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三章
21. 完。永遠の愛
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2月前半から中盤にかけて、外国語学部准教授である鳴成秋史の毎日は例年の如く忙殺の只中にあった。
後期テストの採点、成績評価、大学入試の採点、それに伴う会議への出席と、密度が濃すぎて最大値いっぱいの飽和状態だった。
特に今年は、1月の途中で解雇となった中垣謙介が受け持っていた1年生の必修授業の採点と成績評価を引き継がされてしまい、そのボリュームにしばし途方に暮れた准教授だった。
有能なTAによる手厚いサポートのおかげで何とか乗り切れたといっても過言ではない。
昨年と同様に、百貨店のバレンタイン特設催事に意気揚々と飛び込んだTAは、数々の紙袋を両手に携えて翌週の研究室へと出勤した。
この期間だけ平日週5で稼働している鳴成に合わせて、共に朝から晩まで絶賛引き籠り中のTAだ。
バレンタイン商戦に参加できるとすれば土日で、だとすればそれはそれは盛大に混んで大変だっただろうと労いの言葉をかけた。
けれど当人からは「先生の好きそうなチョコや焼き菓子がありすぎて、厳選するのが大変でした」と、ピントの合わない答が返ってきたので、鳴成はそっと口を閉じた。
チャイティーが香るタブレット
宇宙空間に浮かぶ惑星の如きボンボン
レモンゼストの酸味が爽やかなビスキュイ
大ぶりのナッツにスパイスと塩が効いたショコラ
ざくざくの食感がやみつきになるチョコがけサブレ
リスモチーフのクッキーが可愛いアソート缶
それらを午後の休憩時間に食べて癒されることで、過酷な日々でも人としての形を保つことが出来た。
余談だが、毎年この時期キャンパス内に出現していた、エナジードリンクを大量に袋に入れて顔面蒼白で彷徨う『ゾンビカスタネット』と呼ばれる面々だが、今年まさかのバージョンアップを遂げた。
昨年、理系キャンパスで合法魔改造されたエナジードリンクの新版が、文系キャンパスに極秘で密輸入されたのだ。
それを飲んだ挑戦者たちが、目の下に超ド級の暗黒を宿しながらも何故か異様に元気を漲らせながら敷地内を闊歩し、もはや怪奇現象と呼んでも誤解のない姿がところどころで目撃され、秘かな話題を呼んだ。
『転生ゾンビは生き残りループの夢を見る』という、ラノベリスペクトの新しい名づけが付与されたとかいないとか。
今年は新発見された年だったので、それが図鑑入りするかどうかは来年以降に持ち越しだという。
そして、2月中旬のある日。
「おつかれさまです。ビルメンです」
諸々の採点作業や入力が完了したその時期に、少々気怠げな挨拶と共に鳴成の研究室の扉がノックされた。
「どうぞ、お入りください」
月落が出迎えるとそこには、紺色の作業着を着た三名が立っていた。
紐が緑色の職員証を首から下げた、大学の技術系職員だ。
脚立を持っている者もいる。
最年長と思しき男性が、手に持っていた紙を月落へと渡した。
「失礼します。大学から送付された事前告知の通り、これから扉の付け替え作業を行います。ビルメンテナンスの佐藤です」
「鈴木です」
「辻でっす」
横並び一列で頭を下げられる。
それに、立ち上がった鳴成と月落も挨拶をした。
「なるべく騒音にならないように善処しますが、要所要所で電動ドライバーなどの機械を使用しますので、瞬間的に大きな音が出ることがあります。予めご了承ください」
「ええ、承知しました」
「それでは作業を始めます」
「よろしくお願いします」
床や壁に養生テープを貼り始めた職員を横目で見ながら、月落は鳴成に小声で話しかけた。
「ハラスメント対策の一環っていう話でしたけど、対応としては超速ですね。中垣先生の件があってからまだ1か月ですけど、大学内の研究室の全ドアを替えてるんですよね?」
「近年、他大学でもセクハラやパワハラで教職員が処分されるケースが目立ち始めたことで、前々から逢宮でも案としては出ていたようです。それがこの短期間に事件が多発したことで、稟議が即日決裁されたと聞きました」
「中心一直線にガラスの嵌められた扉になるんですよね?」
「そうです。外側から中の様子が覗けるようになることで、密室になるのを防ぐという意図があるようです」
「……困りました。先生の優雅な研究室生活が、人目に晒されるようになっちゃいますね」
「きみが困るんですか?」
「困ります。朝の窓際で読書をしている先生とか、資料作りに没頭している先生とか、細かく採点しながらペンを動かしてる先生とか、夕方少し疲れて伏し目がちでぼーっとしてる先生とか。どんな瞬間も麗しい先生を外側から簡単に見られるようになっちゃうのは、ちょっと不満です。隠れててほしいです」
「それは、私の力ではどうすることもできませんね」
隠れて悪事を働かないようにするための改善なのだ。
その網を掻い潜って隠れようとするのは大学側の意図に反するし、そもそも無理難題だ。
「それに、ご心配なく。そんな不埒な気持ちを抱いているのは、きみだけですから」
「不埒ですか?」
「ええ、幾分かは。そういう目で私を見るのは、きっときみだけでしょうし」
「先生、それは違います。全然分かってないです。先生のことを手に入れたいと思っている人間が、年齢も性別も関係なくどれほどいるか。きっと先生はご自身の魅力を測定するアンテナの感度が少し鈍くなってて——」
控えめなボリュームで控えめでない熱意を語る黒髪のTAと、苦笑いでそれに耳を傾けるヘーゼルの准教授の光景は、その後もしばらく続いた。
―――――――――――――――
3月前半の水曜日、11時過ぎ。
鳴成秋史と月落渉はお台場に建つ、TOGグループ自社ホテルのロビーを訪れていた。
グレイッシュホワイトのスエードコートにケーブルニットを合わせ、メランジグレーのトラウザーズを穿いた鳴成。
ダークグレーのグレンチェックコートにナイロンとカシミヤミックスのカーディガン、グレーのウールパンツの月落。
示し合わせたように統一感のあるコーディネートである。
両者手に持っていた小さめのボストンバッグを荷物預かりのカウンターに渡していると、両サイドから自分たちの名を呼ぶ声が聞こえた。
「渉」
「史くん!」
呼ばれた方向へとそれぞれが顔を向けると。
月落の右側からは父の衛と母の梢が、鳴成の左側からは父の昌彦と母の利沙がフォーマルな装いで近づいてくるところだった。
