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DQN解剖室
しおりを挟む床一面のタイル。消毒液のにおい。うすら寒い空気。
金属の台の上には、孤独死した老年の男性。
人生経験の豊富さを示す皺が刻まれた青白い顔は、安らかな表情を浮かべている。
暫くすると扉が開き、白衣の人物たちが入ってきた。
「ああ、超ダルいんですけど」
「今日は爺だしな」
「若い女のときは超楽しいのに」
一人がポケットから携帯電話を取り出し、データフォルダを開く。それを覗いた他の二人はいやらしく笑った。液晶画面には女性器の画像。
三人とも金に近くなるまで脱色した髪に、同じような顔つきをしている。それぞれが解剖刀を手に取ると一人が無造作に、哀れな老人の鎖骨の下に突き刺した。
そのまま下腹部まで切り開き、三人は鋸で肋骨を取り除く作業をはじめる。
「そーいや、付き合っていた女はどーしたよ?」
「付き合ってねーよ、あんなブサイク。穴さえありゃそれでいい」
「アハハ」
途中、「手ぇいてぇー」と休みつつも、何とか肋骨は外された。胸腔と腹腔に、手術用の薄い手袋をはめた手が差し込まれる。
内臓を摘出している最中、一人が肝臓を手にして言った。
「あ。仕事終わったら飲みに行こうぜ。焼鳥屋で」
「レバーッ!」
ゲラゲラゲラ、と、血肉が付着した手を叩いて響く爆笑。
「俺、レバー嫌い。これ食いたい」
おふざけに乗った一人が持っているものは心臓だった。より笑いは深まる。
収まったところで、仕事は再開された。内臓をすべて取り出しおえると、今度は頭部の皮を剥ぎ、頭蓋骨を削り取る。脳髄はさすがに慎重に摘出された。
長時間に及ぶ作業に、三人の顔は疲労の色に染まりはじめる。一人が休憩を求め、二人は頷く。解剖刀を置いて、手袋を外し、ポケットから出したのは煙草の箱。
全員、その場で紫煙を燻らせた。ここに灰皿はない。吸い殻が転がっているのを見つかったらまずい。だから煙草が短くなると、三人は老人の頭の中に火種を押しつけて消した。「どうせ燃やすんだし」と、三人がいつもやっていることだった。
一服したあと、再び手袋をはめて老人の空洞に詰め物をし、皮膚を乱雑に縫い合わせて曲がりなりにも元通りにする。仕事をおえた三人は手袋を捨てて、焼き鳥に思いを馳せつつ去っていった。
解剖室に残された老人は、ただ安らかに眠っている。
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