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忍び寄る影
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神殿の内部で静かに話が出来るところなんて、自分の部屋しか浮かばず、つい連れて来てしまったのだが…
(まずい…)
薄紫の君を自室に入れた途端、ルナの顔が強ばったのが見て取れた。平常心を装ってはいるが、ウサギ耳が逆立ってるかのようにピンとしている。
ジョーの怪我の治療が終わるのを待ってからにしたかったが、それを言い出す雰囲気でもなかった。
薄紫の君も僕を睨みつけたままだ。
(なんだこの三つ巴感…)
「お茶どうぞ!」
カチャンと音を立てて薄紫の君の前にティーカップが置かれる。
(そもそも僕の自室になんでルナが居るんだ…)
(どこに行った僕のプライバシー…)
とにかく、この状況を打破しなければ!
「えっと、キミの名前は?」
ガチャン!!
より一層勢いよく僕の前にティーカップが…
その様子を気にするでもなく薄紫の君は口を開いた。
「私のハンドルネームは『グラシエス』。あなたは『ルクス』ね。」
「そうだけど…」
「私はこの仮想世界、パーフェクト・ワールドの内部監査員です。」
「内部監査…?」
「現実世界、ここで言う元の世界から送り込まれてきた監査員です。私はAIで現実世界には本体はありません。」
「あ、そうなんだ…」
「パーフェクト・ワールドはバーチャルとはいえ、人の意識が存在し、現実世界にも干渉しています。」
「干渉?」
「身体の寿命を終えた政治家がそのまま政治を行ったり、学者がそのまま研究を続けたりしています。」
「え!そうなの!?」
「老化しない脳を300年保てるということはそういうことです。」
「それは凄い…」
「なので、現行の政府が監査員をパーフェクト・ワールド内外に送り、随時安全を確認しているのです。もし万が一、生命に関わるトラブルが発生しては一大事ですからね。」
「な…なるほど。」
「この100年余りの間、そういうトラブルは起こらずに済んできたのですが…」
薄紫の君…グラシエスは探るように僕の目を見て言った。
「この1ヶ月、原因不明のトラブルが各エリアで発生しているのです。そして、先程の事件。」
「1ヶ月…」
「あなたがこの世界に来られた時期と重なりますね。」
僕は嫌な予感を感じて目を逸らした。
「ちょっと待ってあなた!この世界にどれだけの人が入ってくるのか知ってるでしょう!?ルクスと同じ日に入って来た人だってたくさん…」
横で話を聞いていたルナがグラシエスにくってかかろうとするのを僕は慌てて止めた。
「記憶を失って入って来たイレギュラーは僕だけか。」
グラシエスは立ち上がり、話を続けた。
「あなたの事は調べました。創始者の面談でも異常は見つかりませんでした。」
(創始者との面談にそんな意味があったんだな)
「それに、悪意を持って入って来たのなら、先程のように騎士達を助けに入る必要もなかったでしょうし…」
「……」
「ですが、それも何かの策があってのことかも知れません。」
「疑いが晴れた訳では無いと…」
「原因不明のトラブルが起こる頻度は増してますし、徐々にこの剣と魔法の世界『アエテルヌム』に集中しつつあります。」
「…益々僕の怪しさが増すなぁ。」
僕は苦笑した。
「創始者は僕の心の中にもアクセスしてきたぞ?それでも疑いは晴れないのか?」
「創始者ですら介入出来ない秘密があなたにあると私は思っています。」
「それは何とも言えない…記憶が無いからな。」
「記憶が無いということを証明するのは難しいですね。」
「確かに。」
「…あ!」
僕は本来する予定だった質問を思い出した。
「さっきのそうとも言えなくなったって言うのは?」
「ああ。先程の件ですね。各エリアで発生している原因不明のトラブルですが、このトラブルにより死亡した場合、復活はされません。」
グラシエスは僕に触れそうな程近寄り、耳元である言葉を言った。
「この世界で死ねば、元の世界で保存されている脳も死んでしまうということです。」
僕は驚き、グラシエスの顔を見た。
「どういうことだ?」
「本当に知らないようですね…」
(僕の反応を見ていたのか)
「今日はここまでにしましょう。もうしばらくこちらで調査を続けさせていただくつもりですので。」
「…」
「この事はまだ秘密にしてて下さいね。話そうとしてもワードガードが働くので話せませんけど。」
グラシエスは柔らかく微笑んだ。
「またお会いしましょう。」
部屋を出ていくグラシエスの後ろ姿を見詰めながら、僕は考えていた。
元の世界にある脳が破壊される?
仮想世界での出来事が元の世界の脳に影響が出る…
相互性がある限り有り得ないことでも無いが…
何故そんなことが…
それより…
(もし、さっきの巨大蜘蛛にジョーが殺されていたら…)
僕はその考えにゾッとした。
いや、この世界の人は皆もう身体の寿命が尽きていて言わば余生じゃないか…
それでも、この1ヶ月毎日顔を合わせてバカ話してきた友人が死んでしまうなんて…
僕は混乱したまま床に目を落とすと、そこには忍び寄る人影が…!
なんとも言えない殺気!
「…!?」
振り返るとそこには…
鬼の形相のルナが立っていた。
「ルクス、さっきの女性とえらく仲がよろしいのですね。」
「え?」
「あんなに近寄って!後ろ姿を未練がましく見詰めるなんて!!」
「ええぇぇぇ!?今の話聞いてなかったの!?」
「途中からワードガードされてて会話が聞こえなくなりました!どんな内緒話してたんですか!?」
「え…」
(グラシエスめー!)