すぐ目の前まで来た両親は息子たちへの挨拶もそこそこに、親同士で親し気に言葉を交わし始める。
「昌彦さん、ベストなタイミングでお会いできましたね。少し早く着きすぎたかと思ったんですが、息子にも会えて棚ぼたでした」
「大通りが少し混んでいたので裏道を選んで正解でした。衛さんと梢さんをお待たせすることがなくてほっとしています」
「利沙さん、今日のドレスとっても素敵です。アシンメトリーのドレープが優美で、お色もお顔に映えますね」
「ありがとうございます。梢さんの装いもシックで洗練されていらっしゃいます。ブラックのチュールドレスがお似合いですわ!」
首を右左に振りながら会話を聞いていた鳴成と月落は、思わず顔を見合わせた。
父親同士はあの5月の事件以降よく時間を共にしているとは聞いていたが、母親同士がこんなにも気さくに話す間柄とは初聞き、というか初見だ。
「母さんって利沙さんとお会いしたことがあるの?」
「うん。去年の夏終わりにお誘いいただいて、弓子お義理姉さんと一緒にお食事させていただいたの」
「蛍さんもご一緒に、年末には女子会を開いたりして楽しく交友を深めさせていただいてるんですよ」
「え?蛍もですか?寝耳に水とはまさにこういうことだな……」
「父さんは、梢さんと面識があるんですか?」
「あぁ、衛さんが秋の中頃に挨拶の場を設けてくださってね。それ以降、『親会』と称してこうして折々で食事をご一緒してるんだよ」
「じゃあ、今日もこれから?」
「うん、そうだよ。これから、上の鉄板焼きのお店に行こうと思ってね」
四人の両親たちは、うんうんと頷く。
その雰囲気は、一朝一夕で醸し出せる親密さではない。
こう、何と言うか、歪みのほとんどないすっきりとしたまん丸のような、綻びのなさを感じさせる。
『連帯』や、『団結』といった言葉が似合いそうな。
まさか親同士が秘かに交流を重ねていたなんて。
「知らなかった」
「知りませんでした」
「でも、嬉しいです」
「ええ、同感です。両親同士が仲良しなのは、息子としてとても嬉しいですね」
鳴成と月落はそう囁き合う。
二人とも同じ色の笑みを顔に乗せているけれど、鳴成の頬には安堵の意味合いの方が濃く乗っているようだ。
同性で恋人になることを当事者の自分は受け入れても、両親はそうではないかもしれない。
きっと受け止めてくれると信じてはいたけれど、もしかしたら嫌悪感や否定的な気持ちを僅かでも抱くかもしれない。
昨年夏の百貨店外商催事で母に思わぬカミングアウトしてしまった日のあと、鳴成は説明のため間を空けずに実家を訪れた。
人生で経験したことのない異様な緊張感に襲われながら相対した両親は、自分の言葉を遮ることなく全て聞き、そして穏やかな表情で祝福をしてくれた。
「お相手が渉さんで本当に良かった」とも言われて、『有頂天になる』という概念しか知らなかった言葉の意味を、鳴成は人生で初めて実体験した。
それだけでも十分だったのに、まさか最愛の両親が最愛の恋人の最愛の両親と親しくなっているなんて。
胸に喜びの霧が立ちこめて、その甘苦しさに、鳴成は感慨深げに大きくため息を吐いた。
そんな様子を隣で見ていた月落が首を傾げて覗き込んでくるのへ、何も言わず極上の笑顔で返した。
「そういえば、渉たちはここで何してるんだ?」
「今夜ここに泊まるんだけど、日中は麻布台に行くから一旦荷物預けにきた。今日はTAを退職する記念で先生プレゼンツのデートなんだ」
「それは楽しそうね。鳴成准教授、息子のために素敵な退職祝いをありがとうございます」
「おととしの秋から1年半、渉さんには言葉で表し尽くせないほどお世話になりました。今日はそのお礼も兼ねてですが、渉さんに頂いた沢山の配慮には到底見合いませんので、今後も感謝の気持ちを忘れずに想いを返していきたいと考えています」
「過分なお言葉をありがとうございます。渉は幸せ者だな」
「本当にそう。本当に、幸せ」
衛からの言葉に、肩ひじ張らずに何の誇張もなく月落は返事をした。
惚気も粘度を落とせば嫌味に聞こえない、の良い例だ。
それをすぐ隣で聞かされた鳴成だけが耳朶をほのかに赤く染めたが、気づく者はいなかった。
「渉さん、史くんのお仕事をそばで支えてくださってありがとうございました。言葉だけで誠に恐縮ですが、御礼申し上げます」
「私からも感謝申し上げます。大学内での息子の安寧を守ってくださり、ありがとうございました」
謝意合戦は選手交代で、鳴成家の番となったようだ。
鳴成と月落の様子を潤んだ瞳で眺めていた利沙が実にさっぱりとした潔さで頭を下げると、昌彦もそれに続いた。
月落は首を振りながら、どうぞ顔を上げてください、と静かに言った。
「先生と毎日楽しく授業ができて、僕の方が僥倖でした。公私共にそばにいられる時間はあまりにもかけがえのないものだったんですが、先生との将来を見据えて退職を選択しました。これから先生にはプライベートで、僕の情熱を全て注ぎたいと思います」
「まぁぁぁあぁあぁ!胸キュンな告白で、親ながらとってもときめいてしまいますわ!」
「利沙、分かったから少しボリュームを落とそうね」
「あら、ごめんなさい、鼓膜は大丈夫でいらして?衛さんと梢さんも失礼をいたしました」
「我々の鼓膜は丈夫ですので、ご心配は無用です」
「安心しました。あぁ、そろそろお店に向かう頃合いですね」
昌彦が時計を確認しながらそう言うのへ、他三名は頷いた。
「秋史たちは昼食はどうするのかな?個室を予約しているから、もし君たちが良ければ一緒に食べられるよ」
「麻布台で焼き鳥を食べる予定なので、一緒に食事をする機会はまた今度とさせてください」
「それは残念。次は是非ご一緒しましょうね。でも、この顔ぶれで食事するとなれば実質、両家顔合わせっていうことになる気がしますね」
梢の何気ない言葉に、月落と衛ははっとした顔で固まる。
目を忙しなくしばたたかせながら、男親と息子は視線を合わせたまま空中で交信を行う。
その前で、両手をわなわなと震わせながら絶叫するのを堪えている利沙と、その華奢な背中をさすって落ち着かせている昌彦。
「そうなりますね」
「ねえ?鳴成先生、その日を心待ちにしています。渉、またね。さ、親の皆さんは参りましょう」
平常心の二名だけでの会話を終えると、バリキャリの空気をさっと纏った梢が面々を引き連れてその場を去る。
鳴成と月落もロビーを抜けてホテルを出発した。
