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ヨシ!
しおりを挟むルークが木剣を使い、ユリがプロテクターをつけるとはいえ、無手で向かいあう。
リーチは圧倒的にルークが有利である。
ユリの戦い方はシンプルだ。
距離を一気に潰して、剣の威力も潰す。
対するルークは間合いを確保し続ける。
軽い手合わせから始まったみたいだけれど、優劣ははっきりしている。
アーロン騎士団長に、騎士団の暴れん坊と言われるユリだけれど、ユリはARAGYOUの開発前に侍女教育へ出たので、第二の扉を開けていないのだ。
悔しがるだろうなと思いながら、二人が手合わせしてるのを横目に、私はバドが何を出来るのかを確認していく。
はい。まず、愛犬(狼)とアイコンタクトをとりましょう。
アイコンタクトが一番大事です。
そうしたら…、
「お手」
「ワフ!」
「良い子良い子」
「クウーン」
「伏せ」
「ワフ!」
「良い子良い子」
「クウーン」
うん。お手も出来るし、伏せも問題ない。
こちらの世界の犬、というか狼に、お手が通じるとは思わなかった。
「じゃあ…待て!」
「ワフ!」
流石に待ての姿勢はわからないか。
私は待てをしてから考えた。
しまった、おやつを持っていないわと。
今懐にあるのは、常備してある耐トレーニング秘薬得濃(SP)だけである。
とりあえず耐トレーニング秘薬特濃(SP)を隠しポケットからだす。
「これじゃあおやつには出来ないわね。狼につかって、安全かもわからないですし」
私は困りましたわと頬に手を当てて考える。
ちょっとずつ与えれば安全かわかるかしら。
「バド? ちょっとそのまま待っててくださいまし。私、おやつを都合してまいりますわ」
トレーニングの開発過程で、騎士団には常におやつを置くように言ってある。
保存性の関係からクッキーである。
味は上品な甘さで、舌触りがとても良い、安物とはとても思えない出来。
本当は騎士達のためにバナナがあれば良いんだけれど、いくら現代的なところがある異世界とはいえ、バナナは見当たらなかったのだ。
トレーニングにおいて栄養の補給は必須である。
なにせ、栄養が足りていないのなら、いくらトレーニングをしても成長などできないのだから。
その点、バナナは理想的なエネルギー補給である。
「お待たせしました。あら、もう待てが出来てる気もしますけれど、ちょっと付き合ってくださいね。バド」
私はバドを撫でてからクッキーを一つあげた。
クッキーを一つ食べて、まだ私がクッキーを持っていると気づくと、凄い勢いでヨダレを流し始めるバド。
「待て」
「ワフ!」
私は待てをしてからクッキーを一枚バドの前に置く。
バドはしっぽを激しくふりながら、クッキーには手を出さない。
「あら…、教えてないのに待てまで出来るのかしら? ひょっとして前の飼い主が教えていた?」
「ワフ!」
「じゃあ、食べて良いですわ。よし!」
「ワフ!」
合図でバドはクッキーを食べ始める。
良くできましたと私はバドを撫でた。
気づけば、ユリとルークが手を止めて、私とバドのやり取りをガン見していた。
失礼な。
動物との触れ合いくらいできます。私をいったい何だと思ってるんですか?
では、本命の耐トレーニング秘薬特濃(SP)を少量クッキーに染み込ませます。
途端に何かを察したようにホッと肩を落とすユリとルーク。
私は無表情のまま無言で二人に抗議した。
あなたたちは、こちらを気にせず手合わせしてなさい。
何で二人とも息を合わせように、私がバドに耐トレーニング秘薬特濃(SP)を摂らせようとするとホッとするんですか?
そんなに私と手合わせしたいんですか?
私の抗議に気づいたのか、ユリとルークの二人はいそいそと手合わせに戻った。
「この薬、副作用がちょっとアレなのよねぇ…。元の設定を考えれば当然なのだけれど」
そう、耐トレーニング秘薬特濃(SP)の副作用は、実は、ちょっとの期間やる気に充ちあふれる性格になってしまう以外もあるのだ。
そのせいで、悪人には使えないのである。
「まぁ…動物だから大丈夫…なのかしら?」
「くうーん」
私はバドの首を撫でてあげながら少し考える。
何だかソワソワして落ち着かないバド。
「まぁ、大丈夫でしょ。多分」
何故かブルッと震え、怯えるバド。
「食べてヨシ!」
私は逃げられないようにガシッと大きなバドを抱えるように抑えると、特製クッキーをバドの口にほおりこんだ。
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