(まずい…)
薄紫の君を自室に入れた途端、ルナの顔が強ばったのが見て取れた。平常心を装ってはいるが、ウサギ耳が逆立ってるかのようにピンとしている。
ジョーの怪我の治療が終わるのを待ってからにしたかったが、それを言い出す雰囲気でもなかった。
薄紫の君も僕を睨みつけたままだ。
(なんだこの三つ巴感…)
「お茶どうぞ!」
カチャンと音を立てて薄紫の君の前にティーカップが置かれる。
(そもそも僕の自室になんでルナが居るんだ…)
(どこに行った僕のプライバシー…)
とにかく、この状況を打破しなければ!
「えっと、キミの名前は?」
ガチャン!!
より一層勢いよく僕の前にティーカップが…
その様子を気にするでもなく薄紫の君は口を開いた。
「私のハンドルネームは『グラシエス』。あなたは『ルクス』ね。」
「そうだけど…」
「私はこの仮想世界、パーフェクト・ワールドの内部監査員です。」
「内部監査…?」
「現実世界、ここで言う元の世界から送り込まれてきた監査員です。私はAIで現実世界には本体はありません。」
「あ、そうなんだ…」
「パーフェクト・ワールドはバーチャルとはいえ、人の意識が存在し、現実世界にも干渉しています。」
「干渉?」
「身体の寿命を終えた政治家がそのまま政治を行ったり、学者がそのまま研究を続けたりしています。」
「え!そうなの!?」
「老化しない脳を300年保てるということはそういうことです。」
「それは凄い…」
「なので、現行の政府が監査員をパーフェクト・ワールド内外に送り、随時安全を確認しているのです。もし万が一、生命に関わるトラブルが発生しては一大事ですからね。」
「な…なるほど。」
「この100年余りの間、そういうトラブルは起こらずに済んできたのですが…」
薄紫の君…グラシエスは探るように僕の目を見て言った。
「この1ヶ月、原因不明のトラブルが各エリアで発生しているのです。そして、先程の事件。」
「1ヶ月…」
「あなたがこの世界に来られた時期と重なりますね。」
僕は嫌な予感を感じて目を逸らした。
「ちょっと待ってあなた!この世界にどれだけの人が入ってくるのか知ってるでしょう!?ルクスと同じ日に入って来た人だってたくさん…」
横で話を聞いていたルナがグラシエスにくってかかろうとするのを僕は慌てて止めた。
「記憶を失って入って来たイレギュラーは僕だけか。」
グラシエスは立ち上がり、話を続けた。
「あなたの事は調べました。創始者の面談でも異常は見つかりませんでした。」
(創始者との面談にそんな意味があったんだな)
「それに、悪意を持って入って来たのなら、先程のように騎士達を助けに入る必要もなかったでしょうし…」
「……」
「ですが、それも何かの策があってのことかも知れません。」
「疑いが晴れた訳では無いと…」
「原因不明のトラブルが起こる頻度は増してますし、徐々にこの剣と魔法の世界『アエテルヌム』に集中しつつあります。」
「…益々僕の怪しさが増すなぁ。」
僕は苦笑した。
「創始者は僕の心の中にもアクセスしてきたぞ?それでも疑いは晴れないのか?」
「創始者ですら介入出来ない秘密があなたにあると私は思っています。」
「それは何とも言えない…記憶が無いからな。」
「記憶が無いということを証明するのは難しいですね。」
「確かに。」
「…あ!」
僕は本来する予定だった質問を思い出した。
「さっきのそうとも言えなくなったって言うのは?」
「ああ。先程の件ですね。各エリアで発生している原因不明のトラブルですが、このトラブルにより死亡した場合、復活はされません。」
グラシエスは僕に触れそうな程近寄り、耳元である言葉を言った。
「この世界で死ねば、元の世界で保存されている脳も死んでしまうということです。」
僕は驚き、グラシエスの顔を見た。
「どういうことだ?」
「本当に知らないようですね…」
(僕の反応を見ていたのか)
「今日はここまでにしましょう。もうしばらくこちらで調査を続けさせていただくつもりですので。」
「…」
「この事はまだ秘密にしてて下さいね。話そうとしてもワードガードが働くので話せませんけど。」
グラシエスは柔らかく微笑んだ。
「またお会いしましょう。」
部屋を出ていくグラシエスの後ろ姿を見詰めながら、僕は考えていた。
元の世界にある脳が破壊される?
仮想世界での出来事が元の世界の脳に影響が出る…
相互性がある限り有り得ないことでも無いが…
何故そんなことが…
それより…
(もし、さっきの巨大蜘蛛にジョーが殺されていたら…)
僕はその考えにゾッとした。
いや、この世界の人は皆もう身体の寿命が尽きていて言わば余生じゃないか…
それでも、この1ヶ月毎日顔を合わせてバカ話してきた友人が死んでしまうなんて…
僕は混乱したまま床に目を落とすと、そこには忍び寄る人影が…!
なんとも言えない殺気!
「…!?」
振り返るとそこには…
鬼の形相のルナが立っていた。
「ルクス、さっきの女性とえらく仲がよろしいのですね。」
「え?」
「あんなに近寄って!後ろ姿を未練がましく見詰めるなんて!!」
「ええぇぇぇ!?今の話聞いてなかったの!?」
「途中からワードガードされてて会話が聞こえなくなりました!どんな内緒話してたんですか!?」
「え…」
(グラシエスめー!)
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