タクシーに乗って到着したのは、麻布台にある大規模複合施設。
惣菜エリアの中にあるグレーの壁へと吸い込まれるように入ると、カウンター席のみの店内へと繋がっている。
「この入口の感じが、"Platform Nine and Three-Quarters"みたいですね」
「あはは。きみがあの世界の住人なら、間違いなくグリフィンドールの寮生でしょうね」
「それは先生もじゃないんですか?」
「私はスリザリンを熱望します」
「……もしかして、前に北欧神話について話した時に仰ってた、清々しい悪役になりたいっていう気持ちが理由ですか?」
「ご名答です。記憶力が実に良い」
「そういえば、あの時に選んだのも大蛇で、スリザリンのシンボルマークも蛇ですね……」
「そう言われてみればそうですね。何だか運命の予感がします」
嬉々として告げる鳴成に月落は眉を下げながら、案内された席へと座る。
店内は8席のみ、メニューはおまかせコースのみ。
目の前の焼き台から奏でられる、爆ぜる鶏肉の音。
それを聞きながら食べる一品一品はどれも絶妙な味わいで、「飲み込みたくない」と一口ごとに唸る月落だった。
ランチを食べ終えたあとは建物を移動し、没入型アートミュージアムを訪れた。
外国人観光客の姿が多く見える。
お台場にも同様の施設はあるのだが、靴を脱いで裸足になければならないのが若干冬向きではないという協議の結果、今回は麻布台を楽しむことにした。
お台場には夏、サンダル半ズボンで行こうと約束している。
15時になり事前予約していたチケットのQRコードをゲートでかざして入場する。
暗闇に光る階段を下りてたどり着いた先は、デジタルの花が爛漫と咲き乱れては揺れ、そして散るを繰り返す空間だった。
天井高くの壁や床一面に広がる映像に、触れられないと解っていても指先を伸ばしてしまうのは、もはや本能的な仕草に近い。
するりと零れて逃げる、色彩の集合体。
その圧倒的で鮮やかなエネルギーに心の端から端までを埋め尽くされて、支配されて。
五感の鋭敏さが、徐々に奪われていく。
強から中、そして弱から最弱へと切り替わるように、刺激的な世界に呼応する心の襞の動きは刻々と鈍くなる。
テーマの違う部屋を通り過ぎるたびに、脈打つ鼓動の速ささえも緩やかになり、だからこそひとつひとつが力強く訴えかけてくる。
まるで、あたたかい膜の中で眠る時のような。
心が、無垢になる感覚。
目を閉じてしまいたい。
「たいない、にいるようですね」
壁を移動する蝶の群れに触れた鳴成が、そうぽつりと零した。
「それは体の内ですか?」
「それもありますが、胎と書く方が今の私の感覚には近いかもしれません。胎内記憶はないんですが、この飲み込まれそうなほどの華々しさになぜか懐かしさを憶えている自分がいます」
「確かに画面いっぱいの映像空間なので、包まれてる感じはしますね。それが胎内を喚起させるんでしょうか」
上も下も右も左も融け合う内側で、おびただしい光は交差していくつもの形を織り成す。
花、蝶、小魚の群れ、天井から落ちる滝、文字の連なり、動物、ガラスのシャボン玉。
鏡面で仕上げられてどこまでが奥行きなのか分からない、果てのない道。
座り込んで空中にぼんやりと視線を投げている人を何人も見かけたけれど、気持ちは十分理解できる。
取り残されて、輪郭を見失って、手放して、霞んで、彷徨って、彷徨って。
自分という名の宇宙と対話する時間。
光の背後に必ず存在する闇に気づければ、いつかきっと、本当の自分と出会える。
鳴成と月落も邪魔にならない場所に座って、しばらく動かなかった。
ぴたりと身体をくっつけたまま、ただ流れる景色を眺めていた。
たっぷり2時間のデジタルアートを堪能した彼らはタクシーでお台場へと帰ってくると、その足で竹芝小型船ターミナルへと向かった。
時刻は17時を15分ほど過ぎた頃、もうすぐ日没となる。
停泊している小型のスポーツクルーザーで、これから60分間のプライベートクルーズへ赴く予定だ。
「先生、足元気をつけてください」
「ありがとうございます」
先にクルーザーへと乗り込んだ月落が、鳴成へと手を伸ばしエスコートする。
アフトデッキに備え付けられたベンチシートに横並びで座ると、クルーザーは軽快なエンジン音と共に海の上を滑るように走り出した。
風を受けて髪の毛先がふわりと揺れる。
船に乗るメインイベントのために、ふたりとも髪型を普段よりしっかりめにセットしているのでひどく乱れるということはない。
今日は鳴成も左サイドを後ろに撫でつけたスタイルなので、昨年のホワイトデー以来の双子ルックだ。
「先生、寒くないですか?」
風ではためく鳴成のスエードコートの左右を合わせながら、月落はそう聞いた。
「大丈夫です。夕方の海辺を想定して少し厚めの生地を選んだので。きみは寒くないですか?」
「僕は先生さえ隣にいれば南極でも耐えられます」
「心意気だけ頂きますので、もし南極に行くことになったら分厚いダウンをこれでもかと持って行きましょうね」
「分厚いダウンを着たぬくぬくの先生を、僕は思う存分抱き締めて過ごすことにします」
「うん、静かにしましょうね?」
年下の恋人の頬を抓る。
真面目と冗談を高速反復横跳びするこの男との会話はいつだって飽きないけれど、時折箍が外れて場所を選ばない発言を大声ですることがある。
油断も隙もない。
頬に触れていた指先を月落に掴まれ外されたと思ったのも束の間、その手の平に唇を押し当てられて、鳴成は逃げるように手を引っ込めた。
やんちゃな年下の男を睨んで叱る鳴成に、けれど当人はどこ吹く風だ。
「あ、先生、空が凄いことになってます」
鳴成を見つめていた月落が顔を照らす眩しさに前を向くと、眼前にはとんでもないライブ映像が広がっていた。
レインボーブリッジを通過した先には、青と水色、紫が層を成す空。
沈みゆく太陽の周りは濃いオレンジに、いくつも浮かぶ刷毛ではいたような雲の表面は薄オレンジに染まっている。
逆光で黒く塗りつぶされたビルの隙間に、燃える太陽が刻一刻と降下していく。
「渉くん、海もすごいです」
波立つ海には、一筋の煌めきの道。
一本線で描かれる、迷いなき道。
凝縮したその最後の輝きは、どこか人生の終焉にも似ていて。
「さっきまでのデジタルな世界観とは180度違う迫力がありますね」
「ええ、これは人間には描けませんから。神への信仰心はないんですが、自然にしか作り出せないこういった景色を見るたびに、超越的な存在の影を感じる気がします」
