転生者の取り巻き令嬢は無自覚に無双する

山本いとう

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23.ユリシーズとバド、そしてルーク

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「ユリ!」

「マリア!」

ロムスタ伯爵との戦いから1週間。
私はこの世界に転生してきて、初めて出来た友達と抱き合い喜ぶ。
名前はユリシーズ。
ユリは侍女教育に集中していたので、会うのは久しぶりだった。
ハーフアップにした黒髪の揺れる、勝ち気な黒目をしている、私よりずっと背の高い美少女だ。
ユリは私が王立学園に行くのに、侍女として着いてくるため、騎士見習いから、侍女見習いになってくれていた。

「コホンッ」

「あら、すみません。マリアお嬢様」

「気にしなくて良ろしいですのに…」

侍女教育係のアドニアが、注意を促すよう咳払いすると、ユリは離れて丁寧に一礼した。

「それで、ユリシーズの教育は間に合ったのかしら?」

「ここに来るまでは、色々大変でしたが、どうにか間に合ったと思っていましたわ」

「あら。それなら、何も問題はありませんわね」

ホホホと笑う私とユリ。
息の揃った私たちを見て、アドニアは一つため息をついた。

「いったい誰に似たのか。ユリシーズ。王立学園でも侍女の特訓は続ける事にします」

「えぇ!? 王都では、いったい誰が教えてくださるのですか?」

「私に決まっているでしょう?」

「アドニア様は奥様お付きに戻るのでは?!」

「このままではお嬢様も、あなたも心配ですからね。それとも私の手助けはいらないと?」

「アドニア様が、王立学園に着いてくる…。とほほ」

ユリが肩を落とす。
それを横目に、私は取り繕って微笑んだ。
口角が少し震えてるかもしれない。

「頼りにしてるわ、アドニア」

「…お嬢様のマナーも一度確認した方が良さそうですわね。前もって気付けたのは幸いです」

アドニアは冷めた目で私を見てくる。
私の王立学園生活は、始まる前から暗雲が広がりはじめていた。


☆  ☆  ☆  ☆

「それで、剣が無くなったくらいで腑抜けたのですか? ルークは」

雪景色の中庭でスノーウルフのバドの首を撫でながら、私は最近あった事をユリに話した。
結局ロムスタ伯爵が認めたのは一部の捕虜の交換だけで、多くの敵の捕虜はモールド伯爵でまだ暮らしいるし、ゴブ蔵はまだ帰ってきていない。

ハッハッハッ

ロムスタ伯爵との戦いでモールド伯爵家は、多数の捕虜を捕らえる共に、多くの軍需品を手にいた。
その中の一匹がバタバタと横に動く尻尾以外は微動だにしない、このスノーウルフのバドである。

スノーウルフは数匹手にいれたのだが、忍犬に育つか試すために、一匹だけ私用に譲ってもらったのだ。
サイズは熊だし、白い毛なので、全く忍べなさそうだが、そこは愛嬌である。
犬だってトレーニングすれば、強さの扉を開けるかもしれない。

「ルークはずいぶんと精霊に入れ込んでたみたいだから…」

「そもそも、わざわざ武具なんて使うから、精霊と離れる羽目になるのだと思います。軟弱な印です」

「うん。その通りなんだけれどね、ちょっと変わった精霊なのよね。ルークの精霊は」

「ゴブリン…ですか?」

「そう。他の精霊と違って絆を深めなくても誰にでも答えるし、騎士の試練が何とかって言ってたわ。騎士といえば、武器はつきものでしょう?」

「本当に騎士の精霊となると、武具にしかつかないかもしれません。ゴブリンが、騎士の精霊とは思いませんけれど」

「ふふふ。でもルークはゴブリンの精霊が。名前はゴブ蔵っていうんだけれどね、ゴブ蔵が騎士の道を教えてくれたって夢中だったのよ?」

ユリの目に剣呑な光が宿る。

「騎士の道に夢中だなんて。執事見習いの癖に…」

「少しルークの様子を見てきましょうか」

私とユリ、そして後から着いてくるスノーウルフのバドはルークを探しに屋敷の中に入るのだった。


☆  ☆  ☆  ☆

私達が屋敷を探すと、水色のオールバックが目に入ってきた。
ルークは真剣な目で銀食器を磨いていた。
銀は対魔、対毒の能力を持つ金属だ。銀食器の所持は貴族にとって必須といっていい。

「久しぶりね、ルーク」

ユリは全然久しぶりではないという感じで、ルークに話しかける。

「ユリ。戻ってきていたのか」

ルークは銀食器を静かに棚に戻す。

「あなたが腑抜けたとマリアお嬢様から聞いてね。急いで戻ってきてあげたのよッ」

スカートをパッと横に広げて、ルークの懐に、ダンッとユリが踏み込んだ。
ルークは秀麗な目をパッと広げ闘気を繰り出す。
次の瞬間、ルークの腹筋にユリの掌底が入った。
掌底。正拳突きやパンチなどと比べて、打撃対象の内部に浸透するダメージを与える技である。

ユリが落ち込んだルークの事情を知ったのは、ついさっきだ。
ユリが急いで戻って来た理由にはなり得ない。
ルークに難癖をつけるために簡単な嘘をついたのだと思いながら、私はルークがユリの掌底を、腹筋だけで防ぎ切った事を横目でしっかりと確認した。

「なんだ、心配して損した。ちょっと付き合いなさい」

ユリがそう言うと、ルークは額から汗を一筋流して、ひきつった笑みを浮かべた。

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