若者を敵に回すとロクなことないって知ってるサンタさんは、きっとうちらの味方してくれますー」

 普段相手にしてる大学生とはまた違った物の言い方に、ドリンクメニューを開いていた鳴成が微かに笑う。
 それを合図に、少女が隣へと視線を移した。

「え、美人!どなたですか?!」

 助走もつけずに空中へと投げたド直球の球は、そのまま打ち上げ花火のように頭上で破裂した。
 大人になるにつれて箱の中に仕舞いがちになる、無邪気さという名の青さ。
 その凄まじい瞬間最大風速を身に浴びて、親である長野は頭を抱えた。

「騒ぐのはやめなさい。お前には関係のない方だから、詮索は失礼だ。帰るぞ……、と電話か」

 席を立った長野の三つ揃えのジャケットの中で、メロディが鳴る。
 画面を確認した長野は一瞬迷い、月落に耳打ちした。

「すまん、ちょっと出る。お前たちの事情は娘は知らないから、迷惑を掛けるかもしれん。すまん」
「大丈夫です。行ってらっしゃい」

 大きな背中がエントランスへと消えていく。
 月落が前を見ると、少女の瞳はじっと鳴成を捕らえていて、凝視されている張本人はそれをさらりと無視している。
 新種の悪夢のようだ。

「先生、決まりました?」
「ええ、洋梨コンポートのパフェとデカフェのアールグレイにします。きみは?」
「僕は、ラム酒のパフェとジャスミン茶にしようかなと思います」

 ホールスタッフに注文を伝える。
 その間も、少女は顔の向きを変えない。
 大学の授業中にも鳴成の姿を必死に追っている学生は多いが、ここまで至近距離ではないので異様な光景だ。

 これが初対面の相手ならば間に割って入るのだが、長野の娘とは昔から面識があり、無邪気ではあるがきちんと節度は弁えていると知っているので、月落は少しだけゆったりと座っている。
 それを自然と感じ取っているのか、鳴成の雰囲気にも硬さはない。

 異様な空気を破ったのは、少女の明るい声だった。

「お名前をお伺いしてもいいですか?」
「鳴成と申します」
「渉さんの先生なんですか?」
「彼の同僚です。大学で教鞭を執っています」
「大学の先生なんですね!おいくつですか?」
「41です」
「大人で素敵です……彼女さんはいますか?」
「……彼女、は、いません」

 あえて『は』の部分を強調しながら答える。
 嘘はついていない。
 いるのは、彼氏、だから。
 その意図を察して、月落が顔を背けて笑いを堪えているのが見える。

「彼女さんいないんですね!あ、でももしかして、結婚してたりしますか?そういう大人のずるい言葉遊びだったり?」
「結婚もしていません。ですが——」

 そこで途切れる。
 続く言葉はない。
 中途半端に終わった会話を不思議に思った月落が、背けていた顔を戻す。
 どうしたのか、と問いかける視線を鳴成に送る。

 月落の関心を真っ直ぐに受け止めながら、鳴成は優しい眼でこう告げた。

「——ですが、結婚したい人はいます」

 女子校生顔負けのド直球ストレートなプロポーズに、月落という生命体はあえなく故障した。

 呆気に取られ過ぎて、表情が作れない。
 何の言葉も出ない。
 息は出来ているか?心臓は止まっていないか?——それすらも感知できない。
 かろうじてまばたきを繰り返しながら、魂を手放したようにただただ放心状態でいるだけだ。

 結婚指輪を渡したいと告白した時は、はにかむだけだった最愛の人。
 その人から突如として届けられた、あまりにも嬉しい返答の花束。

 頭の中で終わりなく反響する鳴成の言葉に、月落の思考機能は完全敗北した。
 その様子は、電話を終えて戻ってきた長野が心配するほどだった。




 深夜、ベッドの上。
 幾千の星に抱かれて眠る鳴成の左手薬指には、オーロラ色をした手作りの指輪が輝いていた。
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