そう話す間にも、空は表情を変える。
まばたきの僅かな間で、太陽の灯火はその照らす範囲を狭めていく。
「今日はデジタルの強烈な光に包まれて、自然が創る壮大な絵画も見て、図らずも生と死に触れるような体験をしたなと思います。大袈裟だときみは笑うかもしれませんが」
「いいえ、まったく。僕も同じ気持ちです。こうやって最後の最後まで、何なら最後が一番光り輝く終わり方をしたいです」
灯火はビルに削られ小さくなるけれど、その業火の威力はむしろ強さを増すばかりだ。
それはそれは、真っ向から受け止めきれないほどの。
「こういう終わり方をしたいです。秋史さんと」
「そうですね、と言いたいところですが、年齢的に私の方が先に逝くので残念ながらそれは難しい気がします」
「全力で不老不死の薬を探しましょうか?」
「ありがたい提案ですが、遠慮します。自然に老いて自然に終える一生を送りたいので。私の燃え尽きる瞬間は、きっときみがそばにいてくれるでしょうし」
「います、必ず。この腕に抱いて。最後まで必ずそばにいます」
月落は、そっと鳴成の腰へと腕を回した。
先ほどのように逃げられることはない。
そればかりか、そっと身を寄せられる。
風の吹く中で、体温を分け合う。
「人生の最終ページの青写真も決まりましたし、これで私の一生は安泰です」
「先生、問題が残ってます。僕の最終ページは、このままだと寂しく孤独死まっしぐらなんですが」
「そうでした……それならば、こうしましょう」
業火の灯火は終ぞ落ちる。
あっけないほどに、一瞬とも言えぬ短い間に。
けれど、地平線の底からその余韻は未だ世界を照らす。
「迎えに来ます、必ず。きみが寂しくならないように。燃える夕陽の背を支える空のように、きみが途絶える最後の最後まで輝いていられるように。暗闇となって包みます」
胸の壁を突き破って、奥深くに垂直に突き刺さる想い。
その想いに込められた嘘偽りのない確かさに、月落はくしゃりと切なく眉を歪ませた。
そのまま、鳴成の肩に頭を預ける。
「反則です、先生……それは反則」
「あはは、やっぱりきみはこの体勢が好きですね」
完全に夜の帳が下りた海の上。
二人は世界から隠れるように、しばらく抱き合っていた。
―――――――――――――――
3年後、春。
逢宮大学9号館中教室。
扇形の階段状に広がる座席には、爽やかな顔ぶれの学部生や、後方には教員と思しき小集団の姿もある。
ほぼ満員である200名近い人々の話し声がさざ波のように寄せる教壇に、一人の女性が登壇した。
「定刻になりましたので開始したいと思います。本日皆さんには、経済学部主催のライト講演会への参加のためにお集りいただいております」
青い紐の職員証を首から下げたその女性は、経済学部の教授だ。
「ライト講演会とは、昨年から新たに経済学部で始まりました、学部生向けの講演会です。本学や他大学関係なく経済学部卒業の方をゲストとしてお招きして、現在のお仕事に大学での勉強や経験がどう活かされているか、また、大学時代に学んでおいた方が良いことなどをざっくばらんにお話しいただくというものです。学生の皆さんとゲストの方が気軽にコミュニケーションを取ることのできる講演会を目指しております。さてそれでは、本日のゲスト講師の方を早速お迎えしましょう」
女性が右手を教室の入口の方へと伸ばすとそこから、ダークグレーの三つ揃えをすっきりと着こなす長身の男性が現れた。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!」
もはや絶叫に近い黄色い声がそこかしこから発せられる。
「かっこよすぎない?かっこよすぎない?何あれ、スーツがメロいし肩幅もメロい」
「卒業した先輩から噂は聞いて覚悟してたけど、想像の五段階上。一般人のレベルじゃないね」
「イケメン!我が目を疑うほどのイケメンがご登場した!どう考えてもAI作画の力作!超大作!尊い、拝んでおこ」
様々な感想は、登壇した男性には阿鼻叫喚の一丸となって降り注ぐだけ。
久しぶりのそのスプラッシュ攻撃に、男性は苦笑いの口元を左手で軽く覆い隠した。
「うーわ、既婚者かーい!や、そりゃそう。あんな美形は世の中のありとあらゆる女が放っておかないって」
「指輪してるぅぅぅぅ。残念!TAしてた時に出会いたかったなー!」
「あの外見で大企業の御曹司で指輪ちゃんとしてる既婚者って、憧れの具現化の最高峰じゃない?しかも何か、大人の色気がバケモン」
「皆さん、静粛にお願いします」
ざわめきの収まらない中教室の手綱を取るべく、女性教授はマイクの音量を上げた。
瞬間、波は若干鎮まる。
「お待たせしました、月落さん。自己紹介をお願いします」
赤い職員証の事務職員からマイクを受け取った男性は、教室の最奥を一心に見つめながら、はっきりとした口調で中低音を響かせる。
「月落渉と申します。以前、外国語学部の鳴成秋史准教授の元でTAをしていたご縁で、本日こういった場に立たせていただくこととなりました。現在は、TOG商社の経営企画部にて部長補佐を務めています」
後ろに撫でつけられた右側の前髪。
露わになった甘めの目元が、優しく細められる。
その視線の先。
キャメルの三つ揃えに身を包んだヘーゼルの麗人が、優雅に足を組んで座っている。
黒の貴公子から送られる熱い眼差しに、同じ熱量を返すその人の薬指には、永遠の愛の証がやわらかく光っていた。
後期テストの採点、成績評価、大学入試の採点、それに伴う会議への出席と、密度が濃すぎて最大値いっぱいの飽和状態だった。
特に今年は、1月の途中で解雇となった中垣謙介が受け持っていた1年生の必修授業の採点と成績評価を引き継がされてしまい、そのボリュームにしばし途方に暮れた准教授だった。
有能なTAによる手厚いサポートのおかげで何とか乗り切れたといっても過言ではない。
昨年と同様に、百貨店のバレンタイン特設催事に意気揚々と飛び込んだTAは、数々の紙袋を両手に携えて翌週の研究室へと出勤した。
この期間だけ平日週5で稼働している鳴成に合わせて、共に朝から晩まで絶賛引き籠り中のTAだ。
バレンタイン商戦に参加できるとすれば土日で、だとすればそれはそれは盛大に混んで大変だっただろうと労いの言葉をかけた。
けれど当人からは「先生の好きそうなチョコや焼き菓子がありすぎて、厳選するのが大変でした」と、ピントの合わない答が返ってきたので、鳴成はそっと口を閉じた。
チャイティーが香るタブレット
宇宙空間に浮かぶ惑星の如きボンボン
レモンゼストの酸味が爽やかなビスキュイ
大ぶりのナッツにスパイスと塩が効いたショコラ
ざくざくの食感がやみつきになるチョコがけサブレ
リスモチーフのクッキーが可愛いアソート缶
それらを午後の休憩時間に食べて癒されることで、過酷な日々でも人としての形を保つことが出来た。
余談だが、毎年この時期キャンパス内に出現していた、エナジードリンクを大量に袋に入れて顔面蒼白で彷徨う『ゾンビカスタネット』と呼ばれる面々だが、今年まさかのバージョンアップを遂げた。
昨年、理系キャンパスで合法魔改造されたエナジードリンクの新版が、文系キャンパスに極秘で密輸入されたのだ。
それを飲んだ挑戦者たちが、目の下に超ド級の暗黒を宿しながらも何故か異様に元気を漲らせながら敷地内を闊歩し、もはや怪奇現象と呼んでも誤解のない姿がところどころで目撃され、秘かな話題を呼んだ。
『転生ゾンビは生き残りループの夢を見る』という、ラノベリスペクトの新しい名づけが付与されたとかいないとか。
今年は新発見された年だったので、それが図鑑入りするかどうかは来年以降に持ち越しだという。
そして、2月中旬のある日。
「おつかれさまです。ビルメンです」
諸々の採点作業や入力が完了したその時期に、少々気怠げな挨拶と共に鳴成の研究室の扉がノックされた。
「どうぞ、お入りください」
月落が出迎えるとそこには、紺色の作業着を着た三名が立っていた。
紐が緑色の職員証を首から下げた、大学の技術系職員だ。
脚立を持っている者もいる。
最年長と思しき男性が、手に持っていた紙を月落へと渡した。
「失礼します。大学から送付された事前告知の通り、これから扉の付け替え作業を行います。ビルメンテナンスの佐藤です」
「鈴木です」
「辻でっす」
横並び一列で頭を下げられる。
それに、立ち上がった鳴成と月落も挨拶をした。
「なるべく騒音にならないように善処しますが、要所要所で電動ドライバーなどの機械を使用しますので、瞬間的に大きな音が出ることがあります。予めご了承ください」
「ええ、承知しました」
「それでは作業を始めます」
「よろしくお願いします」
床や壁に養生テープを貼り始めた職員を横目で見ながら、月落は鳴成に小声で話しかけた。
「ハラスメント対策の一環っていう話でしたけど、対応としては超速ですね。中垣先生の件があってからまだ1か月ですけど、大学内の研究室の全ドアを替えてるんですよね?」
「近年、他大学でもセクハラやパワハラで教職員が処分されるケースが目立ち始めたことで、前々から逢宮でも案としては出ていたようです。それがこの短期間に事件が多発したことで、稟議が即日決裁されたと聞きました」
「中心一直線にガラスの嵌められた扉になるんですよね?」
「そうです。外側から中の様子が覗けるようになることで、密室になるのを防ぐという意図があるようです」
「……困りました。先生の優雅な研究室生活が、人目に晒されるようになっちゃいますね」
「きみが困るんですか?」
「困ります。朝の窓際で読書をしている先生とか、資料作りに没頭している先生とか、細かく採点しながらペンを動かしてる先生とか、夕方少し疲れて伏し目がちでぼーっとしてる先生とか。どんな瞬間も麗しい先生を外側から簡単に見られるようになっちゃうのは、ちょっと不満です。隠れててほしいです」
「それは、私の力ではどうすることもできませんね」
隠れて悪事を働かないようにするための改善なのだ。
その網を掻い潜って隠れようとするのは大学側の意図に反するし、そもそも無理難題だ。
「それに、ご心配なく。そんな不埒な気持ちを抱いているのは、きみだけですから」
「不埒ですか?」
「ええ、幾分かは。そういう目で私を見るのは、きっときみだけでしょうし」
「先生、それは違います。全然分かってないです。先生のことを手に入れたいと思っている人間が、年齢も性別も関係なくどれほどいるか。きっと先生はご自身の魅力を測定するアンテナの感度が少し鈍くなってて——」
控えめなボリュームで控えめでない熱意を語る黒髪のTAと、苦笑いでそれに耳を傾けるヘーゼルの准教授の光景は、その後もしばらく続いた。
―――――――――――――――
3月前半の水曜日、11時過ぎ。
鳴成秋史と月落渉はお台場に建つ、TOGグループ自社ホテルのロビーを訪れていた。
グレイッシュホワイトのスエードコートにケーブルニットを合わせ、メランジグレーのトラウザーズを穿いた鳴成。
ダークグレーのグレンチェックコートにナイロンとカシミヤミックスのカーディガン、グレーのウールパンツの月落。
示し合わせたように統一感のあるコーディネートである。
両者手に持っていた小さめのボストンバッグを荷物預かりのカウンターに渡していると、両サイドから自分たちの名を呼ぶ声が聞こえた。
「渉」
「史くん!」
呼ばれた方向へとそれぞれが顔を向けると。
月落の右側からは父の衛と母の梢が、鳴成の左側からは父の昌彦と母の利沙がフォーマルな装いで近づいてくるところだった。
すぐ目の前まで来た両親は息子たちへの挨拶もそこそこに、親同士で親し気に言葉を交わし始める。
「昌彦さん、ベストなタイミングでお会いできましたね。少し早く着きすぎたかと思ったんですが、息子にも会えて棚ぼたでした」
「大通りが少し混んでいたので裏道を選んで正解でした。衛さんと梢さんをお待たせすることがなくてほっとしています」
「利沙さん、今日のドレスとっても素敵です。アシンメトリーのドレープが優美で、お色もお顔に映えますね」
「ありがとうございます。梢さんの装いもシックで洗練されていらっしゃいます。ブラックのチュールドレスがお似合いですわ!」
首を右左に振りながら会話を聞いていた鳴成と月落は、思わず顔を見合わせた。
父親同士はあの5月の事件以降よく時間を共にしているとは聞いていたが、母親同士がこんなにも気さくに話す間柄とは初聞き、というか初見だ。
「母さんって利沙さんとお会いしたことがあるの?」
「うん。去年の夏終わりにお誘いいただいて、弓子お義理姉さんと一緒にお食事させていただいたの」
「蛍さんもご一緒に、年末には女子会を開いたりして楽しく交友を深めさせていただいてるんですよ」
「え?蛍もですか?寝耳に水とはまさにこういうことだな……」
「父さんは、梢さんと面識があるんですか?」
「あぁ、衛さんが秋の中頃に挨拶の場を設けてくださってね。それ以降、『親会』と称してこうして折々で食事をご一緒してるんだよ」
「じゃあ、今日もこれから?」
「うん、そうだよ。これから、上の鉄板焼きのお店に行こうと思ってね」
四人の両親たちは、うんうんと頷く。
その雰囲気は、一朝一夕で醸し出せる親密さではない。
こう、何と言うか、歪みのほとんどないすっきりとしたまん丸のような、綻びのなさを感じさせる。
『連帯』や、『団結』といった言葉が似合いそうな。
まさか親同士が秘かに交流を重ねていたなんて。
「知らなかった」
「知りませんでした」
「でも、嬉しいです」
「ええ、同感です。両親同士が仲良しなのは、息子としてとても嬉しいですね」
鳴成と月落はそう囁き合う。
二人とも同じ色の笑みを顔に乗せているけれど、鳴成の頬には安堵の意味合いの方が濃く乗っているようだ。
同性で恋人になることを当事者の自分は受け入れても、両親はそうではないかもしれない。
きっと受け止めてくれると信じてはいたけれど、もしかしたら嫌悪感や否定的な気持ちを僅かでも抱くかもしれない。
昨年夏の百貨店外商催事で母に思わぬカミングアウトしてしまった日のあと、鳴成は説明のため間を空けずに実家を訪れた。
人生で経験したことのない異様な緊張感に襲われながら相対した両親は、自分の言葉を遮ることなく全て聞き、そして穏やかな表情で祝福をしてくれた。
「お相手が渉さんで本当に良かった」とも言われて、『有頂天になる』という概念しか知らなかった言葉の意味を、鳴成は人生で初めて実体験した。
それだけでも十分だったのに、まさか最愛の両親が最愛の恋人の最愛の両親と親しくなっているなんて。
胸に喜びの霧が立ちこめて、その甘苦しさに、鳴成は感慨深げに大きくため息を吐いた。
そんな様子を隣で見ていた月落が首を傾げて覗き込んでくるのへ、何も言わず極上の笑顔で返した。
「そういえば、渉たちはここで何してるんだ?」
「今夜ここに泊まるんだけど、日中は麻布台に行くから一旦荷物預けにきた。今日はTAを退職する記念で先生プレゼンツのデートなんだ」
「それは楽しそうね。鳴成准教授、息子のために素敵な退職祝いをありがとうございます」
「おととしの秋から1年半、渉さんには言葉で表し尽くせないほどお世話になりました。今日はそのお礼も兼ねてですが、渉さんに頂いた沢山の配慮には到底見合いませんので、今後も感謝の気持ちを忘れずに想いを返していきたいと考えています」
「過分なお言葉をありがとうございます。渉は幸せ者だな」
「本当にそう。本当に、幸せ」
衛からの言葉に、肩ひじ張らずに何の誇張もなく月落は返事をした。
惚気も粘度を落とせば嫌味に聞こえない、の良い例だ。
それをすぐ隣で聞かされた鳴成だけが耳朶をほのかに赤く染めたが、気づく者はいなかった。
「渉さん、史くんのお仕事をそばで支えてくださってありがとうございました。言葉だけで誠に恐縮ですが、御礼申し上げます」
「私からも感謝申し上げます。大学内での息子の安寧を守ってくださり、ありがとうございました」
謝意合戦は選手交代で、鳴成家の番となったようだ。
鳴成と月落の様子を潤んだ瞳で眺めていた利沙が実にさっぱりとした潔さで頭を下げると、昌彦もそれに続いた。
月落は首を振りながら、どうぞ顔を上げてください、と静かに言った。
「先生と毎日楽しく授業ができて、僕の方が僥倖でした。公私共にそばにいられる時間はあまりにもかけがえのないものだったんですが、先生との将来を見据えて退職を選択しました。これから先生にはプライベートで、僕の情熱を全て注ぎたいと思います」
「まぁぁぁあぁあぁ!胸キュンな告白で、親ながらとってもときめいてしまいますわ!」
「利沙、分かったから少しボリュームを落とそうね」
「あら、ごめんなさい、鼓膜は大丈夫でいらして?衛さんと梢さんも失礼をいたしました」
「我々の鼓膜は丈夫ですので、ご心配は無用です」
「安心しました。あぁ、そろそろお店に向かう頃合いですね」
昌彦が時計を確認しながらそう言うのへ、他三名は頷いた。
「秋史たちは昼食はどうするのかな?個室を予約しているから、もし君たちが良ければ一緒に食べられるよ」
「麻布台で焼き鳥を食べる予定なので、一緒に食事をする機会はまた今度とさせてください」
「それは残念。次は是非ご一緒しましょうね。でも、この顔ぶれで食事するとなれば実質、両家顔合わせっていうことになる気がしますね」
梢の何気ない言葉に、月落と衛ははっとした顔で固まる。
目を忙しなくしばたたかせながら、男親と息子は視線を合わせたまま空中で交信を行う。
その前で、両手をわなわなと震わせながら絶叫するのを堪えている利沙と、その華奢な背中をさすって落ち着かせている昌彦。
「そうなりますね」
「ねえ?鳴成先生、その日を心待ちにしています。渉、またね。さ、親の皆さんは参りましょう」
平常心の二名だけでの会話を終えると、バリキャリの空気をさっと纏った梢が面々を引き連れてその場を去る。
鳴成と月落もロビーを抜けてホテルを出発した。
タクシーに乗って到着したのは、麻布台にある大規模複合施設。
惣菜エリアの中にあるグレーの壁へと吸い込まれるように入ると、カウンター席のみの店内へと繋がっている。
「この入口の感じが、"Platform Nine and Three-Quarters"みたいですね」
「あはは。きみがあの世界の住人なら、間違いなくグリフィンドールの寮生でしょうね」
「それは先生もじゃないんですか?」
「私はスリザリンを熱望します」
「……もしかして、前に北欧神話について話した時に仰ってた、清々しい悪役になりたいっていう気持ちが理由ですか?」
「ご名答です。記憶力が実に良い」
「そういえば、あの時に選んだのも大蛇で、スリザリンのシンボルマークも蛇ですね……」
「そう言われてみればそうですね。何だか運命の予感がします」
嬉々として告げる鳴成に月落は眉を下げながら、案内された席へと座る。
店内は8席のみ、メニューはおまかせコースのみ。
目の前の焼き台から奏でられる、爆ぜる鶏肉の音。
それを聞きながら食べる一品一品はどれも絶妙な味わいで、「飲み込みたくない」と一口ごとに唸る月落だった。
ランチを食べ終えたあとは建物を移動し、没入型アートミュージアムを訪れた。
外国人観光客の姿が多く見える。
お台場にも同様の施設はあるのだが、靴を脱いで裸足になければならないのが若干冬向きではないという協議の結果、今回は麻布台を楽しむことにした。
お台場には夏、サンダル半ズボンで行こうと約束している。
15時になり事前予約していたチケットのQRコードをゲートでかざして入場する。
暗闇に光る階段を下りてたどり着いた先は、デジタルの花が爛漫と咲き乱れては揺れ、そして散るを繰り返す空間だった。
天井高くの壁や床一面に広がる映像に、触れられないと解っていても指先を伸ばしてしまうのは、もはや本能的な仕草に近い。
するりと零れて逃げる、色彩の集合体。
その圧倒的で鮮やかなエネルギーに心の端から端までを埋め尽くされて、支配されて。
五感の鋭敏さが、徐々に奪われていく。
強から中、そして弱から最弱へと切り替わるように、刺激的な世界に呼応する心の襞の動きは刻々と鈍くなる。
テーマの違う部屋を通り過ぎるたびに、脈打つ鼓動の速ささえも緩やかになり、だからこそひとつひとつが力強く訴えかけてくる。
まるで、あたたかい膜の中で眠る時のような。
心が、無垢になる感覚。
目を閉じてしまいたい。
「たいない、にいるようですね」
壁を移動する蝶の群れに触れた鳴成が、そうぽつりと零した。
「それは体の内ですか?」
「それもありますが、胎と書く方が今の私の感覚には近いかもしれません。胎内記憶はないんですが、この飲み込まれそうなほどの華々しさになぜか懐かしさを憶えている自分がいます」
「確かに画面いっぱいの映像空間なので、包まれてる感じはしますね。それが胎内を喚起させるんでしょうか」
上も下も右も左も融け合う内側で、おびただしい光は交差していくつもの形を織り成す。
花、蝶、小魚の群れ、天井から落ちる滝、文字の連なり、動物、ガラスのシャボン玉。
鏡面で仕上げられてどこまでが奥行きなのか分からない、果てのない道。
座り込んで空中にぼんやりと視線を投げている人を何人も見かけたけれど、気持ちは十分理解できる。
取り残されて、輪郭を見失って、手放して、霞んで、彷徨って、彷徨って。
自分という名の宇宙と対話する時間。
光の背後に必ず存在する闇に気づければ、いつかきっと、本当の自分と出会える。
鳴成と月落も邪魔にならない場所に座って、しばらく動かなかった。
ぴたりと身体をくっつけたまま、ただ流れる景色を眺めていた。
たっぷり2時間のデジタルアートを堪能した彼らはタクシーでお台場へと帰ってくると、その足で竹芝小型船ターミナルへと向かった。
時刻は17時を15分ほど過ぎた頃、もうすぐ日没となる。
停泊している小型のスポーツクルーザーで、これから60分間のプライベートクルーズへ赴く予定だ。
「先生、足元気をつけてください」
「ありがとうございます」
先にクルーザーへと乗り込んだ月落が、鳴成へと手を伸ばしエスコートする。
アフトデッキに備え付けられたベンチシートに横並びで座ると、クルーザーは軽快なエンジン音と共に海の上を滑るように走り出した。
風を受けて髪の毛先がふわりと揺れる。
船に乗るメインイベントのために、ふたりとも髪型を普段よりしっかりめにセットしているのでひどく乱れるということはない。
今日は鳴成も左サイドを後ろに撫でつけたスタイルなので、昨年のホワイトデー以来の双子ルックだ。
「先生、寒くないですか?」
風ではためく鳴成のスエードコートの左右を合わせながら、月落はそう聞いた。
「大丈夫です。夕方の海辺を想定して少し厚めの生地を選んだので。きみは寒くないですか?」
「僕は先生さえ隣にいれば南極でも耐えられます」
「心意気だけ頂きますので、もし南極に行くことになったら分厚いダウンをこれでもかと持って行きましょうね」
「分厚いダウンを着たぬくぬくの先生を、僕は思う存分抱き締めて過ごすことにします」
「うん、静かにしましょうね?」
年下の恋人の頬を抓る。
真面目と冗談を高速反復横跳びするこの男との会話はいつだって飽きないけれど、時折箍が外れて場所を選ばない発言を大声ですることがある。
油断も隙もない。
頬に触れていた指先を月落に掴まれ外されたと思ったのも束の間、その手の平に唇を押し当てられて、鳴成は逃げるように手を引っ込めた。
やんちゃな年下の男を睨んで叱る鳴成に、けれど当人はどこ吹く風だ。
「あ、先生、空が凄いことになってます」
鳴成を見つめていた月落が顔を照らす眩しさに前を向くと、眼前にはとんでもないライブ映像が広がっていた。
レインボーブリッジを通過した先には、青と水色、紫が層を成す空。
沈みゆく太陽の周りは濃いオレンジに、いくつも浮かぶ刷毛ではいたような雲の表面は薄オレンジに染まっている。
逆光で黒く塗りつぶされたビルの隙間に、燃える太陽が刻一刻と降下していく。
「渉くん、海もすごいです」
波立つ海には、一筋の煌めきの道。
一本線で描かれる、迷いなき道。
凝縮したその最後の輝きは、どこか人生の終焉にも似ていて。
「さっきまでのデジタルな世界観とは180度違う迫力がありますね」
「ええ、これは人間には描けませんから。神への信仰心はないんですが、自然にしか作り出せないこういった景色を見るたびに、超越的な存在の影を感じる気がします」
そう話す間にも、空は表情を変える。
まばたきの僅かな間で、太陽の灯火はその照らす範囲を狭めていく。
「今日はデジタルの強烈な光に包まれて、自然が創る壮大な絵画も見て、図らずも生と死に触れるような体験をしたなと思います。大袈裟だときみは笑うかもしれませんが」
「いいえ、まったく。僕も同じ気持ちです。こうやって最後の最後まで、何なら最後が一番光り輝く終わり方をしたいです」
灯火はビルに削られ小さくなるけれど、その業火の威力はむしろ強さを増すばかりだ。
それはそれは、真っ向から受け止めきれないほどの。
「こういう終わり方をしたいです。秋史さんと」
「そうですね、と言いたいところですが、年齢的に私の方が先に逝くので残念ながらそれは難しい気がします」
「全力で不老不死の薬を探しましょうか?」
「ありがたい提案ですが、遠慮します。自然に老いて自然に終える一生を送りたいので。私の燃え尽きる瞬間は、きっときみがそばにいてくれるでしょうし」
「います、必ず。この腕に抱いて。最後まで必ずそばにいます」
月落は、そっと鳴成の腰へと腕を回した。
先ほどのように逃げられることはない。
そればかりか、そっと身を寄せられる。
風の吹く中で、体温を分け合う。
「人生の最終ページの青写真も決まりましたし、これで私の一生は安泰です」
「先生、問題が残ってます。僕の最終ページは、このままだと寂しく孤独死まっしぐらなんですが」
「そうでした……それならば、こうしましょう」
業火の灯火は終ぞ落ちる。
あっけないほどに、一瞬とも言えぬ短い間に。
けれど、地平線の底からその余韻は未だ世界を照らす。
「迎えに来ます、必ず。きみが寂しくならないように。燃える夕陽の背を支える空のように、きみが途絶える最後の最後まで輝いていられるように。暗闇となって包みます」
胸の壁を突き破って、奥深くに垂直に突き刺さる想い。
その想いに込められた嘘偽りのない確かさに、月落はくしゃりと切なく眉を歪ませた。
そのまま、鳴成の肩に頭を預ける。
「反則です、先生……それは反則」
「あはは、やっぱりきみはこの体勢が好きですね」
完全に夜の帳が下りた海の上。
二人は世界から隠れるように、しばらく抱き合っていた。
―――――――――――――――
3年後、春。
逢宮大学9号館中教室。
扇形の階段状に広がる座席には、爽やかな顔ぶれの学部生や、後方には教員と思しき小集団の姿もある。
ほぼ満員である200名近い人々の話し声がさざ波のように寄せる教壇に、一人の女性が登壇した。
「定刻になりましたので開始したいと思います。本日皆さんには、経済学部主催のライト講演会への参加のためにお集りいただいております」
青い紐の職員証を首から下げたその女性は、経済学部の教授だ。
「ライト講演会とは、昨年から新たに経済学部で始まりました、学部生向けの講演会です。本学や他大学関係なく経済学部卒業の方をゲストとしてお招きして、現在のお仕事に大学での勉強や経験がどう活かされているか、また、大学時代に学んでおいた方が良いことなどをざっくばらんにお話しいただくというものです。学生の皆さんとゲストの方が気軽にコミュニケーションを取ることのできる講演会を目指しております。さてそれでは、本日のゲスト講師の方を早速お迎えしましょう」
女性が右手を教室の入口の方へと伸ばすとそこから、ダークグレーの三つ揃えをすっきりと着こなす長身の男性が現れた。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!」
もはや絶叫に近い黄色い声がそこかしこから発せられる。
「かっこよすぎない?かっこよすぎない?何あれ、スーツがメロいし肩幅もメロい」
「卒業した先輩から噂は聞いて覚悟してたけど、想像の五段階上。一般人のレベルじゃないね」
「イケメン!我が目を疑うほどのイケメンがご登場した!どう考えてもAI作画の力作!超大作!尊い、拝んでおこ」
様々な感想は、登壇した男性には阿鼻叫喚の一丸となって降り注ぐだけ。
久しぶりのそのスプラッシュ攻撃に、男性は苦笑いの口元を左手で軽く覆い隠した。
「うーわ、既婚者かーい!や、そりゃそう。あんな美形は世の中のありとあらゆる女が放っておかないって」
「指輪してるぅぅぅぅ。残念!TAしてた時に出会いたかったなー!」
「あの外見で大企業の御曹司で指輪ちゃんとしてる既婚者って、憧れの具現化の最高峰じゃない?しかも何か、大人の色気がバケモン」
「皆さん、静粛にお願いします」
ざわめきの収まらない中教室の手綱を取るべく、女性教授はマイクの音量を上げた。
瞬間、波は若干鎮まる。
「お待たせしました、月落さん。自己紹介をお願いします」
赤い職員証の事務職員からマイクを受け取った男性は、教室の最奥を一心に見つめながら、はっきりとした口調で中低音を響かせる。
「月落渉と申します。以前、外国語学部の鳴成秋史准教授の元でTAをしていたご縁で、本日こういった場に立たせていただくこととなりました。現在は、TOG商社の経営企画部にて部長補佐を務めています」
後ろに撫でつけられた右側の前髪。
露わになった甘めの目元が、優しく細められる。
その視線の先。
キャメルの三つ揃えに身を包んだヘーゼルの麗人が、優雅に足を組んで座っている。
黒の貴公子から送られる熱い眼差しに、同じ熱量を返すその人の薬指には、永遠の愛の証がやわらかく光っていた。
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受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
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また、内容もサイレント修正する時もあります。
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完結おめでとうございます。
大好きな2人だからこそ
しっとりとした終わり方が、
心地いいと共にちょっとの切なさがあって
2人の距離感といい思いといい本当に素敵だなと思いました。
私もこんな恋をしてみたいなと思ったほどです。
今の気持ちを持ち合わせている語彙で表せないほどの感情の渦で少し溺れてしまいそうです。
先生と月落先生という尊い存在と出逢わせてくださり感謝します。ありがとうございました!
無事に完結できました。
ラブコメでぐいぐい行ってた二人の最終話が、まさか意外なほどにしんみり要素も加わったことに作者自身が一番驚いています。
でも、そんな予想外もラブコメかな、と思ったりもして。
こんな恋をしてみたい、はとっても嬉しいお褒めの言葉です。
狂喜乱舞、書いた甲斐がありましたー。
完結までお付き合いいただきまして、ありがとうございました!
終わってしまいました…。
私の楽しみが減ってしまいます(--;)
番外編を心待ちに...
お疲れ様でした。他の作品も楽しみにしています。
終わってしまいましたね……私もなんだかちょっと余韻に浸っています(作者なのにすいません)
番外編、私も書きたい気持ちでいっぱいなので、首をちょっと長めにしてお待ちいただければと思います。
ありがとうございました。
完結おめでとうございます!
毎日更新がとても楽しみで、ヒヤヒヤハラハラしたり、ニヤニヤしたり…とっても楽しませていただきました!
2人と周りの人達に会えなくなるのは寂しいですが、次回作も楽しみにしています〜
ヒヤヒヤハラハラ、悪役に時にイライラさせてしまったかと思いますー。
でも、ニヤニヤしていただけて嬉しいです!
物語はここで止まりますが、きっと品川や南青山辺りのどこかで二人は生きてますので、モモゴン様も毎日を最大ハッピーにお過ごしください!